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解説記事2006年08月28日 【ニュース特集】 米国LPSは外国法人に該当するか!?(2006年8月28日号・№176)

ニュース特集
東審、米国LPSからの分配は不動産所得ではなく雑所得と判断
米国LPSは外国法人に該当するか!?


 東京国税不服審判所は平成18年2月2日、米国のLPS(リミテッド・パートナーシップ)に出資し、LPSが出資していた不動産の減価償却費等を個人の所得の赤字として構成員(パス・スルー)課税を行っていた事案(下図参照)に対して、不動産所得ではなく、雑所得に該当する旨の注目すべき判断を示していたことがわかった(東裁(所)平17第104号)。日本の投資家の中には、米国のLPSを用いた節税策をとっている者もいるため、今後、大きな影響を与えることになりそうだ。今回の特集では、本審査請求事例の概要を中心にお伝えする(原文は20頁参照)。

1 LPSでは減価償却費等の計上で節税
 まず、LPSとは、米国などに設立されている法人格を持たない共同出資組織のこと。不動産投資などに用いられることが多く、米国では、LPS自体には課税されず、LPSの構成員(出資者)に対して課税が行われるとされている。日本の投資家の中には、LPSが所有する不動産の減価償却等で生じた損失を個人所得と通算することにより、所得を圧縮する節税策として活用している者も多い。

2 税務署は法人と認定し配当所得と主張
 今回の事案は、審査請求人が米国で締結していたLPS契約に基づいて請求人に配分された損益を不動産所得として申告したことに対し、原処分庁(税務署)が配当所得であるとして過少申告加算税等の賦課決定処分を行ったもの。
 本件LPSは、州LPS法に基づき、法人として設立された事業体であるとの税務署の主張に対し、請求人は、LPSはわが国の民法上の組合に類似するものであり、LPSが受益権を有する別のLPS(下図:財産LPS)が米国所在の不動産を賃貸して生じた収入金額および必要経費は不動産所得として損益通算することができると主張した。

3 法人の要素を備えているが……
 審判所は、本件LPSが日本の法律でいう「法人」の要素を備えているということができるとしつつも、請求人は、契約に基づきLPSの事業活動等から生じた優先分配額の分配方法を定め、これに基づいた分配を受けているのであり、LPSが利益処分として行ったのものではないとした。したがって、配当所得には該当しない旨の判断を示した。
 一方、不動産所得に該当するかどうかは、個人が専ら不動産等を利用に供したことにより生じた所得であることが必要との認識を示した。このため、本件LPSから受けた分配については、不動産所得には該当しないことになり、結果的に雑所得に該当する旨の判断を示している。


争点1 配当所得か否か
請求人の主張
原処分庁の主張
審判所の判断
本件LPSは外国法人に該当しない。したがって、LPSから支払いを受ける利益の分配金は配当所得に該当しない。 本件LPSは、①州LPS法に基づき、法人として設立された事業体である、②訴訟当事者および財産登録の当事者などになり得る、③事業実態からわが国の私法および租税法上、外国法人に該当する。したがって、LPSから支払いを受ける利益の分配金は配当所得に当する。 州LPS法に準拠するLPS契約では、LPSが自らの名でLPSの全財産を所有することとされるほか、取引や訴訟の当事者となることができるため、権利義務の帰属主体であるという意味では、わが国の法律における「法人」の要素を備えている。しかし、同時にLPSはその名義の財産をパートナーのために保有することを契約の内容としているため、これをもってわが国の法人がその名義で自らの財産を所有する場合と同視することはできない。したがって、所得区分を定めるには、法律的経済実質的関係を個別にみて判断すべきである。本件LPSの分配額および損益の分配は利益の処分として行ったものではないため、配当所得には該当しない。
争点2 不動産所得か否か
不動産への投資によって得られた利益の額または損失の額は、すべてわが国の民法上の組合を通じて不動産投資がなされた場合と同様に、本件財産LPSのパートナーである本件LPSに、そして本件LPSのパートナーである請求人にそれぞれの損益分配割合に応じて按分して配分され、請求人の利益の額または損失の額として直接帰属したものである。本件LPSの事業は不動産投資、投資不動産の賃貸および管理であるから、請求人が本件LPSから配分を受けた所得(損益)の種類は不動産所得である。 不動産所得とは、不動産等の貸付けによる所得のことである。賃貸物件を所有しているのは、本件財産LPSであり、請求人ではない。請求人は、外国法人である本件LPSに対する出資を行い、本件LPSから利益の分配を受けたにすぎないから、不動産所得を有しない。 個人が得た所得が不動産所得に該当するには、その個人がほとんどまたは専ら不動産等を利用に供したことにより生じた所得であることが必要である。請求人は、本件LPS契約を締結して米国に本件LPSという仕組みを設け、さらに本件財産LPSという仕組みを介して、本件財産LPSが所有する不動産を本件財産LPSが賃貸することによって生じた分配額を受けたものなどであるため、不動産所得には該当しない。また、所得税法23条1項に規定された利子所得にも該当しないほか、本件LPSに係る契約とこれに対する出資行為は、継続的かつ反復した行為とはいえないことから事業所得にも該当しない。よって、所得税法35条1項に規定する雑所得に該当する。


4 任意組合等には外国のLPSも含まれる!
 所得税基本通達36・37共―19では、任意組合(民法667条1項に規定する組合契約により成立する組合)等の組合事業から生じる所得については、構成員課税となることが明らかにされている。この任意組合等については、投資事業有限責任組合契約、有限責任事業組合契約のほか、外国におけるこれらに類するものも含まれるとされている。
 この「外国におけるこれらに類するもの」については、国税庁が平成18年1月27日付で公表した「平成17年度税制改正及び有限責任事業組合契約に関する法律の施行に伴う任意組合等の組合事業に係る利益等の課税の取扱いについて(情報)」によると、たとえば、米国におけるGPS(ゼネラル・パートナーシップ)契約やLPS契約等で共同事業性および財産の共同所有性を有すると想定されるものが該当するとされており、構成員課税が可能とされている。
 しかし、このようなパートナーシップ契約であっても、その事業体の個々の実態等により外国法人と認定される場合は除かれるとしている。ただ、外国法人に該当する場合の判断基準は明らかにされていない。

米国LLCは個別通達で外国法人に該当
 この点、LLC(リミテッド・ライアビリティー・カンパニー)については、すでに「米国LLCに係る税務上の取扱い」と題するQ&A形式の個別通達を公表している。
 具体的には、LLCは、商行為をなす目的で米国の各州のLLC法に準拠して設立された事業体であり、外国の商事会社であると認められることなど、4つの理由を示した上、原則として、外国法人に該当する旨を明らかにしている。
 一方、LPSについては前述したとおり、任意組合等に該当するとしているものの、個別案件をみて実態で判断している状況だ。
 LPSについても、米国LLCと同様な判断基準が求められているといえよう。


米国LPSが外国法人となる理由
①外国の商事会社である
②商号等の登録(登記)等が行われている
③事業体自らが訴訟の当事者等になれる
④統一LLC法においては、「LLCは構成員と別個の法的主体である」「LLCは事業活動を行うための必要かつ十分な、個人と同等の権利能力を有する」と規定されている


任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の帰属
所得税基本通達36・37共-19
 任意組合等の組合員の当該任意組合等において営まれる事業(以下36・37共-20までにおいて「組合事業」という。)に係る利益の額又は損失の額は、当該任意組合等の利益の額又は損失の額のうち分配割合に応じて利益の分配を受けるべき金額又は損失を負担すべき金額とする。
 ただし、当該分配割合が各組合員の出資の状況、組合事業への寄与の状況などからみて経済的合理性を有していないと認められる場合には、この限りではない。
(注)1 任意組合等とは、民法第667条第1項《組合契約》に規定する組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項《投資事業有限責任組合契約》に規定する投資事業有限責任組合契約及び有限責任事業組合契約に関する法律第3条第1項《有限責任事業組合契約》に規定する有限責任事業組合契約により成立する組合並びに外国におけるこれらに類するものをいう。以下36・37共-20までにおいて同じ。
2 分配割合とは、組合契約に定める損益分配の割合又は民法第674条《組合員の損益分配の割合》、投資事業有限責任組合契約に関する法律第16条《民法の準用》及び有限責任事業組合契約に関する法律第33条《組合員の損益分配の割合》の規定による損益分配の割合をいう。以下36・37共-20までにおいて同じ。

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