相続・遺言2025年07月25日 相続税の節税対策 執筆者:北島淳

相続税は生前からの準備次第で税額が大きく変わります。残された家族が多額の相続税の支払いに四苦八苦したり、相続人間でトラブルにならない様にするために、知っておきたい相続税対策や注意点をお伝えします。
相続税対策とは、相続税を節税することです。相続財産が基礎控除額「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えると、超えた分に対し相続税が課税されます。従って、生前に相続財産を少なくする準備をしておけば、相続税が少なくなります。
生前に相続財産を少なくするには、「生前贈与」が有効です。暦年課税制度の年間110万円以内という非課税枠を使って生前から時間をかけてコツコツ子や孫へ贈与すれば、相続財産を減らすことができ、最終的には相続税を軽減することができます。贈与する資産は現金でも有価証券でも構いません。
ただし、注意しなくてはならないのは贈与者の死亡日以前7年間に贈与された分は贈与した時の時価で相続財産に加算する(持ち戻し)というルールがあることです。これまでは死亡日以前3年間の贈与分でしたが、2023年の税制改正で7年間に変更されました。2024年1月1日以降、段階的に期間が延長され、2031年1月1日分から完全に7年間の加算になります。この間、死亡日以前3年超7年以内の4年間に贈与された分については「4年間分の贈与額の合計-100万円」が加算対象となります。
同じく「生前贈与」の方法として、「相続時精算課税制度」もあります。原則として60歳以上の父母または祖父母等から18歳以上の子または孫等に対し財産を贈与した場合に選択できる贈与の制度で、最大2,500万円の特別控除があります(控除額を超えた場合は残額に対し20%の贈与税)。2023年の税制改正により毎年110万円まで基礎控除が適用できる事になり、利用しやすくなりました。なお、本制度を選択すると暦年課税に戻ることができない点もあり、慎重な対応が必要です。
また、相続税の節税対策として、生命保険の非課税枠を活用する方法があります。生命保険の死亡保険金には、相続税法上「500万円 × 法定相続人の数」まで非課税となる「非課税枠」が設けられています。例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の合計3人の場合、非課税枠は500万円 × 3人 = 1,500万円となります。つまり、相続人が受け取る死亡保険金の合計額が1,500万円以下であれば、当該保険金に相続税はかかりません。ただし、「保険料負担者と被保険者=被相続人」「受取人=相続人」でないと非課税枠が使えないので注意が必要です。また、相続放棄すると非課税枠は使えません。
また、生命保険は、遺留分対策としても有効です。そもそも遺留分とは、法定相続人(兄弟姉妹以外)に最低限保証された遺産取得分で、法定相続分の1/2となります。仮に被相続人が極端に偏った遺産配分を決めたとしても、法定相続分の1/2は確実に確保でき、残された家族の生活を最低限保証することができます。
例えば、財産が1憶円、相続人が長男・長女(すなわち子2人)の場合、相続が発生すると、子2人それぞれ遺留分は各2,500万円(法定相続分1/2の1/2、すなわち1/4)となります。
仮に、財産1億円のうち、2,000万円分の預貯金を生前に生命保険に変え、保険金の受取人を長男としていた場合、当該2,000万円は長男固有の財産として相続財産から除外され、相続財産合計は8,000万円となり、子2人それぞれの遺留分額は各2,000万円となります。従って、生命保険を活用した生前贈与は、子2人のうちいずれか1人に、なるべく多く財産分与をしたい、という場合に有効です。
ただし、相続財産に対して生命保険金が多すぎる場合に、相続人間で不平等が生じる場合には「特別受益」として遺留分の対象となりますので注意が必要です。特別受益とは一部の相続人だけが被相続人から特別に得た利益のことです。特別受益があった場合、公平な遺産分割になる様、特別受益分を相続財産に加算して相続人の取得分を計算します。著しく生命保険金額が多すぎるか否かの判定基準は以下の通りです。
①生命保険金の額
②生命保険金額の遺産総額に対する割合
③生命保険金の受取人である相続人および他の相続人と亡くなられた方との関係
(同居の有無、亡くなられた方の介護等に対する貢献の度合いなど)
④各相続人の生活実態
いずれにしても早期から対策に着手し、相続税の試算等、税理士・弁護士といった専門家のアドバイスを活用し、計画的に進めることがもっとも大切です。
(2025年7月執筆)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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執筆者

北島 淳きたじま じゅん
税理士(北島淳税理士事務所)
略歴・経歴
1973年福井県生まれ。南山大学大学院法学研究科修士課程修了。
理念は「税理士はお客様を成功へと導くビジネスパートナー」。
税務・会計のみに留まらず広い視野から物事を捉え、お客様の将来像を共に考え共に描く
「未来創造型コンサルティング」を得意とする。
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