解説記事2026年03月09日 SCOPE 東京地裁、米国公的遺族年金の受給権は相続税の課税財産(2026年3月9日号・№1114)
外国法令により取得の定期金はみなし相続財産
東京地裁、米国公的遺族年金の受給権は相続税の課税財産
米国の社会保障制度に基づく公的年金(老齢給付金)を受給していた被相続人の死亡により、その配偶者である妻が同制度に基づき取得した米国の公的遺族年金が相続税の課税財産に該当するか否かが争われていた税務訴訟で東京地裁(篠田賢治裁判長)は令和8年2月25日、課税財産に該当すると判断したうえで原告の請求を棄却する判決を下した。東京地裁は、外国の法令を含む法令等の規定によって相続人等が直接に取得する定期金に関する権利はみなし相続財産(相法3①六)に該当するという判断の枠組みを示したうえで、米国連邦規則集の規定により被相続人の遺族である妻が直接取得した米国遺族年金の受給権は相続税の課税財産となるという注目すべき判断を示した。本件で東京地裁が示した判断内容は海外の公的遺族年金の受給権の相続財産性の判断に影響を与える可能性が大きいだけに、まずは敗訴した原告側が控訴するか否かに注目が集まりそうだ。
国内公的遺族年金、厚生年金保険法等の個別法により相続税の課税対象外
被相続人は生前に、米国4都市にそれぞれ3年から4年程度海外赴任し、その後日本に帰国した。被相続人は、相続開始日の属する令和元年当時、米国の社会保障制度(米国連邦規則集)に基づく公的年金(老齢給付金)として月額1,106米国ドルを受給していた。
被相続人の配偶者である妻は、被相続人の死亡により米国連邦規則集の規定に基づき米国遺族年金の受給権を取得した。この受給権に係る令和元年の受給額は、米国連邦規則集の規定に基づき被相続人の老齢給付金と同額(月額1,106米国ドル)であった。この米国遺族年金の受給権について税務署は、「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相法3①六)に該当するとして、その評価額のすべてを相続人に係る課税価格に加算する更正処分を行っていた。そして国税不服審判所は、米国遺族年金が相続税の課税財産(みなし相続財産)に含まれる旨の判断を示したうえで審査請求を棄却する裁決を下していた(詳しくは本誌1044号13頁参照)。
訴訟では平等原則違反が新たな争点に
本件で争点となったのは、米国遺族年金の本件受給権が「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相法3①六)に該当するか否か(争点1)、更正処分における本件受給権の評価額が正当であるか否か(争点2)、本件受給権をみなし相続財産とすることが平等原則に違反するか否か(争点3)の3点であった。このうち平等原則違反は訴訟において新たに争点となった項目である。
東京地裁はまず争点1について、相続税法3条1項6号の文理及び同号の趣旨を踏まえれば、同号の定める「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」とは、法令等(外国の法令を含む。以下同じ)の規定によって相続人等が直接に取得する定期金に関する権利をいうと解するのが相当であるという判断の枠組みを示した。そして本件受給権について東京地裁は、米国連邦規則集の規定に基づき、被相続人の遺族である妻が直接取得した米国遺族年金を受給する権利であるから、法令等の規定によって相続人等が直接に取得する定期金に関する権利であると認定した。そのうえで東京地裁は、本件受給権は「定期金に関する権利で契約に基づくもの以外のもの」(相法3①六)に当たり、相続により取得したものとみなされるから相続税の課税財産となると結論付けている。
更正処分における評価額を正当と認める
争点2について東京地裁は、本件受給権の評価は相続税法24条5項が準用する同条各項の規定が準用されるとしたうえで、相続税法24条1項3号ハによる評価について「当該契約に関する権利を取得した時におけるその目的とされた者に係る余命年数」は10年を、「当該契約に基づき給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額」は1万3,272米国ドル(月額1,106米国ドルを年換算)を、「当該契約に係る予定利率」は2.8%(社会保障年金信託基金の実効金利)をそれぞれ用いて評価することが相当であるとした。そして東京地裁は、相続開始日の前日における原告の取引金融機関が公表する米国ドルの対顧客電信買相場(TTB)107.52円を前提とすると(財産評価基本通達4−3)、1万3,272米国ドルに余命年数である10年に応ずる令和元年の実効金利2.8%による複利年金現価率8.618を乗じたものを邦貨換算した1,229万7,922円が本件受給権の評価額になると判断したうえで、更正処分における本件受給権の評価額はこれと同額であるから正当なものといえると結論付けている。
非課税規定の有無は立法府の裁量の範囲内
訴訟で新たに争点となった平等原則違反(争点3)について原告は、国内年金受給権を非課税とし、国外年金受給権に課税する運用は差別的課税に当たり憲法の定める平等原則に違反する旨を主張していた。これに対し東京地裁は、国内の遺族年金等が厚生年金保険法等により課税対象外とされている一方で、本件受給権を含む国外公的年金受給権について個別法に規定を設けてこれを課税対象としないものとするか否かは立法府の総合的な政策判断等に基づく裁量の範囲に属する事柄であると指摘。東京地裁は、様々な性格を有する国外の遺族年金受給権を国内の遺族年金受給権と同様に一律に相続税の課税財産としないとすることは必ずしも適当ではないというべきであるから、米国遺族年金の受給権である本件受給権について相続税の課税対象としない旨の規定を設けなかったとしても、そのことから直ちに立法府の裁量の範囲を逸脱し、これを濫用したこととなるものではないとした。そのうえで東京地裁は、本件受給権について相続税の課税対象としない旨の個別の規定が設けられていないことを前提に本件受給権が課税財産に当たるものとして行われた更正処分についても合理性を欠くということはできないとしたうえで、本件受給権に相続税法3条1項6号を適用することが平等原則に違反するとはいえないと結論付けた。
なお、米国遺族年金の課税財産該当性をめぐり、本件とは別の原告が提起していた税務訴訟においても、東京地裁は2月25日付で原告の請求を棄却する判決を下している。
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