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解説記事2020年09月14日 ニュース特集 マンション販売事業者の仕入税額控除否認問題でADW社勝訴(2020年9月14日号・№849)

ニュース特集
東京地裁、ムゲンエステート社一審判決と“正反対”の結論示す
マンション販売事業者の仕入税額控除否認問題でADW社勝訴


 マンション販売事業者の仕入税額控除否認問題で、東京地裁民事51部(清水知恵子裁判長)は令和2年9月3日、課税処分の全部を取り消す判決を下し、(株)エー・ディー・ワークス(以下「ADW社」)が勝訴した。周知のとおり、同種の事件で先行して係争中の(株)ムゲンエステート(以下「ムゲン社」)は、令和元年10月11日に一審で敗訴しており(本誌808号8頁参照)、二審は、令和2年11月18日に判決言渡し予定となっている。
 なぜ同種の事案で“正反対”の結論になったのか専門家の注目を集めているが、ADW社を勝訴させた東京地裁の判断のポイントは、非課税売上げである賃貸収入が収益不動産の販売事業との関係でどのように位置づけられるかという点にあると言えそうだ。本稿では、編集部が独自に取材した判決の内容をお伝えする。 

01 東京地裁、用途区分の判定で“新たな判断基準”示す

 本事案の争点は、住宅用賃貸部分を含む建物の購入が「課税売上のみに要する課税仕入れ」、「課税売上と非課税売上に共通して要する課税仕入れ」のいずれに区分されるかという点にある。
 不動産の売買及び仲介業務等を行うADW社は、将来の転売を目的として、その一部又は全部が住宅として貸し付けられているマンション84棟(以下「本件各マンション」)を購入、最終的な目的が販売(課税売上げ)であるとの理由から、「課税売上のみに要する課税仕入れ」としてその仕入れに係る消費税額全額を仕入税額控除の対象としてきた。これに対し処分行政庁が、原告は、引渡しを受けた日以降賃貸人としての地位を承継し、住宅の貸付けの賃料収入を得ていたから「共通対応課税仕入れ」として控除対象仕入税額を計算すべき(仕入れに係る消費税額の一部を控除対象とすべき)として更正処分等を行ったため、訴訟に発展することとなった。
非課税売上げの発生の過程及び位置づけ等、個別の事情を踏まえて用途区分を判断すべき
 まず、ムゲン社判決及びADW社判決が示した、仕入税額控除及び用途区分の趣旨についての法令解釈の違いは、表1のとおり。両判決は、仕入税額控除の趣旨(消費税法30条1項)については、「税負担の累積を排除するためのものである」という同様の解釈を示したが、両判決が異なるのは、それに続く用途区分(同条2項)の判断をどのように行うかについて、ADW社判決で“新たな判断基準”が示されたという点だ。ADW社判決は、「本件ビジネスモデル下における用途区分の判定について」という項目を加え、国側(被告)の主張を排斥する形で、「課税売上げを得る活動の過程で非課税売上げが生ずる場合における用途区分の判定については、一義的に解するのではなく、その非課税売上げの発生の過程及び位置づけ、及ぼす影響や、占める割合など個別の事情を踏まえて判断するべき」と、新たな、かつ踏み込んだ考え方を示した。

【表1】法令解釈の比較

ムゲン社判決
 その課税仕入れの区分の判断については、同号の文言等に即して、当該課税仕入れが行われた日の状況に基づいてその取引が事業者において行う将来の多様な取引のうちどのような取引に要するものであるのかを客観的に判断すべきものと解するのが相当である。
ADW社判決
<仕入税額控除及び用途区分の趣旨等>
・課税仕入れの用途区分に係る判断は、税負担の累積の排除という消費税法の目的に照らし、課税仕入れに係る消費税額について税負担の累積を招くものとそうでないものとに適正に配分するという観点から、当該課税仕入れがいかなる取引のために行われたものであるのかを、その経済実態に即して適切に行うべきものである。
・このような消費税法30条2項1号の文言及び趣旨に鑑みると、課税仕入れ等の用途区分に係る判断は、当該課税仕入れ等を行った日(仕入日)を基準に、事業者が将来におけるどのような取引のために当該課税仕入れ等を行ったのかを認定して行うべきである。そして、かかる認定に当たっては、税負担の判断が事業者の恣意に左右されることのないよう、①当該事業者の事業内容・業務実態、②当該事業者における過去の同種の課税仕入れ等及びこれに対応して行われた取引の内容・状況、③当該課税仕入れ等と過去の同種の課税仕入れ等との異同など、仕入日に存在した客観的な諸事情に基づき認定するのが相当である。
<本件ビジネスモデル下における用途区分の判定について>
・本件ビジネスモデルにおいて課税仕入れの目的が収益不動産の売却にあることは明らかであるのに、当該事業における賃料収入の位置付けや、賃料収入が売上げ全体に占める割合その他の個別の事情を一切考慮せずに、将来の賃料収入が確実に見込まれるというだけで常に共通対応課税仕入れに区分すべきものと解するとすれば、経済実態と著しくかい離するおそれがあるにとどまらず、上記のような税負担の累積の排除という消費税法の目的や、課税仕入れに係る消費税額について税負担の累積を招くものとそうでないものとに適正に配分するという観点に照らしても、問題が生ずるといわざるを得ない。
・一般に、事業者が課税仕入れ等を行う場合に、当該活動が本来得ることを目的としている収入(課税資産の譲渡等)のほかに、当該活動の過程で生じる他の収入(その他の資産の譲渡等)が見込まれることにより、当該課税仕入れ等が共通対応課税仕入れに区分されることとなるのか否かについては、一義的に解するのではなく、①他の収入が当該事業者の経済活動におけるどのような過程で得られ、その活動全体の中で、どのように位置づけられているのか、②他の収入が見込まれることが、課税仕入れ等やこれに対応する取引にどのような影響を及ぼしているのか、③全体の収入の見込額のうちに他の収入の見込額が占める割合など、当該事業者が行う経済活動に関する個別の事情を踏まえ、課税仕入れに係る消費税額について税負担の累積を招くものとそうでないものとに適正に配分するという観点に照らし、他の収入が見込まれることをもって当該課税仕入れ等につき「その他の資産の譲渡等」にも要するものと評価することが相当といえるか否かを考慮して判断すべきである。

賃貸は収益不動産の販売を行うための手段であり、賃料収入は“副産物”との位置づけ
 上記の判断基準が示されたことで、ADW社判決における認定事実も表2のとおりムゲン社判決とは異なるものとなり、その認定事実を上記の法令解釈に当てはめた結果、正反対の結論が導き出されることとなった。

【表2】認定事実及び当てはめの比較(下線は編集部)

ムゲン社判決
<認定した事実関係>
 ①原告は、不動産の買取再販売を主な事業としていること、②原告は、本件各建物をいずれも事業として購入し、いずれも会計システムに棚卸資産として入力していること、③本件各建物の全部又は一部は、購入時に住宅用として賃貸されており、購入によって、原告は、賃貸人としての地位を承継し、引渡日以降の賃料を収受していたことが認められる。 <当てはめ>
 これらの事情を踏まえ、本件各課税仕入れが行われた日の状況に基づいて検討すると、本件各建物は、本件各課税仕入れが行われた日の状況において、販売に供されるとともに、一定の期間、住宅用の賃貸にも供されるものであったと認められることから、課税資産の譲渡等にのみ要するものとはいえず、また、その他の資産の譲渡等にのみ要するものともいえないのであって、本件各課税仕入れは、共通課税仕入れに該当するというべきである。
ADW社判決
<認定した事実関係>
①本件事業は、仕入れた収益不動産(中古の賃貸用マンション等)を転売時までにできるだけ満室に近づけるリーシングやリノベーション等のバリューアップを行うことにより、その収益力や資産価値を高め、当該収益不動産の販売による利益を得ようとするものであって、原告が仕入れた収益不動産を賃貸することは、販売のための手段として位置付けられるものである。そして、原告が得る賃料収入は、仕入れた収益不動産を賃貸することによって不可避的に発生するものであり、収益不動産の販売による利益を得るという本件事業の目的との関係において、副産物というべきものである。
②原告の会計処理において、賃料収入は、本件事業による収入とは扱われず、ストック型フィービジネスの収入として計上され、実際には「その他」に近い取扱いがされている。また、購入した収益不動産は、棚卸資産として計上され、その購入代金が賃料収入の費用として計上されることもない。
③収益不動産の仕入れ及び販売の判断の際に、原告がどれだけ賃料収入を得られるかは考慮に入れられていない。
④転売までの保有期間も、おおむね6~7か月となっており、その結果として、販売収入と賃料収入の総和に占める賃料収入の割合も、直近3課税期間において4.41%、本件各課税期間において3.71%(販売収入のうち建物部分を仮に3割として計算した場合の建物の販売収入と賃料収入の総和に占める賃料収入の割合は、直近3課税期間において13.02%、本件各課税期間において11.38%)にとどまっている。 <当てはめ>
 これらの事実関係に照らせば、本件各仕入日に上記のような賃料収入が見込まれることをもって、本件各課税仕入れにつき「その他の資産の譲渡等」にも要するものとして共通対応課税仕入れに区分することは、本件事業に係る経済実態から著しくかい離するばかりでなく、課税仕入れに係る消費税額について税負担の累積を招くものとそうでないものとに適正に配分するという観点に照らしても、相当性を欠くものといわざるを得ない。

 ADW社判決はまず、表2の①のとおり「原告が本件事業において仕入れた収益不動産を賃貸して得られる賃料収入は、当該収益不動産の販売を行うための手段としての賃貸から不可避的に生じる副産物として位置付けられる」と指摘した上で、「このことは、原告の会計処理における取扱いや、収益不動産の仕入れ及び販売の際に原告がどれだけ賃料収入を得られるかが考慮に入れられていないことからも裏付けられるものである」として、②及び③の事実がその裏付けになっていると述べている。
 非課税売上げである賃貸収入が収益不動産の販売事業との関係でどのように位置づけられるかという観点を判断のベースとしている点が、東京地裁がADW社判決においてムゲン社判決と正反対の結論を導き出したポイントといえそうだ。ADW社判決は、原告が主張してきた「最終的な目的」という表現は使っておらず、独自の判断基準を示した。しかしながら、原告は、その課税仕入れと条件関係が認められるかどうかで判断するべき(課税資産の譲渡等が達成できないのであればそもそも事業者はその課税仕入れ等を行わなかったといえる場合には条件関係があり、副次的な対価を得る資産の譲渡等が行われても行われなくても、事業者はいずれにせよその課税仕入れ等を行っていたという場合には、その資産の譲渡等との間に条件関係は認められない)として、「将来の転売のためのバリューアップという観点を離れて賃料収入を得るためだけに住宅の貸付けを行うことはないのであるから、本件各課税仕入れと住宅の貸付けとの間には条件関係が認められない」と主張しており、今回のADW社判決は、原告側の主張に近い考え方とみることもできそうだ。

02 「過去の照会事例等」に対する裁判所の判断は示されず

 今回のADW社判決の争点立ては、次のとおりとなっていた。

争点1 本件各課税仕入れの用途区分(本件各課税仕入れが課税対応課税仕入れと共通対応課税仕入れのいずれに区分されるべきものであるか)
争点2 平等取扱違反の有無
争点3 国税通則法65条4項にいう「正当な理由」の有無

 原告は、税務当局への過去の照会事例等を挙げて、最終的な目的により用途区分の判定を行っている課税実務が複数あると指摘し、「課税当局が実務の取扱いを変更した」旨強く主張してきた。これらの主張は、争点2の「平等取扱違反の有無」における主張として取り扱われており、今回の判決では、争点2について判断するまでもなく、争点1で課税処分全部取消しの結論が出されたため、過去の事例に対する裁判所の判断が示されることは一切なかった。
 実務家にとっては、課税当局の課税実務の一貫性は気になるポイントであろうが、認定した事実を法令解釈に当てはめて判断した結果、課税処分取消しという結論が導き出された以上、もはや「課税当局が実務を変更した」等の原告の主張に対して裁判所が判断を示す必要はなかったと言えよう。ADW社判決が示した用途区分判定の新しい判断基準が、今後、ムゲン社裁判の控訴審や他の同種事案に影響を与えるのかどうかが注目される。

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