カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

行政・財政2012年10月05日 出入国管理行政に係る諮問機関への弁護士の積極的な登用を 執筆者:山脇康嗣

 諮問機関とは、行政庁の意思決定に際して、行政庁の諮問を受け、専門的立場から答申を行う権限を有する機関である。専門的知見の活用、行政過程の公正中立性の確保、利害調整等を目的として設置される。諮問機関には、法令によって設置される審議会等と、法令に基づかない私的諮問機関の2種類がある。前者のうち、国の審議会等は、国家行政組織法又は内閣府設置法の規定に基づき、法律又は政令により設置されるのに対し、後者の私的諮問機関は、閣議決定や大臣等の決裁のみで開催されるものである。諮問機関の答申は、法的には拘束力を持たなくとも、当然に行政庁は尊重することが求められ、社会的、政治的影響も大きく、実質的に政策立案が方向付けられるといっても過言ではない。
 出入国管理行政一般については、現在のところ、法令によって設置される審議会等は存在せず、わずかに、法務大臣の私的諮問機関である出入国管理政策懇談会が存在するのみである(そのほか特定事項に限り、入国者収容所等視察委員会及び訪日外国人2500万人時代の出入国管理行政検討会議が存在する)。
 出入国管理及び難民認定法61条の10によって、法務大臣は、出入国の公正な管理を図るため、外国人の入国及び在留の管理に関する施策の基本となるべき出入国管理基本計画を定めるものとされており、同計画においては、具体的に、本邦に入国し、在留する外国人の状況に関する事項、外国人の入国及び在留の管理の指針となるべき事項、そのほか外国人の入国及び在留の管理に関する施策に関し必要な事項が定められる。
 これまで5次にわたって設けられてきた出入国管理政策懇談会は、上記の出入国管理基本計画の策定を機に発足し、同計画において今後検討することとされた課題等について議論を行った上で、報告書に取りまとめ、法務大臣に提出している。出入国管理政策懇談会には、その専門部会が設けられることがあり、第5次出入国管理政策懇談会には、外国人の在留管理の在り方について在留管理専門部会が置かれた。
 
 私が編集代表を務めた『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規、平成24年)のはしがきにおいても述べたが、著しい少子高齢化が進行する我が国においては、将来的に労働力人口や税・社会保障費の負担主体の不足が見込まれるとして、一定程度の移民受入れを求める見解もある。他方で、我が国がいかなる外国人をいかなる規模で受け入れるかということや、受け入れた外国人に対して権利義務関係を含めいかに対応するかということは、その判断を誤れば、取り返しのつかない重大かつ深刻な影響を我が国社会に与える事項である。移民先進国とされてきた欧州各国の移民政策はいずれも失敗し、混迷を極め、社会不安の大きな要因となっている。我が国においても、外国人問題の対応を誤れば、これまで長らく維持してきた社会の平穏性、安定性を失いかねない。このように、外国人問題は、まさに国や社会の形そのものをどうするかという極めて重要な問題であることからすれば、本来は、出入国管理行政について、法務大臣の私的諮問機関レベルではなく、国民各層の意見及び学識経験者の専門的知見を確実に反映させることを制度的に保障すべく、法令に基づく審議会等を設置すべきである。具体的には、出入国管理及び難民認定法に基づく独立した審議会又は法務省組織令57条、法制審議会令6条に基づく法制審議会の部会を設置すべきである。現在、法制審議会には、生殖補助医療関連親子法制部会、信託法部会、民法(債権関係)部会、会社法制部会、新時代の刑事司法制度特別部会が設置されているが、我が国社会に対して与える影響の大きさや失敗した場合の不可逆性に鑑みれば、外国人問題即ち出入国管理行政の重要性が、法制審議会において既に設置されている上記5部会が扱う事項に勝るとも劣らないのは明らかであろう。これまで、出入国管理行政は、その重要性に比し、政府内において長らく軽視されてきた感が否めない。しかし、私は、平成22年10月25日に執筆した時事法律コラム「入管法分野に関し、弁護士、行政書士、入国管理局に求められること」においても述べたように、「出入国の公正な管理」(出入国管理及び難民認定法1条)のためには、入国管理局のさらなる人的基盤の拡充及び上記審議会設置を含めた機構的改革が必須であると考えるものである。

 周知のとおり、審議会等については、中央省庁等改革基本法、中央省庁等改革推進本部決定により整理合理化が進められてきたものであるが、上記の外国人問題即ち出入国管理行政の重要性に鑑みれば、中央省庁等改革基本法30条2号ロの「特段の必要性」があるといえ、例外的に審議会等の設置が許容されるべきである。しかし、法令に基づく審議会等を直ちに設置することについては実際上は困難な点も存するであろうから、当面は、法務大臣の私的諮問機関である出入国管理政策懇談会を活用するほかない。
 第5次出入国管理政策懇談会が、外国人の在留管理の在り方についてより専門的に検討するために、在留管理専門部会を設置したこと自体は評価できる。しかし、その構成員をみると、研究者6名及び地方自治体関係者2名となっており、出入国管理及び難民認定法に基づく行政手続及び入国管理局による行政処分に係る訴訟手続といった出入国管理実務を日々第一線で担う弁護士が一人も含まれていない。学識経験者とは「学識」ないし「経験」を有する者をいうところ、上記の専門部会の構成員には、検討事項たる外国人の在留管理についての「経験」を有する民間専門家が全く含まれておらず、人選として明らかに不適当である。これは、従来から諮問機関に対して向けられてきた「行政の隠れ蓑」であるとの批判すら喚起しうるものであるといえる。

 平成24年7月9日から施行された改正出入国管理及び難民認定法に基づく新たな在留管理制度は、上記の在留管理専門部会における議論を踏まえたものであるが、仮に、実務に通じた弁護士が同専門部会の構成員に含まれていれば生じえなかった、あるいはより精緻な議論が確実になされたであろう問題点が多く存在する。例えば、在留カードの常時携帯義務といわゆる申請取次制度との関係、「短期滞在」の在留資格を付与される者に在留カードが交付されず、住民票も作成されないことから、外国人の会社設立による新規対日投資が困難になるおそれ、外国会社の支店間の異動、出向、派遣等をめぐって所属機関等に関する届出義務が生じる場合についての解釈の不整合、即時解雇をなしうる事由が存在しない場合に、解雇予告をせず、かつ予告手当も支払わずになされた解雇や解雇権濫用として無効と判断される解雇等、解雇の効力が争われる場合の所属機関等に関する届出義務の有無及び起算点、在留カードにおける通称名の扱い、みなし再入国許可が外国の入国管理局や旅行会社に与える影響、30日以下の在留期間を決定されている者からの在留資格変更許可申請を在留期間経過後に許可する場合の取扱い、在留期間の上限の「5年」への引き上げと永住許可に関するガイドラインとの関係などである。これらは、いずれも、実務上、非常に重要な事項であるが、実務を行っている法律専門家しか着眼できないし、実証的な議論ができないものである。なお、第5次出入国管理政策懇談会自体の委員についても、弁護士は14名中わずか1名であり、実務に通じた弁護士の大幅増員が必要不可欠である。
 出入国管理及び難民認定法は、その名のとおり、我が国の出入国管理秩序を維持するための法律であるから、基本的には管理的、統制的色彩が強くなること自体は否定できない。しかし、他方で、同法1条が「出入国の公正な管理」を規定しているとおり、適正手続の保障が必須であり、その観点から、基本的人権の擁護を使命とする弁護士委員が必要である。また、現代の出入国管理行政のあり方は、労働、社会保障、家事(親族、相続等)、刑事、企業法務(外国人労務管理、対日投資支援等)、税務、個人情報保護、教育、地方自治行政等の極めて多岐の法分野に様々な影響を与えるところ、これらの法分野を横断的に処理しているのは弁護士のみである。そもそも、制度の改革、改善を図るにあたっては、現状の実務運用がどうなっているのか、現実に何が問題として発生しているのかを明確に認識してはじめて建設的な議論が可能となる。したがって、出入国管理政策懇談会及びその専門部会において、法律実務家たる弁護士委員の大幅増員が必須である。

 近年、法務省入国管理局は、正規滞在者及び非正規滞在者をめぐる出入国管理行政について、日本弁護士連合会との間で、定期協議を行っており、同協議においては建設的な議論が交わされている。また、法改正やガイドラインの変更等に際して実施されるパブリックコメントの結果に対しても一定程度配慮されていることがうかがわれる。このような取り組みは評価できるものであり、法律立案、政策形成にあたって外部民間専門家からの意見聴取をさらに進め、適正手続の保障や他の分野への影響にも慎重に配慮し、今後も「出入国の公正な管理」を確実に実現すべく、出入国管理行政に係る諮問機関への弁護士の積極的な登用を強く求める次第である。

(2012年10月執筆)

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索