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規程・文書2013年08月06日 就業規則改定と「ひな型」の効用 執筆者:小鍛冶広道

 いわゆる使用者側弁護士として人事・労務問題に取り組んでいると、就業規則など人事労務関係諸規程の改定に関する相談・アドバイスは避けて通れない業務となる。
 こうした相談業務の多くは、労働関係法規が毎年のように改正されることに伴い、「社内規程も改定しないとコンプライアンス違反になる」(労基法第89条違反など)という観点から相談に来られるものであり、「守り」の就業規則改定に関するもの、といい換えることもできる。最近の例でいえば、度重なる育児・介護休業法の法改正に伴う社内規程改定の相談がその典型例といえるであろうか。なお、個人的にいえば、あの複雑難解極まりない育児・介護休業法改正に伴う社内規程改定の相談は、これまでの職務経験上一番嫌な仕事の一つであった。
 他方、人事労務関係諸規程の改定に関する相談の中には、法改正と無関係に、当該企業が今現在抱えている人事労務上の問題について、現行規定のもとでの対処に苦しんだ結果、いわば「立法的解決」を図るべく、戦略的観点から規定改正の相談に来られる場合もある。この場合は、「攻め」の就業規則改正に関するもの、とでもいえようか。大きな話になると、年功型の賃金体系を職務・役割や成果に応じて配分する体系に改める相談や、退職金制度の軽量化に関する相談などがこうした相談の典型といえるが、近年では、メンタルトラブルに対応するための社内規程改定の相談、というのが特に目立っている。
 また、実際には、「守り」=コンプライアンス違反回避のための改正と「攻め」=戦略的観点からの改正、が混在している場合も多い。例えば、本年4月1日施行の高年齢者雇用安定法改正に伴う社内規程整備についていえば、法改正に即して社内規程も改正しなければ高年齢者雇用安定法第10条に基づく指導・助言⇒勧告⇒公表の対象となる、という意味では「守り」であるが、改正法の枠組みの中で当該企業の定年後再雇用制度についてどのように設計するか、という戦略的な観点、「攻め」の観点を抜きにして、社内規程改定などできないのである。
 ところで、我々使用者側弁護士のみならず、社会保険労務士、更には各企業の人事労務担当者がこうした人事労務関係諸規程の改正に関する仕事に取り組むうえで、頼りになる「ひな型」が存在することが有益であることについては、今更いうまでもないであろう。特に、「守り」の改正に関していえば、ことがコンプライアンスにかかわるだけに、「穴を作らない」改正が必要であるにもかかわらず、我が国の労働関係法規は「法律だけ見ても判らない」ことになっており(規則や通達まで読まないと何のことだかわからない)、独力で法改正の内容を理解し、穴を作らずに社内規程に落とし込む作業は、時として「至難の業」と評すべき場合もある。
 他方、「攻め」の就業規則改正に関しても「ひな型」が相当に有益なのは同様なのであるが、世の中に出回っている「ひな型」であればどれでも良いか、というと、実はそうでもないところがややこしい。私が見ても、良くできている「ひな形」と出来の悪い「ひな型」がある。もちろん、本コラムで具体的なことを申し上げるつもりはないが、出来の悪い「ひな型」の典型例は、労働契約法第7条の「合理性」について何も配慮していないとか、労働契約法第16条や第17条1項が強行規定であって就業規則の定めによって潜脱できるものではないことが根本的にわかっていないとか、要するに、労働法の「骨格」の理解がない方が作ったと思しき「ひな型」である(私自身が労働法の骨格を理解しているかどうか、という問題は棚上げさせていただく)。こういうタイプの「ひな型」は、一見すると、各企業の人事労務管理上のニーズにマッチした措置(いわば過激な措置)を可能とする内容であって、各企業としては「それができるならそうしたい」というものであるだけに、厄介であったりする。当職の職務経験上も、クライアント企業が明らかに違法な規定の「ひな型」を持ってきて、「ウチの会社の規定もこう変えたい」と相談してきたため、「実はその規定は作っちゃダメなんですよ」と説明するのに苦労した、という経験が複数回存するのである。
 「ひな型」は必要であり有益ではあるが、他方で、「ひな型万能主義」は、厳に慎まなければならないのである。

(2013年7月執筆)

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