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解説記事2020年04月27日 実務解説 有価証券報告書作成上の留意点(2020年3月期提出用)(2020年4月27日号・№832)

実務解説
有価証券報告書作成上の留意点(2020年3月期提出用)
 財務会計基準機構企画・開示室 高野裕郎

《まとめ》
・開示府令の改正により、2020年3月期の有報では、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」及び「監査の状況」が主な改正項目。
・「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」等、「企業結合に関する会計基準」等、「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」が2020年3月期の有報から適用。また、「時価の算定に関する会計基準」等は2020年3月期の有報から早期適用可能。

Ⅰ はじめに

 本稿は、2020年3月期の有価証券報告書(以下「有報」という。)の記載にあたっての留意点についてまとめたものであり、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という。)の改正に伴う留意点、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)から改正・公表された企業会計基準等に関する留意点を中心に解説する。
 なお、文中において意見にわたる部分は私見であることをあらかじめ申し添えておく。

Ⅱ 非財務情報に関する留意点

1 概要
 開示府令については、2020年3月期の有報に関連するものとして、主に以下の2つの改正が行われた。
 第1の改正は、2018年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告において、適切な制度整備を行うべきであるとの提言がなされたことを踏まえたものであり、2019年1月31日に公布・施行されている(以下「開示府令2019年改正」という。)。一部の項目は2019年3月期の有報から既に適用されている。
 第2の改正は、IFRS任意適用の拡大促進の観点から、指定国際会計基準を適用する企業の開示負担の軽減等を図ることを目的としたものであり、2020年3月6日に公布・施行されている(以下「開示府令2020年改正」という。)。
 このほかに、金融庁から、「記述情報の開示に関する原則」(以下「開示原則」という。)、「記述情報の開示の好事例集」及び「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」等が公表されている。これらの公表資料は、新たな開示事項を加えるものではないが、企業情報の開示について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方を示すものとされている。

2 主要な経営指標等の推移(記載事例1)

 2019年3月期の有報において、企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」を適用し、連結貸借対照表において繰延税金資産と繰延税金負債が相殺された結果、前連結会計年度(2018年3月期)における総資産額等に変更が生じ、「主要な経営指標等の推移」の総資産額等の金額・数値を変更していた場合が考えられる。
 この場合は、2020年3月期の有報においても、表の脚注において、2018年3月期に係る主要な経営指標等については、当該会計基準等を遡って適用した後の指標等となっている旨を記載することが考えられる。

3 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
 開示府令2019年改正により、連結会社の「経営環境」として、例えば、企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等についての経営者の認識の説明を含め、事業の内容と関連付けて記載することとされた(開示府令第三号様式が準用する第二号様式記載上の注意(以下「記載上の注意」という。)(30)a)。また、「対処すべき課題」として、連結会社が優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について、その内容、対処方針等を経営方針・経営戦略等と関連付けて具体的に記載することとされた(記載上の注意(30)b)。「優先的に」とは、「複数存在する対処すべき事業上及び財務上の課題のうち、優先順位が高い、重要な」という理解でよいと考えられる。
 本項目の記載にあたっては、「開示原則」のうち、以下を参考に記載することが考えられる。
> 経営方針・経営戦略等は、記述情報の中でも特に経営判断の根幹となるものであり、開示にあたっては、経営者が作成の早期の段階から適切に関与すること、取締役会や経営会議における議論を適切に反映することが期待される(「開示原則」Ⅱ.各論1−1(望ましい開示に向けた取組み)①)。
> KPI(「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」)を設定している場合には、その内容として、目標の達成度合いを測定する指標、算出方法、なぜその指標を利用するのかについての説明等を記載することが考えられる(「開示原則」Ⅱ.各論1−3(望ましい開示に向けた取組み))。

4 事業等のリスク(記載事例2)

 開示府令2019年改正により、有報に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載することとされた。また、リスクの重要性や経営方針・経営戦略等との関連性の程度を考慮して、分かりやすく記載することとされている(記載上の注意(31)a)。
 上述の「主要なリスク」とは、連結会社の経営成績等の状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項をいう。
 本項目の記載にあたっては、「開示原則」のうち、以下を参考に記載することが考えられる。
> 「事業等のリスク」の記載にあたっては、一般的なリスクの羅列ではなく、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を具体的に記載することが求められている。その際、取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性をどのように判断しているかについて、投資家が理解できるような説明をすることが求められる(「開示原則」Ⅱ.各論2(望ましい開示に向けた取組み)①)。
> リスクを把握し、管理する体制・枠組みを構築している企業においては、当該体制・枠組みについても記載することが望ましい(「開示原則」Ⅱ.各論2(望ましい開示に向けた取組み)②(注))。
 このほかに、提出会社が将来にわたって事業活動を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他提出会社の経営に重要な影響を及ぼす事象が存在する場合には、その旨及び具体的な内容の記載のほかに、当該重要事象等についての分析・検討内容及び当該重要事象等を解消し、又は改善するための対応策を具体的に、かつ、分かりやすく記載することとされたが(記載上の注意(31)b)、当該記載は、従来、経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(以下「MD&A」という。)において求められていたものであり、記載箇所の移動である。

5 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)
(1)開示府令2019年改正(記載事例3)

 開示府令2019年改正により、改正後のMD&Aにおいては、以下の記載が求められている。
・経営成績等の状況に関して、経営者の視点による認識及び分析・検討内容を記載するにあたっては、経営方針・経営戦略等の内容のほか、有報の他の項目の内容と関連付けて記載(記載上の注意(32)a(e))
・キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報の記載にあたっては、資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載するなど、具体的に、かつ、わかりやすく記載(記載上の注意(32)a(f))
・連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについて、当該見積り及び当該仮定の不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、「第5経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報を記載(記載上の注意(32)a(g))
 本項目の記載にあたっては、「開示原則」のうち、以下を参考に記載することが考えられる。
> 単に財務情報の数値の増減を説明するにとどまらず、事業全体とセグメント情報のそれぞれについて、当期における主な取組みやその実績等、認識している足許の傾向も含めて経営者の評価を提供することが期待される(Ⅱ.各論3−1(望ましい開示に向けた取組み)①)。
> 当期における主な取組みやそれを踏まえた実績の評価を開示するにあたっては、設定したKPI(「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」)と関連付けることが望ましいとされている。また、KPIに関連して目標数値が設定されている場合には、その達成状況を記載することも考えられる(Ⅱ.各論3−1(望ましい開示に向けた取組み)②)。
(2)開示府令2020年改正
 IFRS任意適用会社においては、経営成績等の状況の概要に係る主要な項目における差異に関する情報(差異開示)について、改正前は、任意適用の初年度だけでなく、2年目以降にも記載するとされていたが、改正後は、差異開示については、任意適用の初年度のみでよいこととされた。

6 コーポレート・ガバナンスの状況等
(1)コーポレート・ガバナンスの概要

 開示府令2019年改正により、提出会社が財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針を定めている場合には、コーポレート・ガバナンスの概要において、会社法施行規則第118条第3号に掲げる事項を記載することとなった(記載上の注意(54)c)。当該事項は、従来、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の箇所で求められていたものであり、記載箇所の移動である。
(2)監査の状況
 ① 監査役及び監査役会の活動状況(記載事例4)

 開示府令2019年改正により、最近事業年度における提出会社の監査役及び監査役会等の活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の監査役の出席状況及び常勤の監査役の活動等)を記載することとされた(記載上の注意(56)a(b))。記載事例4では、常勤の監査役の活動について記載しているが、常勤の者のみの活動だけでなく、非常勤の者の活動も含めて記載することが考えられる。
 ② 継続監査期間(記載事例5)

 開示府令2019年改正により、「監査の状況」において継続監査期間の記載が求められるようになった(記載上の注意(56)d(a)ⅱ)。記載事例5のような方法のほか、「〇年以降」のような方法も考えられる。
 なお、継続監査期間の算定にあたっては、例えば、で示した考え方により記載することが考えられる。また、継続監査期間の算定にあたっては、基本的には、可能な範囲で遡って調査すれば足りるものと考えられ、当該調査が著しく困難な場合には、調査が可能であった期間を記載した上で、調査が著しく困難であったため、継続監査期間がその期間を超える可能性がある旨を記載することが考えられる。 

 ③ 監査報酬の内容等(記載事例6)

 開示府令2019年改正により、「監査報酬の内容等」においては、監査公認会計士等と同一のネットワークに対する報酬の記載等が追加された。記載事例中「××××」には、ネットワークの名称を記載することを想定している。
 なお、「監査公認会計士等と同一のネットワーク」とは、共通の名称を用いるなどして2以上の国においてその業務を行う公認会計士又は監査法人及び外国監査事務所等を含めて構成される組織をいい(記載上の注意(56)d(f)ⅱ)、法律事務所や税理士事務所等の公認会計士や監査法人等以外の法人も含まれるものと考えられる。
 また、「c.その他の重要な監査証明業務に基づく報酬の内容」の具体的な対象範囲としては、例えば、連結子会社が、監査公認会計士等とは別のネットワークに属している監査法人に監査業務に基づく重要な報酬がある場合が想定される。
(3)株式の保有状況
 2019年3月期の有報から、「株式の保有状況」において、保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式について、提出会社の保有方針及び保有の合理性を検証する方法(記載上の注意(58)b)、提出会社の経営方針・経営戦略等、事業の内容及びセグメント情報と関連付けた定量的な保有効果(記載上の注意(58)d(e))、株式数が増加した理由(記載上の注意(58)d(f))などの記載が求められるようになった。
 これに関して、金融庁により公表された「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」を踏まえて、以下のように記載することが期待されていると考えられる。
・「保有方針」については、保有先企業のノウハウ・ライセンスの利用等、経営戦略上、どのように活用するかについて具体的に記載
・「保有の合理性を検証する方法」については、時価(含み益)や配当金による検証だけではなく、事業投資と同様、事業の収益獲得への貢献度合いについて具体的に記載
・「定量的な保有効果」については、営業機密について言及する場合でも、どのような点が営業機密となるかについて記載
・「株式数が増加した理由」については、「配当再投資による取得」や「取引先持株会による取得」といった取得プロセスに関する記載に留まらず、保有先企業のノウハウやライセンスの利用等、経営戦略上、どのように活用するかを具体的に記載

Ⅲ 財務情報に関する留意点

1 実務対応報告第18号の改正
 実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」等は、2018年9月及び2019年6月に改正された。
 2018年9月における改正では、在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合に、連結決算手続上、当該資本性金融商品の売却損益相当額及び減損損失相当額を当期の損益として修正することとされている。適用時期については、2019年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用とされている。
 本実務対応報告の適用初年度においては、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更として取り扱うとされている。ただし、会計方針の変更による累積的影響額を当該適用初年度の期首時点の利益剰余金に計上することができるものとされている。この場合、在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を早期適用しているときには、遡及適用した場合の累積的影響額を算定する上で、在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を早期適用した連結会計年度から本実務対応報告の適用初年度の前連結会計年度までの期間において資本性金融商品の減損会計の適用を行わず、本実務対応報告の適用初年度の期首時点で減損の判定を行うことができるとされている。
 2019年6月における改正では、IFRS第16号「リース」及び米国会計基準会計基準更新書第2016−02号「リース(Topic842)」に関する取扱いについて検討されたが、審議の結果、新たな修正項目の追加は行わないこととされた。適用時期は、公表日である2019年6月28日以後適用とされている。

2 「企業結合に関する会計基準」等の改正
 企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下「企業結合会計基準」という。)等は、2019年1月に改正された。主な改正内容として、条件付取得対価について、企業結合契約締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付される又は引き渡されるもののみでなく返還されるものも含まれる旨の明確化等が行われている。適用時期については、2019年4月1日以後開始する連結会計年度の期首以後実施される組織再編から適用とされている。
(1)会計方針の変更
 改正企業結合会計基準等の適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更として取り扱うとされている。
 なお、改正企業結合会計基準等の適用前に行われた企業結合及び事業分離等の会計処理の従前の取扱いについては、改正企業結合会計基準等の適用後においても継続することとし、改正企業結合会計基準等の適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないとされている。
(2)企業結合関係注記
 取得による企業結合が行われた場合の注記における企業結合契約に規定される条件付取得対価について、返還される取得対価も含まれることが明確化された(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下「連結財規」という。)第15条の12第1項第9号)。

3 「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(記載事例7)

 実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」は、2020年3月31日に公表され、公表日以後適用とされている。
 本実務対応報告では、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算についてグループ通算制度の適用を前提とした税効果会計における繰延税金資産及び繰延税金負債の額については、実務対応報告第5号及び実務対応報告第7号に関する必要な改廃をASBJが行うまでの間は、グループ通算制度への移行及びグループ通算制度への移行にあわせて単体納税制度の見直しが行われた項目について、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくことができるものとされた。なお、その場合、繰延税金資産及び繰延税金負債の額について、本実務対応報告の取扱いにより改正前の税法の規定に基づいている旨を注記するとされている。

4 「時価の算定に関する会計基準」等
 「時価の算定に関する会計基準」(以下「時価算定会計基準」という。)等は、2019年7月4日に公表された。適用時期は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用するとされているが、2020年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る財務諸表から早期適用することができるとされている。
 時価算定会計基準等では、「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)における金融商品、「棚卸資産の評価に関する会計基準」におけるトレーディング目的で保有する棚卸資産の時価について、時価の算定方法などを定めたものであり、開示については、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項を記載するとされるなどの改正が行われた。
(1)会計方針に関する事項(記載事例8)

 記載事例8は、当連結会計年度において時価算定会計基準等を早期適用し、新たな会計方針を将来にわたって適用する場合の記載事例である。
 なお、会計方針に関する事項においては、特定の市場リスク又は特定の信用リスクに関して金融資産及び金融負債を相殺した後の正味の資産又は負債を基礎として、当該金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定する場合には、その旨を記載することとされた(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(以下「財規ガイドライン」という。)8の2-10第3項)。
(2)会計方針の変更(記載事例9)

 時価算定会計基準等の適用初年度においては、経過措置により、時価算定会計基準等が定める新たな会計方針を、将来にわたって適用することとされ、その場合、その変更の内容について注記することとされている。時価算定会計基準等については、新たに評価技法を用いて、観察可能なインプットを最大限利用することとされている。このため、時価をもって連結貸借対照表価額とする金融商品を保有している場合、時価の算定の結果が前連結会計年度から変更されなかったとしても、時価の算定方法は変更されているものと考え、時価算定会計基準等を早期適用した旨については、会計方針の変更に関する注記において記載することが考えられる。
 ただし、時価の注記のみ求められる金融商品(例えば、貸付金や借入金)のみを保有しており、時価をもって連結貸借対照表価額とする金融商品を保有していない場合は、会計処理には影響がなく、注記されている時価のみに影響が生じる。この場合は表示方法の変更に関する注記において時価算定会計基準等を適用した旨などを注記することも考えられる。
 なお、時価算定会計基準等の適用初年度においては、時価算定会計基準等が定める新たな会計方針を将来にわたって適用するとされているほかに、一定の場合には、当該会計方針の変更を過去の期間のすべてに遡及適用することができるなどの経過措置も定められている。
(3)金融商品関係注記
 ① 金融商品の時価等に関する事項(記載事例10)

 記載事例10の金融商品の時価に関する事項(連結財規第15条の5の2第1項第2号)については、新たな会計方針を将来にわたって適用する場合、当連結会計年度については、時価算定会計基準に従って算定された時価を記載することとなる。また、市場価格のない株式等については、金融商品の時価に関する事項を記載していない旨、金融商品の概要及び連結貸借対照表計上額を記載している。
 一方、前連結会計年度については、金融商品会計基準に従って算定された時価を記載すると考えられる。改正前の金融商品会計基準における時価を把握することが極めて困難と認められる金融商品については、その旨、その理由及び連結貸借対照表計上額を記載すると考えられる。
 なお、現金及び短期間で決済されるため時価が帳簿価額に近似するものについては省略できるとされている(財規ガイドライン8の6の2-1-2第5項)。当該省略を行う場合には、当連結会計年度及び前連結会計年度のいずれについても省略することが考えられ、本記載事例では、記載を省略している旨を当連結会計年度及び前連結会計年度の双方の表の注書きで示している。
 また、連結貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合その他これに準ずる事業体(外国におけるこれらに相当するものを含む。)への出資については、当分の間、金融商品の時価に関する事項の記載を省略することができることとされている。ただし、この場合には、その旨及び当該出資の連結貸借対照表計上額を注記しなければならないとされている。
 ② 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項(記載事例11)

 金融商品の時価を当該時価の算定に重要な影響を与える時価の算定に係るインプットが属するレベルに応じて分類し、その内訳に関する事項を記載することとされた(連結財規第15条の5の2第1項第3号)。ただし、これに係る比較情報については、適用初年度においては記載することを要しないとされている。
 ③ 時価の算定に用いた評価技法及び時価の算定に係るインプットの説明
 その時価がレベル2又はレベル3に分類された金融商品について、時価の算定に用いた評価技法及び時価の算定に係るインプットの説明が求められている(連結財規第15条の5の2第1項第3号ハ(1))。また、時価の算定に用いる評価技法又はその適用を変更した場合には、その旨及びその理由を記載するとされている(連結財規第15条の5の2第1項第3号ハ(2))。時価で連結貸借対照表に計上している金融商品のうち、その時価がレベル3に分類された金融商品がある場合、時価の算定に用いた重要な観察できない時価の算定に係るインプットに関する定量的情報、当該金融商品の期首残高から期末残高への調整表等を記載することとされている(連結財規第15条の5の2第1項第3号ニ)。ただし、適用初年度においては、当該金融商品の期首残高から期末残高への調整表については、記載を省略することができるとされている。
 なお、金融商品取引法第2条第1項第10号に掲げる投資信託又は外国投資信託の受益証券、同項第11号に掲げる投資証券又は外国投資証券その他これらに準ずる有価証券を含む金融商品については、当分の間、連結財規第15条の5の2第1項第3号に掲げる事項の記載を省略することができることとされている。ただし、この場合には、その旨及び当該金融商品の連結貸借対照表計上額を注記しなければならないとされている。
(4)棚卸資産関係注記
 市場価格の変動により利益を得る目的をもって所有する棚卸資産については、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項に準じて注記しなければならないとされた(連結財規第15条の27)。ただし、これに係る比較情報については、適用初年度において記載を要しないとされている。

5 「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」及び「会計上の見積りの開示に関する会計基準」
 「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」及び「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が2020年3月31日に公表された。これらの会計基準は、2021年3月期の有報から適用とされ、2020年3月期の有報では、早期適用することができるとされている。
 「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」において、未適用の会計基準等に関する注記を行う際の、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に関する取扱いについて明確化が図られた。
 この改正の趣旨を踏まえて、2020年3月期については、専ら表示及び注記事項を定める会計基準等(例えば、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」)が未だ適用されていない場合、「会計基準の名称及び概要」、「適用予定日に関する記述」を注記することが適切と考えられるとされている。

Ⅳ 監査報告書に関する留意点

 有報に添付する必要がある監査報告書についても改正が行われている。
 第1の改正は、企業会計審議会から2018年7月5日に公表された「監査基準の改訂に関する意見書」を受けた監査基準の改訂及びそれらに対応するための監査基準委員会報告書の作成・改正を踏まえたものである。これにより、監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」の改正が2019年6月27日に行われ、監査上の主要な検討事項(いわゆるKAM)の記載が求められるようになったほか、監査報告書の記載項目の順序の変更、記載項目の拡充などが行われた。
 第2の改正は、企業会計審議会から2019年12月6日に公表された「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂に関する意見書」を受けたものである。これに伴い、監査・保証実務委員会報告第82号「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」等の改正が2020年3月31日に公表され、内部統制監査報告書の記載順序の変更、意見の根拠区分の新設等が行われたほか、監査役等の財務報告に係る内部統制に関する責任を記載するなどの修正が行われた。
 この2つの改正の適用時期は、監査上の主要な検討事項の記載については、2021年3月期から原則適用とされているが、2020年3月期から早期適用することができるとされ、それ以外の記載については、2020年3月期から適用することとされている。

Ⅴ 有価証券報告書等の提出期限の延長について

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、4月7日に緊急事態宣言が発令されたことを踏まえて、金融庁は、4月14日に「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」を公表した。当該公表資料では、金融商品取引法に基づく有価証券報告書、四半期報告書等の提出期限について、開示府令等を改正し、企業側が個別の申請を行わなくとも、一律に2020年9月末まで延長するとされている。

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