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解説記事2025年12月22日 最新判決研究 比準要素数1の会社の株式の評価方法の合理性(2025年12月22日号・№1104)

最新判決研究
比準要素数1の会社の株式の評価方法の合理性

東京地裁令和7年4月23日判決(令和5年(行ウ)第474号)

 筑波大学名誉教授・弁護士・税理士 品川芳宣

一、事実

(1)X(原告)は、父甲が令和3年7月19日死亡したことにより、共同相続人(Xら4名)と共に甲を相続(以下「本件相続」という。)し、令和4年4月27日付で共同相続人らと遺産分割協議を成立させ、甲の財産のうち、K社の株式4976株(以下「本件株式」という。)の全てを取得した。Xは、本件相続に係る相続税につき、令和4年5月10日、共同相続人らと共に、申告書(以下「本件申告書」という。)を提出した(以下「本件申告」という。)。本件申告書には、本件株式の1株当たりの価額を財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)189−2ただし書に従い、Lを0.25とする併用方式により4234円と評価した。次いで、Xは、令和4年5月20日、K社は評価通達178に定める「中会社」に該当するから、本件株式の価額についてはLを0.60とする併用方式により算定し、1株当たり2647円で評価すべきであったとして、更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をした。
 これに対し、処分行政庁は、令和4年8月30日付で、本件更正請求に対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。Xは、本件通知処分を不服として、前審手続を経て、令和5年12月1日、国(被告)に対し、本件通知処分の取り消しを求める本件訴えを提起した。
(2)K社は、宮崎県M市内に本店を置き、昭和38年2月5日に設立され、建築用金物等の販売等を目的とする株式会社であり、本件相続に係る直前期末は令和2年5月1日から令和3年4月30日までの事業年度の末日である。本件株式は、評価通達168の(3)に定める「取引相場のない株式」に該当し、K社は、評価通達178に定める「中会社」に該当するが、同通達183に定める3つの比準要素のうち、「1株当たりの配当金額」及び「1株当たりの利益金額」がいずれも0であり、かつ、直前2期末を基準にして同項の定めに準じ、それぞれの金額を計算した場合にも、「1株当たりの配当金額」及び「1株当たりの利益金額」がいずれも0である。このため、本件株式は、評価通達189の(1)に定める「比準要素数1の会社の株式」に該当し、同通達178ただし書の「特定の評価会社の株式」に該当する。
 なお、本件株式は、本件相続の開始日において、評価通達188に定める「同族株主以外の株主等が取得した株式」に該当せず、同通達189に定める「特定の評価会社の株式」のうち同項の(2)から(6)のいずれにも該当しない。そして、本件相続の開始時点における本件株式の評価通達が定める原則評価額は、類似業種比準価額が1株当たり834円であり、純資産価額が1株当たり5368円であった。

二、争点及び当事者の主張

1 争点
 本件の争点は、本件通知処分の適法性であり、具体的には、本件申告における本件株式の評価額が、相続税法22条に規定する「時価」を上回るか否かである。

2 Xの主張
(1)総論

 以下のとおり、比準要素数1の会社が継続企業であるにもかかわらず、特定の評価会社として別段の定め(評価通達189の(1))を置いているのは誤りである。また、評価通達189−2については、Lの割合を0.25とするのは違法である。したがって、比準要素数1の会社についても、評価通達179の定める原則的評価方式によって計算した金額が相続税法22条に規定する時価である。本件評価会社は中会社であり、評価通達179の(2)によりLを0.6として株式の価額を評価すべきであるから、本件株式の価額は、1株当たり2647円となり、本件申告における本件株式の評価額は、これを上回っている。
(2)比準要素数1の会社を特定の評価会社として評価すること自体が誤りであること
ア 継続企業が赤字会社に転落した場合、会社が配当を出すことは不可能に近い。無配当の黒字会社であったが、赤字会社に転落した場合、あるいは、赤字会社で配当はしていたが、無配当になった場合には、継続企業を前提とすれば、株価は低くなるのが一般的な常識や感覚である。すなわち、継続企業の2つの要素(利益と配当)が0となった場合、常識的な取扱いとして、株価は従来と同額か、又は、より低く評価されるべきである。
イ また、比準要素数1の会社は上場廃止になるわけではないにもかかわらず、評価通達では、上場会社のうち比準要素数1の会社は、標本会社から除かれている。収益性を考慮するのであれば、類似業種比準価額を採用するに当たり、上場会社から退場させられていない会社を除外することなく、むしろ比較させることが理にかなっていることは明らかである。比準することが可能であるにもかかわらず、あえて標本会社からこれらの会社を除外することに合理性はない。
  加えて、比準要素数1の会社は、上場企業に比準する前提を欠くとしながら、類似業種比準価額の計算において比準要素のうち2つは0として乗数の一部に組み込まれ計算がされており、不合理である。
ウ 比準要素数1の会社であっても、営利を目的とする継続企業として会社規模を維持して活動している。純資産価額は、比準要素のうち純資産のみを評価の対象とするもので、開業前又は休業中の会社や、開業後3年未満の会社については妥当性があるものの、比準要素数1の会社は、特定の決算期において比準要素が0となるものであり、臨時的な現象にすぎない。
エ したがって、比準要素数1の会社を除外して別途の評価方法を定める必要はなく、評価通達189の(1)自体が不合理なものであるから、比準要素数1の会社の株式についても、同通達179の定める原則的評価方式によるべきである。
(3)Lの割合を0.25と定めることも著しく不合理であること
ア 併用方式に係る算式(ア)は、(イ)のように変形することができる。
(ア)類似業種比準価額×L+1株当たりの純資産価額(相続税評価額)×(1−L)
(イ)株価=1株当たりの純資産価額(相続税評価額)− L×(1株当たりの純資産価額(相続税評価額)− 類似業種比準価額)
  この算式から、①株価は、1株当たりの純資産価額(相続税評価額)を超えることはないこと、②Lの割合が大きくなると株価は下がること、③株価と「会社規模」とは負の相関関係にあること、④「会社規模」は、1株当たりの純資産価額(相続税評価額)と類似業種比準価額の配分割合を示していることがいえる。
  類似業種比準価額が1株当たりの純資産価額(相続税評価額)を上回る場合は、1株当たりの純資産価額(相続税評価額)を限度としているため、問題はない。他方、1株当たりの純資産価額(相続税評価額)のほうが高い場合には、類似業種比準価額の比重が高いほど、すなわちLの割合が大きいほど株価は下がることになる。Lの割合は「会社規模」にほかならず、株式評価における各決算期において、全く変化していない。
  一方、評価通達189−2は、収益性を加味してLの割合を0.25としている。小会社におけるLの割合である0.5の半分としたものであるが、0.25の数値には全く根拠がなく、著しく不合理である。
イ K社は、比準要素数1の会社として、類似業種比準価額の適用割合であるLが本来の0.6から0.25とされたことが原因となり、株価が上昇している。収益が下がっているにもかかわらず株価が上昇するのは、そもそも0.25が誤っているからである。

3 国の主張
(1)評価通達の定める比準要素数1の会社の株式の評価方法は、比準要素の半分以上を欠くため上場会社に比準する前提を欠くとの考え方から純資産価額方式を原則としつつも、休業中の会社や清算中の会社の株式について純資産価額方式により評価することや、小会社の株式について2分の1のウエイトで類似業種比準方式を併用していることとのバランスをも考慮し、Lの割合を0.25とする類似業種比準方式の併用の選択も認めるというものであり、かかる評価方法は、比準要素数1の会社の実態を反映した合理性を有する方法というべきである。
(2)本件申告における本件株式の1株当たりの価額は、4234円と評価されているところ、この価額は、納税者が選択可能な併用方式による評価額である。したがって、本件申告における本件株式の評価額は、評価通達の定める評価方法に従って決定されたものである。当該評価額は、本件相続の開始日における本件株式の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認される。

三、判決要旨

請求棄却。

1 相続税法22条と評価通達との関係について

 相続税法22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によると規定しているところ、相続により取得した財産の「時価」とは、相続開始時における当該財産の客観的交換価値をいうものと解される(最高裁平成20年(行ヒ)第241号同22年7月16日第二小法廷判決・裁判集民事234号263頁)。
 そして、財産の客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではなく、個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、課税実務においては、各種財産の評価方法に共通する原則や各種財産の評価単位ごとの評価方法を具体的に定めた評価通達によって、画一的な評価方法により財産を評価することとしている。評価通達がいわゆる評価の安全性を考慮して財産の評価方法を定めていることも考慮すれば、上記のような取扱いは、適用される評価通達が合理的なものである限りにおいて、納税者間の公平、納税者及び課税庁双方の便宜、徴税費用の節減等の観点からみて相当であるから、相続税法の趣旨に沿うものということができる。
 そうすると、評価対象の財産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有しており、かつ、当該財産の相続税の課税価格がその評価方法に従って決定された場合には、当該課税価格は、当該評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情の存しない限り、相続開始時における当該財産の客観的交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認するのが相当である。

2 評価通達の定める評価方法の合理性について
(1)取引相場のない株式の原則的評価方式について

 評価通達は、取引相場のない株式について、評価会社をその事業規模に応じて大会社、中会社及び小会社に区分した上(同通達178)、それぞれの区分に応じて、大会社の株式の価額につき類似業種比準方式又は納税義務者の選択により純資産価額方式によって評価し、中会社の株式の価額につき類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式又は納税義務者の選択により純資産価額によって評価し、小会社の株式の価額につき純資産価額方式又は納税義務者の選択によりLを0.5として併用方式によって評価するものと定めている(同通達179)。上記のような評価通達における原則的評価方式の定めについては、取引相場のない株式の発行会社である評価会社にはその規模が上場会社に匹敵するものから個人企業とさほど変わらないものまで千差万別のものがあることを踏まえ、それぞれの会社の規模等の実態に即した株式の評価を行うための評価方式として、合理的なものであると認められる。
(2)比準要素数1の会社の株式の評価方法について
ア 評価通達は、特定の評価会社の株式の価額について、同通達179の原則的評価方法によらず、同通達189の定めにより評価することを定めた上(同通達178ただし書)、特定の評価会社のうち比準要素数1の会社の株式の価額について、純資産価額方式により評価することとしつつ、納税義務者の選択により、Lを0.25とする併用方式により計算した金額により評価することができる旨定めている(同通達189、189−2)。
イ 類似業種比準方式は、標本会社として採用されている上場会社に匹敵する評価会社について、配当金額、利益金額及び純資産価額(帳簿価額)という3つの比準要素により、業種別の上場会社の平均株価に比準して評価会社の株価を算定する評価方法であるから、このような評価方法により適正に株価を算定するためには、評価会社が、標本会社である上場会社と同様に正常な営業活動を行っていることが前提条件となる。しかるに、比準要素数1の会社は、3つの比準要素のうちいずれか2つが0であるため、標本会社である上場会社と同様に正常な営業活動を行っているとはいえないから、標本会社である上場会社の平均株価に比準する前提を基本的に欠くものであって、原則的評価方式と同じような方法・割合で類似業種比準方式を適用することは相当でない。
  そうすると、比準要素数1の会社の株式について、特定の評価会社として原則的評価方式とは異なる評価方法により評価することは、十分に合理的なものであると認められる。
ウ 次に、比準要素数1の会社は、業績が低調であっても事業を継続しているという点で、開業前又は休業中の会社(評価通達189−5により純資産価額方式が適用される。)とは差異があるといえることに鑑み、また、前記イの点を勘案すると、その株式の評価に当たり、純資産価額方式により算定するほかに、納税者の選択により、収益要素(利益及び配当)を算定上も加味した評価方法である類似業種比準方式を原則的評価方式よりも低いウエイトで併用することにも、十分な合理性があるといえる。
  そして、併用方式における類似業種比準方式の適用割合であるLの値については、正常な営業活動を行っていると考えられる(すなわち、比準要素のうち2つ以上が0の会社に該当しない)小会社の株式の価額について、原則的評価方式として併用方式を適用する場合の類似業種比準方式の適用割合(L)が0.5とされていることとの均衡上、比準要素数1の会社の株式の価額の評価に当たっては、これより低い割合で類似業種比準方式を適用することが適当であるから、評価通達189−2においては、併用方式におけるLの値を0.25としたものと認められ、このことについて不合理な点は見当たらない。
エ 以上によると、比準要素数1の会社の株式の価額について、原則的評価方式とは異なる評価方法によることとした上、納税者の選択により、Lを0.25とした併用方式によって評価することを認める評価通達の定めは、合理的なものということができる。
(3)Xの主張について
ア Xは、継続企業において、当期に経営内容が悪化しているにもかかわらず、前期よりも株式評価を高くする仕組みを取っている評価通達189−2の定めは著しく不合理であり、比準要素数1の会社を特定の評価会社として評価すること自体が誤りであって、評価通達179の定める原則的評価方式により評価すべきである旨主張するが、前記で説示したとおり、比準要素数1の会社の株式について、原則的評価方式と同じような方法・割合で類似業種比準方式を適用することは相当でなく、特定の評価会社として原則的評価方式とは異なる評価方法により評価することは、十分な合理性がある。
  この点に関し、Xは、継続企業の比準要素のうち利益と配当が0となった場合の常識的な取扱いとして、株価は従来と同額か、又は、より低く評価されるべきである旨主張するが、その根拠としては、類似業種比準価額の算定に当たり、3つの比準要素のうち1つ以下が0の場合と比較して、2つが0の場合には価額が下がるとするのみであり、類似業種比準方式の算式を前提としている点で、上記主張の的確な根拠とはなっていない。その他、本件記録を精査しても、比準要素のうち2つが0の場合に必ず株式価値が下がることを認めるに足りる証拠はないし、評価通達189−2の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有していることを否定する事情も見当たらない。
イ Xは、①比準要素数1の会社は上場廃止になるわけではないにもかかわらず、上場会社のうち比準要素数1の会社が標本会社から除外されていることは不合理である、②比準要素数1の会社を標本会社から排除する一方で、類似業種比準価額の計算において比準要素のうち2つは0として比準させることは矛盾した計算方法である旨主張する。
  しかしながら、①類似業種比準方式は、上場会社の平均株価に比準させて評価会社の株式の価値を算定する評価方法であるから、その基礎となる類似業種の株価は、正常な経営状態にある上場会社の平均株価とすることが相当である。しかるに、3つの比準要素のいずれか2つ以上が0である上場会社は、正常な経営状態にあるとはいい難いから、類似業種の株価の算定に当たり、かかる上場会社を標本会社から除外することには合理性がある。したがって、上場会社のうち、3つの比準要素のいずれか2つ以上が0である会社を標本会社から除外して類似業種の株価を算定することが不合理であるとは認められない。
  また、②類似業種比準価額の算定に当たっては、評価通達180の算式によることになるのであるから、評価会社において、ある比準要素が0の場合にはこれを0として算式に当てはめるのは当然であり、このことが矛盾した計算方法であるとか、不合理であるなどということはできない。
ウ Xは、評価通達189−2が、比準要素数1の会社の株式について、継続企業としての実態を無視・否定し、収益性を全く考慮しない評価方法である純資産価額方式を原則としていることは不合理である旨主張する。
  しかし、Xは、評価通達189−2ただし書に基づき、本件株式の価額を併用方式により算定して本件申告を行ったのであるから、評価通達189−2が比準要素数1の会社の株式について純資産価額方式を原則としていることは、本件申告の適否とは何ら関係がなく、Xの上記主張は、失当である。
エ Xは、Lの割合は「会社規模」にほかならないとした上、評価通達189−2がLの割合を0.25としたのは全く根拠がなく、著しく不合理であるとか、「収益」と「会社規模」に比例関係はないにもかかわらず、Lの割合を0.25と定めたことは誤りであるなどと主張する。
  しかし、併用方式に係る算式(評価通達179の(2))が、類似業種比準価額にLを乗じた数値と1株当たりの純資産価額(相続税評価額)に(1−L)を乗じた数値とを足し合わせるというものであることからすると、Lの値が示すものは、本来、株価算定における類似業種比準方式の適用割合にすぎない。確かに、評価通達179の定める原則的評価方式の下では、Lの値は評価会社の規模と連動しているということができるが(なお、大会社の株式を類似業種比準方式により算定することは、Lを1.0とする併用方式により算定するのと実質的に同義である。)、これは、取引相場のない株式の発行会社には、上場会社に匹敵するような規模の会社から、個人企業とさほど変わらないものまで千差万別のものがあることを踏まえ、評価通達においては、課税の明確性、公平性の観点も勘案して、類似業種比準方式の適用割合を評価会社の規模と連動させたものと解される。
  これに対し、比準要素数1の会社は、評価会社の規模にかかわらず、標本会社である上場会社の平均株価に比準する前提を基本的に欠いており、上記のような原則的評価方式と同じような方法・割合で類似業種比準方式を適用することは相当でない。そして、前記(2)ウで述べたとおり、比準要素数1の会社の株式の評価において、併用方式におけるLの値が0.25とされたのは、評価通達179の(3)が小会社の株式の評価に当たり併用方式におけるLの値を0.5としていることとの均衡を踏まえたものである。すなわち、評価通達179の(3)が適用される小会社は、特定の評価会社に当たらない小会社であり(同通達178参照)、比準要素数1の会社等は除かれているため、標本会社たる上場会社の平均株価に比準する前提を欠くものではないのに対し、比準要素数1の会社は、上述のとおり、標本会社たる上場会社の平均株価に比準する前提を基本的に欠くのであるから、併用方式により評価するに当たり、類似業種比準方式の適用割合を小会社のそれよりも低く定めることには十分な合理性がある。
  そうすると、Lの値を0.25としたことに全く根拠がないとか、誤りであるなどということはできないし、評価通達189−2が適用される場面においては、評価会社の規模は、何ら関係がないといわざるを得ない。
(4)小括
 以上によれば、比準要素数1の会社の株式の価額について、評価通達の定める評価方法には合理性があると認められる。

3 本件株式の評価額及び本件通知処分の適法性について
(1)以上のとおり、比準要素数1の会社の株式の価額について、評価通達の定める評価方法には合理性があると認められるところ、本件申告における本件株式の評価額は、比準要素数1の会社の株式として、評価通達の定める評価方法に従って算出されたものであり、その評価方法によるべきではない特別の事情も見当たらないから、かかる評価方法に従って算出された金額は、本件株式の適正な時価を上回るものではないと推認される。
 そして、本件相続の開始時点における類似業種比準価額は834円、1株当たりの純資産価額(相続税評価額)は5368円であるから、これを基に評価通達189−2に定める併用方式により算出した本件株式の評価額は、1株当たり4234円となる。
(2)よって、本件更正請求は、国税通則法23条1項1号の要件を満たさないから、本件更正請求に理由がない旨の本件通知処分は、適法である。

四、解説

はじめに
 本件においては、Xは、父甲から相続した本件株式の価額を評価通達が定める評価方法に従って評価し、共同相続人らと共に本件相続に係る相続税の期限内申告と納税を済ましたもののその10日後には、本件株式の価額の評価に誤りがあったとして、本件更正請求をし、それに対する本件通知処分に不服があるとして、本訴を提起したものである。これは、本件申告の時点から評価通達が定める評価方法に不服があったものと推認できる。
 このような争訟手続は、近年よく見かけることであるが、要は本税の納税を済ませておけば延滞税等のリスクを回避することができる、というメリットがある。しかし、このような争訟手続は、自己が一旦適法と認めた申告内容を否定することになるので、訴訟審理上の立証責任が原告側にあると判断され(注1)、原告にとって不利な結果を招くことになるので留意を要する。
 また、本件においては、専ら、本件株式の価額を評価通達が定める評価方法によって評価することの違法性が争われることになったが、それ故に、評価通達の法的性格と同通達が定める評価額の合理性を明らかにする必要がある。以下、それら論点について検討することとする。

1 相続税法上の「時価」と評価通達の関係
(1)相続税法22条は、相続、贈与等により取得した財産の価額は、「時価」による、と定めている。この「時価」の意義については、学説、判例において、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」すなわち客観的交換価値(客観的交換価額)と解されている。そして、このような時価概念については、所得税法及び法人税法においても共通している。しかし、所得税法等においては、それぞれの基本通達において、時価評価の取扱いについて、数箇条設けているに過ぎない。他方、相続税法に関しては、「相続税法基本通達」が存在しているにもかかわらず、独自に評価通達を定めている。これは、相続税における「相続」という偶発性と非取引性・全財産に対する評価の必要性、評価の困難性等に依拠しているからにほかならない。
(2)そこで、評価通達1(2)は、時価の意義につき、「時価とは、課税時期(〈略〉)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」と定めている。そして、評価通達2以下において、各財産の価額の評価方法(評価額)を定めている。このようにして定められた各財産の価額は、当該各財産に係る課税時期前に定めておかなければならないので、一種の標準価額を意味することになる。その典型が、宅地に係る路線価方式による評価額である。
 そして、このような標準価額は、相続等により取得した財産の課税時期における「時価」と乖離することがあり得る。例えば、前述の路線価についても、その年の1月1日現在の公示価額水準の8割程度で設定することになっているので、その時点では当該財産の客観的交換価値に相当するとしても、その年中において地価変動等があれば、当該客観的交換価値と乖離することになる。このような乖離が評価上看過し難い場合には、評価通達等では標準価額によらない個別の例外評価を定めたり、あるいは包括的な例外評価である評価通達6を定めている(注2)。このような評価関係について、本件で問題となっている取引相場のない株式について論じれば、次のとおりである。

2 取引相場のない株式の評価方法
(1)評価通達は、株式につき、上場株式及び気配相場等のある株式以外の株式を「取引相場のない株式」と定義し(評基168(1)~(3))、取引相場のない株式の評価原則を次のように定めている。まず、当該株式の発行会社(以下「評価会社」という。)を従業員数、総資産価額及び取引金額に応じ、「大会社」、「中会社」又は「小会社」に区分し(評基178)、各評価会社の株式について、その原則的評価方法を次のように定めている(評基179)。
 すなわち、大会社の株式の価額は、類似業種比準価額によって評価することとして、納税義務者の選択によって1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価することもできる。また、中会社の株式の価額は、次の算式によって計算した金額によって評価することとし、納税義務者の選択によって純資産価額によって評価することもできる。

類似業種比準価額 × L + 1株当たりの純資産価額X(1−L)

 前算式のLについては、中会社の規模に応じて、0.90、0.75又は0.60に区分される。
 そして、小会社の株式の価額は、1株当たりの純資産価額によって評価するが、納税義務者の選択により、算式のLを0.50として、前算式によって評価することもできる。
 なお、評価通達188が定める「同族株主以外の株主等」(以下「少数株主」という。)が取得した株式については、同通達188−2が定める配当還元価額によって評価される。
(2)以上が評価通達が定める取引相場のない株式の評価原則であり、それが前記1で述べた標準価額でもある。そして、昭和63年までは、前記の純資産価額算定の基となる各財産の価額も標準価額によって評価されてきた。しかし、当該標準価額と相続等により取得した財産の課税時期における客観的交換価値との開差を利用した節税(租税回避)が横行することとなり、前記の標準価額の算定自体においても、例外評価(個別評価)を行う規定が設けられるに至った。
 すなわち、平成元年に発出された「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」(以下「負担付贈与通達」という。)の発出に対応して、翌令和2年には、評価通達における取引相場のない株式の評価方法も相当部分改正されることになった(注3)。その中で、純資産価額方式の改正については、次のような改正が行われた。
 まず、評価通達185が定める純資産価額については、評価会社が課税時期前3年以内に取得した土地等及び家屋等の価額は、課税時期における通常の取引価額(取得価額)によって評価することとされた(同通達かっこ書)。また、評価通達186−2が定める評価差額に対する法人税額等相当額の控除については、平成2年改正に際してはいわゆる累積控除が認められなくなったのであるが、平成6年以降現物出資等により生じた評価差額に係る法人税額等相当額の控除を認めないこととされた。
 このような標準価額制度(画一的評価制度)の弊害を是正するための措置は、評価会社の区分についても設けられることになったが、それが、「特定の評価会社」である。その特定の評価会社の株式の区分とその株式の評価方法は、以下のとおりである。

3 特定の評価会社の株式の区分とその評価方法
(1)特定の評価会社の区分を必要とする契機となったのは、持株会社を利用した節税(租税回避)の横行にあった。すなわち、昭和の後期において株式の上場が増加したことに伴い、当該上場会社の大株主が、当該上場により高騰した株式の価額を圧縮する方法として持株会社を設立し、その持株会社に所有株式を現物出資等によって移転することにした。そして、当該持株会社の資本金を1億円にすると、当時の評価通達では「大会社」と区分され、当該株式の評価について類似業種比準方式が適用されることになった。そして、同方式の比準要素を操作すると、持株会社に移転した1000億円の上場株式が10億円程度で評価されることも稀ではなかった。そのため、直接的には、このような持株会社に対して類似業種比準方式の適用を認めさせないようにするため、平成2年に「特定の評価会社」を区分することにしたのであるが、併せて、他の類似業種比準方式を適用すべきでないと認められる評価会社に対しても、同方式の適用を制限することにした。その後、この制度については、何度か改正を経ているが、現行規定の内容については、次のとおりである。
(2)評価通達189は、特定の評価会社の株式を区分する趣旨、同株式の範囲等について、次のように定めている。
 「189 178((〈略〉))の「特定の評価会社の株式」とは、評価会社の資産の保有状況、営業の状態等に応じて定めた次に掲げる評価会社の株式をいい、その株式の価額は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げるところによる。
 なお、評価会社が、次の(2)又は(3)に該当する評価会社かどうかを判定する場合において、課税時期前において合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が次の(2)又は(3)に該当する評価会社と判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして当該判定を行うものとする。」
 上記規定による「特定の評価会社の株式」は、次の6項目である。
① 比準要素数1の会社の株式
 内容については、後述する。
② 株式等保有特定会社の株式
 評価会社の有する各資産の合計額のうちに占める株式等の割合が50%以上である場合の株式をいう。
③ 土地保有特定会社の株式
 評価会社の有する各資産の合計額のうちに占める土地等の割合が70%以上(原則大会社)又は90%以上(原則中会社)である場合の株式をいう。
④ 開業後3年未満の会社等の株式
 開業後3年未満である評価会社及び類似業種比準方式の比準要素全てが0である評価会社の株式をいう。
⑤ 開業前又は休業中の会社の株式
⑥ 清算中の株式
(3)以上の特定の評価会社の株式の評価方法については、次のとおりである(評基189−2~189−6)。
① 比準要素1の会社の株式
 内容については、後述する。
② 株式等保有特定会社の株式
 原則として、純資産価額方式によって評価するが、納税義務者の選択によって、「S1+S2方式」によって一部類似業種比準方式の適用が認められる。
③ 土地保有特定会社の株式
 純資産価額方式によって評価する。
④ 開業後3年未満の会社等の株式
 ③に準じて純資産価額方式によって評価する。
⑤ 開業前又は休業中の会社の株式
 純資産価額方式によって評価する。
⑥ 清算中の会社の株式
 清算の結果分配を受ける見込み金額の現在価値額によって評価する。

4 比準要素数1の会社の株式の評価とその問題点
(1)まず、評価通達189は、「比準要素数1の評価会社」について、次のように定義している。
 「183((〈略〉))の(1)、(2)及び(3)に定める「1株当たりの配当金額」、「1株当たりの利益金額」及び「1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)」のそれぞれの金額のうち、いずれか2が0であり、かつ、直前々期末を基準にして同項の定めに準じそれぞれの金額を計算した場合に、それぞれの金額のうち、いずれか2以上が0である評価会社(次の(2)から(6)に該当するものを除く。以下「比準要素数1の会社」という。)〈略〉。
(注)配当金額及び利益金額については、直前期末以前3年間の実績を反映して判定することになるのであるから留意する。」
 次いで、評価通達189−2は、比準要素数1の会社の株式の評価について、次のように定めている。
 「189((〈略〉))の(1)の「比準要素数1の会社の株式」の価額は、185((〈略〉))の本文の定めにより計算した1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価する(この場合における1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)は、当該株式の取得者とその同族関係者の有する当該株式に係る議決権の合計数が比準要素数1の会社の185((〈略〉))のただし書に定める議決権総数の50%以下であるときには、同項の本文の定めにより計算した1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を基に同項のただし書の定めにより計算した金額とする。)。ただし、上記の比準要素数1の会社の株式の価額は、納税義務者の選択により、Lを0.25として、179((〈略〉))の(2)の算式により計算した金額によって評価することができる(この場合における当該算式中の1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)は、本項本文かっこ書と同様とする。)。
 なお、当該株式が188((〈略〉))に定める同族株主以外の株主等が取得した株式に該当する場合には、その株式の価額は、188−2((〈略〉))の本文の定めにより計算した金額(この金額が本項本文又はただし書の定めによって評価するものとして計算した金額を超える場合には、本項本文又はただし書(納税義務者が選択した場合に限る。)の定めにより計算した金額)によって評価する。
(注)上記の「議決権の合計数」には、188−5((〈略〉))の「株主総会の一部の事項について議決権を行使できない株式に係る議決権の数」を含めるものとする。189−3((〈略〉))及び189−4((〈略〉))においても同様とする。」
(2)以上のように、評価会社が課税時期前2事業年度において、比準要素の2以上が0である場合に、「比準要素数1の会社」となり、当該会社の株式の価額は、原則として、純資産価額方式によって評価され、納税義務者の選択によって類似業種比準価額を適用し得るとしても、極めて制限的である。このような評価方法については、元々、類似業種比準方式が、上場会社に相当する大会社の株式の価額を上場会社の類似業種の株価と比準しようとしていること等に照らせば、合理性があるものとも考えられる。
 しかしながら、同じ特定の評価会社の中でも、株式等保有特定会社及び土地保有特定会社については、それらの資産の固りのような会社であり、かつ、節税封じの必要があること、開業後3年未満の会社等の株式、開業前又は休業中の会社及び清算中の会社については、明らかに類似業種比準方式の趣旨に適合しないこと、に照らし、原則として、純資産価額方式に拠らざるを得ないこと、に対比すると、比準要素数1の会社については、やや趣を異にしているものと考えられる。
 けだし、評価通達が定める類似業種比準方式は、前述のような本来の趣旨とは異なって、主として、中小企業の事業承継対策のために軽減措置がとられてきた。特に、政府税制調査会の「昭和58年度税制改正答申」において、事業承継対策のために小会社の株式についても収益性を加味した類似業種比準方式の適用すべきとする答申が行われ、その後、相次いで類似業種比準方式における評価の軽減策が取られてきた。その結果、令和6年には、会計検査院が、「令和5年度決算検査報告書」において、類似業種比準価額が純資産価額の27%程度で低過ぎる旨の指摘を受けるに至っている(注4)。
 かかる情勢の中で、比準要素数1の会社についてのみ、実質的には、2年赤字が続いただけで、原則として、類似業種比準方式の適用を認めないとすることは、いささか実態に適合していないように考えられる(注5)。然すれば、比準要素数1の会社の存続を継続するにしても、課税時期前5年間程度赤字経営が続いている場合に限定すべきであると考えられる。

5 本判決の意義と問題点
(1)本件のK社は、課税時期前2事業年度において赤字経営であったということで、評価通達189が定める「比準要素数1の会社」に該当することになった。そのため、Xは、本件相続の相続税につき、本件株式の価額を評価通達189−2の定めに従い1株当たり4234円と評価して申告したものの、それが誤りであったとして、評価通達178の定めに従い1株当たり2647円とする本件更正請求を行ったものである。しかし、所轄税務署長がそれを認めない本件通知処分を行ったため、当該処分の適否が争われることになった。本訴においては、Xは、主として、評価通達189及び189−2の取扱いの不合理性を主張した。
 これに対し、本判決は、前述のように、「比準要素数1の会社は、3つの比準要素のうちいずれか2つが0であるため、標本会社である上場会社と同様に正常な営業活動を行っているとはいえないから、標本会社である上場会社の平均株価に比準する前提を基本的に欠くものであって、原則的評価方式と同じような方法・割合で類似業種比準方式を適用することは相当でない。」と判示した上で、「比準要素数1の会社の株式の価額について、原則的評価方式と異なる評価方法によることとした上で、納税者の選択により、Lを0.25とした併用方式によって評価することを認める評価通達の定めは、合理的なものということができる。」と判示し、Xの請求を棄却した。
(2)このような判示については、相続税法上の「時価」と評価通達の取扱いの関係について、大方の裁判所が採用する考え方ではある。しかしながら、評価論の見地からすると、評価会社の赤字が続けば当該評価会社の株式の価値が下落するはずなのに、本件の事例に即してみると、赤字が2期連続した結果、当該株式の価額が倍増する結果になっている。このような矛盾については、本判決のような考え方では答にはならないものと考えられる。この点については、前述したように、類似業種比準方式自体、本判決が判示するような理念に基づいているわけではなく、事業承継税制の代替的手段になっているわけであるから、そのことを前提として、比準要素数1の会社の株式の評価については、医療法人の出資の評価を含め、評価方法の見直しを図るべきであると考えられる。
(注1)東京地裁令和5年5月12日判決(令和元年(行ウ)第607号、614号、品川芳宣評釈・本誌2024年6月10日号14頁参照)等参照。
(注2)この評価通達6項を適用した課税処分の適否については、近年、財産評価に関して最も注目されている最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(民集76巻4号411頁、品川芳宣「重要租税判決の実務研究 第四版」(大蔵財務協会 令和5年)1216頁等参照)がある。
(注3)負担付贈与通達の制度等の経緯については、品川芳宣「傍流の正論」(大蔵財務協会 令和5年)150頁以下参照。
(注4)品川芳宣「続 傍流の正論」税のしるべ 令和7年4月7日号5頁参照。
(注5)統計上、中小企業の約3分の2が赤字経営であり、かつ、ほとんどの中小企業が配当を行っていないから、類似業種比準方式の比準要素は、実質的には、2であることも留意されるべきである。また、医療法人の出資の評価については、取引相場のない株式の評価方法が準用されているところ、医療法において、医療法人が年次配当を禁止されているため、赤字経営が2期続いただけで、純資産価額方式が強制されることになる(評基194−2参照)。

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