厚生・労働2012年03月06日 「非正規労働者」という言葉を死語にして欲しい! 執筆者:東内一明
1 正社員
正社員という言葉がある。
正しい社員という意味では勿論無く、正規の社員という意味のようである。
正規社員の中には、有期契約の労働者はもとより、契約社員(意味不明である。)、派遣労働者、臨時雇用の人は入らない。
だから、これらの人は非正規労働者と呼ばれる。
ところが、外食産業、特に全国展開している店舗では、店長以外は全てが非正規の労働者であることは珍しくない。というよりも、それがほとんどである。
外食産業だけでなく、一般小売産業もほぼ同様な状況と聞く。それでも、正社員とはよばれないのがふつうである。
このような労働者がいなければ店舗が成り立たないどころか、その産業全体の隆盛を支えている最も主要な担い手でもある。その重要性や存在感から言えば、従来のいわゆる正社員、店長こそ、非正規の労働者であるというべきであろう。
しかも、これらの産業では、非正規労働は、未来永劫に継続すべき企業システムの一つともなっているし、働くほうも、人生の一時期の臨時的な働き方ではなく、生涯を通じて継続すべき、あるいは継続するであろうと予感している働き方であり、決して非正規の働き方ではないのである。
2 非正規労働者の立っている位置
さらに謂えば、このようないわゆる非正規労働者は、限られた分野の特殊な状況ではなく、いまや労働者の3人に一人が非正規の労働者であり、わが国のあらゆる職場において普通に存在する。
確かに、眼前の非正規の労働者は短期間で退職・移動するかもしれない。しかし、その後、代わりの労働者は直ちに現れ、同じような労働に従事する。
その職場を去った労働者も、多分同じような働き方で、他の場所で働いているだろう。すなわち非正規労働というシステムは、企業の組織の中で、最早臨時的かつ一時的な、非正規のものではなく、正規のシステムの一つであるし、これらの労働者にとっても、臨時の一時的な非正規の働き方でなく、多くの者にとって、永続的な正規の働き方である。
この様な人たちを、非正規の労働者と呼ぶことは、その人の人生そのものを否定するような、侮辱そのものといっても差し支えないだろう。
侮辱であれなんであれ、これらの人々の労働条件がその実態に見合うものなら、その呼称のあり方は大きな問題ではない。
しかしながら、非正規労働という呼称のせいで、これらの人々の働き方や、労働条件が正規の労働者と比較して、大いに下位に置かれているとしたら、あるいは企業の人事担当者から、十分な配慮を受けていないとしたら、ことは重大である。
何しろ、全労働者の三分の一に及ぶ労働者が不当な扱いを受けていることになるからである。
事実はどうか。
しかし事実を認定するにあたって、各種の統計を駆使する必要もないであろう。
法定の最低賃金額近傍の賃金、有給休暇の未整備、社会保険未加入の放置、就業規則の未整備、割増賃金の未払い、問題は数々である。
どうしてこのような事態に陥っているか。
コストに耐えられないのだろうか。筆者の見るところ、必ずしもそうではない。
有給休暇も、例えばパートタイマーはその所定労働日数に応じて正社員よりも少なくていいし、社会保険の費用も賃金額に応じて低廉である。
それでも数々の問題を抱えがちなのは、一つは非正規労働という呼称から、企業の人事担当者が、企業の正規のシステムとして認識せず、片手間の対応に堕している所為のように思える場合が多い。
労働者の方も、家計補助的なものとして合法的な待遇を求めるエネルギーを有せず、諦めがちでもある。
しかし、現状はそうではない。企業にとっても永続的な正規の人事システムであるし、働く方にとっても、家計補助的でなく、これがなければ家庭が継続できないほどの、その主要な収入源になっているのである。
即ち労使双方が、恒常的な正規の雇用システムとして認識し、合法的な制度確立に向かって、一刻も早く、努力すべき時期に来ていると痛感する。
そしてなによりも、このような現状にある非正規雇用システムが、何かしらネガテイブな価値観を含有する「非正規」という言葉で表現されていることに、私は強い違和感を覚える。この違和感が私だけであって、制度の運営になんの影響も与えていないのなら、それはそれでいいだろう。しかし、「非正規」という言葉が、この雇用システムと真正面から取り組むことを阻害しているのなら、直ちに変更して欲しい。
3 非正規労働の国際比較と今後の方向
それはさて置き、この状況は、実は法律制度としても国際的に見れば、日本は、極めて遅れている。
各国の、非正規労働のひとつである有期雇用契約にかかる法制を見れば明白である。
イギリスでは、原則として4年以上の有期雇用は無期の契約に、スエーデンでは5年間のうち4年以上同一雇用主に有期雇用された場合は無期の契約に、ドイツでは原則2年間で無期契約に、フランスでは恒常的な業務での有期契約締結は禁止されている等、多くの規制がある。
しかしすぐに、これはヨーロッパの特殊な状況ではないか、との反論が出てくるだろう。
それには韓国の例を挙げたい。韓国もまた2年以上の有期契約は規制されているのである。
日本のように、なんの規制もない国こそが特殊なのである。
しかしこれも大きく変化する。
今国会で労働契約法の改正として、5年以上の有期雇用は禁止される方向である。
この法改正を契機として、おそらくは非正規雇用のあり方について、多くの人が注目するようになり、様々な議論が行われ、状況は大きく変化するだろう。
私としては、非正規雇用の方々の労働条件が適正なものに変化していくことを強く期待している。
とりわけ、「非正規雇用」などという侮辱的な言葉は死語となるように、心から願っている。
(2012年3月執筆)
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