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税務・会計2012年05月17日 農業・農家をめぐる相続税の現状 執筆者:浅野洋

 我が国の相続税は明治38年に制度化され、導入当初から遺産税の体系を用いてきたが、昭和25年のシャウプ税制以来、遺産取得税の体系に移行して現在に至っている。そして、現行の課税方式について言えば、純粋な遺産取得税の考え方を修正して、相続財産を法定相続人が法定相続分に応じて取得したと仮定して相続税の総額を算出し、これを各相続人及び受遺者等が実際に取得した財産の価額に応じて按分する方式(一般的に法定相続分課税方式という)を採用している。この方式は財産が一定なら、家族構成が同様の相続では相続税の総額が同じになることで分割の違いで税額に影響が出ないという特徴があり、それなりに評価(仮装分割されない、など)されてきた。
 しかし、この方式では遺産の総額が分からないと税額計算ができないこと、相続人の中の一人に当てはまる課税の特例が相続人全員に波及すること、取得した財産額は変わらないのに遺産総額が変わると税負担額が変動することなど、必ずしも個々の相続人の相続財産に応じた課税がなされず、現代の個人中心の世情に対応していないとの批判があることから、平成20年度税制改正で遺産取得者を中心とする遺産取得課税方式が検討された経緯があるが、農地の分散化を促進するおそれがあるとの農業団体などからの要望があり、改正は見送られた。
 さて、日本の農業は現代では高齢化と後継者不足、また、それらを要因とする耕作放棄地の拡大という大きな問題を抱えており、農業就業人口は、平成22年には261万人と、平成12年と比べ約30%減少している。
 そのため、後継者問題等で農業継続が困難な場合には、農業生産法人等が農地を借り上げて農業を継続できる制度を設けるなど、農地を最大限に有効利用できるように多くの農地制度の見直しが行われた。
 また、税制面においても農地の細分化の防止、農業後継者育成等の観点から相続税・贈与税における農地の納税猶予制度が制定され、平成21年度税制改正では、農地の確保と有効利用を促進することを目的として、一定の貸付農地についても相続税の納税猶予の特例の適用が受けられる等の改正が行われた。平成23年度税制改正では、相続税の基礎控除の引下げと税率構造の見直し、直系尊属からの贈与税の緩和等が提言され、平成24年度税制改正大綱で、これらの改正事項について税制抜本改革における実現を目指す方針が示されたことから、平成24年3月に「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」が衆議院に提出された。
 ところで、相続税納付に関しては、旧来より物納・延納・納税猶予などの諸制度が円滑な納税に寄与してきたのであるが、相続税の課税最低限の引下げは我が国の農業経営にも多大な影響を与えるであろう。
 ちなみに、物納・延納の申請件数に関しては、平成12年度では物納申請件数は6,100件(税額3,510億円)、延納申請件数は11,258件(税額3,321億円)であったが、平成22年度では物納申請件数は448件(税額302億円)、延納申請件数は2,195件(税額724億円)とそれぞれ大幅に減少している。
 これは、土地バブル崩壊以後の地価下落で相続財産の評価額が減少したことも要因の一つであるが、平成18年度税制改正で、相続税の延納・物納制度が改正されたことも一因になっていると思われる。税制改正は常に農業経営にも多大な影響を与えてきたことを考えると、今後の制度改正によって農業経営がどのような影響を受けるのか注目していく必要がある。

(2012年5月執筆)

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