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解説記事2020年06月15日 SCOPE 税理士が期限内申告せずに青色取消しも合意の上と判断(2020年6月15日号・№838)

SCOPE

税理士賠償責任事件で会社側が敗訴
税理士が期限内申告せずに青色取消しも合意の上と判断


 原告(会社)が、被告である税理士が提出期限内に確定申告書を税務署に提出しなかったことで青色申告の承認の取消しを受け、6,264万2,000円の損害を被ったとして委任契約の債務不履行に基づく損害賠償を求めた事件で、東京地方裁判所(小川理津子裁判長)は令和元年12月23日、原告の請求を斥ける判決を下した。東京地裁は、原告と被告との間で、青色申告の承認が取り消されることを認識した上で、決算の赤字額を減らすために棚卸資産の修正を加えた決算書を作成し、申告期限後に申告を行うことが合意されたと認めることが合理的であると判断した。

決算書上の赤字額を圧縮するため申告期限後に申告を行うことを合意

 本件は、原告が税理士である被告に対して税務署への確定申告を含む決算業務を委任したところ、被告が提出期限内に確定申告書を税務署に提出しなかったとして青色申告の承認の取消しを受け、その結果として6,264万2,000円の損害を被ったとして委任契約の債務不履行に基づく損害賠償を求めた税賠事件である。
 被告の税理士は申告期限前に会社から提供を受けた資料に基づき決算書を一旦完成させたが、決算書の内容には更なる修正の必要があったため、申告期限後に確定申告書を提出することになった。前年も申告期限を徒過していたため、2年連続で申告期限を徒過したことにより青色申告の承認の取消しを受けることになったもの。原告は、申告期限直前に作成されていた決算書及び申告書は、その時点で被告が所持していた帳簿等に基づいて作成されたのであるから、申告書に基づき一旦申告をし、その後、棚卸資産について修正の必要が生じたとしても修正申告をすれば足りるなどと主張していた(参照)。

【表】当事者の主な主張

原告(会社) 被告(税理士)
・被告は、税務申告に関する専門家であり、原告が前年決算期にも申告期限を徒過したことを認識していたのであるから、契約上、申告期限までに申告をすべき契約上の義務を負っていたところ、平成27年4月28日頃には決算書の概要を完成させていたにもかかわらず、申告期限まで申告を行わなかった。
・4月28日時点で作成されていた決算書及び申告書は、その時点で被告が所持していた帳簿等に基づいて作成されたのであるから、申告書に基づき一旦申告をし、その後、棚卸資産について修正の必要が生じたとしても修正申告をすれば足りるものである。
・被告が契約上の義務に違反して申告期限を徒過させたことにより、原告は青色申告の承認の取消しを受けて損害を被ったものであるから、被告は原告に対し、債務不履行によって生じた損害を賠償すべき義務を負う。
・原告は、決算期当時、経営状態が非常に悪かったが、翌決算期には経営状態が改善する見込みがあると考えていたことから、事業を継続させるために、決算期の業績を良く見せて当時融資を受けていた信用組合から再度の返済条件の変更を得なければならない状況にあった。被告は申告期限である平成27年4月30日、原告事務所において、原告役員らと面談を行った際、決算書及び申告書の内容が1,400万円ほどの赤字であったことから、原告は決算申告の承認に強く難色を示し、既に被告に示したもののほかに棚卸資産があることを述べた。このため、被告は決算書等を修正する必要があると考え、原告役員らに対し、追加分の棚卸資産について確認できる資料を示すよう求め、棚卸額の修正のみであれば、即時に処理をして同日中に申告書を提出して青色申告の承認の取消しを回避できることを説明したが、原告役員らは同日中に資料を示すことはできず、原告は被告に対し、決算書の赤字額を減らすことができるのであれば、申告期限を徒過することもやむを得ない旨を述べた。
・税理士は、故意に真正の事実に反して税務代理をするなどした場合には、懲戒処分を受けることもある(税理士法1条、45条、46条)。したがって、被告は、税理士として真正でないと判明している内容で申告を行うことができないから、平成27年4月30 日に一旦現状で申告をし、後に修正申告を行うという対応をすることはできなかった。

 裁判所は、原告は平成27年5月7日及び8日に棚卸資産の資料を送り、被告は同月12日に同資料に基づいて確定申告書を修正した結果、原告の決算書の税引前当期純損失額は1,488万4,956円から183万2,468円に圧縮されたとの経緯からすれば、原告と被告の間で申告期限後に4月決算書を修正すべきことが協議されたものと認められると指摘した。
 加えて裁判所は、原告は当時、信用組合から追加融資を受けようとしており、決算書上の赤字額を圧縮する必要があったこと、被告において真正と異なる内容であることを認識しながら本件申告期限までに申告をすることを了承したとは考えられないことからすれば、原告と被告との間で、青色申告の承認が取り消されることを認識した上で、決算の赤字額を減らすために棚卸資産の修正を加えた決算書を作成し、申告期限後に申告を行うことが合意されたと認めるのが合理的であると判断。原告が被告に対し、申告期限前に一旦申告し、その後、修正申告をするよう指示した事実があったとは認められないとし、原告の請求を斥けた。

税理士に対する懲戒処分
 税理士に対する懲戒処分は、①戒告、②2年以内の税理士業務の停止、③税理士業務の禁止がある(税理士法44条)。財務大臣は、税理士が故意に真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたときなどは2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる(税理士が相当の注意を怠った場合には戒告又は2年以内の税理士業務の停止の処分)(税理士法45条)。このほか、財務大臣は、法令に違反したときも懲戒処分をすることができる(税理士法46条)。

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