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訴訟手続2007年10月11日 知的財産高等裁判所発足後2年半 執筆者:牧野利秋

1.知財高裁設立の経緯
 2004年6月、知的財産高等裁判所設置法が制定公布され、2005年4月1日に知的財産高等裁判所(知財高裁)が発足してから、早いものですでに2年6ヶ月が経過しました。
 設立に至る経緯についての詳細は省略しますが、1999年から始まった21世紀の日本を支える司法制度の再構築を目指した改革と、2002年から始まった知的財産関係制度の刷新の一貫として知的財産の保護強化及び国内外に対する知的財産重視という国家政策(知財立国)を明確化するため、多くの議論の末に、東京高裁の特別の支部という現在の形での設立が実現したものです。
 知財高裁の設立はわが国のみならず外国でも高い関心を呼び、多くの内外知財関係者が見学に訪れています。

2.知財高裁の取扱事件
(1)知的財産関係民事事件の控訴事件
 知財高裁は、「技術型」というべき「特許権等に関する訴え」(特許権、実用新案権、回路配置利用権、プログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え)についての控訴事件を専属的に取り扱う全国で唯一の高等裁判所です(民訴法6条)。これにより、特許権等に関する訴えについて速やかな判例の統一が期待されています。
 「技術型」事件を除いた意匠権、商標権、著作権、不正競争防止法関係事件等の「非技術型」の知的財産権関係事件については、従前どおり、東京高等裁判所管内の各地方裁判所がした終局判決に対する控訴事件を担当します。
 2006年度の新受件数96件、既済事件の平均審理期間8.5ヶ月です。1996年度29件、15.4ヶ月に比べ、事件数の増加と平均審理期間の短縮が顕著です。
(2)審決等取消訴訟の第1審事件
 特許法、実用新案法、意匠法、商標法に定める特許庁の審決又は決定の取消訴訟事件については、従前どおり専属管轄を有します。
 2006年度の新受件数566件、既済事件の平均審理期間8.6ヶ月、1996年度279件、21.4ヶ月に比べ、ここでも事件数の増加と平均審理期間の短縮が顕著です。

3.知財高裁の構成
(1)知財高裁の陣容
 知財高裁には、組織の長として所長が任命され、裁判官会議で一定の司法行政事務を行い、独立の事務局が置かれている点で、通常の高裁支部とは異なる独立性を有しています。
 裁判部は、第1部から第4部まで4ヶ部の通常部があり、18名の裁判官(所長を含む。)が各部に4名又は5名配属されています。3名の裁判官による合議体で裁判をします。
 特別部は、知財高裁の統一的見解を示す必要がある法律上の論点を含む事件その他の重要な事件につき、5名の裁判官による合議体で裁判をする大合議部です。5名の裁判官は、当該事件が係属したときに、その事件の主任判事1名及び各部の総括判事4名(所長である部総括判事が裁判長)又はこれに順ずる判事から構成されます。これまでに、大合議判決は3件出されています。3件それぞれに興味深い論点がありますので、関心のある方は、知財高裁のホームページ(http://www.ip.courts.go.jp/)をご覧下さい。
 各部には、裁判官の他に、主任書記官、書記官、事務官が配属されています。
 知財事件を適正に処理するために必要な補佐役として11名の常勤裁判所職員である裁判所調査官が従前どおり置かれており、特許庁の審査官・審判官経験者、弁理士経験者から任命されています。調査官は担当を命じられた事件につき、裁判官と緊密に連携を取り、審理に必要な調査をし、技術的問題につき裁判官を補佐し、必要であれば、訴訟関係を明瞭にするため、当事者に対し質問し立証を促すことや、裁判官に対し事件につき意見を述べること等もできます。
 なお、東京地裁には7名、大阪地裁には3名の裁判所調査官が知財部に所属しています。
(2)専門委員制度
 専門委員制度は、今日の技術が急速な進展をみせ、高度に細分化・先端化し、また、学際的に技術分野が交錯する等、複雑化・高度化していることに鑑み、これらの技術が問題となる事件(知的財産関係事件に限らない。)につき審理の一層の充実及び迅速化を図るために、2004年4月1日から導入された制度です。
 最高裁判所が学者・研究者・弁理士等から各種技術分野の一流の専門家を選び、非常勤裁判所職員として任命し名簿に登載しておき(知財関係専門委員約180名)、事件を担当する裁判所が、必要と認めた場合に、当事者の意見を聴いて事件ごとに指名することになっています。一つの事件に学者・研究者と弁理士といった組合せで複数の専門委員を指名する取扱いがされています。
 専門委員関与により、真の専門家の知見を聞くことができ、裁判官において技術について思わざる誤解や見落としがあるのではないかという危惧感が減少したこと、当該技術の背景的事情などの説明により事件をより深く理解できるようになったこと、当事者の方も、一流の専門家が関与しているということで準備も周到になり、議論がより充実・活発化し、裁判所の審理に対する当事者の信頼性・納得性が得られること等が指摘され、実績を重ねてきています。専門委員は、地方裁判所での事件も取り扱います。

4.知財高裁の特色
 知財高裁は、上述したとおり、知的財産関係事件全般についての侵害訴訟等の民事控訴事件と、特許権等の産業財産権に関する審決等取消訴訟を取り扱う知的財産事件専門の高等裁判所です。
 この点で、米国の連邦巡回区控訴裁判所(Court of Appeals for the Federal Circuit、CAFC)が、特許事件のみならず関税事件等の各種連邦事件を管轄し、著作権事件は取り扱わない裁判所であって、知的財産権専門裁判所ではないことと異なり、また、ドイツの連邦特許裁判所が、機能的には特許庁の審判部の機能を果たし、侵害訴訟を取り扱わない裁判所であることとも相違します。
 この意味で、知的財産高等裁判所は、裁判所調査官、専門委員による専門的知見の補佐体制が整っていることと共に、世界で先例のない特色を有するということができます。
 これまでの実績を踏まえ、知財高裁のみならず東京・大阪地裁の知財部が専門性の利点を生かしつつ健全な法常識に裏打ちされた理論的水準の高い判断を下し、国民の要望に応えることを期待したいと思います。

(2007年10月執筆)

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