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企業法務2007年04月03日 決して他人事では済まされない内部統制システムの整備 執筆者:那須健人

 昨年5月の会社法施行、同年6月の金融商品取引法の成立によって、内部統制システムなる語が俄然注目を集めている。以前においても、いわゆるCSR(企業の社会的責任)を意識した社内体制作りに奔走する企業の姿が各種メディアを通じて知るところとなってはいたが、まだ少数派であったようである。ところが内部統制システムについて明記した会社法、金融商品取引法が相次いで成立したことで、内部統制システムの整備に向けて重い腰を上げざるを得なかった企業が多いのではないか、と推測される。

 本コラムの標題にある「決して他人事では済まされない」には、実は2つの意味が込められている。第1に、横並び的な発想で「他社も内部統制システムの構築に取り組み始めたから、自社でも同じようなシステムを構築すれば足りる」とする考えが誤りであることを意味する。この点については、既に数多くの書籍や論稿にて指摘されていることでもあるので、詳細についてはここでは割愛する。

 むしろここで述べておきたいのは、第2の意味、つまり大企業のみならず中小企業においても内部統制システムの整備、運用は決して他人事では済まされない、という点である。

 会社法で内部統制システムに関する事項を決定する義務を課しているのは、会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上の株式会社)のみとされている。また株式上場会社でなければ、通常は証券取引法、将来の金融商品取引法の適用対象会社として、同法に定める内部統制報告書に関する諸々の義務を負うこともない。このことから、法文上ではそのいずれの義務も課されていない、いわゆる中小企業にあっては、「内部統制システム?それは大企業の話であって、ウチのような会社にとっては所詮他人事。そもそも漏れ聞くような窮屈なシステムを作らずとも会社経営は可能であるし、業務内容の文書化にいちいち時間をかけていては、効率的な経営ができなくなる。会社が潰れてしまっては本末転倒だ。」とする考え方が、圧倒的大多数ではなかろうか。確かに、中小企業については法令の文言上からは内部統制システムに関する事項を任意に決定することはともかくとして、法的義務とまではされていない。また大企業に比べ人的資源に乏しく、一人で何役もこなさねばならない中小企業の実情に鑑みると、このような考え方に同情の余地がないではない。

 しかしながら、それでもなお中小企業にとっても内部統制システムの整備は「決して他人事では済まされない」と言わざるを得ない。これは、敢えて会社法の文言を曲げて解釈するからではない。ビジネスの現場にて、取引の前提条件として、会社の規模を問わず広く内部統制システムの整備、運用が結果として求められつつあることに端を発している。

 本年3月9日の日本経済新聞朝刊に掲載された「部品や原材料の調達先、環境・法令順守で選別の動き」と題する記事によると、松下電器産業や富士ゼロックスをはじめとする、我が国を代表する大企業が、こぞって部品・原材料の調達先との取引条件として、契約の中で法令順守をはじめとする社会的責任の徹底を求め、毎年、順守状況をチェックし、改善が見られない調達先とは契約打ち切りも検討する、とのことである(概要はhttp://www.nikkei.co.jp/news/main/20070309AT1D1600Y08032007.htmlにて参照可能)。  記事を読む限り、どうも外国の調達先に限った話ではなく、国内の調達先にも同様に適用されるようである。もちろん一口に内部統制システムといっても、その具体的態様は百社百様であって然るべきで、自社の身の丈に合ったシステムを構築、運用すれば良い。しかしながら、内部統制システムそのものの整備、運用すらなくして、新聞記事にあるような大企業による順守状況チェックに耐えうることは、おそらく困難であろう。内部統制システムの整備、運用に無関心であり続けると、果ては契約違反として、自社の経営に多大な影響を及ぼす大口取引先を失うことが現実問題としてありうるのである。もはや「内部統制システムなどにこだわっていたら会社経営が成り立たない」との言い訳は通用せず、「内部統制システムを整備、運用しなければ会社経営が成り立たない」時代に向かっていることは明らかであろう。

 以上のような意味において、もはや中小企業においても内部統制システムの整備は「決して他人事では済まされない」のである。

(2007年3月執筆)

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