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解説記事2004年03月15日 【最新判決研究】 「納税者」でない者がした消費税不正還付申告と重加算税(2004年3月15日号・№058)

最新判決研究
「納税者」でない者がした消費税不正還付申告と重加算税
京都地裁平成13年(行ウ)第19号
平成15年7月10日判決
品川 芳宣
筑波大学大学院教授

一、事実
(1)X(原告)は、平成7年7月1日から同年9月30日までの間、アメリカに所在する2社に対し、合計7,168万円余の電子機器等の輸出取引(以下「本件輸出取引」という。)があったとし、平成8年3月18日、消費税の課税標準額0円、課税標準額に対する消費税額0円、控除対象仕入税額218万円余(還付税額)とする平成7年1月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税の確定申告(以下「当初還付申告」という。)をした。
  次いで、Xは、平成8年7月1日、当初還付申告には課税期間の記載の誤りがあるとして、これを取り下げる旨記載した届出書を提出するとともに、消費税法46条1項規定の還付を受けるため、控除不足還付税額218万円余等とする平成7年7月1日から同年9月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税の確定申告書を提出(以下「本件還付申告」という。)した。
  また、Xは、Y(被告)税務署長に対し、平成7年9月12日、個人事業の開業等の届出(平成7年1月1日開業)、同法9条規定の納税義務の免除を受けない旨を記載した消費税課税事業者選択届出書(適用開始課税期間は平成7年1月1日から同年12月31日まで)及び同法19条1項規定の課税期間を短縮する旨の消費税課税期間特例選択届出書(適用開始日を平成7年7月1日に短縮)を提出した。
  なお、Xは、平成8年3月18日、平成7年分所得税について総所得金額150万円(事業所得0円、給与所得150万円)、納付すべき税額を0円とする確定申告書(青色)を提出したが、平成9年1月14日、個人事業の廃業届出書及び所得税の青色申告取りやめ届出書を提出した(以上の各行為は、X名義で行われている。)。
(2)Xの本件還付申告に対し、Yは、平成8年8月30日、消費税の還付金218万円余に還付加算金1万300円を加算した金額219万円余を、X名義のS銀行E支店の普通預金口座に振り込んだ。
  Yは、平成11年6月24日、本件輸出取引はXによるものではなく、Xが勤務していたⅠ社によるものであること、本件還付申告は、Xらの仮装行為によるものであると判断し、本件課税期間において、Xには消費税控除対象仕入税額はないとし、控除不足還付税額0円等とする更正処分(以下「本件更正」という。)及び重加算税の額76万円余とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定」という。)をした。  
  Xは、本件各処分を不服とし、異議申立て及び審査請求の前審手続を経て、本件訴訟を提起した。
  
二、争点と当事者の主張
1 争点
  

(1)本件更正の適法性
  具体的には、本件還付申告はXがしたもので、本件輸出取引はXがしたものでないか否か。
(2)本件賦課決定の適法性
  具体的には、本件還付申告は、国税通則法(以下「法」という。)68条に規定する重加算税の賦課要件を充足しているか。

2 Yの主張

(1)本件還付申告は、その申告書の記載(屋号「Oエレクトロニクス」、氏名「X」)からしても、Xがしたことは明らかである。
(2)本件輸出取引は、輸出先からの注文書がI社宛であること、取引に係る売上代金もI社名義の銀行預金口座に振り込まれていること、取引に伴う航空運賃等及び銀行手数料もI社が負担していること、X自身事業を営んでいないことを認めていることからしても、I社がしたもので、Xがしたものではない。
  したがって、Xは、本件輸出取引が自己に帰属しないにもかかわらず、自己に帰属するものとして、自己の意思に基づき本件還付申告を行ったことになる。したがって、Yが控除不足還付税額を0円としてXに対してした本件更正は、適法である。
(3)Xは、I社の代表者であるUからの依頼により、Uと通謀して、事実は、Oエレクトロニクスとして何ら事業を行っておらず本件輸出取引を行っていないにもかかわらず、個人事業の開業等の届出書、消費税課税事業者選択届出書及び消費税課税期間特例選択届出書を提出するなどして、I社に帰属する本件輸出取引をXが行ったかのように仮装し、仮装したところに基づき、本件還付申告書を提出した。
  仮に、Xが直接仮装行為をしなかったとしても、Xは、本件還付申告書等の作成の基礎となる資料の提示などについてUに一任していたのであり、Uは、本件輸出取引をXがしたものと仮装したことは明らかであり、Uの行為はXの行為と同視すべきものである。
(4)法24条、28条2項、35条2項、65条1項及び68条1項によれば、Xは、本件更正により「還付金の額に相当する税額の減少部分」の納税義務(法28条2項3号ロ、法35条2項2号)を負うから、法2条5号及び法65条1項に規定する納税者に当たる。したがって、Xのように、消費税法に定められた本件課税期間の消費税の納税義務のない者が、控除不足の還付請求をした場合であっても、その者は法65条所定の当該「納税者」に当たり、更に、法68条1項により、その者に重加算税を賦課することができると解される。

3 Xの主張

(1)Xは、I社の従業員であり、その代表者であるUの指示に従い、その使者として、本件還付申告をしたにすぎない。Xは、単に、Uにその名義を貸しただけである。Xは、消費税関係の書類の作成については署名押印したこともなく、作成を依頼したこともない。申告書等に印影のあるXの印鑑は、I社に保管されていた。
  仮に、Xが本件還付申告をしたとしても、本件輸出取引は、Xの個人事業として行われたものといえる。例えば、本件輸出取引は、OエレクトロニクスことXとEエレクトロニクス社及びACDC社との間で行われた。ただ、仕入れがI社によってされたので、代金決済はI社によってされたにすぎない。
(2)Xは、本件還付申告により納税者として利益を享受するという認識はなく、単にUの従業員として本件還付申告をしたに過ぎない。Xは、隠蔽・仮装行為の意図を有していなかった。
(3)法68条1項には、法65条1項のように「期限内申告(還付請求申告書を含む・・・)が提出された場合」のような記載が存在しない以上、還付請求申告の場合には、重加算税の規定を適用することはできない。

三、判決要旨
 請求認容

1 本件更正の適法性(争点1)

(1)確かに、Xは、I社の1従業員であり、その代表者であるUの指示に従って行動をする必要があったことが窺えるが、本件各証拠に照らしても、Xが、Uから、本件還付申告等について何ら説明を受けることがなかったとは考えられず、むしろ、本件各証拠によれば、前記認定のとおり、Xは、自己の意思に基づき、本件還付申告をしたものと認めるのが相当である。
(2)また、本件各証拠によれば、輸出先であるEエレクトロニクス社からの購入注文書の注文請先がI社であること、本件輸出取引に係る売上代金がI社名義の信用金庫の預金口座に振り込まれていること、本件輸出取引に伴う航空運賃等及び銀行手数料をI社が負担していること、XがOエレクトロニクスの屋号を使用して所得税及び消費税の確定申告を行ったのは平成7年度分だけであること、そもそもX自身、XないしOエレクトロニクスに本件輸出取引が帰属するか否かについて、当事者ではないため不知という旨の陳述をしていること、以上からすれば、前記認定のとおり、本件還付申告に係る本件輸出取引は、I社に帰属すると認めるのが相当である。
(3)以上により、本件輸出取引は、Xによるものではないのに、Xが本件還付申告したものであり、本件課税期間において、Xについて、他に消費税法が定める課税要件事実があったとの主張・立証はないから、控除対象仕入税額0円、控除不足還付税額0円とする本件更正は適法であることが明らかである。

2 本件賦課決定の適法性(争点2)

(1)重加算税を定めた法68条1項は、法65条1項の過少申告加算税の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき、納税申告書を提出したときは、重加算税を課すると規定し、法2条5号は、納税者とは、国税に関する法律の規定により国税を納める義務がある者及び源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者をいうと規定している。そして、前記の認定・判断によれば、Xは、本件輸出取引の帰属主体ではなく、本件課税期間において、Xについて、他に消費税法が定める課税要件事実があったとの主張・立証はない。したがって、Xは、本件還付申告の時点においては、本件課税期間の消費税の納税義務者ではなかったことになるので、そもそも、このように、還付申告の時点で消費税の納税義務者ではない者に対して、過少申告加算税が課せられるのか否か、仮に課することができるとしても、更に、同税に代えて、法68条1項所定の重加算税を課することができるかどうかが問題になる。
(2)この点につき、Yは、本件更正があったことにより、Xは、法28条2項3号ロ、法35条2項2号の「還付金の額に相当する税額の減少部分」についての納税義務を負うことになるから、法2条5号の「納税者」に該当し、法65条1項の当該「納税者」と法68条1項の「納税者」にも該当する旨主張をする。
  しかしながら、Xは、法65条1項所定の当該納税者に該当するとはいえないと解され、したがって、Xに対し、同条による過少申告加算税を課することはできず、したがって、それを前提とした法68条1項所定の重加算税を課することもできないというべきである。その理由は、以下のとおりである。
(3)還付申告があった後に更正があって、それによって還付金の額が減少した場合についての法の規定をみると、法は、28条2項3号ロにおいて、更正通知書には、「その更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは、その減少する部分の税額」を更正通知書に記載することを求め、35条2項は、同項2号所定の更正通知書に記載された前記の減少する部分の税額の金額「に相当する国税の納税者」は、「その国税を」更正通知書が発せられた日の翌日から起算して1月を経過する日までに納付しなければならないと規定している。そして、法65条は、これらの規定を前提にして、「当該納税者に対し」、法35条2項の規定により「納付すべき税額」に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨を規定し、更に、法68条1項の重加算税は、法65条1項の規定に該当する場合に、更に、追加要件として、「納税者が・・・隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは」と規定して、過少申告加算税に代えて重加算税を課すると規定している。
(4)Yの前記主張によれば、前記の場合には、法は、還付金の減少部分について、この部分について申告者が申告の時点で納税義務を負っていたか否かを問わず、これを常に更正により一種の納税義務がある状態になったものとみなし、それを前提に過少申告加算税、更には重加算税を課する趣旨であるとするものと解さざるを得ない。
  しかしながら、法は、納税者について2条5号において、定義規定を置いており、「納税者」とは、国税に関する法律の規定により国税を納める義務がある者及び源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者をいうと明確に規定している。そして、法56条1項所定の還付金の還付の法的性質は、実体法上、国が保有すべき正当な理由がないため還付を要する利得の返還であって、国庫からの一種の不当利得の返還の性質を有することは明らかであって、その還付金が更正によって減少した場合に、その部分について、申告者との関係で、常にその納税義務の増加があるわけではない。この点は、納付申告があった後に増額更正があった場合とは決定的に異なるものというべきである。すなわち、還付申告による還付金が更正によって減少した場合には、確かに、申告者の納税義務が増加したことが判明したことを原因として不当利得関係の調整が生じるときがあるけれども、それだけではなく、申告者の納税義務には無関係に不当利得関係を調整しなければならないときもあるものというべきで、そのようなときにおいては、還付金の減額部分に対応する申告者側の納税義務は、そもそもあり得ないことになる。このような観点から、法の前記各規定をみると、申告者の納税義務が増加することが判明したことを理由として還付金の減額がされるときには、法28条2項3号ロの「その更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは、その減少する部分の税額」という文言も、法35条2項の「に相当する国税の納税者」は、「その国税を」との文言も、法65条1項の「当該納税者に対し」との文言も、いずれも、そのまま妥当することは明らかであるけれども、それとは異なり、申告者の納税義務には無関係に不当利得関係を調整しなければならないときにおいては、還付金の減額部分に対応する申告者側の納税義務は、そもそもいかなる意味でもあり得ないことになるから、このようなときまで法28条2項3号ロ、法35条2項、法65条1項の場合に含まれるものと解釈したのでは、これらの規定の前記各文言の意味は、全く不可解というほかなくなってしまうといわなければならない。このようにみてくると、少なくとも、法65条1項の「当該納税者」には、このようなときの還付申告者は、そもそも予定されていないと解釈せざるを得ないし、それこそが法2条5号の定義規定の内容にも沿うものというべきである。
(5)これを本件についてみると、前記認定事実及び前記判断のとおり、本件還付申告の後に本件更正がされたことによって、還付金全額が減少することになるけれども、この減少は、還付申告をしたXについて消費税の納税義務が発生したり、増加したことが判明したことによるものではないことは明らかであり、Xは、法65条1項の当該納税者ではないことは明らかであり、そもそも、Xに対し、過少申告加算税を課することはできないといわざるを得ない。
(6)なお、因みに、仮にY主張のように法65条1項の「当該納税者」とは、更正処分により発生した特殊の納税義務を負う者、すなわち、法(国税通則法)によりこのような納税義務のみを負うに至った者も含むと解するとしても、更に、重加算税を定めた法68条は、法65条の前記のような過少申告加算税の要件に加えて、「納税者が」その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき、納税申告書を提出したときを要件とするもので、この要件からすると、ここでいう仮装行為や隠ぺい行為は、納税申告の前に存在しなければならず(最2小判昭和62年5月8日・最高裁裁判集民事151号35頁も、明確に、隠ぺい、仮装行為を「原因として」過少申告の結果が発生したことを要するとの趣旨を説示する。)、この「納税者」も、納税申告の前にすでに納税者であった者を意味するもので、そのような納税者がすでに抽象的には負っている納税義務について、その課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装したことが要件とされているものと解さざるを得ない関係で、Xにこれを課することはできないと解さざるを得ないことになる。
(7)以上のような判断を前提とすると、前記認定事実によれば、Xは、法65条1項の当該納税者には、そもそも当たらないというべきであるから、その余の点、すなわち、X本人が仮装隠ぺい行為をしたか否かの点についての判断をするまでもなく、本件賦課決定は違法といわなければならない。
  確かに、前記認定事実によれば、Xは、欺罔行為によって還付金名下に金員を国庫から詐取したともいい得るのであって、それは非難されるべき行為であることは明らかではあるが、国庫に対して還付金を返還した上に、更に、過少申告加算税や重加算税を付加して支払う義務を負うものであるとするためには、法律の明確な根拠が必要であって、仮に立法者がかような者に対して過少申告加算税を課する趣旨であったとしても、法の前記の各規定はあまりに不備であって、法65条1項の解釈として、前記のように判断される以上、Xに同項の過少申告加算税やそれを前提とする重加算税を課することはできないといわざるを得ない。
  本件賦課決定は、過少申告加算税部分も含めて違法であるから(両加算税の関係につき最1小判昭和58年10月27日・民集37巻8号1196頁参照)、取消しを免れない。
  
四、解説

はじめに

 本件は、会社の従業員が、当該会社の代表者の指示に従い、消費税法上の事業者を装って消費税の還付申告をし、その後、当該不正還付申告に対する消費税の更正処分と重加算税の賦課決定処分を受けた場合に、当該各処分の適法性(本来、納税義務を有しない者に対して各処分をなし得るか)が争われたものである。
 このような問題は、一見、特殊な問題であるかのように思われるが、最近では、消費税、所得税等の不正還付申告が横行しており、しかも、本件のように、本来、納税義務を有しない者がいわば税金を詐取する目的で不正還付申告をする事件が増加している中で、関係法令をどのように適用して処分が行い得るか、また、当該処分の適法性(違法性)を、どのように判断するかが大きな問題となっている。
 特に、本来、納税義務を有しないものが本件のような不正還付申告を行うことは、関係法令も予想していないようにも見受けられるので、関係規定の解釈上種々の問題が生じる。
 また、本件のような場合には、詐欺罪(刑法246)等の刑事罰の適用と重加算税の賦課決定等の行政罰の適用が競合する場合も想定され、いずれを優先させるべきかという問題も生じるし、その場合にも、行政処分の簡便性を優先できないかという実務上の要請も生じている。
 更に、これらの問題を検討すると、重加算税の賦課に関する現行規定の問題点と立法的解決の要否という問題も生じる。以下、本件の事案に即し、それらの諸問題を考察しつつ論じることとする。

1 本件更正の適法性
(1)本訴においては、後述するように、Xが法68条1項等にいう「納税者」に該当するか否かによる本件賦課決定の適法性が主たる争点となっているのであるが、その前提として、本件更正の適法性が問題になる。
  すなわち、本件においては、Xは、実質的には、消費税法上の「事業者」でもなく、また、本件還付申告の前提となる本件輸出取引を行ったわけでもないにもかかわらず、当初還付申告を行い、次いで、本件還付申告を行った上で、消費税の還付金等を収得したものである。これに対し、Yは、国税通則法24条の規定に基づき、本件還付申告に係る還付税額が0円となるように、本件更正を行ったものである。
  かくして、本判決は、①Xが自己の意思に基づき本件還付申告をしたものと認められる、②本件輸出取引は、X自身ではなく、Xが勤務するI社に帰属すると認められる、等を認定した上で、本件更正は適法である旨判示している。
(2)ところで、国税通則法24条は、「税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等が調査したところと異なるときは、・・・更正する。」と定めている。この場合、「納税申告書」とは、「申告納税方式による国税に関し国税に関する法律の規定により次に掲げるいずれかの事項その他当該事項に関し必要な事項を記載した申告書」(通法2六)をいう。そして、「国税に関する法律」すなわち消費税法によれば、「事業者」が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、本邦から輸出して行われるものは免税とされ(消法7①一)、かつ、「事業者」が還付を受ける申告を行うことができる(消法46①)。なお、「事業者」とは、個人事業者及び法人をいい(消法①四)、個人事業者とは、事業を行う個人をいう(消法①三)。
  このように、消費税の還付申告とそれに対する更正処分の関係規定を考察してみると、各条文の内容にのみ拘泥すると、本件のような「事業者」でない者が行った不正還付申告を行った場合には、法が予定する「納税申告書」の提出があったものと認めることもできず、税務署長は、当該不正還付申告に対し増額更正によって是正するのは間違い(違法)であって、結局、詐欺罪の告発を要することになる。
(3)しかしながら、本件のような不正還付申告は、消費税、所得税等において頻発し得ることであるから、それらに対して全て刑事手続きによって処理することを法が予定したとも考えられないし、また、そのように処理することは非現実的でもある。
  それであるが故に、本判決も、Xが本件還付申告を自らの意思で行ったこととその基となる本件輸出取引がXに帰属していないことを認定した上で、YがXの提出した「納税申告書」を前提にした本件更正を適法と認めている。この判断には、当該「納税申告書」が関係法に照らして真実の「納税申告書」に該当するか否かには何ら論及していない。また、そのような判断は、不正還付申告のように大量に発生する不正申告に対して、簡便な行政処理が要請されていることに鑑み、関係法令の解釈として妥当であると考えられる。
  ところが、本判決は、本件更正に関して、法が予定している判断を示しているのであるが、本件賦課決定に関しては、後述するように、法が予定していない判断を示しているように考えられ、両者の間にコンシステンシーを欠いているように考えられる。

2 重加算税の賦課要件
(1)本件においては、Xがした消費税の不正還付申告に対する重加算税の賦課決定(本件賦課決定)の適法性が最大の争点となっているのであるが、その争点を検討する前提として、重加算税の賦課要件を明らかにしておく必要がある。
  重加算税は、それぞれの申告、納付の実態に対応し、過少申告加算税、無申告加算税又は不納付加算税に代えて課される(通法68①②③)ものであるが、本件では、過少申告加算税に代えて課されるものであるから、まず、過少申告加算税の賦課要件を明らかにする必要がある。過少申告加算税は、「期限内申告書(還付請求申告書を含む。第3項において同じ。)が提出された場合(<略>)において、修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、・・・」(通法65①)課される。
  この場合、還付請求申告書とは、「還付金の還付を受けるための納税申告書で政令で定めるもの」(通法61①二)とされ、政令では、「還付金の還付を受けるための納税申告書(納税申告書に記載すべき課税標準等及び税額等が国税に関する法律の規定により正当に計算された場合に当該申告書の提出により納付すべき税額がないものに限る。)で法第17条第2項(期限内申告書)に規定する期限内申告書以外のものをいう。」(通令26)と定めている。
  また、「当該納税者」については、法68条1項に定める「納税者」の意義と共通するものと解されるので、後述する。
(2)次いで、過少申告加算税に代えて課される重加算税は、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額(<略>)に係る過少申告加算税に代え」(通法68①)て課される。
  このような賦課要件については、通常、隠ぺい・仮装の意義(注1)、隠ぺい、仮装又は過少申告についての故意の要否(注2)、納税申告書を提出した後の隠ぺい・仮装行為(例えば、税務調査時の虚偽答弁)の効力(注3)、隠ぺい・仮装と偽りその他不正の行為との関係(注4)等が問題とされるところであるが、本件では、専ら、「納税者」の意義・範囲が問題とされる。
  法上の「納税者」とは、「国税に関する法律の規定により国税(源泉徴収による国税を除く。)を納める義務がある者(国税徴収法(<略>)に規定する第二次納税義務者及び国税の保証人を除く。)及び源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者をいう。」(通法2五)と定められている。したがって、前述の法65条1項に定める「当該納税者」及び同法68条1項に定める「納税者」については、この定義規定に沿って解釈する必要がある。なお、国税徴収法上の「納税者」には、第二次納税義務者及び保証人も含まれる(徴法2六)ところ、法がこの二者の取扱いを国税徴収法に委ねたことを考えると、法2条5号にいう「・・・納める義務がある者」とは当該二者以外の広範な意味での国税を納付すべき者とも解される。
(3)ところで、従来、法上「納税者」の意義、範囲等が問題とされてきたのは、専ら法68条1項に定める「納税者」に関してであり、同項に定める「隠ぺいし、又は仮装し」の行為者が「納税者」本人に限定されるのか、あるいは当該納税者の代理人、補助者等が含まれるのかにあった(注5)。しかも、法68条1項は、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、・・・」と定めているが、この「納税者」には、納税者本人以外の代理人、補助者、事業従事者等も含むものと課税上も扱われており(注6)、判例もこれを容認してきた。
  たとえば、大阪地裁昭和36年8月10日判決(行裁例集12巻8号1608頁)は、「重加算税の制度の主眼は隠ぺい又は仮装したところに基づく過少申告又は無申告による納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度の信用を維持し、その基礎を擁護するところにあり、納税義務者本人の刑事責任を追及するものではないと考えられる。従って納税義務者本人の行為に問題を限定すべき合理的理由はなく、広くその関係者の行為を問題としても違法ではない。かえって、納税義務者本人の行為に問題を限定しなければならないとすると、家族使用人等の従業者が経済活動又は所得申告等に関与することに決してまれでない実情に鑑みて重加算税の制度はその機能を十分に発揮しえない結果に陥ることはあきらかである。」と判示している。
  このような考え方は、他の裁判例においても幅広く容認されており(注7)、例えば、納税者の父親がした隠ぺい、仮装行為(注8)、納税者の夫、元配偶者がした隠ぺい、仮装行為(注9)、納税者の代理人がした隠ぺい、仮装行為(注10)、納税者の顧問税理士がした隠ぺい、仮装行為(注11)、会社の代表権を有しない役員がした隠ぺい、仮装行為(注12)、会社の従業員がした隠ぺい、仮装行為(注13)、被相続人がした隠ぺい、仮装行為(注14)等についても、納税者がした隠ぺい、仮装行為と同視している。
  このように、隠ぺい、仮装の行為の主体である「納税者」が重加算税制度の趣旨に鑑み弾力的に解されていることは、本件における「納税者」の解釈にも参考になるものと考えられる。

3 本件賦課決定の適法性
(1)本件においては、Xは、消費税法に定める個人事業の開業等の届出等の所要の手続きを済ませて、個人事業者として当該還付申告を行い、次いで、本件還付申告を行ったことにより、消費税の還付金の自己名義への口座振り込みをうけ、その後、Yのした本件更正及び本件賦課決定を受けたことによって、当該各処分に係る各税額を納付したものである。
  かくして、Yは、本件賦課決定の適法性について、Xが個人事業の開業等の届出書を提出する等仮装し、その仮装したところに基づき本件還付申告書を提出していること、Xが直接仮装行為をしなかったとしても、Uの仮装行為は明らかであり、Uの行為はXの行為と同視できること、Xは、本件更正により「還付金の額に相当する税額の減少部分」の納税義務を負うから、法上の「納税者」に当たること、等を主張している。
  これに対し、本判決は、Xは本件還付申告時点において消費税の納税義務者ではなかったことを前提とし、「還付申告による還付金が更正によって減少した場合には、確かに、申告者の納税義務が増加したことが判明したことを原因として不当利得関係の調整が生じるときがあるけれども、それだけではなく、申告者の納税義務には無関係に不当利得関係を調整しなければならないときもあるものというべきで、そのようなときにおいては、還付金の減額部分に対応する申告者側の納税義務は、そもそもあり得ないことになる。このような視点から、法の前記各規定をみると、申告者の納税義務が増加することが判明したことを理由として還付金の減額がされるときには、法28条2項3号ロの「その更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは、その減少する部分の税額」という文言も、法35条2項の「に相当する国税の納税者」との文言も、法65条1項の「当該納税者に対し」との文言も、いずれも、そのまま妥当することは明らかであるけれども、それとは異なり、申告者の納税義務には無関係に不当利得関係を調整しなければならないときにおいては、還付金の減額部分に対応する申告者側の納税義務は、そもそもいかなる意味でも有り得ないことになる」と判示し、少なくとも、法65条1項の「当該納税者」には、このようなときの還付申告者はそもそも予定されていないと解釈せざるを得ないとし、本件のXも法65条1項の「当該納税者」に該当しないから、本件賦課決定は違法となる旨判示している。
(2)以上のように、本判決は、還付金が更正によって減少した場合には、「申告者の納税義務が増加したことが判明したことを原因として不当利得関係の調整が生じるとき」と「申告者の納税義務には無関係に不当利得関係を調整しなければならないとき」に区分し、後者のとき、すなわち、本件のXのように、当初から消費税の納税義務がなかったときには、法28条2項3号ロにいう「・・・減少する部分の税額」、法35条2項にいう「・・・納税者」及び法65条1項にいう「当該納税者」のいずれにも該当しないから、結局、本件賦課決定は違法となる旨判示している。
  しかしながら、このように区分して解釈することが、法の解釈に妥当であるかはいささか疑問である。このような解釈は、法65条1項及び法68条1項にいう「納税者」について、法2条5号の定義規定に照らし、当該国税の納税義務が真実にある者に限定しようとするものであろう。ところが、本判決は、本件更正の適法性に関しては、前記1で述べたように、真実には事業者でないXが提出した納税申告書に対してされた本件更正を適法なものと認めている。しかし、本判決が前示するように、真実の「納税者」とXのような形式上(法律上)の「納税者」を区分することが法の予定しているものであるとするのであれば、「納税申告書」についてもそのような区分を要することになるから、本件更正自体その法的根拠を失うことになる。したがって、本判決自体、本件更正を適法とする根拠と本件賦課決定を違法とする根拠とに矛盾が生じることになる。
(3)更に、法は、そもそも、本判決が区分するように、真実の「納税者」とそうでない形式上(法律上)の「納税者」を区分して、過少申告加算税又は重加算税を課すことに予定しているものとも解されない。すなわち、前掲の大阪地裁昭和36年8月10日判決が判示するように、重加算税の賦課が刑事制裁ではなく行政制裁であるところから、法68条1項にいう「納税者」の範囲も弾力的に解釈され、その解釈も幅広く支持されている(注15)ことに照らすと、法65条1項にいう「当該納税者」及び法68条1項にいう「納税者」を本判決のように限定的に解すべきではないと考えられる。
  また、法28条2項3号ロにいう「・・・その減少する部分の税額」及び法35条2項にいう「・・・納税者」についても、本件更正が適法になされている(このことは、本判決も容認している。)以上、本件更正に係る更正通知書に記載されたとおりに更正手続きが行われ、それに基づいて納付することになるから、本判決のような解釈は成り立たないものと考えられる。
  なお、本判決は、Yが主張するように、Xが法35条2項の規定により「・・・納税者」に該当するとしても、本件還付申告をしたのは、当該該当前であるから、「納税者」として隠ぺい又は仮装したことにはならない旨判示する。しかしながら、法68条1項にいう「隠ぺい・仮装」の時期については弾力的に解釈されている(注16)ところ、本判決の判断のほうがむしろ実態に合っていないように考えられる。
(4)最後に、本判決は、「Xは、欺罔行為によって還付金名下に金員を国庫から詐取したとも言い得るのであって、それは非難されるべき行為であることは明らかであるが、国庫に対して還付金を返還した上に、更に、過少申告加算税や重加算税を賦課して支払う義務を負うものであるとするためには、法律の明確な根拠が必要である。」として、本件賦課決定の違法事由の一つとしている。
  しかしながら、本件のXがとった一連の行為については、本件更正及び本件賦課決定という行政手続き(行政制裁)と刑法上の詐欺罪(刑法246)とは競合するものと解される(なお、不正還付額が多額になれば、ほ脱罪にも問われることになる。)。そして、Xが詐欺罪に処せられると10年以下の懲役に処せられることを考慮すれば、本件賦課決定がXに対し、不当に不利益を課したとも考えられない。そうすると、本件賦課決定がXにとっても不当に酷であるとする本判決の判示にも、首肯し難いものがある。

4 本判決の意義と問題点
(1)以上のように、本件は、法律上(形式上)は消費税の「納税者」に該当するが実質的には該当しないと認められるXがした本件還付申告に対してされた本件更正と本件賦課決定の適法性が争われたものである。本判決は、前述のように、本件更正は適法と認めたものの、本件賦課決定については違法である旨判示した。
  本件のような事例は、個別性の強い異例なものであるとも考えられる。しかしながら、最近のように、納税者の権利意識が高まり、還付申告が増加している中では、それに便乗するような形で本件のような不正還付申告も確実に増加してきている。しかし、関係法令については、このような事態を想定していなかったことも窺われ、当該関係法令の解釈が明確になされていることも認め難い。
  その中で、本判決は、関係法令の解釈を厳格に行った上で、本件更正を適法と認めたものの、本件賦課決定を違法として取り消した。この一連の判断については、前述のように種々の問題点を有していると解されるが、還付申告就中不正還付申告が増加する中で、本判決のような判断が下されたことは極めて注目される。また、そのことは、本判決の意義を高めることになる。
(2)しかしながら、本判決には、前述したように、幾つかの問題点を有している。本判決は、実質的な「納税者」とそうでない法律上(形式上)の「納税者」を区分し、後者に対しては、行政制裁たる過少申告加算税又は重加算の賦課を求めることは、現行法の解釈上許されない旨判示している(本判決は、当該賦課を求めるには、明確な法律上の根拠が必要であるとしている。)。
  しかしながら、このような解釈は、前述したように、関係法令の解釈上むしろ問題があると考えられ、本判決自体、本件更正の適法性と本件賦課決定の適法性の判断において、前述したように、法解釈上矛盾を冒しているものと考えられる。
  また、本件のような不正還付申告については、元々、刑法上の詐欺罪と還付税額を零とするための増額更正に係る重加算税の賦課とが競合するものと考えられるところ、多発する当該申告に対しては、簡便な行政手続きで処理することこそ法が予定しているものとも考えられる。然すれば、本件のような不正還付申告に対しては、本件更正と本件賦課決定をリンクさせた行政手続きこそ法の予定したものと考えられる。
  いずれにしても、本判決は、Y側が控訴し、控訴審で争われることになったが、法解釈上重要な問題を有しているので、控訴審の行方が注目される。
(注1)品川芳宣「附帯税の事例研究 第三版」(財経詳報社)261頁、和歌山地裁昭和50年6月23日判決(税資82号70頁)、名古屋地裁昭和55年10月13日判決(同115号31頁)、大阪高裁平成3年4月24日判決(同183号364頁)等参照
(注2)前出(注1)書287頁、最高裁昭和62年5月8日第二小法廷判決(税資158号592頁)、大阪地裁平成3年3月29日判決(同182号878頁)等参照
(注3)前出(注1)書361頁、東京高裁昭和48年10月18日判決(税資71号527頁)、大阪地裁昭和50年5月20日判決(同81号602頁)等参照
(注4)前出(注1)書372頁、最高裁昭和42年11月8日大法廷判決(刑集27巻9号1197頁)、最高裁昭和48年3月20日第三小法廷判決(同27巻7号138頁)、名古屋地裁昭和46年3月19日判決(税資62号344頁)等参照
(注5)前出(注1)書300頁以下参照
(注6)申告所得税の重加算税の取り扱いについて(事務運営指針)(平成12年7月3日付課所4-15ほか)第1の1、相続税及び贈与税の重加算税の取り扱いについて(事務運営指針)(平成12年7月3日付課税2-263ほか)第1の1の(1)等参照
(注7)前出(注1)書304頁以下参照
(注8)大阪地裁昭和36年8月10日判決(行裁例集12巻8号1608頁)、大阪地裁昭和58年5月27日判決(税資130頁)、大阪地裁平成元年11月14日判決(同174号618頁)等参照
(注9)東京地裁昭和55年12月22日判決(税資115号882頁)、東京高裁昭和57年9月28日判決(同127号1068頁)、千葉地裁昭和59年10月9日判決(同140号7頁)、東京高裁昭和62年3月10日判決(同157号859頁)、最高裁昭和62年9月24日第一小法廷判決(同159号808頁)等参照
(注10)京都地裁昭和63年11月30日判決(税資166号583頁)、大津地裁平成6年8月8日判決(同205号311頁)、横浜地裁平成10年6月24日判決(同232号769頁)等参照
(注11)東京高裁平成3年5月23日判決(税資183号807頁)、東京地裁平成13年2月27日判決(平成12年(行ウ)第146号)等参照
(注12)静岡地裁昭和44年11月28日判決(税資57号607頁)、東京地裁昭和55年12月22日判決(同115号882頁)等参照
(注13)熊本地裁昭和44年3月17日判決(税資56号113頁)、福岡高裁昭和51年6月8日判決(同88号1013頁)等参照
(注14)大阪地裁昭和56年2月25日判決(税資116号318頁)、大阪高裁昭和57年9月3日判決(同127号733頁)、岐阜地裁平成2年7月16日判決(同180号58頁)等参照
(注15)前出(注8)~(注14)の各判決参照
(注16)前出(注1)書361頁以下参照

品川芳宣 (しながわよしのぶ)
国税庁審理課課長補佐、東京地裁調査官、税務大学校教育二部長、国税庁資産評価企画官、同徴収課長、同管理課長、高松国税局長などを経て、平成7年筑波大学社会科学系教授。
【主要著書】
『課税所得と企業利益』(税務研究会)、『役員給与税務事例集』(商事法務研究会)、『役員報酬の法律と実務』(同)、『附帯税の事例研究』(財経詳報社)、『法人税の判例』(ぎょうせい)、『相続税財産評価の論点』(同)、『重要租税判決の実務研究』(大蔵財務協会)、『役員報酬の税務事例研究』(財経詳報社)他多数。


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