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解説記事2004年07月19日 【実務解説】 流山判決が明らかにしたもの(2004年7月19日号・№075)

実 務 解 説
流山判決が明らかにしたもの

NPO法人 日本公会計支援協会 事務局長
公認会計士・税理士  田中義幸

 千葉県流山市のNPO法人がボランティア事業への課税の取り消しを求めて起こした税務訴訟の第1審(平成14年(行ウ)第32号)は、NPO法人側の全面敗訴に終わり、有償ボランティア事業を行っている全国のNPO法人にあらためて注意を喚起する結果となった。NPO法人側は原判決の取り消しを求めて控訴したため、今後は控訴審で争われることとなる。
 判決は、NPO法人側が非課税と主張するボランティア事業を、一定の役務を提供して対価を受ける請負業に該当するとしてNPO法人側の請求を斥けたものだが、ボランティアという名目だからといって、対価を受け取る行為に対する課税処分が取り消されるようでは、課税の公平は保たれるはずもなく、当然の結果といえよう。
 その意味では、判決はほとんど予想されたとおりのものであって、特に意外な点があったわけではないが、非営利法人課税制度の核心部分をなす収益事業の意義を深く掘り下げたという点で、この流山判決が非営利法人の収益事業課税をめぐる問題に投じた意味は大きいといわなければならない。

1.NPO法人はなぜ課税されないか

1. 収益事業から生じた所得以外の所得とは
 NPO法人がなぜ課税されるかという問題の前に、そもそもNPO法人がなぜ課税されないのかという点を見ておく必要がある。
 NPO法人は、特定非営利活動促進法46条によって法人税に関しては公益法人等とみなすとされている。したがって、法人税法別表第二に掲げられる公益法人等や人格のない社団等と同様に、「収益事業から生じた所得以外の所得」については、法人税を課税されないこととなっている(法人税法7条)。NPO法人はなぜ課税されないかという法文上の根拠がここにある。すなわち「収益事業から生じた所得以外の所得」だからである。
 それでは、ここにいう「収益事業から生じた所得以外の所得」とはいかなるものか。単純に収入から支出を控除した剰余を所得と考えるとして、収益事業以外の剰余にはどういうものがあるだろう。その点は、法人税法では明らかでないが、NPO法人が行う本来の事業や活動、運営の実態などに着目してみることで明らかになる。
 NPO法人には、収益事業以外の収入として、まず例外なく会員からの会費収入が入る。それから場合によってだが、周囲からの寄付金収入が得られる。そのほか、国や地方公共団体からの補助金、民間団体からの助成金が得られるケースもある。これらの資金を原資にして、NPO法人は社会奉仕活動や文化芸術活動、教育啓発活動などを行い、その資金を費やす。そうした事業や活動の代表的なものをボランティア活動と呼ぶことができるだろう。
 その場合に得られた収入よりも費やした支出の方が少なければ剰余が生じることとなるが、この生じた剰余が簡単にいえば「収益事業から生じた所得以外の所得」となる。厳密に言えば、法人税法施行令5条1項で収益事業から除外されている事業から生じた所得などもこれに入るが、その点については後で述べる。

2. ボランティアは無償の行為
 ボランティアの原義は義勇兵だという。それが転じて自ら進んで社会事業などに無償で参加する人を指すようになった。NPO法人が行うボランティア事業には、その事業に賛同した個人が無償で奉仕を行うという面と、NPO法人自体が受益者に対価を求めず無償の奉仕活動として事業を行うという二つの面がある。
 NPO法人自体がボランティア事業として行っている場合には、受益者から対価を得られなくても、参加している個人や協力者には報酬の支払いを要する場合があるし、また報酬の支払いはなくても、参加者が移動するための交通費その他の活動費をまかなうための資金は必要になる。事業によっては物品や施設、設備などの購入のため多くの資金が必要になる場合も出てくる。
 この事業資金をまかなうために、会費や寄付、行政や民間団体からの補助金、助成金が募られる。いいかえれば、ボランティア事業は会費・寄付・補助金・助成金などを資金源として行われる無償の行為といえる。このような無償の行為によって剰余が生じても、「収益事業から生じた所得以外の所得」として課税を受けることがないのは、当然のことである。
(図1参照)


3. 有償ボランティア事業の普及
 ところがここに、有償ボランティア事業なるものが登場する。有償ボランティア事業は、無償の行為でなく有償の対価を得て行われる。有償といっても営利法人ほど高価でない、低廉な対価であり、その低廉な部分がいわばボランティアになっている。
 平成10年の特定非営利活動促進法の施行以後、各地に続々とNPO法人が誕生したが、各種公益法人等のように多額の寄附金や補助金などが期待できる組織と異なり、NPO法人は充分な寄附金や補助金が見込めなかった。そこで、NPO法人の脆弱な財政基盤を補うため、対価を得て事業を行うことが奨励され、この有償ボランティア事業はNPO法人の普及と歩調を合わせるようにして広まっていった。
 その結果、NPO法人のボランティア事業の多くは、無償の行為としてではなく、低廉な対価あるいは実費相当の対価を得て、有償で役務や物品を給付する形で行われるようになったという背景がある。
 しかし、見てきたように無償の奉仕活動、ボランティア活動を非課税事業の原点においている法人税法にとって、この有償ボランティア事業は、無償ボランティアと同じようなものとして看過できるものではなかった。

2.NPO法人はなぜ課税されるか

1. 対価を得る事業の課税
 法人税法の観点からすると、役務や物品の給付の代償として受益者から対価を得る有償ボランティア事業は、代償を求めない無償のボランティア活動とは完全に異質のものである。無償ボランティアが担税力を生じないのに対して、有償ボランティア事業は対価を得ることによってまがりなりにも担税力を生じることになるからである。
 法人税法がNPO法人を含む公益法人等や人格のない社団等に対して、収益事業による所得を課税対象としたのは、営利法人等と同様に事業を営んで競合する場合に非課税とすると課税の公平が失われるからであるとされている。NPO法人といえども対価を得られる商品やサービスを提供することは充分に可能であり、実際に提供した場合には営利法人等と競合することになる。どちらも同じように対価を得て担税力が生じているにもかかわらず、一方は課税、他方は非課税というのでは不公平になる。NPO法人を含む公益法人等や人格なき社団等が行う対価を得る事業に対しては、すべて課税対象としなければ、課税の公平は保たれない。
 このような趣旨から、法人税法では、対価を求めない奉仕活動、ボランティア活動をNPO法人を含む公益法人等や人格なき社団等の非課税事業の原点に置いて、それ以外の対価を得る事業をすべて課税対象とする基本的な考え方になったものと考えられる。

2. 33業種の存在意義
 対価を得て行われる事業をすべて課税対象とすると、法人税法施行令5条1項に限定列挙された33業種の趣旨はどういうことになるのか。この33業種は、昭和15年の分類所得税制の創設時に事業所得に当たる営業の種類として挙げられていたものが原型になっている。それが、昭和25年改正で甦ったものだが、事業所得はそもそも現在の所得税法施行令63条の規定にも明らかなように、「対価を得て継続的に行う事業」を規定する趣旨であったことからすれば、同じように対価を得て継続的に行う事業を「収益事業」として規定する趣旨で流用されたものと考えられる。
 この限定列挙の33業種は、NPO法人を含む公益法人等や人格のない社団等の行う事業が収益事業に該当するか否かの法文上のふるいの役割を果たしている。今述べたことからすれば、そのふるいは対価を得る可能性のある事業を決してもらさないような網目の細かいものになっていなければならないはずだが、それにしては、この33業種の限定列挙は、いかにも網目の粗いものに見える。
 この点について、今回の裁判の中で税務当局は、「これは昭和25年当時、立法者が、本来的には収益事業を特定せずに課税を免除する場合のみを特定しようと模索したものの、執行上、立法技術上の理由により、収益事業を限定列挙するという方式を選択したという経緯によるものである」と述べている。
 つまり、33業種が網目の粗いふるいになっているのは、課税から除外する事業を特定したいという意図から設けられたからであって、収益事業を特定する趣旨のものではなかったという理由によることがわかる。規定は、いうなれば課税装置でなく課税除外装置として設けられたものであった。
 法人税法施行令5条1項は、そもそもの制度の趣旨としては、やはり対価を得る事業のすべてを収益事業として課税の範囲に入れつつ、その中で課税から除外する事業を特定する目的で定められたのである。

3. 収益事業からの除外
 それでは対価を得る事業でありながら、課税から除外されている事業とはいかなるものか確認しておこう。
 NPO法人が介護事業を行うと医療保健業として収益事業になる。社会福祉法人が同じ事業を行っても収益事業にならないのはなぜかといえば、法人税法施行令5条1項の中で、「社会福祉法人が行う医療保健業」が収益事業たる医療保健業から除外されているからである。
 他にも、宗教法人や民法34条法人が行う墳墓地の貸付業をはじめさまざまなものが除外されている。
 法人税法は、これらの事業を対価を得て行われる事業としていったんは課税事業の範囲に収めつつ、課税に適合しないものとして、収益事業からの除外をしている。
 法人税法施行令5条1項で除外されている事業の類型を整理すると、①特定の法人が行う特定の事業、②国又は地方公共団体に対する一定の事業、③対価が低廉、低額な一定の事業、④社会通念上課税になじまない事業などに分類することができる。これらは、「次に掲げるもの以外のものを収益事業とする」という規定の仕方で除外することが明記されている。
 その他に同条2項で社会政策的観点から一定の事業について収益事業からの除外を規定している。
 除外の方法には、このように除外規定を設けて除外するものの他に、課税規定に規定しない方法で除外するものがある。いわゆる技芸教授業において、洋裁、和裁等の技芸の内容が列挙してあり、列挙されていない一般教養、高度専門技術などが収益事業ではないとされているのはこれに該当する。
 また、そもそも学校法人が行う学校経営や社会福祉法人が行う保育園経営などは無償ボランティアではなく児童・生徒・学生から授業料という対価を得て継続的に行われている。これらは除外事業として規定されているわけではない。にもかかわらず、当然のように課税されないのはいかなる理由によるのか。これらについては、33業種に列挙されていないため収益事業に該当しない事業として考えるほかはない。
(図2参照)


3.流山判決の要点

1. 問題となった事業の仕組み
 それではこれまで述べてきたことを踏まえて、今回の裁判の概要を確認しながら、判決の要点について述べてみよう。
 ふれあい事業と呼ばれているこの有償ボランティア事業では、サービスを利用する会員は予めNPO法人の会員になり、利用券を購入する必要がある。サービスを受けたい利用会員がNPO法人に依頼すると協力会員に連絡が行き、協力会員が訪問して家事援助や介助・介護などのサービスが受けられる。謝礼は1時間当たり800円の利用券を渡すが、このうち600円分が協力会員の手元に行き、200円分がNPO法人に行く仕組みになっている。(図3参照)

 この有償ボランティア事業を、税務当局が収益事業たる請負業であると認定したのに対して、NPO法人側は請負業ではないとして平成14年8月8日に訴訟を提起したが、平成16年4月2日千葉地方裁判所でNPO法人側の請求を棄却する旨の判決の言い渡しがあったものである。

2. 請負業の意義をめぐって
(1)請負業の意義
 請負業の意義について、NPO法人側が、①一定の仕事の完成の約束の存在、及び②対価としての報酬の支払いの約束の存在を要件とすると主張したのに対して、税務当局は、一定の役務を提供することにより対価を得る事業を広く含むと反論した。
 これについて、判決は、請負業は民法632条の請負の意義に限定されず、委任(民法643条)、準委任(民法656条)を含む広義のものであることは明らかであるとしてNPO法人側の主張を斥けた。広く解さなければ、営利法人と競合する場合に不公平にならないように制度を設けた趣旨が活かされないこと、また法人税法施行令5条1項10号の「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」の規定の文理上明らかであるとの理由からである。
 確かに、請負業の意義については、《法人税基本通達15-1-2》にも法令解釈が示されているが、委任、準委任を含む広い範囲であることはすでに周知されており、基本的に判示のとおりであると思われる。
(2)収益事業の意義
 収益事業の意義について、NPO法人側は、収益事業は営利法人と同様の収益を上げるための基本構造を持つものに限定されるとし、その基本構造としては、①収益をあげる目的を有していること、②収益を上げるのに必要な人的、物的設備を有していることが挙げられると主張した。収益を上げる目的は役職員への分配や他の団体への提供だが、自分たちにはそのような目的はなく、収益を上げるためには必要な役職員の雇用が必要だが自分たちはほとんどボランティアでそうなっていない。要するに、儲けるつもりでやっているのが収益事業で、自分たちは儲けるつもりでやってきたのではないとの主張である。これに対して、税務当局は、収益事業は営利法人と競合するために公平原則を働かせるべき事業であって、そういう基本構造を持つものに限定されるわけではないと反論した。
 判決は、NPO法人側が言うような基本構造云々の文言は法律には見当たらないとしつつ、もしそのようなものに限定されるとしたら課税の公平をはかろうとした法人税法の趣旨は失われるので、NPO法人側の主張は採用できないとした。
 結局、有償ボランティア事業の非課税論の背景には、それほどの確固たる理論的根拠があったわけではなく、奇妙な基本構造論の衣をまとっているが、あったのは単に「儲けるためにやっているのではないのに」という情緒的な反発に過ぎなかった。

3. 請負業に該当するかどうかの判断
(1)事業の主体
 問題となった事業が収益事業たる請負業に該当するかどうかについては、事業の主体がNPO法人と認められるかどうかという点と、利用券の受け渡しがサービス提供の対価の支払と認められるかどうかという点についての判断が必要となった。
 まず事業の主体であるが、NPO法人側が、この事業のサービス提供に係る契約関係の当事者は利用会員と協力会員であって、NPO法人は当事者ではないと主張したのに対して、税務当局は、この事業がNPO法人の定めた運営細則に従って、その管理の下に実行されており事業の主体であると反論した。
 判決は、この事業におけるサービス提供に伴う手続きはすべて、NPO法人が主体となって行われているとして、運営細則の定めや事業の実態から、この事業を管理・運営・遂行し、会員にサービスを提供している主体はNPO法人であって、NPO法人が協力会員をサービス提供の履行補助者として、自ら会員に対してサービス提供を行っているものと認めるのが相当であると判断した。
 NPO法人側の主張では、NPO法人の法人税課税は免れるが、個人の協力会員が所得税の確定申告の対象となってくる。現実には課税されるほどの金額に達しないはずだから個人に転嫁してもかまわないということなのか。協力者に転嫁されるぐらいなら自らに引き受けるのが営利法人の常であるところからすると、この辺はNPO法人に特有の感覚といえるかもしれない。
(2)対価の支払い
 対価性については、NPO法人側は、利用券による支払は低額であることから対価として支払ったものではなく謝礼として贈与したものだと主張したのに対し、税務当局は低額であっても対価性は否定できないと反論した。
 また、NPO法人側が、協力会員が取得した利用券について時間預託を選択した場合には対価性がないと主張したのに対し、税務当局は、時間預託といえども法的なサービス請求権が付与されて対価性を有すると反論した。
 判決は、この利用券を換金性のあるサービス利用券であると認定した上で、サービス提供に対する対価性があると判断した。
(3)請負業に該当
 判決は、以上の事実からこの事業をNPO法人が一定の役務を提供して対価の支払いを受けるものであって、請負業に該当すると判断した。 
 税務当局は、サービス提供を行うのが協力会員であるとされた場合に備えて、その場合でもNPO法人が協力会員と利用会員の媒介取り次ぎを行っているということになり、法人税法施行令5条1項17号の周旋業に該当して収益事業になること、また、その場合にNPO法人が受け取る200円分の金員は、任意性がなく有償性があることは明らかであり、寄附とは認められないと主張していた。
 判決は請負業を採用したため、この争点については判示されなかった。
 (図4参照)


4.NPO法人の甘えの構造

 NPO法人には独特の甘えの構造が存在する。ボランティアだから非課税という思い込みもその一つに数えることができる。しかし見てきたように、無償ボランティアは当然非課税だが、有償ボランティアに関しては確たる非課税の理論的根拠があるわけではない。そこで、今回の訴訟のように「課税するのはひどい」とか、「儲けるつもりでやっているわけではないのに」といった情緒的な非課税論が展開される。そして、それを助長するマスコミの報道がなされる。
 今回の流山判決は、課税の公平の趣旨からNPO法人の有償ボランティア事業の課税処分を妥当なものとして、そうしたNPO法人の甘えの構造に厳しく釘を刺しただけでなく、根拠なき有償ボランティア事業の非課税論の正体を明らかにしたという意味で、極めて重要な判決となった。
 NPO法人が収益事業課税を免れたいのは、収益事業で得た剰余をまるまる他の事業や活動に充てたいからであって、決して会員や役職員に利益分配したいからではないという事情はわかる。しかし、様々な事情があるのは営利法人にあっても同様であり、NPO法人にボランティア的な要素があるからといって、課税上の公平を大きく失してまで、NPO法人を特別に遇すべき理由があるとは思われない。
 今後NPO法人の有償ボランティア事業が、この判決によって少なからず影響を受けることにはなるだろうが、こうした迷妄や甘えを克服してこそわが国社会に真の存在意義を確立できるようになるのだと信ずる。

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