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企業法務2007年07月25日 混迷やまぬ個人情報保護問題に向けて 執筆者:森田明

 2003年5月30日、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)が成立した。この法律に対しては、マスコミや出版関係者らから強い反対があった。なかでも日本弁護士連合会(日弁連)は、これに最後まで反対し続けた。その要点は、「個人情報保護を理由とする民間事業者に対する過度の規制であり、他方保護すべき個人情報が保護されない」というものであった。
 日弁連の中でこの問題を担当したのは情報問題対策委員会(情報委)だったが、情報委に所属する弁護士は、個人情報保護法が成立してからは、この法律について各種団体から依頼されて講演をしたり、所属の弁護士会の個人情報取扱事業者としての準備にかかわることになった。そして、改めて、この法律の不明確さと文字通り読むなら事業者に対する大きな負担となることを実感した。同様の不安は社会全体に広がっていった。
 2005年4月1日、個人情報取扱事業者の義務など法の中心的部分が施行された。まもなく、「個人情報保護パニック」とでも言うべき事態が巻き起こった。自治会の名簿や学校の緊急連絡網の作成・配布を取りやめるところが相次ぎ、多数の死傷者を出したJR福知山線の列車事故ではけが人が運び込まれた病院が問い合わせに答えなかったことが問題になった。そのほか、社会のあらゆる場面で、従来行われていた情報のやり取りができなくなったことによる支障が報じられることになった。いわゆる「過剰反応」である。日弁連が危惧した事態が予想を超える規模で進んでいった。
 情報委は、法施行後起こった問題事例を集約し、2006年に二つの企画を行った。まず4月20日に「個人情報保護法 混乱の原因は何か」と題するシンポジウムを開催した。ここでは6つの分野から30の事例を抽出して、その背景と対応を検討した。そして、弁護士業務を行うために必要な情報収集にもさまざまな支障が生じてきていたことから、同年8月に弁護士対象のアンケート調査を実施してさらに事例を補充し、12分野から約60の事例を集約した資料を作成して、12月16日に「弁護士業務が危ない!?必要な情報の入手に困らないために」と題して全国の弁護士を対象とする研修会をおこなった。
 これらの取り組みを通じてわかったのは、個人情報に関する問題は、個人情報保護法だけで解決できるものではなく、各分野に設けられたガイドラインについての知識が不可欠であること、また個人情報保護法とは別の分野である民法の不法行為のこの種の事案における到達点や、個人信用情報、インターネット規制などの領域の知識が必要とされていることであった。
 個人情報保護法の解説本は山のようにあるが、施行後の運用上の問題点を踏まえて解釈のあり方を示すものはそう多くはない。マスコミ論調は過剰反応の非を言い募るばかりで、過度に過去のやり方を肯定する傾向があり、現にある法律を合理的に運用しようとする視点は欠けている。また、個人情報保護法の運用状況を検討していた国民生活審議会個人情報保護部会は本年6月、法改正を先送りするとりまとめで区切りをつけてしまった。
 個人情報保護にかかる問題の解決には、個人情報保護法を具体化したガイドラインや関連分野の法令・判例の知識と、それらをふまえた、個人情報保護法の的確な解釈が必要である。そして解釈で解決できない問題については法改正を提示すべきである。個人情報保護法の運用実績をふまえて、議論の整理をする時期にきているように思う。

(2007年7月執筆)

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