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倒産2023年12月06日 東京地裁の破産の傾向について 執筆者:石丸文佳

 コロナ禍も五類になってひと段落し、経済活動が戻ってくるにつれ、破産のご相談が増えています。コロナ禍の最中は給付金や貸付制度が多くあったためか、驚くほど破産が少なかったのですが、現在は返済のターンに入り、しかしコロナ前ほどの収入もなく、加えて物価も高くなったこと等の複合的な事情で破産申立てが増えているようです。
 さて、筆者は東京で弁護士をしていますので、破産の多くは東京地裁への申立てになりますが、傾向として強く感じるのは、同時廃止が非常に難しくなったということです。少し当地の運用を説明しますと、東京地裁では申立ての翌営業日から3日以内に即日面接というものがあります。これは、裁判官から申立代理人が電話で聴取を受けて説明をするものです。初めから管財手続希望としていれば、即日面接ではほとんど詳細な内容を聞かれません。それは、管財人が調査するものだからです。

 しかし、同時廃止手続希望としていると、この即日面接が非常に厳しいものになります。管財人が調査をしない分、裁判所が破産するのに問題がないかどうかをチェックするからです。それでもコロナ禍以前は、申立書に詳細な内容を記載し、要求される資料をきちんとつけていれば、そこまで細かく追求されることはありませんでしたが、最近は少しでも裁判所の質問に躊躇するような箇所があると、裁判所は同時廃止を認めません。例えば携帯代金の滞納がある場合、裁判所から「いつからこれだけの携帯代金が発生するようになったのか。高額の携帯代は身の丈に合わない機器を購入したせいか、それとも通信費の使い過ぎか」と聞かれた場合、普通は即答できないと思います。というのも、申立書を見ても、わかるのはその携帯会社から最初に借りた時期、即ち割賦で携帯本体の金額を返し始めた時期と、通帳に記帳されている携帯会社への月々の返済総額だけだからです。携帯会社から最初に借りた時期というのは、あくまでその会社で最初の機器を購入したときであって、現在支払をしている機器を購入したときとは違います。直近2年分の通帳の履歴を見ても、それより前に当該機器を購入していれば、結局いつからこれだけの携帯代金が発生しているのかを即答できませんし、況して携帯会社への月々の返済総額のうち、いくらが本体代金でいくらが通信費なのかは一見してわかりません。これがきちんと説明できなければ、携帯代の使い過ぎは浪費であり免責不許可事由に該当するものであるから、管財人の調査に回すと言われるわけです。仮に、それなりの回答をして浪費ではないと説明することに成功し、同時廃止になった場合でも、同時廃止にしたことで債権者から異議が出る等問題が発生した場合、申立代理人が破産者を指導して問題を処理し、申立代理人において責任を負うことを確約させられることもあります。そのような責任を負う自信がないなら、管財人の調査を経て問題がないことを明らかにした方が良い、というのです。

 その結果、当然に従前よりも同時廃止は減少し、管財案件が増加しています。これは、裁判所がリスクを極力回避しているせいもありますが、そもそも当地では管財人希望者はいくらでもいるという事情が大きく影響していると思います。極端な例ですが、筆者は以前、離島で弁護士をしていました。島の弁護士は2人、つまり自分が申し立てた案件が管財になるときは、自分以外のもう一人の弁護士が管財人になるしかないので、何でも管財にしていたら破産事件だけで島の事務所のキャパシティがいっぱいになってしまいます。ですので、当時は管財人が破産財団の処分をする必要がある等、明らかに管財人の働きが必要な事件以外は全て同時廃止でした。

 さて、申立代理人としては、同時廃止を狙うなら、「追って回答」ということもできない以上、どんな質問でも即答できるように最初から申立書以外の資料も手元に準備して入念に即日面接に取り組む必要があるわけですが、上述したとおり、全てを即答するのは至難の業です。そして、管財になった場合に最大のハードルとなる管財費用が用立てられない場合、申立代理人としては一旦申立てを取り下げ、時間をかけて管財費用を準備したいところですが、何と当地では取下げも極めて難しいのです。裁判所は、申し立てられた内容から破産状態にあることは明らかなので、取下げは認められないと言います。管財費用が用意できないと言ってもお構いなしで、管財費用はそちらでどうにかしてください、5万円×4回(4ヶ月)の分割払いまでは認めます、取下げは不可です、と言ってきます(裁判官が認めないと言っても強引に取下書を送付した場合にどうなるかまでは、経験がないのでわかりません)。

 そうすると、同時廃止を狙いながら、管財になった場合に備えて手だてを講じておくという次善策を取らざるを得ません。管財になった場合、管財費用20万円+予納金2万円で約22万円が必要になりますが、例えば給料から毎月2万円なら捻出できるという人の場合、敢えて7ヶ月間申立てをしないで14万円を積み立ててもらうのです。そうすれば、もし同時廃止にならずに管財に回されてしまったとしても、残り8万円は4ヶ月かければ用意することができます。給料差押が目前に迫っている人にはこのような手立ても取れず、同時廃止が取れることを願って早期に申し立てざるを得ないこともありますので、もう少し裁判所には、硬直的な運用を止めて同時廃止を認めてもらえないものかと憂慮する今日この頃です。

(2023年11月執筆)

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