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民事2010年07月23日 更新料の有効・無効をめぐって 「賃料」の意義を考える 執筆者:石川貞行

 建物の賃貸借契約において「賃料」とはいったい何なのでしょうか。民法によれば「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」と定められております(同法601条)。民法は不動産(建物)に限らず動産の賃貸借にも適用される基本条文であり、動産の賃貸借であれば、賃料は動産使用の対価として比較的判り易いことです。
 しかし、不動産、ことに建物の場合は賃貸建物の建築、維持管理、修繕、改修、公租公課等の経費がかかり、空室損、賃料貸倒れ、不測の事件、事故等の損害金の準備金が必要であり、賃貸人の純収益も必要ですから、使用の対価といっても容易に計算できるものではありません。賃貸人が必要とする収入を全て月決め賃料(共益費、駐車料を含む。以下同じ。)で賄おうとすれば、1か月の賃料額はかなり高額となってしまいますが、実務上は、月決め賃料を抑え、契約時に礼金や権利金、契約更新時に更新料、契約終了時に敷引金、敷金償却、修繕費負担金などの名目で金銭を受け取り、月決め賃料の収入を補填しているのが実情です。
 ところが、民法に定める「賃料」を月決め賃料だけであると考えると、礼金も更新料も敷引も修繕費負担金も、法律上の根拠がなく説明困難な対価性の乏しい給付であり、あるいは「賃料」によって賄われるべきであるから、民法の規定よりも消費者の義務を加重し、消費者契約法10条の見地から信義則に反し消費者の利益を一方的に害する無効なものであるという論理となってしまうのです(ただし、礼金については、今のところ無効とする判決は出ておりません。)。
 しかし、その論理によって、例えば更新料が無効であるとされた場合、賃貸人は更新料を無くす代わりに、その減収分を月決め賃料に加算するなどして補填しなければ賃貸事業が計画どおりに成り行かなくなってしまいます。ということは、結局、賃借人は更新料相当額は他の費目で支払うことになり、更新料の制度は単純に消費者の利益を一方的に害することにはならないと考えられるのです。
 そこで、民法601条にいう「賃料」を、単に月決め賃料(狭義の賃料)だけではなく、礼金、権利金、更新料等の賃借人から収受する使用の対価全てを含む広義の賃料として把握するほうが理解がし易いのではないかと思われるのです。その場合、もちろん広義の賃料の各費目の趣旨、内容、それぞれの金額などについて、契約時に明確に説明をし、賃借人が納得して合意することが必要であることは当然です。
 現在、高等裁判所において有効、無効に分かれた更新料については、最高裁に上告され、賃貸業界に及ぼす影響が大きいことから、その判決が注目されております。その判断では、民法601条にいう「賃料」をどう解釈するかが大きな問題となるはずです。
 賃貸人側の賃貸事業経営の立場からは、投下資本を回収し、利益を追求するために必要な収入が100とすれば、100全てを月決め賃料によって回収しなければならないのか(狭義の賃料論)、100のうち90を月決め賃料によって回収し残る10を他の費目で回収できるのか(広義の賃料論)、となります。
 賃借人の立場からは、月決め賃料以外の費目が、消費者に一方的に不利になることなのか、情報力が乏しい消費者として不利といえるのかどうか、全てを月決め賃料として支払う経済力が現状の社会においてあるのか、などについて考え直してみる必要があると思います。
 なお、更新料の有効性については、賃料の補充性(広義の賃料)のほかに、更新拒絶権放棄の対価、賃借権限強化の対価などの複合的性質を有するということが論じられておりますが、実際にそのような認識を持って更新料を授受しているか疑問であり、そのような机上の論理は実質賃料論の上では不要ではないでしょうか。
 本コラム執筆に当たっていろいろと思い巡らせているときに、(財)日本賃貸住宅管理協会が、今秋から「めやす賃料表示」を開始することが報道されました。これは、礼金、更新料、敷引金など地域ごとの商慣習の違いを超えて、入居希望者の実質的な負担金額(実質賃料)を4年間賃借するものと仮定した上、「めやす」として表示するという試みで、これによりお互いに納得して契約をし、争いの無いようにしようというものです。これは、賃料の考え方について実質賃料論を理解する上でも注目すべきことと思います。

(2010年7月執筆)

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