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民事2009年02月17日 定款の不思議 執筆者:田中義幸

 定款とは何か。法人の根本規則であるとか、基本ルールであるとか、基本準則であるとか、法人の憲法のようなものであるとか、言い方は違ってもだいたい同じようなニュアンスのことが述べられている。もちろん、それを書いた書面をいう場合もあると書かれている。ここに表れているのは、端的に定款の規範性という性格である。定款についての、それ以上の説明は寡聞にして聞いたことがない。
 しかし、これだけ聞くと、定款はその法人にとってはむろんのこと、関係者にとってもたいへん重要なもののようである。憲法のようなものと聞けば、憲法と同じように、その法人の設立に参画する面々が角突き合わせ、喧々囂々議論して決定する様子を想像する。が、実際にはそんなことはなく、大方は定款を自分で作らず、専門家などの他人に頼んで作ってもらったり、出来合いのひな型に合わせて適当に作ったりする。法人の基本的ルールであるといいながら、この基本的ルールに対する無関心さは、いったいどこから来るのだろうか。
 定款の記載事項を見ていくと、まず「名称」が最初に出てきて、次の「主たる事務所の所在地」、そして「目的」へと続く。定款が法人の根本規則であるとすれば、当然これらも法人の根本規則を構成するものと考えなければならないだろう。しかし、最初の「名称」は、どう頭をひねっても法人の規則というのとは違うような気がする。名称に何らかの規範性があるとは、どう考えても飲み込めない。名称は、その法人を他の法人と区別するために必要なもの、名もない団体を名のある法人にするために必要なものであって、何かを判断する際の規範となるようなたぐいのものとは考えにくいのだ。
 また、「事務所の所在地」も、法人の規則という感じはしない。所在地は、物理的な実体のない法人を社会的に存在させるために必要な、いわば座標のようなものであって、そこに規範性を認めることは難しい。
 その次の「目的」は、法人の権利能力の範囲を示すものだとされていることからすれば、確かに規範性もないわけではない。しかし、その比重からすれば規範というよりも、法人の性格に対する自己規定の意味の方が強い。つまり、これもそれまでの不詳の団体をきちんと一定の性格を持った法人として存在させるために必要なものだ。
 それから、そのほかの定款の記載事項である構成員に関することや機関に関することなどは、確かに規範性が感じられる。しかし、だからと言って、規範性がないものと規範性があるものを一緒くたにして、これらの本質は規範であるといわれても困る。
 そこで私が思ったのは、定款は、名もない団体を一軒の家のように立ち上げて法人とするまでの過程を表す設計図のようなものではないかということである。名称、所在地、目的などは、法人という建物のそれぞれを表している。そして、それ以外の記載事項などは、その建物のいわば骨組みや仕様を明らかにしているもののように思えてくるのだ。
 それで初めて納得がいった。建物の設計図を自分で描く人はあまりいない。大方は専門家に頼んで描いてもらっている。定款の作成を専門家に任せたり、出来合いのひな型に合わせて作ったりするのも、定款が法人の設計図のようなものだからに違いない。

(2009年2月執筆)

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