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解説記事2020年07月06日 ニュース特集 ユニバーサル事件でヤフー判決援用、国連敗(2020年7月6日号・№841)

ニュース特集
東京高裁、一審の“納税者に有利過ぎる”基準は否定も結論は変わらず
ユニバーサル事件でヤフー判決援用、国連敗


 一審で同族会社の行為計算を否認した課税処分が斥けられ国が敗訴したユニバーサルミュージック事件の控訴審では、東京地裁が示した法人税法132条に関する“納税者有利”の基準が維持されるかに注目が集まっていたが、東京高裁第5民事部(秋吉仁美裁判長)は令和2年6月24日、地裁が示した不当性要件の判断枠組みは否定したものの、高裁の判断枠組みによっても、一審同様、納税者の行為・計算に経済的合理性があると認め、国の控訴を棄却した。
 東京高裁が示した判断枠組みは、法人税法132条の2(組織再編成の行為計算否認規定)の適用を巡り争われたヤフー事件判決の判断枠組みと類似しており、その援用の意義についても新たな議論を呼ぶことになりそうだ。
 本稿では、編集部が独自に取材した判決の内容をお伝えする。

高裁、ヤフー事件判決判断枠組みを援用し地裁の“緩い”基準は否定

 本件は、ユニバーサルミュージック(被控訴人)が、グループ内の日本法人の買収のため外国法人(同族会社)から資金を借り入れ、当該借入れに係る支払利息の額を損金算入して申告したところ、課税庁が、法人税の負担を不当に減少させるものとして、法人税法132条1項に基づきその原因となる行為を否認したことにより、訴訟に至った事案である。
 一審で敗訴(本誌801号40頁参照)した国は、被控訴人が行った当該買収等を含む一連の組織再編や資金の流れ等は不自然、不合理であるとの主張を展開した(参照)。また、法人税法132条1項の不当性要件該当性を検討する対象は、本件一連の行為であるべきなどとも主張したが、東京高裁は国の主張を斥け、不当性要件該当性を検討する対象は「本件借入れ」であるとした上で、次のとおり、東京地裁とは異なる不当性要件該当性の判断枠組みを示した。

<判断枠組み>
 同項(法人税法132条1項)にいう「これを容認した場合には、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」か否かは、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人として不自然、不合理なものと認められるか否か、すなわち経済的合理性を欠くか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解される(したがって、上記のような経済的合理性を欠く同族会社等の行為又は計算が、同族会社であるためにされた不自然、不合理な租税負担の不当回避行為として、不当性要件に該当することになる。)。
 そして、同族会社が当該同族会社の株主等又はその関連会社からした金銭の無担保借入れが不当性要件に該当するか否かについては、当該借入れの目的、金額、期間等の融資条件、無担保としたことの理由等を踏まえた個別、具体的な事案に即した検討を要するものというべきである。特に、上記のような借入れが当該同族会社の属する企業集団の再編等(以下「企業再編等」という。)の一環として行われた場合においては、組織再編成を含む企業再編成等は、その形態や方法が複雑かつ多様であるため、これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあること等に照らすと、①当該借入れを伴う企業再編等が、通常は想定されない企業再編等の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような借入れを伴う企業再編等を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情も考慮した上で、当該借入れが経済的合理性を欠くか否かを判断すべきである。(下線は編集部。以下同様)

 上記の東京高裁の判断枠組みは、第一段落のかっこ書きの前までは東京地裁判決と同様であり、いわゆる「経済的合理性基準」が示されているが、それ以降の内容が大きく異なる。第二段落の①及び②はヤフー事件判決とほぼ同じ表現であり、その援用の意義もまた新たな議論を呼びそうだ。そして、東京地裁判決で従来にはない“納税者有利”の基準として注目を集めた部分は削除されただけでなく、「法人税の負担が減少するという利益を除けば、当該行為又は計算によって得られる経済的利益がおよそないといえるか、あるいは、当該行為又は計算を行う必要性を全く欠いているといえるかという観点から判断すべき」という旨の被控訴人の主張を排斥する形で、次のとおり一蹴されている。

 しかしながら、組織再編成を含む企業再編等は、その形態や方法が複雑かつ多様であり、基本的には、いかなる必要性に基づいてどのような形態、方法で行うかにつき当該企業集団の自律的判断に委ねられるものであるが、前記のとおりこれを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすく、租税回避の手段として濫用されるおそれがあること、企業再編等の一環として行われる行為につき、何らかの事業目的等を作出し又は付加することも比較的容易であること等からすると、企業再編等の一環として行われた同族会社の行為又は計算の不当性要件該当性を上記のような観点から判断することになれば、当該行為又は計算を行う必要性のほとんどが租税回避目的であって、税負担の減少以外の経済的利益がごく僅かである場合でも、経済的合理性があるとされかねない。このようなことは、不当性要件の的確な判別を困難にするものとして、法人税法132条の趣旨及び目的に反し、相当でもない。

 他方、東京高裁は、国側の「正当で合理的な事業目的等が具体的かつ客観的に示されなければならない」との主張や、「経済的合理性を欠く場合には、独立当事者間の通常の取引と異なっている場合なども含まれ得る」との主張も採用しないとした。

納税者の組織再編取引の一環としての借入れに経済的合理性あり

 以上のように、東京高裁は東京地裁とは異なる判断枠組みを示したわけだが、その判断枠組みに認定事実を当てはめた結果は、東京地裁と同じ結論となり、納税者の行為又は計算に経済的合理性を認めている。
 東京高裁は、「当てはめ」において、まず前記の不当性要件の判断枠組みを踏まえて、(ア)①本件組織再編等スキームに基づく本件組織再編取引等が、通常は想定されない企業再編等の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にこれを行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を勘案した上で、(イ)本件借入れの目的、金額、期間等の融資条件、無担保としたことの理由等をも併せ考慮し、本件借入れが専ら経済的、実質的見地において純粋経済人として不自然、不合理なものと認められるか否か、すなわち経済的合理性を欠くか否か、を検討するとした。
 そして、上記(ア)の「本件組織再編取引等」について、一審で納税者が提示した本件組織再編における8つの目的(表1)を、表2のとおり3つに区分して検討したが、東京地裁とほぼ同様の判断を示し、「不自然なものとはいえず、税負担の減少以外にこれを行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するということができる」と結論づけた。

【表1】本件組織再編における8つの目的

オランダ法人の負債を軽減するための弁済資金を取得すること
日本法人を1つの統括会社の傘下にまとめること
日本における音楽出版会社を合併により1社とすること
日本法人の円余剰資金を解消し、ヴィヴェンディが為替リスクをヘッジすることなく、ユーロ市場での投資活動をおこなうことを可能にすること
日本法人の資本構成に負債を導入し、日本の関連会社が保有する円建ての資産及び日本の関連会社が生み出す円建てのキャッシュフローに係る為替リスクを軽減すること
業務系統と資本系統の統一を図ることにより経営を合理化・効率化すること、及びUMOの余剰資金を減少させること
日本法人を合同会社にすることにより、米国税制上のメリットを受け、又はデメリットを回避するとともに、原告を含む日本の関連会社の柔軟かつ機動的な事業運営を行うこと
当時検討されていた日本におけるヴィヴェンディ・グループ外の音楽会社の買収に備えること

※UMO(CMHが間接的に持分の100%を保有する英法人)

【表2】本件組織再編取引等に対する判断

目  的 東京高裁の判断
「ア 日本の関連会社の経営の合理化」として
(a)日本の関連会社の資本関係及びこれに対する事業遂行上の指揮監督関係を整理し、法人数を減らすという目的(目的②、目的③及び目的⑥の前半) ・ヴィヴェンディ・グループは、度々の企業買収により子会社数が増加し、グループ内の資本関係が複雑化。日本国内では、UMKK、MGBKK、V2Jが存在し、それぞれ異なる親会社との資本関係があり、UMPKKとMGBKKという2つの音楽出版会社が存在する状態。加えて、日本法人に対する事業遂行上の指揮監督は、英法人UMGIが行っていた。
・同種の事業を行う複数の会社を統合して1つの会社とすることや、企業集団における資本関係と事業遂行上の指揮監督関係を一致させることは、経営の効率化や管理コストの低減の観点から、その必要性、合理性が認められる。
(b)米国税制上の対応や柔軟かつ機動的な事業運営の観点から、日本の関連会社を合同会社とし、当時検討されていた日本における音楽会社の買収に備えるという目的(目的⑦及び目的⑧) ・組織形態を合同会社とした場合には、UIMBVの他の子会社と同様、米国税制上チェック・ザ・ボックス規則により構成員課税を選択することができ、米国法人UMGの課税対象所得に合算されないという税務上のメリットがある。
・合同会社は、株式会社との対比においてより機動的な事業運営が可能。
「イ UMG部門のオランダ法人の負債軽減」及び「ウ 日本の関連会社の財務の合理化」として
(c) 日本の関連会社の円余剰資金やUMOの余剰資金を解消し、ヴィヴェンディによる為替リスクのヘッジを不要とするとともに、日本の関連会社の資本構成に負債を導入し、UMG部門のオランダ法人の負債を軽減するための資金を調達するという目的(目的①、目的④、目的⑤、目的⑥の後半) ・本件借入れ等は、いわゆるデット・プッシュ・ダウンとして、規模が大きく多額の利益を計上している日本の関連会社に対して、企業買収のために経済的負担が過度に重くなっているオランダ法人(UIMBV及びポリグラム)の負債の一部を負担させ、ヴィヴェンディの対外的な信用力を高め、グループ全体の財務態勢の強化に資するもの。
・UMO及びUMKKの余剰資金を活用することで、ヴィヴェンディは通貨スワップ取引を終了させ、これらの取引に係る手数料の負担を免れた上、円資金等に代えてユーロ資金を保有することができるようになり、資金調達コストが軽減された。

 また、上記(イ)の「本件借入れ」についても、東京地裁と同じロジックにより、「本件借入れの目的、金額、期間等の融資条件、無担保としたことの理由等を個別に検討したところに照らしてみても、本件借入れが専ら経済的、実質的見地において純粋経済人として不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであるというべき事情は見当たらない。」と判断した。
 なお、「組織再編により見かけ上の資金需要が作り出された」「本件組織再編取引等のキャッシュフローは、巨額の資金をグループ内で還流させるだけのもの」「デット・プッシュ・ダウンによるグループ全体の利益は間接的ないし抽象的な利益で、被控訴人の犠牲を上回るものではない」などの国の主張は、一審同様、控訴審においてもすべて斥けられた。
 控訴審判決では、ヤフー事件判決とほぼ同じ判断枠組みが示され、一審における“納税者有利”の基準は否定されたが、納税者が行った組織再編及び借入れに対する評価について、地裁同様、国と高裁が真っ向から対立したため、国は再び敗訴することとなった。控訴審判決を受けて国が上告するか注目される。

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