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解説記事2004年03月01日 【編集部解説】 「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」が必要となる背景(2004年3月1日号・№056)

解説
「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」が必要となる背景
 text 編集部

 企業会計基準委員会(ASB)は、2月13日に「不動産の売却の会計処理に関する論点の整理」(以下「論点整理」)を公表した。ASBは、論点整理の公表の目的を、不動産の売却の会計処理に関する会計基準等を今後整備するにあたり、もととなる基本的な考え方と論点を整理して、広く一般にコメントを求めるものとしている。コメントは5月13日まで受け付けられている。
 編集部では、ASBの論点整理の公表を機に、現在の不動産会計の実務の何が問題なのかを検証することとした。

不動産の重要性

 企業経営においては、本社ビルや工場用地といった保有不動産をどのように活用するかは、財務戦略及び決算対策の上で極めて重要な意義をもっている。これまでも、含み益のある不動産をリストラの原資等として活用することは、企業経営の基本としてごく当たり前に行われてきた。最近では、減損会計の強制適用を控え、含み損のある資産の損失処理の見合いとして含み益のある本社ビル等の不動産をどのように活用するかが、企業にとって喫緊の課題となっている。
 また、昨今、企業によっては、資産効率の上昇とバランスシートのスリム化の観点から、「持つ経営」から「持たざる経営」へ移行する動きもある。そのような動きの一環として、不動産を保有するリスクを回避するために、売却を進める企業も増加している。

決算対策としての益出し

 不動産の売却は、不動産の含み益を決算に反映させるためにはもっとも一般的な手段であり、しばしば「益出し」といわれることもある。しかし、そのような「益出し」は、定められたルールの中では認められるものの、その取扱いが問題となった例はこれまでにもいくつかある。例えば、関係会社に保有する不動産を売却し、含み益を決算に反映させることは過去においても問題となり、それらに対してはすでに監査上の取扱いも定められている。
 企業の実務担当者にとって、不動産の売却はもっとも神経をすり減らす分野の一つである。不動産を売却するには、まず物件売却の相手先を見つけ出し、自社に有利な条件で交渉を進め、さらに取引の成立のためにさまざまな法規制上の問題をクリアしなければならない。このような手続は長期を要するものであり、また不動産取引は通常値も張るものである。さらに、決算対策として不動産の含み益を活用する場合には、これら幾多の困難を乗り越えて決算期末までに取引を完結しなければならない。取引を成功裡に終えるために、実務担当者が直面するプレッシャーは相当のものがある。

証券化(流動化)が人気を博すのは?

 特別目的会社を通じた不動産の証券化の進展は、それがこのような担当者のニーズにまさに合致していたことによる。その最大の理由は、取引のアレンジャー(銀行や信託銀行等)を上手に活用することにより、売却スキームの構築(特別目的会社の設立を含む)や、法的な問題をクリアすることにあまり神経や時間を割くことなく、目標とする時期に不動産の売却手続を完結できるといった点にある。特に、多くの企業が含み益を有し、かつ企業の「思い入れ」も深い本社ビルの売却といった、絶対に失敗できないような売却案件について、特別目的会社等を通じた流動化の件数が増大しているのはこのような理由による。
 また、不動産の証券化では、リースバック(所有する物件を第三者に売却したうえで賃借すること)の実行や、買い戻しの権利を付与することにより、事実上証券化後も売却物件を手放さずに済むこともできる。日本公認会計士協会が定めた現在の不動産の証券化ルールでは、売却後の売り手のリスク負担割合が5%に満たなければ売却処理は認めるものとされており、証券化後のリースバックについても、それが適切な価格で行われ、売手のリスクが5%ルールの範囲内に収まっていれば売却処理が認められる。これらを活用することにより、企業は思い入れの深い物件を引き続き利用できるのである。
 このように、実務担当者にとって使い勝手の良い証券化は、現在では企業の資産の圧縮手法としてすっかり定着した感がある。

不動産のリースバック

 ある調査によれば、現在行われている不動産の証券化のうち約半数は、オフィスビルを特別目的会社に対して売却して証券化を行い、その後に売却物件をリースバックする取引であるという。最近では、大手金融機関や大手電機メーカーなどが、不良債権の処理や有利子負債の返済、人員削減に伴う退職金の支払といったリストラの原資に充てるため、その一環として本社ビルの証券化に取り組んだことが記憶に新しい。
不動産のリースバックの会計処理については、現在の実務では所有権が移転した段階で売却益を一括して計上し、その後の賃借料は発生主義に基づき計上することが多い。これは、現在の不動産会計では法的な権利の所在に着目した会計処理が行われることが多く、また土地や建物の場合には動産のように残存耐用年数が明確ではないために、例えばリース取引でいうファイナンス・リースに該当するか否かの判断が困難なことによるものと考えられる。

実質は資金調達?

 しかし、売手が証券化したオフィスビルを、将来も引き続き使用する場合はどうであろうか。この場合、売手はオフィスビルを売却せずに、それを担保として売却代金に相当する資金を調達しその後返済していく場合と実質的な経済効果は変わらない。言い換えれば、不動産を担保とした借入と経済的には何ら変わりはない。現に、本社ビルの証券化では、大型案件となればなるほど、いったん売却を行った後に、投資家に対して安定したキャッシュ・フローを提供する目的で、売手が自ら物件をリースバックし続ける場合が多い。
 ASBの「論点整理」では、売却後にリースバックが行われる場合には、売手が不動産から得られる成果は引き続き変動するとの考え方から、売却益を賃借期間に応じて繰り延べる方法を一つの考え方として示している。ただし、実務では2年の賃借契約の自動更新が多く、その場合賃借期間をどのように判断するか、売却益を土地と建物に区分して会計処理する場合には、永久に使用できる土地の「残存使用年数」をどのように考えるかについては、今後の検討課題としている。

買戻し条件付売買

 不動産取引には、特に証券化取引に多くみられるが、買戻しに関するさまざまな付帯条件が付されることが多い。これは、売手側の売却物件を将来買い戻す可能性を持ちつづけたいというニーズや、証券化のスキームを安定させる目的に合致させるために行われる。
 この場合でも、将来の一定金額での買戻し義務があらかじめ付されているような取引については、現在の実務においても売却処理が認められないことは明らかであろう。問題は、それが売手の買戻しの権利の保有である場合や、また実務上よくみられるような優先買取交渉権や優先拒否権といった権利を保有する場合である。
 このような権利であっても、実際には通常の権利と変わらない場合もある。例えば、優先買取交渉権とされるものでも、単に交渉の席に最初につくことができる権利を意味するものもあれば、権利行使を前提とする条件もあり、さらには他の条件と併せることにより実質的には義務と変わらないような条件となっているものもある。そのような場合には、買戻し条件付き取引と本来同様の会計処理を行うべきであろうが、現行のルールでは特にはっきりとした定めがない。

実質判断

 「論点整理」では、買戻し条件付売買については、あらかじめ契約において買戻し義務が定められているような場合には売却益を計上できないことを基本とし、その他類似した条件についての考え方を示している。例えば、単なる買戻しの権利(オプション)が付されている場合には、買戻し条件付売買と同様に取扱うことが妥当かどうか、また優先買取交渉権や優先拒否権について、買戻し条件や買戻しの権利と同様に取扱うことが妥当かどうかについて、論点として取り上げている。

その他

 証券化以外の不動産の単純売却の場合でも、取扱いが明確となっていないケースは多々ある。例えば、最近では土地の土壌汚染のリスクがクローズアップされているが、そのようなリスクがある土地を売却する場合の会計処理について、果たして所有権の移転だけに着目して会計処理することが実質面からよいかどうか、疑問がある。
 また、このほかにも、不動産投資信託(REIT)との取引の会計処理や、特別目的会社を先につくり不動産開発案件を行わせる場合(いわゆる開発型)の会計処理、不動産の売買契約から損失が見込まれる場合の引当金の会計処理など、不動産会計に関する現行のルールでは実務上の取扱いが明確になっていないケースは多い。ただし、「論点整理」では、不動産の売却のみを取扱うとして、開発型の会計処理や引当金の会計処理については触れていない。

おわりに

 ASBは、「論点整理」は基準作成に至るまでの第一段階と位置付けており、「論点整理」に示された考え方がすぐさま実務に適用されるわけではない。しかし、「論点整理」の考え方は、このままルール化されれば現在実務で行われている取引や証券化取引に多大な影響を与えるものが多く、すでに一部の実務関係者には大きな波紋をよんでいるようである。今後も不動産の売却に関する会計ルールの見直しからは目を離せない。

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