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企業法務2020年06月12日 印紙税判断の勘所【前編】 執筆者:山田重則

1 最も判断ミスの多い「〇〇に関する契約書」

 印紙税の課否判断をする上で注意を要するポイントはいくつかありますが、その中でも「契約書」という要件については特に注意が必要です。例えば、消費貸借に関する契約書(第1号の3文書)、請負に関する契約書(第2号文書)、債務の保証に関する契約書(第13号文書)など、「〇〇に関する契約書」と呼ばれる課税文書については、その文書が「契約書」といえることが要件の1つとなります。
 そして、印紙税法上の「契約書」には、一般に考えられているよりも広い文書が含まれます。そのため、時として思いもよらないような文書が「契約書」に該当すると判断され、多額の過怠税を課されることがあります。
 例えば、新聞報道によれば、2012年には繊維製品製造業を営む会社が店舗でお客様に交付していた「お客様控え」は請負に関する契約書(第2号文書)に該当すると判断され、約3200万円の過怠税を課されました。また、2014年には金融業を営む会社が融資申込者に交付していた「審査結果のお知らせ」は消費貸借に関する契約書(第1号の3文書)に該当すると判断され、約2億3500万円の過怠税を課されました。

2 印紙税法上の「契約書」とは

 印紙税法上、「契約書」とは、契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約(その予約を含む。以下同じ。)の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証すべき文書をいい、 念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとされています(印紙税法 別表第一 課税物件表の適用に関する通則5)。下線部がポイントです。
 下線部を確認すると、当事者の一方のみが作成する文書であっても契約の成立等を証明することができる場合には「契約書」に該当するということが読み取れます。「契約書」というと、契約当事者双方が署名・押印して共同で作成する形式が一般的であるため、一方当事者が作成した文書であっても印紙税法上は「契約書」に該当する場合があるという点は意外に感じられると思います。

3 当事者の一方のみが作成する「契約書」

 当事者の一方のみが作成する文書のうちどのような文書が「契約書」に該当するのかという点は、法律や通達において統一的な見解が示されているわけではありませんが、実務上は、主として、文書の表題、契約成立等を示す文言の有無、債務の承認の有無といった点を考慮して判断されていると考えられています。

⑴ 文書の表題

 文書の表題が、念書、請書、承諾書、覚書、差入証、約定書等となっている場合、基本的には、「契約書」と判断されます。
 国税庁の質疑応答事例では、不動産の売主から買主に対して交付される「売渡証書」という表題の文書、不動産賃貸の賃貸人から賃借人に対して交付される「〇〇苑墓地使用承諾証」という表題の文書の各々について、「契約書」に該当するとの解説がなされています(国税庁質疑応答事例1号の1文書の11、同1号の2文書の6)。

⑵ 合意の成立を示す文言の有無

 文書中に、「合意した」、「承諾する」、「引き受ける」、「請ける」、「確認する」というような文言が記載されている場合、そのような文書は契約書と判断される可能性が高いといえます。このような文言が使用されている場合、一方の申込に対する他方の承諾がなされたと解することができるからです。
 また、例えば、一方当事者の作成した申込書に他方当事者が押印して返送した場合、この押印は他方当事者による承諾を意味すると解することができるため、この申込書は「契約書」に該当します。
国税庁の質疑応答事例では、請負人から注文者に対して、「注文お請けいたします」と記載された注文請書について、「契約書」に該当するとの解説がされています(国税庁質疑応答事例2号文書の7)。

⑶ 債務の承認の有無

 契約の債務者が自らの債務について自認する旨を記載している場合には、その文書は「契約書」に該当する可能性があります。
 国税庁の質疑応答事例では、金銭消費貸借契約の借主が貸主に対して交付する借用書は、「契約書」に該当するとの解説がされていますが、これは借主が自らの債務である金銭の返還義務を認める旨の文書に該当するためと考えられます(国税庁質疑応答事例1号の3文書の2)。また、金銭消費貸借契約の貸主が借主に対して交付する貸付決定通知書は、「契約書」に該当するとの解説がされていますが、これは貸主が自らの債務である金銭の貸付義務を認める旨の文書に該当するためと考えられます(国税庁質疑応答事例1号の3文書の4)。

4 まとめ

 本稿では、「契約書」という要件について解説をしましたが、印紙税法上の「契約書」には通常考えられているよりも広い文書が含まれるという点についてご理解いただけたかと思います。このように印紙税の判断を行う上では、通常とは異なる考え方を要求される場合が多々あります。印紙税の判断を正確に行うためには、印紙税独自の考え方を身に着ける必要があるといえます。

(2020年6月執筆)


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執筆者

山田 重則やまだ しげのり

弁護士

略歴・経歴

鳥飼総合法律事務所
一橋大学法学部卒業
早稲田大学大学院法務研究科修了
第二東京弁護士会所属
主に、税務、企業法務、労務・人事、相続に係る業務等に携わる。
株式会社鳥飼コンサルティンググループ主催、新日本法規出版株式会社協賛による「印紙税検定(初級篇)」の立ち上げに参画、「印紙税検定(中級篇)」の講師を務める。鳥飼総合法律事務所印紙税相談室の創設メンバー。

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