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企業法務2026年02月26日 賃上げは実現する? 中小企業に押しつけられた負担を解消しなければ夢のまた夢… 鍵握るのは、約20年ぶりに下請法を大きくリニューアルした「取適法」 提供:共同通信社

 春闘が始まり、今年も大幅な賃上げが叫ばれている。だが、物価上昇が続く状況下で、弱い立場の中小企業がコスト上昇分を正しく価格転嫁できなければ、持続的な賃上げなど夢のまた夢だ。2026年1月、約20年ぶりに大きく改正された下請法は、「取適法(中小受託取引適正化法)」と名前を変え、権限を強化した。改正法の下で、弱者に負担が押し付けられてきた日本的取引慣行は変わるのか。施行からまもなく2カ月となる。法改正を巡る省庁の動きや課題をまとめた。(共同通信=川崎経大)

▽公取委、改正前に“先取り勧告”
 改正された取適法施行前の2025年12月、公正取引委員会は総合物流大手「センコー」(大阪市)に下請法違反(不当な経済上の利益の提供要請)があったと認定し、再発防止を求めて勧告した。公取委の認定によると、センコーは下請事業者に自社施設内で無償の荷積み・荷降ろし作業や付帯作業をさせた。さらに、2時間を超える荷待ちを常態化させていたという。
 「無償荷役」や「荷待ち」行為への下請法による勧告は初めて。公取委が取適法の方向性を先取りしたものと位置付けていいだろう。背景にあるのは、トラック運転手の時間外労働上限規制などのスタートが配送遅れやコスト急騰につながる、物流の「2024年問題」の深刻化だ。
 今回の改正のポイントの一つは「適用範囲の大幅拡大」だ。これまでの対象だった製造委託、修理委託、情報成果物作成、役務提供に加え、新たに発荷主から運送事業者への「特定運送委託」が対象となった。これにより、物流現場で長年問題視されてきた「荷待ち」「無償荷役」「不当な運賃据え置き」が、明確に“違法類型”として扱われることになった。
 「運送事業者における価格の転嫁率は、これまであまり芳しくない」(公取委幹部)という。センコーへの勧告は、新ルールの精神を、世間に向けて公取委がアピールしたものと考えてよさそうだ。

▽狙いは「構造的な価格転嫁の定着」
 物流に起因する「不当な負担押し付け」は、ドライバーの拘束時間を増やし、人手不足を助長する。それは、やがて輸送力低下を招き、結果として社会全体のサプライチェーンを弱体化させる。原材料費や燃料費、人件費の上昇が続く中で、荷主側が正しい価格転嫁を妨げるような行動を取れば、中小事業者は経営体力を奪われ、賃上げはできず停滞してしまう。
 政府が「構造的な価格転嫁の定着」を掲げる背景には、こうした連鎖を断ち切る狙いがある。
 実際、センコーは勧告を受け、無償荷役・荷待ちに相当する費用の支払い申し入れ、委託内容の見直し、下請法教育の徹底など、再発防止策を進めると発表した。
 公取委は、センコー以外にも2025年12月、食品物流などを手がける「南日本運輸倉庫」(東京)に対して下請法違反を認定し勧告した。配送委託先に支払うべき代金を「元請管理手数料」という名目で減額させ、振込手数料も負担させていたとの指摘だった。
 公取委は中小企業庁と合同でこの物流業界を集中調査。同年4~12月に530社を指導した。2023年度に13件だった勧告は、25年度は2月3日現在で29件と2倍以上に増加。あしき慣習に対して厳しい姿勢を見せている。

▽禁止行為明確に、監視体制も強化
 法改正のポイントは、適用範囲拡大のほかにもある。「禁止行為の追加」と「執行体制の強化」がそれだ。
 「禁止行為の追加」は大きく二つある。一つは業務の対価(価格)について、請け負う側(中小受託業者)からの協議要請拒否の禁止だ。
 これまでは発注側が価格を据え置いても、それが「著しく低い」と評価されなければ違法とはなりにくかった。改正後は、受託側からコスト上昇などを理由に協議を求められたにもかかわらず◇協議に応じない◇十分な説明や情報提供をしない―といった対応をすれば違法とされる。
 もう一つは、受託側の資金繰りを圧迫すると批判が強かった手形払いの禁止だ。支払いは60日以内が原則となった。製造業や建設業には影響が大きい改正だ。
 もう一つの柱が「執行体制の強化」だ。公取委と中小企業庁だけでなく、経済産業省、国土交通省、総務省など、さまざまな業界で実情を最も理解する省庁に新たに「指導・助言権限」を付与、直接関与できるようにした。違反行為を把握すれば、即座に該当企業へ指導できる。省庁横断的に違反情報を共有、速やかに監視・指導を行うための規定も追加された。公取委は法改正に向け、2025年4月に経済取引局企業取引課に他省庁との連携に当たる企画官を新設、実務上のマニュアル提供などで協力体制構築を進めている。
 着任した武田雅弘企画官は法改正に向けた準備の一例に「トラック物流Gメン」との合同荷主パトロールを挙げた。
 「国交省の『トラック物流Gメン』はトラック法(貨物自動車運送事業法)で行政指導などをしていたが、取適法に基づいても指導ができるようになる。担当者と頻繁に意見交換し、(昨年)10、11月ごろには公取委職員も同行して『合同荷主パトロール』といった取り組みを実施してきた」と話す。

▽「絵に描いた餅」にしないために
 適正な価格転嫁を実現する上で、大事なのは、どうやって法の実効性を高めるかという問題だ。「絵に描いた餅」にならないようにするには、受託側の中小企業にも防衛策が必要で、これからの課題となるだろう。
 例えば、荷主など委託側が形式的な協議のみで「価格決定協議を実施した」とするケースは容易に想像できる。こうした「実質拒否」を許さないためには原価要素の開示、交渉記録の保存などが必要だ。
 なし崩しで待たされ、結果として長時間に及ぶ荷待ちが起きるようなケースも想定できる。これを防ぐには、荷待ち時間の計測や荷役発生状況を記録できるデータ基盤の整備が必要不可欠となる。
 法改正の認知度をどう上げるのかということも課題だ。公取委と中小企業庁は合同で47都道府県での周知広報のための説明会を実施している。だが、東京商工リサーチが2025年12月1~8日に6000社以上の企業から回答を得たインターネットでのアンケートでは、法改正について「影響精査済み」は42・9%と半数に届かなかった。一方で「精査していない」が36・8%、「(法改正を)知らなかった」が20・3%に上った。
 法改正を契機に、例えば運送業界は「見えないコストを押し付けられる側」から、荷主側と「対等に協議し、対価を得るべき独立した事業者」へと位置付け直されることが理想だろう。
 もちろん、正しい価格転嫁ができさえすれば、持続的な賃上げが実現するほど世の中は単純ではない。だが、物流は社会の血流であり、その改善なくして価格転嫁の定着も、賃上げ持続も望めない。業界は“透明な協議と適正な対価”を新たな常識として受け入れられるのか。見守っていきたい。

(2026/02/26)

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