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解説記事2020年06月01日 新会計基準解説 改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等について(2020年6月1日号・№836)

新会計基準解説
改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等について
 企業会計基準委員会 専門研究員 中根將夫
 企業会計基準委員会 専門研究員 藤田晃士

Ⅰ はじめに

 企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2020年3月31日に、改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「改正会計基準」という。)及び改正企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「改正適用指針」という。)等(脚注1)(以下合わせて「本会計基準等」という。)を公表した(脚注2)。本会計基準等は、主として表示及び注記事項について検討を行ったものであり、特に注記事項に関して、開示目的を示したうえで、注記する具体的な項目及びその記載内容については開示目的に照らして判断することを企業に求めることとしている。これまでにASBJが公表した会計基準等において通常、チェックリスト的に具体的な注記事項を定めていたことを考慮すると、新しい試みであると考えられる。本稿では、本会計基準等のうち、本会計基準等の開発にあたっての基本的な方針や開示目的等の特徴的な論点を中心に概要を紹介する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

Ⅱ 公表の経緯

 ASBJは、2018年3月30日に、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準として、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「2018年会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「2018年適用指針」という。)を公表した。
 2018年会計基準においては、2018年会計基準を早期適用する場合の必要最低限の注記事項(企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点))のみを定め、財務諸表作成者の準備期間を考慮したうえで、2018年会計基準が適用される時(2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)までに、注記事項の定めを検討することとしていた。
 また、収益に関連する表示に関しては、収益の表示科目、収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)の区分表示の要否、及び契約資産と債権の区分表示の要否についても同様に、財務諸表作成者の準備期間を考慮したうえで、2018年会計基準が適用される時までに検討することとしていた。
 これらの状況を踏まえ、ASBJは、2019年10月30日に、企業会計基準公開草案第66号(企業会計基準第29号の改正案)「収益認識に関する会計基準(案)」等(以下「公開草案」という。)を公表し、広くコメント募集を行った後、寄せられたコメントを検討し、公開草案の修正を行ったうえで公表するに至っている。

Ⅲ 表  示

(1)損益計算書の表示
(顧客との契約から生じる収益の区分表示又は注記及び表示科目)

 本会計基準等では、顧客との契約から生じる収益の額を適切な科目をもって損益計算書に表示するか、又は注記することとしている。また、顧客との契約から生じる収益は、例えば、売上高、売上収益、営業収益等として表示することとしている。
(顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合の取扱い)
 本会計基準等では、顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)は、損益計算書において区分して表示することとしている。なお、区分処理することとした金融要素の影響の表示については、その表示又は注記の方法を定めていないことから、他の金融要素の影響(受取利息または支払利息)と合算して表示すること、また合算して表示した場合に追加の注記をしないことは妨げられないと考えられる。
(顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示)
 国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下「IFRS第15号」という。)において要求されている顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示に関しては、IFRS第9号「金融商品」における金融資産の減損に関する定めと、我が国における貸倒引当金繰入額及び貸倒損失額に関する定めが異なっているため、同様の開示を求めることは困難であると判断して、当該開示については企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)の見直しと合わせて検討することとし、本会計基準等において求めないこととした。
(2)貸借対照表の表示
(契約資産と顧客との契約から生じた債権及び契約負債の区分表示又は注記の要否)

 2018年会計基準では、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができることとし、当該区分表示及び注記の要否は、2018年会計基準が適用される時までに検討することとしていた。本会計基準等においては、当該記載を削除し、契約資産と顧客との契約から生じた債権のそれぞれについて、貸借対照表に区分して表示するか、貸借対照表に他の資産と区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記することとした。なお、「顧客との契約から生じた債権」について、2018年会計基準は「債権」の表現を用いていたが、債権は、通常、顧客との契約から生じた債権以外のものも含む表現であると考えられることから、改正会計基準においては、「顧客との契約から生じた債権」に表現を変更することとしている。
 また、契約負債を貸借対照表において他の負債と区分して表示しない場合には、契約負債の残高を注記することとした。
(表示科目)
 2018年会計基準では、契約資産、契約負債又は債権を、適切な科目をもって貸借対照表に表示するとしていた。本会計基準等では、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権の表示科目について、下記の例を加えている。
① 契約資産:契約資産、工事未収入金等
② 契約負債:契約負債、前受金等
③ 顧客との契約から生じた債権:売掛金、営業債権等

Ⅳ 注記事項

(1)開発にあたっての基本的な方針
 本会計基準等では、注記事項の検討を進めるにあたっての基本的な方針として、次の対応を行うこととしている。
① 包括的な定めとして、IFRS第15号と同様の開示目的及び重要性の定めを本会計基準等に含める。また、原則としてIFRS第15号の注記事項のすべての項目を本会計基準等に含める。
② 企業の実態に応じて個々の注記事項の開示の要否を判断することを明確にし、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる項目については注記しないことができることを明確にする。
 これまで国際的な整合性を図る観点から会計基準等の開発を行う際に、会計処理については、開発する会計基準に準拠して行われる会計処理により得られる財務情報が国際的な会計基準に基づく財務情報と大きく異ならないように開発を行った場合であっても、注記事項については、必ずしも会計処理と同様の対応を行っていない。ここで、収益は、企業の主な営業活動からの成果を表示するものとして、企業の経営成績を表示するうえで重要な財務情報と考えられ、収益に関する情報によって、財務諸表利用者は、企業の顧客との契約及び当該契約から生じる収益を適切に理解できるようになり、より適切な将来キャッシュ・フローの予測ができるようになることから、より適切な経済的意思決定ができるようになると考えられる。したがって、本会計基準等においては、会計処理に関する定めと同様に、注記事項についても原則としてIFRS第15号と同様の内容を取り入れることとしている。
 一方で、注記が大幅に増加することに対する懸念から、個別の注記事項ごとに有用性を検討し取り入れるものを決めるべきとの意見も寄せられた。しかしながら、有用性が認められることから注記が必要とされる情報は契約の類型によって異なるものであるため、さまざまな契約の類型を考慮して注記事項を定めることとした場合、ある場合には有用な情報を開示することになっても、他の場合には有用な情報を開示することにならないなど、すべての状況において有用な情報を提供するようにこれを定めることは困難であると考えられる。したがって、開示目的を定めたうえで、企業の実態に応じて、企業自身が当該開示目的に照らして注記事項の内容を決定することとしたほうが、より有用な情報を財務諸表利用者にもたらすことができると考えられる。
 これらの点を踏まえ、本会計基準等では、IFRS第15号と同様の開示目的及び重要性の定めを設けることとし、開示目的を達成するために必要な注記事項の開示の要否を、企業の実態に応じて企業自身で判断することとした((3)「収益認識に関する注記」(開示目的)参照)。
(2)重要な会計方針の注記
 本会計基準等では、顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、次の項目を注記することとした。
① 企業の主要な事業における主な履行義務の内容
② 企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)
 ただし、重要な会計方針として注記する内容は上記に定める2つの項目に限定することを意図して定めているものではなく、上記に定める項目以外にも、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記することとしている。
(3)収益認識に関する注記
(開示目的)

 「(1)開発にあたっての基本的な方針」に記載した基本的な方針のもと、本会計基準等においては、顧客との契約から生じる収益に関する情報を注記するにあたっての包括的な定めとして開示目的「顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示すること」を設けることとした。この開示目的を達成するための収益認識に関する注記として、本会計基準等では、次の項目を示すこととしている。
① 収益の分解情報
② 収益を理解するための基礎となる情報
③ 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
 「(1)開発にあたっての基本的な方針」に記載したとおり、本会計基準等では、注記事項についても原則としてIFRS第15号と同様の項目を含めることとしている。上記の項目は、開示目的との関連、すなわち、どのように開示目的が達成されることが想定されるのかを踏まえて、IFRS第15号の項目を再分類したものである(詳細については、図表1参照)。

 そのうえで、開示目的を達成する方法として、IFRS第15号を参考として上記の項目ごとに具体的な注記事項を定めることとしているが、IFRS第15号の注記事項の取扱いと同様に、これらの注記事項は最低限の注記のチェックリストとして用いられることを意図したものではない。
 必要な注記を検討するにあたっては、開示目的に照らして重要性を考慮すべきであると考えられるため、本会計基準等では、重要性に乏しい情報の注記をしないことができることを明確にすることとした。
 なお、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められるか否かの判断は、定量的な要因と定性的な要因の両方を考慮する必要があること、その際、定量的な要因のみで判断した場合に重要性がないとは言えない場合であっても、開示目的に照らして重要性に乏しいと判断される場合もあると考えられる旨を示している。
(収益認識に関する注記の記載方法等)
 本会計基準等では、収益認識に関する注記の記載方法等について、次のとおりとしている。
① 我が国においては、個別の会計基準で定める個々の注記事項の区分に従って注記事項の記載がなされていることが多いが、収益認識に関する注記を記載するにあたっては、本会計基準等で示す注記事項の区分に従って注記事項を記載する必要はない。
② 重要な会計方針として注記している内容は、収益認識に関する注記として記載しないことができる。
③ 収益認識に関する注記として記載する内容について、財務諸表における他の注記事項に含めて記載している場合には、当該他の注記事項を参照することができる。
(収益の分解情報)
 本会計基準等では、当期に認識した顧客との契約から生じる収益について、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報の注記を求めることとした。また、企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(以下「セグメント情報等会計基準」という。)を適用している場合、収益の分解情報と、セグメント情報等会計基準に従って各報告セグメントについて開示する売上高との間の関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を注記することとしている(開示例参照)。

 なお、セグメント情報等会計基準に基づいて開示される売上高に関する情報が、本会計基準等における収益の会計処理の定めに基づいており、かつ、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報として十分であると判断される場合には、セグメント情報に追加して収益の分解情報を注記する必要はないものと考えられるとしている(図表2参照)。

(収益を理解するための基礎となる情報)
 本会計基準等では、顧客との契約が、財務諸表に表示している項目又は収益認識に関する注記における他の注記事項とどのように関連しているのかを示す基礎となる情報として、次の事項を注記することとした(各事項についてどのような注記を行うべきかについての例示は、図表1を参照)。
① 契約及び履行義務に関する情報(ステップ1及びステップ2)
② 取引価格の算定に関する情報(ステップ3)
③ 履行義務への配分額の算定に関する情報(ステップ4)
④ 履行義務の充足時点に関する情報(ステップ5)
⑤ 本会計基準の適用における重要な判断
 なお、この情報を記載するにあたって、単に本会計基準等における取扱いを記載するのではなく、企業の置かれている状況が分かるようにすることで、財務諸表利用者に有用な情報を開示することになると考えられる。
(当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報)
 本会計基準等では、当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報として、「契約資産及び契約負債の残高等」及び「残存履行義務に配分した取引価格」を注記することとした。
 なお、これらの注記についての作成負担に対する懸念から、注記を求めることの要否について別途検討を行っている。これらの注記は、IFRS第15号においても、実務上の負担を考慮し、当初の提案から一定の軽減を図ったうえで、有用性の観点から要求されたものである。本会計基準等においては、IFRS第15号における検討を考慮するとともに、これらの注記の便益とコストを比較し、次の対応を図ったうえで、本会計基準等に含めることとした。
契約資産及び契約負債の残高等
 当期中の契約資産及び契約負債の残高に重要な変動がある場合には、その内容について注記することとした。また、IFRS第15号においては、当該注記には、定性的情報と定量的情報を含めなければならないとされているが、本会計基準等では、当該注記には必ずしも定量的情報を含める必要はないものとすることとした。
残存履行義務に配分した取引価格
 残存履行義務に配分した取引価格の注記(以下「残存履行義務の注記」という。)については、IFRS第15号と同様に、当初の予想期間が1年以内の契約の一部である履行義務を残存履行義務の注記に含めないことを認める等、IFRS第15号に基づく実務上の便法を定めることとした。また、米国会計基準のTopic 606(脚注3)に定められている実務上の便法も含めることとした。
 なお、開示目的に照らして残存履行義務の注記に含めるか否かを決定するにあたっては、収益の分解情報を区分する単位(分解区分)ごと(複数の分解区分を用いている場合には分解区分の組み合わせ)又はセグメントごとに判断することも考えられる旨、この場合には残存履行義務の注記に含めた分解区分(分解区分の組み合わせ)又はセグメントを注記することが考えられる旨を示している。
(工事契約等から損失が見込まれる場合)
 企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下「工事契約会計基準」という。)は、2018年会計基準又は改正会計基準が適用される時に廃止されることとなるため、本会計基準等においては、工事契約会計基準に定める次の注記事項を引き継ぐこととした。
① 当期の工事損失引当金繰入額
② 同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合、棚卸資産と工事損失引当金の相殺の有無と関連する影響額
 また、受注制作のソフトウェアについても、工事契約に準じた定めを適用することとした。

Ⅴ 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における表示及び注記事項

 本会計基準等では、連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表においては、本会計基準等の表示及び注記に関する定め(「表示」参照)を適用しないことができることとした。
 また、収益認識に関する注記の定めにかかわらず、「開示目的」に掲げる項目のうち、①「収益の分解情報」及び③「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」については、注記しないことができることとした(図表2参照)。
 さらに、②「収益を理解するための基礎となる情報」の注記を記載するにあたり、連結財務諸表における記載を参照することができることとしている。

Ⅵ 四半期財務諸表における注記

 本会計基準等では、すべての四半期の四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表において、年度の期首から四半期会計期間の末日までの期間に認識した顧客との契約から生じる収益の分解情報の注記を求めることとした(図表2参照)。
 なお、報告セグメントの売上高に関する情報が、本会計基準等における収益の会計処理の定めに基づいており、かつ、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報として十分であると判断される場合には、収益の分解情報は、報告セグメントの売上高に関する情報に追加して注記する必要はないものと考えられることとしている。また、このような状況において、収益の分解情報に関する事項を、セグメント情報等に関する事項に含めて記載している場合には、収益の分解情報に関する事項を記載するにあたり、当該注記事項を参照することにより記載に代えることができる旨を示している。

Ⅶ 範囲及び会計処理

 本会計基準等の開発にあたっては、主に表示及び注記事項の論点について検討することとしていたが、本会計基準等の開発過程で識別された次の論点について、2018年会計基準及び2018年適用指針の見直しを行った。
(1)適用範囲の見直しを行ったもの
(暗号資産及び電子記録移転権利に関連する取引)

 公開草案に寄せられたコメントの中には、資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)における仮想通貨に関連する取引と本会計基準等との関係について見直すべきとの意見があったことから、審議の結果、本会計基準等の適用範囲の見直しを行い、これらに関連する取引を本会計基準等の範囲から除外することとした。
(2)会計処理の見直しを行ったもの
(契約資産の性質)

 2018年会計基準においては、契約資産を金銭債権として取り扱うこととしていたが、改正会計基準においては、IFRS第15号における取扱いを踏まえ、契約資産が金銭債権に該当するか否かについて言及せず、改正会計基準に定めのない契約資産の会計処理について、金融商品会計基準における債権の取扱いに準じて処理すること、また、外貨建ての契約資産に係る外貨換算について、企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」の外貨建金銭債権債務の換算の取扱いに準じて処理することとした。
(3)用語の見直しを行ったもの
(契約の期間)

 2018年会計基準においては、2018年会計基準の対象となる契約の期間について、「契約の当事者が現在の強制力のある権利及び義務を有している契約の存続期間を対象として適用される。」としていた。改正会計基準では、「契約の存続期間」という表現を「契約期間」に変更しているが、これは2018年会計基準の取扱いを変えることを意図するものではない。
(契約の解約時の取扱い)
 2018年適用指針においては、一定の期間にわたり充足される履行義務であるか否かの判断の要件の1つである、履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を有している場合の説明について、「契約期間にわたり、企業が履行しなかったこと以外の理由で契約が解約される際に、少なくとも履行を完了した部分についての補償を受ける権利を有している場合である。」としていた。改正適用指針においては、契約を解約する主体が「顧客又は他の当事者」であることを明記しているが、当該変更は、2018年適用指針の取扱いを変えることを意図するものではない。

Ⅷ 適用時期及び経過措置

 本会計基準等では、適用時期及び経過措置について、次のように取り扱うこととしている。
① 本会計基準等は、2018年会計基準の適用日を踏襲し、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。
② 早期適用として、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本会計基準等を適用することができる。なお、早期適用については、追加的に、2020年4月1日に終了する連結会計年度及び事業年度から2021年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から本会計基準等を適用することができる。
③ 本会計基準等の適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表(注記事項を含む。)及び前事業年度の個別財務諸表(注記事項を含む。)(以下合わせて「適用初年度の比較情報」という。)について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができる。
④ 本会計基準等の適用初年度においては、本会計基準等において定める注記事項を適用初年度の比較情報に注記しないことができる。
 なお、2018年会計基準については、本会計基準等が公表された時点で適用時期を迎えていない。したがって、2018年会計基準に定められていたとおり、2018年会計基準は、2021年3月31日以前に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用できることとした(本会計基準等を適用している場合を除く。)。

Ⅸ 設例及び開示例

(1)追加した設例及び開示例
 改正適用指針においては、本会計基準等の開発により定義された用語である「契約資産」及び「顧客との契約から生じた債権」について、どのような場合にこれらを認識するかを示すための「設例」として、「[設例27]履行により契約資産が認識される場合」及び「[設例28]履行により顧客との契約から生じた債権が認識される場合」を追加した。
 また、本会計基準等の注記事項のうち「収益の分解情報」(Ⅳ(3)「収益認識に関する注記」(収益の分解情報)参照)及び「残存履行義務に配分した取引価格」(Ⅳ(3)「収益認識に関する注記」(当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報)参照)の定めに関しては、どのように適用されるのかについて、関係者の理解の助けとなると考えられることから、「[開示例1]収益の分解情報」、「[開示例2]残存履行義務に配分した取引価格の注記」及び「[開示例3]残存履行義務に配分した取引価格の注記−定性的情報」を「開示例」として追加した。
(2)見直した設例
 「[設例12]価格の引下げ」について、2018年適用指針では仕訳を示していたが、公開草案において当該仕訳に関する貸借対照表科目についてコメントが寄せられた。審議の結果、当該設例の主な趣旨は収益を認識する金額を示すことであり、仕訳を示すことによりかえって混乱する可能性があるため、当該内容は文章で示すこととし、仕訳を削除することとした。
 また、「[設例13]数量値引きの見積り」について、「[設例28]履行により顧客との契約から生じた債権が認識される場合」を新設したことに伴い、仕訳を一部変更した。

Ⅹ おわりに

 本会計基準等においては、開示目的を示したうえで、企業が開示目的に照らしてどの注記事項にどの程度の重点を置くべきか、また、どの程度詳細に記載するのかを判断することとしている。企業及び監査人は、本会計基準等の開示目的を十分かつ適切に理解し、また、各企業の置かれている状況を勘案して、開示する具体的な注記事項及びその注記する内容を検討することが重要になる。
 本稿が本会計基準等の定めをご理解いただくための一助となれば幸いである。

脚注
1 改正会計基準及び改正適用指針に関連して、次の企業会計基準及び企業会計基準適用指針を公表した。
・改正企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」
・改正企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」
・改正企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」
2 本会計基準等の全文については、ASBJのウェブサイト
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/accounting_standards/y2020/2020-0331-01.html)を参照のこと。
3  FASB Accounting Standards Codification(米国財務会計基準審議会(FASB)による会計基準のコード化体系)のTopic 606「顧客との契約から生じる収益」

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