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民事2010年12月06日 ペットと法律 執筆者:渋谷寛

 ペットは物と同じ扱いか?
 ペットブームが続き、少子化が進み、飼い主がペットに対し深い愛情を注ぐ傾向に拍車がかかっています。家族の一員として愛情を注いできた大切なペットが事故により死亡したとき、加害者に対して、どのような損害賠償を請求できるのでしょうか。その内容は、物の事故の損害と同じでしょうか。
 民法は、有体物を不動産と動産に分けています。そうすると、不動産ではない有体物であるペットは動産に分類されます。そうであれば、いわゆる物に対する損害賠償と全く同じに考えてよいことになりそうです。それでは、物損の代表例である自動車と比較しながら検討してみます。
 自動車が、交通事故で全損した場合は、時価賠償の原則に従い損害額が算定されます。新車のときに200万円で購入した自動車でも、1年乗り中古となっていれば、事故直前の時価額を賠償額とすれば十分とされています。そのときの時価が100万円だとすれば、その額が支払われればそれで終わりです。仮に、修理するために300万円かかるとしても、その全額を賠償する必要はありません。また、時価を賠償すれば、慰謝料を支払う必要も通常ありません。たとえ、自動車に対し愛情を持っていたとしても、時価評価額が賠償されれば、精神的苦痛も同時に慰謝されたとみなされるためです。どんなに綺麗に手入れしていた愛車でも時価額が賠償されればそれ以上に慰謝料などの賠償を求めることはできないのです。
 それでは、ペットの場合も同じでしょうか。ペットとして犬を30万円で購入し、その後、1年飼育したとします。そのとき、仮に獣医療過誤で死亡したとしましょう。この場合、時価賠償の原則に従うとどうなるでしょう。飼い始めて1年経った犬の時価はいくらでしょうか。
 里親を探しても見つからず、毎年27万頭前後の犬猫が行政により殺処分されています。無料で譲りますと広告を出しても貰い手がいないのが現状です。そうすると、時価は0円?他の飼い主に飼われて癖のついた犬を譲り受けたいと申し出る人は稀です。生後2ヶ月程度の子犬は、ものすごく可愛いのですが、1年経ち、成犬となった後は見た目の可愛さは半減します。買い手が現れないのが現実でしょう。
 裁判例では、さすがに時価を0円とはせず、購入価格を参考に、血統書の有無、その後のドッグショーでの受賞歴の有無、買い取りたいと申し出た人の買取希望価格などを勘案して、時価額を評価することがあります。もっとも、ドッグショーで極めて良い成績を残していれば、時価を購入価格より高く評価することもありえますが、そうではない、一般の家庭で飼育されている犬の場合は、時価額はほとんど無いに等しいといえるでしょう。多少多めに見積もっても時価評価額が数万円と評価される程度でしょうか。
 それでは、時価賠償の原則に従って、加害者は、その数万円を賠償すれば責任を免れるのでしょうか。過去の裁判例ではそうはなっていません。時価の評価額である僅か数万円を賠償しても、飼い主の精神的苦痛が慰謝されたとはみなされないのです。即ち、時価賠償のほかに、慰謝料を支払わなければならないとされているのです。ペットの時価賠償とは別に、数十万円の慰謝料の支払を命じた裁判例がいくつもあります。
 ですから、自動車の損害と比較しても、損害としての時価の算定額、そしてペットが生き物であり飼い主との関係を深めていることなどから、慰謝料の有無について大きな違いがあるのです。
 ペットは、確かに動産です。しかし、損害賠償において、時価のほかに、慰謝料を支払う必要性が生じる点で、単なる物(自動車)とは異なるという結論に至ります。

(2010年12月執筆)

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