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相続・遺言2025年11月28日 高齢社会における相続問題を考える 執筆者:北島淳

1「老老相続」

 高齢社会が到来して、多くの方が長生きを前提としたライフスタイルを考える様になっている。21世紀半ばには、国民の3人に1人以上が65歳以上の高齢者となるだろう。高齢者が死亡した場合、相続人も高齢者だ。90代の父親が死亡した時、子が70代であることも珍しくない。この事象は「老老相続」と呼ばれ、相続人が高齢化すれば認知症等による判断力の低下、手続や相続財産の利活用の停滞が予想される。同じく、90歳で死亡した兄の資産を85歳の弟が相続する、といった事例の様に、未婚率増加による子のいない高齢者が増える一方、長寿化で兄弟姉妹が存命するケースも多い。
 こうした事態には、本人の財産保護や生活支援を後見人が行う「成年後見制度」が準備されているが、未だ法整備は十分に整っていない。相続登記・遺産分割時における一時的な利用が可能となれば利便性が高まると言えるが、議論は道半ばと言えよう。

2「相続登記の義務化」と「相続土地国庫帰属制度」

 不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず、判明しても所有者に連絡がつかない「所有者不明土地」問題。この問題が起きる最大の要因は相続登記が任意であった点だ。2024年4月、相続登記の義務化がスタートし、相続人は不動産の取得を知った日から3年以内に登記の申請をしなければならない。理由なく申請しなかった場合は最大10万円の過料が課される。制度開始日前の過去の相続も対象となる。また、不要な土地を国が引取る「相続土地国庫帰属制度」も2023年4月に始まった。国が引取る土地には一定の要件があり、所有土地を手放す際には国に負担金を納める必要がある。
 こうした法的整備の拡充だけで問題が一挙に解決するわけではないが、登記に遺産分割が絡む場合に相続人同士の合意形成が図れる様、税理士・弁護士・司法書士といった専門家による支援が不可欠であろう。地方自治体に相談窓口を設置する等、具体的な支援策の整備は急務だ。また、国が引取った土地を地域でどう活用し、町づくりに役立てることができるか、も今後の大きな検討課題である。

3「相続関係の複雑化」

 親世代の高齢化に伴い、次の相続が発生するまでの期間が長くなる。その間に亡くなる相続人等が出てくることから、相続人に代わって子が相続する「代襲相続」となる可能性は高まるだろう。例えば、親Aから見て一人息子のBがAより先に亡くなって、そのBに3人の子(Aから見た場合、孫)がいる場合、代襲相続人は3人となる。つまり、次の相続までの期間が長くなるほど相続人の数は増える可能性は高まる。近隣在住で意思疎通が容易でない場合もあり、遺産分割協議が複雑となりがちだ。相続した財産を複数の相続人が共有する場合、賃貸物件として利用するにしても売却するにしても意見がまとまりにくく、意思決定に長期間を要するケースも多い。
 不動産の名義変更を行う際、遺産分割協議書に相続人全員の個人実印・印鑑証明の添付が必要となるが、相続人全員の合意が得られない場合、遺産分割は成立しない。家庭裁判所の調停や裁判官による審判という制度もあるが、解決は長期化する場合が多く費用もかかる。その様な事象を背景に、長年に渡り相続手続が放置されるケースも多いのが実情だ。こうした事象を解消することは容易ではない。特に相続人の確定調査は各地から戸籍謄本を取り寄せる必要があり、費用も時間もかかる。所在不明であったり、意思能力がない相続人がいる場合もあり、数年がかりとなる場合も散見される。AI等により、相続人が誰か、瞬時に判る住民登録のデジタル化が待たれる。

4「生前の相続準備の重要性」

 相続は、突然訪れる。誰もが、人生において何度も経験することではないが、親族が亡くなった直後に、心情的に割り切って物事を進めることは難しい。従って、財産を遺す側が、生前に財産をしっかりと整理し、遺言書等を活用し、自らの意思を明確に示しておくことが望ましい。遺言書が無い場合、原則として法定相続分に従った分配が行われ、故人の意向が反映されないこともある。事前に銀行や証券口座を集約させ、財産目録を作成し、各相続人に対して「誰に何を遺したいか」を明確にしておくことが大切であろう。

(2025年11月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

北島 淳きたじま じゅん

税理士(北島淳税理士事務所)

略歴・経歴

1973年福井県生まれ。南山大学大学院法学研究科修士課程修了。
理念は「税理士はお客様を成功へと導くビジネスパートナー」。
税務・会計のみに留まらず広い視野から物事を捉え、お客様の将来像を共に考え共に描く
「未来創造型コンサルティング」を得意とする。

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