相続・遺言2024年10月02日 相続税 申告期限を過ぎたらどうなる? 執筆者:北島淳
① 相続税の期限内申告
私たち税理士の業務において、全ての税目で期限内に滞りなく申告を終える事を最低限の目標としている事は言うまでもありません。相続税の場合には被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内という期限が設けられています。申告期限前にご相談があった場合には「〇月〇日が申告期限ですから、それまでに話し合って結論を出しましょう」とご説明して進めていく場合が通常です。
ところが、すでに申告期限が過ぎてしまってからのご相談がある場合もあります。この場合はとても問題です。というのも、期限内に申告を済ませていれば相続税を大幅に減額させることができる「特例制度」が使えなくなってしまうのです。代表的な例として、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の評価減という特例制度が挙げられます。こうした特例制度は、亡くなった人(被相続人)の遺した財産の全額に対し多くの税金を課税するのは、その財産を当てにしている遺族(相続人)に対して酷であり、一定の軽減措置を講じる事により、課税の公平性とのバランスを取る、という趣旨によるものです。しかし、上述の通り、これらの特例制度はちゃんと期限を守っている、すなわち「期限内申告」の場合にのみ、適用が認められます。以下で特例制度のあらましを確認しておきます。
② 配偶者の税額軽減について
配偶者の税額軽減とは、配偶者が相続した財産について、「法定相続分(1/2)もしくは1億6,000万円まで、相続税がかからない」という制度で、こちらについては大幅な節税効果が期待できます(もちろん二次相続による相続税負担を考える必要はありますが)。配偶者は被相続人と「法的な夫婦であること」が必要です。法的な夫婦とは婚姻届を出しているということであり、それ以外の事実婚や内縁関係の場合は適用が受けられません。本制度については期限内申告をしていなければ、特例を享受できません。
③ 小規模宅地等の評価減について
小規模宅地等の評価減の特例とは、自宅や事業として使用していた土地については最大8割減と、なるべく税金がかからずに承継できるように配慮された制度です。相続税は、原則として現金で一括納付しなければなりません。「相続財産が自宅しかない場合、相続税の支払いのために自宅を売却して納税しなければならない」といった様に相続人の生活を脅かすことがない様に本制度が設けられています。
適用できる土地は主に、自宅の土地、お店や工場などを営んでいた事業用の土地、そして賃貸住宅や駐車場の土地です。それぞれ、上限面積と減額割合が決まっていますが、自宅の土地と事業用の土地は特例を併用することができます(最大730㎡)。また、上限面積の範囲内であれば組合せて適応させることもできます。こちらについても期限内申告をしていなければ、特例を享受できません。
④ 申告期限を過ぎてしまったら?
上述の通り期限内申告ができない場合には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の評価減の特例が適用されないばかりでなく、さらに無申告加算税や延滞税が課せられてしまいますので注意が必要です。なお、私の事務所では、申告期限を過ぎても相続税申告書を提出できない場合、とりあえず、「仮の」申告書を提出しておくということを推奨しています。そうすることで、期限内申告による特例適用を享受し、後に「正の」申告書を修正申告として提出するのです。財産評価が間に合わない場合や、申告期限ギリギリに受注した案件についても同様にしています。この場合には、概算で少し多めの申告をしておき(相続税も少々余分に納める)、後に税務署より還付してもらう事で延滞税がかからない様にしています。いずれにしても事態を放置せず、税理士・弁護士といった専門家へご相談下さい。
(2024年9月執筆)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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執筆者
北島 淳きたじま じゅん
税理士(北島淳税理士事務所)
略歴・経歴
1973年福井県生まれ。南山大学大学院法学研究科修士課程修了。
理念は「税理士はお客様を成功へと導くビジネスパートナー」。
税務・会計のみに留まらず広い視野から物事を捉え、お客様の将来像を共に考え共に描く
「未来創造型コンサルティング」を得意とする。
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