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民事2019年08月02日 最高裁の判例変更と未分割遺産の処理 執筆者:仲隆

 最高裁判所は、平成28年12月19日の大法廷で、普通預金、通常貯金、定期貯金について、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解して重要な判例変更を行い、平成29年4月6日の第一小法廷では、普通預金、定期預金及び定期積金について、一部の共同相続人の金融機関に対する自己の法定相続分相当額の払戻し請求を否定した。長年にわたって、優に50年以上、最高裁判所は、相続が開始するのと同時に、預貯金は各共同相続人に法定相続分に応じて帰属すると判断していたので、各共同相続人は遺産分割をしなくても金融機関に自己の法定相続分に見合った預貯金の払戻しを請求することができるし、そのため、遺産として預貯金しか存在しないときは遺産分割調停の申立てさえできないというのが原則的な考え方であった。したがって、この判例変更の実務に与える影響はとてつもなく大きい。
 私は常々、相続法を難しくするものは2つあり、1つは「遺産共有の法的性格」であり、1つは「相続させる遺言」であると考えているが、今回は前者に関するものである。しかし、上記最高裁判決は遺産共有の性質について従前の見解を改めたわけではない。あくまで遺産の共同所有関係は民法の物権法上の共有であるとの基本は維持し、可分債権は当然に分割されるという前提で、預貯金はその例外ということになるのである。
 一方、不動産については、各共同相続人は、個々の不動産に対して共有持分権を取得し、これを譲渡することは自由である。この限度では物権法上の共有状態といえる。しかし、最高裁判所は、物権法に基づく分割請求は認めていない。あくまで遺産分割調停・審判という遺産分割の目的を達成するための制度があるのだから、遺産分割を経ずして分割請求はできないというのである。
 さて、不動産の場合、遺産たる土地上に共同相続人の1人あるいは第三者の所有する建物がある場合、逆に共同相続人の1人や第三者の土地上に遺産たる建物がある場合、遺産たる建物に共同相続人の1人や第三者が居住している場合など、遺産が複合的な権利状態にあることも少なくないが、さらにその権利の有無に争いが生じたりする。しかも相続開始により共同相続人は当該不動産に対して物権法上の共有持分権を取得しており、複雑さは一層増し、その管理や処分に窮し、法的な紛争に発展することも多いであろう。
 預貯金の場合はどうか。被相続人の生前に推定相続人が預貯金を払い戻ししたり、死亡後に他の共同相続人に無断で払戻しをしたりすることは多く見られ、相続関連紛争の一類型ともいえる。これも遺産の管理・処分の問題である。
 これらの紛争はどこで解決するのか。家庭裁判所か地方裁判所か。この判断は専門家でないと難しいと思うが、専門家であっても紛争の発展可能性を見誤ると無駄な裁判活動をすることになりかねない。上記の場合に生ずる紛争は、不動産であっても預貯金であっても、家庭裁判所あるいは地方裁判所に整然と分属させなければならないのである。
 「未分割遺産」の管理処分の問題は身近でありながら、紛争となると解決に時間を要する問題と思われる。

(2018年3月執筆)

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