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解説記事2020年05月18日 ニュース特集 新型コロナ影響下における不動産賃貸業者への税制措置(2020年5月18日号・№834)

ニュース特集
賃料減免で固定資産税等の軽減措置も
新型コロナ影響下における不動産賃貸業者への税制措置


 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため営業自粛などが続いており、経済活動に大きな影響を及ぼしている。中でも飲食店などにおいては、ビル等の賃料を支払うことができないといった状況が多く聞かれている。政府は不動産賃貸業を営む事業者に対して、新型コロナウイルス感染症の影響により賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、賃料の支払いの猶予に応じるなどの措置の検討を要請する一方、①テナントの賃料を免除した場合の損失の税務上の損金算入、②国税・地方税・社会保険料の猶予措置、③固定資産税等の減免措置、④セーフティネット保証5号の対象業種に「貸事務所業」等を追加するなどの措置を実施している。本特集では、不動産賃貸業者向けに税務上の取扱いの留意点を紹介する。

一定の条件を満たせばテナントの賃料減額は損金算入が可能

 まずはテナントの賃料を免除した場合の損失の税務上の損金算入についてだ。通常、賃貸借契約を締結している取引先に対して賃料の減額を行った場合には、その賃料を減額したことに合理的な理由がなければ、減額前の賃料の額と減額後の賃料の額との差額については、原則として、相手先に対して寄附金を支出したものとして取り扱われる。
 ただし、国税庁では、新型コロナウイルス感染症の影響により賃料の支払いが困難になった取引先に対し、不動産を賃貸する所有者等が取引先の営業に被害が生じている間の賃料を減免した場合には、一定の条件を満たせばその免除による損害の額は寄附金に該当せず、税務上の損金として計上することが可能であるとの取扱いを行っている(賃料の減免を受けた賃借人においては減免相当額の受贈益が生じるが、事業年度を通じて受贈益を含めた益金の額よりも損金の額が多い場合には課税は生じないことになる)。
 この一定の条件とは、①取引先等において、新型コロナウイルス感染症に関連して収入が減少し、事業継続が困難になったこと、又は困難となるおそれが明らかであること、②賃料の減額が、取引先等の復旧支援(営業継続や雇用確保など)を目的としたものであり、そのことが書面などにより確認できること、③賃料の減額が、取引先等において被害が生じた後、相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間)内に行われたものであること――とされている。
 また、取引先等に対して既に生じた賃料の減免(債権の免除等)を行う場合も同様に取り扱うとされている。
書面が必要
 なお、今回の取扱いを受ける場合には、新型コロナウイルス感染症の影響により取引先等に対して賃料を減免したことを証する書面を作成することが必要だ。後で税務署より確認される場合があるので保存しておくことが求められる。国土交通省では参考までに記載例を1つ示している(図表1参照)。

消費税経過措置、新型コロナによる賃料減免は「正当な理由」に該当
 不動産賃貸業者がテナントなどの賃料を減額する場合、取扱いが不明であるとされているのが資産の貸付けにおける消費税の経過措置だ。
 平成25年10月1日から平成31年3月31日までの間に締結した契約に基づき、令和元年10月1日前から引き続き行われる資産の貸付けについては、消費税率は8%のままとされている。しかし、対価の額が変更された場合には、事実上、新たな貸付契約が締結されたと同視し得ることから、正当な理由に基づくものである場合を除き(31年経過措置通達19)、その変更後の貸付けに係る対価の額の全額が経過措置の対象外とされ10%の税率となってしまう。このため、今回の新型コロナウイルス感染症による賃料の減額が「正当な理由」に該当するか否かが問題となるが、この点、国税庁は本誌の取材に対し、「正当な理由」に該当するとの見解を明らかにしている。
 特集本文で示した賃料を減額した場合の税務上の損金の取扱いと同様、取引先等において、新型コロナウイルス感染症に関連して収入が減少し事業継続が困難になったことなどが条件となる。また、覚書など、後で書面などにより確認することができるようにしておく必要がある。

納税猶予の特例、賃料減免も収入減少の対象

 今通常国会で成立し、4月30日に公布された「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」及び「地方税法等の一部を改正する法律」では、新型コロナウイルスの感染症拡大防止のための措置に起因して多くの事業者の収入が激減している状況を踏まえ、無担保かつ延滞税なしで1年間納税を猶予する特例が手当てされている。
 基本的にすべての税目が対象(印紙税及び証紙徴収による地方税は除く)となっており、社会保険料についても同様に取り扱う。令和2年2月1日から令和3年1月31日までに納期限が到来する国税及び地方税が対象となる。その際、施行日前に納期限が到来している国税及び地方税についても遡及して適用することができる。要件としては、令和2年2月から納期限までの任意の期間(1か月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べて概ね20%以上減少し、一時的に納税を行うことが困難である場合とされている。令和2年6月30日、又は納期限(申告納付期限が延長された場合は延長後の期限)のいずれか遅い日までに申請することが必要だ。申請書のほか、収入や現預金の状況が分かる資料(売上帳や現金出納帳、預金通帳のコピーなど)の提出が必要となるが、提出が難しい場合には口頭も可能としている。
 この事業収入の減少については、不動産所有者等がテナント等の賃料支払いを減免した場合なども収入の減少として取り扱われることとされている。
 なお、「概ね20%以上」という要件だが、総務省によると、仮に「18%」など、20%未満であっても直ちに納税猶予特例が適用できないわけではないとしている。個々の納税者の状況や今後の収入状況の見込みなどをみて判断されることになる。

固定資産税・都市計画税の軽減措置、賃料減免も収入減少の対象

 「地方税法等の一部を改正する法律」では、厳しい経営環境に直面している中小事業者等に対して、償却資産と事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税の負担を軽減する措置も講じられている。当該措置は令和3年度の課税分に限ったものとなっている(令和2年度分に関して納税が難しい場合には、納税猶予の特例などで対応することになろう)。
 具体的には、令和2年2月から10月までの任意の3か月間の売上高が前年の同期間と比べて①50%以上減少している者は全額、②30%以上50%未満減少している者は2分の1軽減するというもの。認定経営革新等支援機関等(税理士、公認会計士、弁護士など)に中小事業者等であることや、事業収入の減少などについて確認を受けた上で、各市町村に申請する必要がある(図表2参照)。ただし、虚偽の記載をした場合には1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられるので留意したい。

 なお、市町村による受付は令和3年1月からを予定しており、令和3年1月31日が申請期限となる。
個人に課される固定資産税は対象外
 中小事業者等とは、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人及び出資を有しない法人のうち従業員数が1,000人以下の法人(大企業の子会社は除く)、常時使用する従業員の数が1,000人以下の個人となる。対象となる業種は不動産賃貸業も含め(性風俗関連特殊営業を除き)、すべて対象となる。
 例えば、新型コロナウイルス感染症に起因する事業収入の減少があれば、賃料の猶予や減額によって事業収入が減少した場合においても要件を満たせば対象となる。仮に軽減措置の適用を判断する令和2年の3か月と、前年の同3か月間で全く同じ賃貸を行っている場合、令和2年の賃料を減免すれば売上が減少することとなる。
 また、複数の事業を営んでいる場合には、すべての事業を合算した上で事業収入が減少しているか判定される。例えば、不動産部門で大幅に事業収入が減少したとしても、別の部門と合算した事業収入が一定程度減少していなければ対象外となる。軽減措置は事業を継続する観点から導入されるものだからだ。
 そのほか、個人に課される固定資産税は対象とはならない。ただし、個人が個人事業主として自ら事業を行い、事業として家屋を貸し付けている場合には、要件を満たせば軽減措置の対象となる。

持続化給付金、個人の不動産収入は対象外も法人は対象
 新型コロナウイルス感染症拡大防止の影響により、ひと月の売上が前年同月比で50%以上減少した中小企業者向けに給付されるのが「持続化給付金」だ(本誌833号8頁参照)。法人の場合は最大で200万円、個人事業者の場合は100万円が給付される。
 ここでいう「売上」とは確定申告書類において事業収入として計上するものであり、不動産収入や給与収入、雑収入は含まれないとしている。したがって、個人が所有するアパートの賃料を不動産収入として申告している場合は「売上」にカウントされないことになる。
 その一方で、同じ不動産による収入であっても、個人事業主が事業収入として申告している場合や、法人の場合「売上」に該当すことになることが本誌の取材により明らかとなった。例えば、テナントなどに対して賃料の減額や減免を行うことによりひと月の売上が前年同月比で50%以上減少すれば、「持続化給付金」の対象となる。

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