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解説記事2020年04月27日 税理士のための相続法講座 特別編 新型コロナウイルス感染症感染拡大を受けて相続手続で注意すべきこと(2020年4月27日号・№832)

税理士のための相続法講座 特別編
第57回 新型コロナウイルス感染症感染拡大を受けて相続手続で注意すべきこと
 弁護士 間瀬まゆ子


1 はじめに
 今回は、連載中の「税理士のための相続法」の特別編として、感染拡大が続く新型コロナウイルス感染症に関連して、相続について注意すべき点をテーマとして採り上げます。
 相続手続に関して、税法はともかく、民法の範疇では、急ぐべき場面というのはさほど多くありません。実際、遺産分割調停では、十年以上前に開始した相続に関して争っているというようなケースも散見されます。
 ただ、緊急性の高い場面というのもあります。中でも一番に挙げるべきは相続放棄です。熟慮期間は3か月しかありませんので、必要がある場合は早急に対応しなければなりません。
 以下、この相続放棄を中心に、注意すべき点を確認していきます。

2 相続放棄
(1)熟慮期間

 相続放棄をする場合、相続開始を知った時から3か月以内に、家庭裁判所にその旨を申述しなければなりません(民法915条1項、938条)。この3か月の期間を、一般的に熟慮期間と呼びます。
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のために外出の自粛が求められるような状況ですので、熟慮期間も延長されてよいのではと期待する向きもあるかもしれません。しかし、現状ではそれは難しそうです。というのも、東日本大震災の際には、熟慮期間を延長する民法特例法が制定されましたが今回は状況が違いますし、法務省も公式サイトで「新型コロナウイルス感染症に関連して、相続放棄等の熟慮期間の延長を希望する方へ」(※)というタイトルで情報を提供し、後述する熟慮期間の伸長の手続をとるよう促しているからです。
※この中で、限定承認についても言及がありますが、限定承認はみなし譲渡所得課税(所得税法59条1項1号)の問題があり、選択にあたっては慎重さが求められます。実務上もあまり使われていない手続です。
 したがって、緊急事態宣言が発動されている現況においても、被相続人の債務超過が見込まれるような場合は、熟慮期間内に相続放棄か熟慮期間の伸長の手続をとる必要があります。
 なお、現時点で相続人が知り得ない債務が、将来的に判明する可能性もあります。そのような場合に相続開始後3か月以内に相続放棄の手続をとっていなかったとしても、実務上救済されることがあります。すなわち、裁判所が、熟慮期間の始期(民法915条1項の「相続の開始があったことを知った時」)を、相続人が多額の債務があることを知ったときと認めて、そこから3か月以内に相続放棄していれば救済する判断を下すことがあるのです。ですから、そのような場合も諦めずに相続放棄の手続をとることが大切です。
(2)相続放棄の手続
 続いて、相続放棄を選択した場合の具体的な手続を確認します。実務上、以下のような流れで手続を進めるのが一般的です。

 相続放棄の申述書も郵送での提出が可能ですので、基本的には全て郵便で完結する手続です。
 申述書の書式や添付書類については、裁判所の公式サイト(末尾にURLを引用)に掲載されていますので、そちらで確認して下さい。兄弟姉妹が相続人であるような場合、揃えるべき戸籍謄本等が多くなりますが、不足があっても追完が可能ですので、まずは期限内に届くように申述書を提出することが肝要です。
 また、管轄は被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所となりますが、各裁判所がどの住所地を管轄しているかも、先ほどの裁判所の公式サイトで調べることが可能です。
 相続放棄したことを証明するため、債権者から相続放棄申述受理証明書の提出を求められることがありますが、こちらの書類も郵便で取り寄せることができます。
 なお、現在、緊急事態宣言が出ている地域の家庭裁判所では、調停期日を取り消す等の措置はとっていますが、新件の受付はしていますので、申立等に際しては、平常通り書類を送付して大丈夫です。
(3)熟慮期間の伸長とその手続
 先ほど述べたとおり、3か月の熟慮期間内に、相続放棄するか否かの判断をしなければなりません(何もせずに期間を過ぎると単純承認したものとみなされてしまいます。)。しかし、この短い期間では、放棄すべきか否かの判断が難しいこともあり得ます。そこで、民法は、家庭裁判所において熟慮期間を伸長することができる旨を定めています(915条1項但書)。新型コロナウイルス感染症の感染拡大により外出の自粛が要請される状況では、相続財産の調査を進めることも困難でしょうから、この手続を利用するのも一考に値すると思われます。
 熟慮期間の伸長についても、まずは管轄の裁判所に申立をする必要があります。相続放棄と同様、郵送による申立が可能です。詳細については、裁判所の公式サイト(末尾にURLを引用)で確認して下さい。
 なお、上記のサイトに掲載されている書式例を見ると、申立に際して、具体的に熟慮期間をいつまで延期するよう求めるかの記載が必要なことが分かります。この期間については、記載した期間よりも短い期間でしか認められないこともありますので(例えば、6か月と記載しても3か月程度しか認められないことが多いようです。)、少し長めに記載しておいた方がいいかもしれません。
 また、熟慮期間の伸長の申立は、1回に限定されるものではなく、再度の申立も可能です。その場合も、延期された期間までに申立をすればよいのですが、裁判所がどのような判断をするか分かりませんので、期限の満了以前に裁判所の決定が出るようなスケジュールで申立をしておく方が安心です。

3 その他
(1)遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)

 遺留分侵害額請求権(昨年6月30日以前に相続が開始している場合は旧法の遺留分減殺請求権)も、相続開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ったときから1年以内に行使する必要があります(民法1048条)。
 もし1年の期間の満了が迫っている場合には、内容証明郵便で受贈者・受遺者に通知を送る等、早急な対応が必要になります。
 遺留分侵害額請求権の行使により取得する債権についても時効がありますが、こちらは5年(166条1項。なお、本年3月31日以前に行使していれば旧法の10年が適用されます。)と長いので、焦る必要はありません。
(2)相続債権
 相続財産中に債権が含まれる場合、そちらの管理も問題になります。もし過去に請求しても弁済が受けられず、時効期間の満了が近づいているような債権がある場合には、早急な法的措置が必要となるでしょう。
(3)相続税
 新型コロナウイルス感染症の影響により、期限までに相続税の申告・納税が困難な場合には、個別に申請することにより、期限の延長が認められる場合があります(国税通則法11条)。詳細は、国税庁の公式サイトに掲載されている「相続税の申告・納付期限に係る個別指定による期限延長手続に関するFAQ」(末尾にURLを引用)を確認して下さい。
 所得税の準確定申告についても、一括延長が認められる期間は過ぎてしまいましたが、相続税と同様に個別の延長が認められる可能性があります。
(2020年4月16日現在の情報に基づいて記載しています。)

法務省:新型コロナウイルス感染症に関連して、相続放棄等の熟慮期間の延長を希望する方へ
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00025.html
裁判所:相続放棄の申述(書式あり)
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
裁判所:相続の承認又は放棄の期間の伸長(書式あり)
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_25/index.html
相続税の申告・納付期限に係る個別指定による期限延長手続に関するFAQ
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/0020004-074.pdf

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