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解説記事2006年09月18日 【制度解説】 改正証券取引法・金融商品取引法について(2006年9月18日号・№179)

実務解説
改正証券取引法・金融商品取引法について
 椙山女学園大学現代マネジメント学部教授 上田純子

Ⅰ はじめに


 2006年6月7日、参議院本会議において「証券取引法等の一部を改正する法律」が可決・成立した。資本市場といえば証券市場のこととほぼ同義に解されてきたわが国においては、金融サービスや投資サービスの市場という発想に貧困であった。そのため、証券取引法は、1948年に制定されて以来、業規制としては一貫して証券業のみを対象とし、また、金融ビッグ・バン構想のもとに誕生した2000年の金融商品販売法にしても、販売業者に対する規制は置いてはいるものの金融サービス業規制としては不十分であった。すなわち、わが国においては、これまで金融・投資サービス業にも目配りした横断的業規制は不在であったといえよう。
 諸外国に目を転じれば、わが国の金融商品取引法が主に範とした英国では、2000年に金融サービス・市場法(Financial Services and Market Act)が誕生して、金融コングロマリット化に対応した銀行・保険取引等を含む横断的業規制が実現し、また、オーストラリアにおいても、生保、金融商品、年金基金等が横断的に包含された2001年金融サービス改革法(Financial Services Reform Act)(既存の会社法第7編・第8編の削除と2001年会社法第7編金融サービス・市場というタイトルの創設)が制定された。
 本稿では、こうした外国での動向をも一瞥しながら、わが国の改正証券取引法および金融商品取引法の内容について検討したい(むしろ、本稿は比較法的検討に関心を有するものであり、法律の概要等については、たとえば、本誌175号の特集記事等を参照されたい)。なお、今回の改正はあくまでも証券取引法の改正であって、既存の証券取引法のすべてが金融商品取引法という新規の法律に置き換わってしまうわけではない。改正法の施行に伴って、法律の名称が証券取引法から金融商品取引法へと変わるだけである。したがって、本稿では、冒頭より「改正証券取引法および金融証券取引法」と表記しているが、両者を併せて段階的に進む証券取引法の改正を指している(以下、単に改正法という場合には、「改正証券取引法および金融商品取引法」のことを意味する)。

Ⅱ わが国における「投資サービス法」の需要

 冒頭に述べたように、わが国の証券取引法にあっては複雑化する資本市場におけるその役割を十分果たせなくなり、また投資商品に関する業者の監督官庁もないため、被害者は行政規制に頼ることができず、自ら損害賠償請求訴訟を提起するくらいしか救済手段を持てなかった。
 金融商品やサービスに関する横断的規制の必要性は、1998年の「新しい金融の流れに関する懇談会」(通称「流れ懇」)での「論点整理」でも明確に指摘されていたが、立法化は部分的に進んだのみであった。すなわち、その一部は、1998年に設置された金融審議会の審議に受け継がれ、その結果は2000年の特定目的会社(SPC)法や投資信託法の改正に帰結した(受託者責任の明記等)。また、同じ年に銀行・証券・保険を横断的にカバーする金融商品販売法が制定されたが、金融商品を幅広く対象とするものの販売業者に対する説明義務と損害賠償額の推定規定などを中心とする限定的なものであって、本来の意味での金融商品・サービスの横断的規制というにはほど遠かった。そこで、それをさらに一歩進めて、証券取引法を抜本的に見直し、証券取引法および証券取引法と同種の性格を有する他の法律を整理統合して金融商品取引法を制定する運びとなったものである。
 法改正の提案理由は、衆議院財政金融委員会における財務大臣の次の言辞に集約されるであろう。
 「政府は、金融資本市場を取り巻く環境の変化に対応し、投資家保護のための横断的な法制として、証券取引法を改組して、金融商品取引法いわゆる投資サービス法とする等の整備を行うことにより、利用者保護のルールの徹底と利用者利便の向上、貯蓄から投資に向けての市場機能の確保及び金融資本市場の国際化への対応を図るため、本法律案を提出した。」(平成18年4月18日衆議院財政金融委員会第11号会議録)改正証券取引法および金融商品取引法では、ルールの柔構造(柔軟)化と投資商品の勧誘・販売に関する規制の横断化とともに、事後的なルールづくりとその実効性の確保のための市場監視機能の強化にも意が注がれている。

Ⅲ 全体像

1.既存の法律の整理・統合

 証券取引法「等」の一部改正として、証券取引法と同列に改正の対象となっている法律は、銀行法、長期信用銀行法、信用金庫法、中小企業等協同組合法、保険業法、商品取引所法、不動産特定共同事業法の7つである。そのほかの証券取引法等の改正の影響を受けうる法律は、「証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下、整備法という)の範囲で対応されている。また、本改正によって、既存の「金融先物取引法」、「抵当証券業法」、「有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律」、「外国証券業者に関する法律」は、すべて「金融商品取引法」に吸収され、「投資信託法」の業規制、すなわち、「投資信託委託業」および「投資法人資産運用業」は「金融商品取引業者」(投資運用業を行う者)として、「金融商品取引法」に吸収されるが、「投資信託法」自体は残る。同様に、「金融商品販売法」、「資産の流動化に関する法律」、「銀行法」や「保険業法」、「商品投資に係る事業の規制に関する法律(いわゆる商品ファンド法)」も存続する。「金融商品販売法」については、金融商品取引法に統合される可能性もあったが、最終的には存置された。もっとも、改正法は、施行後5年以内に再検討される予定であり(改正法附則220条)、近い将来、統合される可能性は高い。

2.施行日と施行内容
 すでに本誌(167号、172号等)でも解説されているように、証券取引法の一部を改正する法律は6段階で施行される。第1弾の改正は、公布の日から起算して20日以内に施行するとされ、すでに2006年7月4日から施行されている。改正法の施行の予定と施行内容についてまとめると次のようになろう。①公布の日から起算して20日以内に施行されるのは、証券取引法違反の罰則の強化に係る部分である。たとえば、相場操縦の1タイプであるいわゆる見せ玉(ぎょく)(市場の株価を誘導するために、約定させる意思がないにも関わらず、市場に注文を出して売買を申し込み、約定する前に取り消す行為)について委託者、証券会社の区別なく刑事罰、課徴金の対象とするほか、有価証券届出書の虚偽記載、風説の流布・偽計、相場操縦に関する罰則(懲役5年、罰金500万円から懲役10年、罰金1000万円へ)や内部者取引に関するそれ(懲役3年、罰金300万円から懲役5年、罰金500万円へ)が挙げられる。②公布の日から起算して6ヶ月以内に施行されるのは、公開買付制度(以下、TOBという)に関する改正部分である。従来の証券取引法では、この部分はもっぱらTOBに関する情報開示規制として機能していた。改正法は、いわゆる3分の1ルール(対象会社株式の3分の1以上を取得した者に対する強制TOB制度)、3分の2以上取得した(予定を含む)場合の応募株式の全部買付義務や買付者が競合する場合のTOBの義務づけなどを規定し、M&Aの規制へと変貌させている。③公布の日から1年以内に施行されるのは、5%ルールに関する改正である。この部分では、機関投資家の特例報告制度について、報告期限・頻度を見直す(3ヶ月ごと15日以内を2週間ごと5営業日以内に)ほか、大量保有報告書の電子提出を義務づけている。対象会社の事業活動に重大な変更を加え、または重大な影響を及ぼす行為は重要提案行為等とされ、このような保有目的については、特例報告を認めない。④公布の日から1年6ヶ月以内に施行されるのは、一部を除く金融商品取引法であり、この法律の施行をもって、従来の「証券取引法」は「金融商品取引法」に名称替えをすることになる。前述のように、投資性の強い金融商品の勧誘・販売について、横断的なルールを導入することがこの改正部分の狙いである。⑤2009年3月期(平成20年4月1日以後に開始する事業年度)に施行されるのは、ディスクロージャーの強化に関する部分である。たとえば、「有価証券報告書の記載内容の適正性の確認書」、「四半期報告書」、「財務報告に関する内部統制報告書」の提出が義務づけられる。⑥一般社団法人および一般財団法人に関する法律の施行の日から施行されるのは、改正法4条に基づく部分、すなわち、「公益法人金融商品取引業協会」に関する部分(金融商品取引法78条から79条の19まで)である。

Ⅳ 金融商品取引法について

 ここでは、上記の多様な改正点のうち、後述の比較法的視点からの考察においてその中核を占める金融商品取引法の部分に焦点を当てる。

1.目 的
 金融商品取引法は、証券取引法3条関係の改正として規定されている。金融商品取引法は、1条において、その目的を次のように掲げている。すなわち、①企業内容等の開示の制度の整備、②金融商品取引業者に関する必要な事項の規定、③金融商品取引所の適切な運営の確保、により、④有価証券の発行および金融商品等の取引等の公正、⑤有価証券の流通の円滑化、⑥資本市場の機能の十全な発揮、による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もって、⑦国民経済の健全な発展、⑧投資者の保護、に資することを目的とする。
 有価証券の発行や売買その他の取引の公正および有価証券の流通の円滑化のみを視野に入れていた従前の証券取引法の目的と比べると、縦割り業法を見直し金融商品を幅広く対象とした法制であることがわかる。

2.有価証券の定義
 金融商品取引法においては、対象となる商品の範囲を可及的に幅広く捉え、①金銭の出資、金銭等の償還の可能性を持ち、②資産や指標などに関連して、③より高いリターン(経済的効用)を期待してリスクをとるもの、という発想(金融審議会第一部会報告「投資サービス法(仮称)に向けて」(平成17年12月22日)(以下、最終報告という)参照)を前提に、従来の証券取引法における有価証券(主として、金商2条1項に列挙)に加え、集団投資スキームも含め、対象商品の範囲を拡大している。たとえば、抵当証券(金商2条1項16号)、信託受益権(金商2条2項1号)、および、合名会社等の持分会社の社員権(金商2条2項3号)、民法上の組合、匿名組合、投資事業有限責任組合、有限責任事業組合(LLP)によるファンド(金商2条2項5号イ)、有限責任中間法人の基金やNPOバンクへの出資(同ロ)、保険・制度共済(同ハ)、不動産特定共同事業(同)、商品ファンド(同ニ)も、原則有価証券とみなされる。さらに、デリバティブ取引については、有価証券関連以外のものであってもデリバティブ取引を業として行えば金融商品取引業に当たり金融商品取引法の適用を受けることとされている(金商2条8項、20項、21項、22項、23項)。

3.集団投資スキーム(ファンド)の規制
 上記のうち、集団投資スキームについては、冗長でわかりにくい定義規定が置かれている(金商2条2項5号イ~ニ)。組合契約、匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約、または、有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利のうち、当該権利を有する者が出資または拠出した金銭(これに関するものとして政令で定めるものを含む)を充てて行う事業から生ずる収益の配当または当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利は、原則として有価証券とみなされ、金融商品取引法が適用される。ただし、①出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利、②出資者がその出資または拠出の額を超えて収益・配当または出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利、③保険業を行う者が保険者となる保険契約、④農業協同組合法や中小企業等協同組合法に規定される共済契約、⑤不動産特定共同事業契約に基づく権利、などについては、適用されない。外国ファンドであっても、反復継続性が認められれば規制の対象になると解釈されている。

4.金融商品取引業
 従来の証券業を含め、金融商品取引法では、金融商品取引業を幅広く対象としている(従来の証券業は、金融商品取引法の施行に伴い、金融商品取引業と名称が変わる。従来の「証券会社等」は法律上「金融商品取引業者等」と呼ばれることになるが、そのことによって従来の証券会社がなくなるわけではない)。すなわち、従来の証券取引法下の証券業が営業行為とされていたのとは異なり、営利性のいかんを問わず金融商品取引法に定める一定の行為を業として行えば、規制の対象となる。業規制は、金融商品取引業(第一種金融商品取引業(金商28条1項)、第二種金融商品取引業(金商28条2項)、自己募集(金商2条2項5号、2条8項7号)、投資助言・代理業(金商28条3項)、投資運用業(金商28条4項))、金融商品仲介業(金商28条11項)、適格機関投資家等特例業務(金商63条)に区分され、さらに第一種、第二種金融商品取引業と投資運用業の業務内容について、本来業務と付随業務(金商35条1項、35条の2第1項、第2項)・届出業務(金商35条2項、3項)の分別がなされている。最終報告においても明記されているように、もともと立法に向けた議論のなかでは投資サービス業の範囲を「販売・勧誘」「資産運用・助言」「資産管理」の3つに分けるとの発想があり、上記分類は基本的にはこの発想に基づいているといえる。第一種金融商品取引業は、従来の証券会社に代表され、有価証券の売買等、店頭デリバティブ取引等、元引受け、私設取引システム(PTS)、および、有価証券管理業務等を行うことができる。行える業務の範囲が最も広いが参入規制は厳しい(登録拒否事由、29条の4、参照)。第二種金融商品取引業では、集団投資スキーム持分等の自己募集、みなし有価証券の売買等、市場デリバティブ取引(有価証券に関するものを除く)を業として行うことができる。投資助言・代理業では、有価証券の価値等または金融商品の価値等の分析について助言や代理業務を行う。投資運用業は、投資一任契約または投資法人の資産運用委託契約を締結し、その契約に基づいて金融商品の価値等の分析に基づく判断により、有価証券またはデリバティブ取引に係る権利に対する投資として、金銭その他の財産の運用を行う者とされている(金商28条4項)。金融商品仲介業とは、従来の証券仲介業の名称変更によるものであるが、有価証券関連以外のものも含むデリバティブ取引の媒介および投資顧問契約等の締結の媒介が新たに業の対象に付け加わっている。なお、証券取引法のもとでは自己募集は業規制の対象とはなっていなかったが、発行者自身が勧誘を行えば業規制を免れられるのでは、規制が尻抜けになるおそれがあるため、金融商品取引法においては、新たに業規制の対象とされている。

5.業者の行為規制
 金融商品取引法においては、さまざまな行為規制が置かれているが、なかでも、適合性の原則、不招請勧誘の禁止、および、再勧誘の禁止が注目される。
 適合性の原則は、40条1号に規定されている。それによれば、金融商品取引業者は、業務の運営の状況が、金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況および金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることになっており、または欠けることとなるおそれがあることがないように、その業務を行わなければならない。実際にどこまで厳格に適合性の原則が追求されるかは、今後の実務によるが(後述する英国金融サービス・市場法は、適合性レター(suitability letter)(業者が、顧客の人的・財産的状況を考慮したうえで当該商品・取引が顧客にふさわしいものであることを簡潔・明快に説明した文書)を要求している)、いずれにせよ、実効性ある運用が求められよう。
 勧誘の要請をしていない顧客に対し、訪問しまたは電話をかけて勧誘することを禁ずる旨が38条3号に規定されている(不招請勧誘の禁止)。また、取引を行わない旨を表示した顧客へ勧誘を継続することが禁じられている(再勧誘の禁止、38条5号)。なお、その勧誘に先立って顧客に対しその勧誘を受ける意思の有無を確認する行為が義務づけられる(事前確認義務、38条4号)。

Ⅴ 比較法の視点-英国の金融サービス・市場法とオーストラリアの金融サービス改革法-

 米国の1933年連邦証券法(Securities Exchange Act)が比較的広い証券概念をとって投資契約(investment contract)やノートをも含み、それらが判例基準によって柔軟に運用されていることは比較的よく知られている。おそらく、米国の連邦証券法が、上述したわが国における金融商品取引法の金融商品・サービス概念に示唆してきたところは大きく、従来、証券という券面をイメージして組み立てられてきた証券取引法上の証券概念はそこでは抜本的に見直されている。また、わが国の金融商品取引法における内部統制報告義務等の導入(金商24条の4の4等)は“日本版SOX(サーベンス・オクスレー)法”という触れこみであっただけに、そこにはとりわけ上場会社等の財務報告・監査の水準を米国並みに引き上げるという意図があったことも事実である。とはいえ、わが国の金融政策および立法が範としてきたのは、第二次橋本内閣下における1996年11月の金融ビッグ・バン以来、むしろ英国の1986年金融サービス法およびそれを改正する2000年金融サービス・市場法(以下、FSMAという)であり、今回の改正証券取引法および金融商品取引法も英国の諸立法をモデルとしていることは疑問の余地がないように思われる。そこで、以下では、英国のこれらの法制度に学ぶべき点および英国の影響下に幅広い金融サービス規制をわが国より先に誕生させたオーストラリアの金融サービス改革法(2001年会社法における証券規制部分の改正)について、検討する。もとより、これら諸立法を細部にわたり紹介することはできないので、わが国の法制に対し示唆に富む点を部分的に抽出するに留めざるをえない。

1.英国の金融サービス法および金融サービス・市場法
 英国においても、金融サービス立法は、証券・金融分野におけるスキャンダルを機に進展してきたといえる。1986年には金融サービス法(Financial Services Act)が制定され、投資業(investment business)として規制範囲を幅広く捉え、認可業者の規制監督は自主規制による5つの機能別区分によっていた。すなわち、証券・投資委員会(Securities and Investment Board;SIB)を中枢とする5つの自主規制機関が発足した。しかしながら、このような機能別区分方式は、実務を相当に煩雑化したうえ、コングロマリット化した金融主体に対して縦割り式規制は負担が大きかった。また、この間、EU欧州委員会における金融サービス・アクション・プラン(2001年)とEU立法の相次ぐ採択、また、国内における金融・証券スキャンダルの発生などがあり、2000年には新たに金融サービス・市場法(Financial Services and Market Act;FSMA)が成立することとなった。金融サービス・市場法は、従来の機能別区分方式を廃止し、金融サービス機構(Financial Services Authority;FSA)という単一の規制機関を発足させ、保険業、銀行業も規制対象に包摂している。
 FSMAの目的は、①市場の信頼性の確保、②公衆の意識の高揚、③消費者保護、④金融犯罪の抑止の4点であり(FSMA2条2項、3条~6条)、これらの目的の達成度合いについてFSAは財務省(Treasury)に対し、年次報告書を提出することが義務づけられている。単一規制機関FSAには、規則制定権、情報収集権、調査官による調査権限、介入権限、制裁権限、違法行為の差止および原状回復の権限、訴追権限などの広範な権限が付与され、市場の監視と法執行の実効性が格段に高められている。また、既存の苦情処理機構を整理した金融サービス・オンブズマン機構(設立形態は保証有限私会社)や既存の補償機構をまとめた単一の補償機構(設立形態は保証有限私会社)の創設などもわが国の法制に対する示唆を含む。
 なお、英国では集団投資スキームは、1986年の金融サービス法時代から投資業の1つを構成
し、「金銭その他いかなる表現の財産に関するいかなる計画をも含み、その目的または効果が、財産の取得、保有、管理または処分による収益や利益、または、かかる利益もしくは収益から支払われる配当への参画もしくは受領であるもの」と幅広く定義されている(FSMA235条1項)。スキーム参加者は、スキーム対象財産の管理に日常的に関わる必要はなく(FSMA235条2項)、参加者の出資分と利益または収益は集合されること(投資の共同性)、および、拠出財産は全体として、スキーム運用者によって、またはその代理人によって管理されること(投資の受動性)(FSMA235条3項)が要件とされる。
 前述したように、適合性の原則は、FSMAでは具体的・客観的に求められている。すなわち、FSMA157条に基づきFSAに委任策定された行為準則(Conduct of Business Sourcebook;COB)においては、顧客の適合性について簡単に説明した文書(suitability letter)を作成することが業者に義務づけられている(たとえば、COB3.9)。
 不招請の勧誘は、FSMAのもとでは金融販促活動として括られ適用免除を受けない限り認可業者または認可業者から承認を得た者のみが行いうるとされている。規制に違反して締結された契約は顧客に対しては拘束力を持たず、顧客は対価として支払った金銭の返還や補償を求めることができるほか、違反した者は刑事責任をも負う(FSMA21条、25条)。
 なお、FSMAは、市場不正行為に対して民事制裁金制度を導入している。このような形での事後規制も検討に値しよう。

2.オーストラリアの金融サービス改革法
 オーストラリアにおいては、証券規制は従来からオーストラリア証券・投資委員会(Australian Securities and Investment Commission;ASIC)の監督・執行のもと、会社法の一部を構成し、そのことによって会社法全体の内容は膨大である。2001年に連邦会社法の制定に併せて金融サービス改革法(以下、FSRAという)を連邦法として制定した。この法律によって、従前の会社法第7編、第8編は廃止され、「金融サービス・市場(Financial Services and Market)」というタイトルの新しい第7編に生まれ変わる。これは、企業法経済改革プログラム(Corporate Law Economic Reform Program)の一環として発足した金融システム調査会(Financial System Inquiry;通称Wallis調査会)の提言に基づき、金融の安定(financial stability)と消費者保護(consumer protection)に関する責任を単一立法のもとに盛り込むことを企図したものであった。
 この法律の目的は、従来別立法により縦割りになっていた金融商品・サービスを1つの規制枠組みのなかに組み込み、ASICによる監督・執行下に置くことにより、金融サービス業者の法遵守と効率的運営を高めることである。具体的な目的としては、次の4点が掲げられている。すなわち、①金融商品・サービスの消費者による自己決定と金融商品・サービスの提供における効率性、柔軟性および革新性の促進、②金融サービス提供者の公正性、誠実性、かつ、専門性の保証、③金融商品市場の公正、秩序あり、かつ、透明な市場の確保、④体系的リスクの低減と清算・決済機構による公正かつ効率的なサービスの提供(会社法760A条)、である。そのために、①証券、デリバティブ、年金などの金融商品に対し単一の規制、②金融サービス業者・市場介在者に対し単一の免許の仕組み、③金融サービス提供者・市場介在者に対し最低限の行為基準を、それぞれ置くとともに、④全金融商品に横断的な単一のディスクロージャー義務を発行者等に課して、リテール投資家がコスト比較をしやすいようにしている。FSRA(2001年会社法第7編の改正)は、2004年3月11日から施行されている。
 まず、FSRAによってはじめて設けられた金融商品や金融サービスの定義は次のようになっている。金融商品とは、それを通じて、またはそれの取得を通じて、①金融投資を行い、②金融リスクを管理し、③現金以外の支払いのいずれかをなすような仕組みを有するものすべて、とされている(会社法763A条)。一般的な定義により、捕捉される金融商品の範囲は非常に広くなっている。また、金融サービスの定義は、①金融商品に関する助言、②金融商品取引、③金融商品市場の設立、④登録スキームの運用、⑤保管・預託サービスの提供、および、⑥その他規則で定めるもの、である。これらに該当するすべてがFSRAの規制対象となる。
 FSRAにおいては、とりわけリテール投資家の保護に腐心されている。まず、第7.5編では、リテール投資家を顧客とする免許業者に対し、補償規則(compensation rules)に基づく補償体制(compensation arrangements)の構築を義務づけている。補償規則は市場ごとに策定され、市場管理者とその参加者との契約内容を構成する(会社法883A条)。このルールに基づく補償内容の審査にパスすることが業者への免許付与(免許付与は財務大臣権限)の条件となっている。補償の財源は市場ごとに募られる保証基金(fidelityfund)である。保証基金の管理運用に関し、各市場管理者は連邦の代理人としての法的地位を有する。
 FRSAが制定される以前から存在する国家保証基金(National Guarantee Fund;NGF)は、引き続き証券取引保証会社(Securities Exchange Guarantee Corporation;SEGC)(設立形態は保証有限会社であるが、法的地位は連邦の代理人)の管理下に置かれ、NGFの財産はSEGCの信託財産となる(会社法889C条)。NGFは、所定の最低基金額を維持しつつ既存の保証基金財産、市場管理者および市場参加者の拠出金等を財源とし(会社法889I条、889J条、889K条、891B条)、金融サービス・商品等に関する損失等につき顧客に対する補填を行う(会社法889H条)。SEGCは、オーストラリア証券取引所および免許業者を構成員とし、NGFの管理に関し、資金の借入、担保の提供、最低基金額の決定、補償金の支払い、運用規則の策定等を通じて中心的役割を担う(会社法890B条以下)。
 次に、第7.7編では、リテール投資家に対しては、取引の際に業者に①金融サービスガイド(Financial Services Guide)、②助言説明書(Statement of Advice)、および、③商品開示説明書(Product Disclosure Statement)を交付させて直接開示による保護を強化するとともに、市場不正行為については民事制裁を導入するなど柔軟な枠組みのなかで法の実効性を確保する手段が模索されている。これらの開示文書について若干付言すると、①は、業者のサービス内容、業務内容、サービスへの対価、顧客の苦情への対応方針、その他業者が有する提供商品等に影響を及ぼしうる利害関係等を、②は、業者が行う助言内容、当該助言の情報源、助言に対する対価・報酬等、その他業者の助言に影響を及ぼしうる利害関係等を、および、③は、商品の特徴、対価、投資のリスク・リターン、リターンから控除される手数料、その他顧客の判断に重大な影響を及ぼしうる情報等を記載した文書である。
 このように、リテールとホールセールとを明確に区別し、前者の保護を強化する規制は、わが国の金融商品取引法上のいわゆるプロ/アマ規制と同様の発想に基づくものであろう。
 ASICには法監督・執行の担い手としての広範な権限が付与されている。業者への指揮・助言・勧告等や犯則調査の権限が与えられているほか、民事・刑事の訴訟を提起して被害投資家の救済を主体的に図るその役割にも期待されている。

Ⅵ おわりに

 以上、わが国において2006年6月に公布された改正証券取引法および金融商品取引法の内容と英国およびオーストラリアの経験から比較法的に参考になる点を検討してきた。
 今後、政令・内閣府令の策定・施行を待ってはじめて明らかになる点も少なくないが、1990年代からその必要性が強く認識されており、「投資サービス法」構想として徐々に温められてきた、金融商品・サービスに関する横断的な規制がこれによって実現し、既存の証券業実務は多大な影響を受けることになる。のみならず、証券等の発行体としての上場会社等に対する財務報告等の企業内容開示や監査の縛りも当然きつくなる。上述したように、施行は6段階に分かれており、その施行期日も整備法を含めそれぞれ条文を細かく読んでいかないとわかりづらいので、証券取引法の一部改正と金融商品取引法への移行との関係が掴みにくくなっている。加えて、金融商品の定義規定のみをとってみても、一瞥してわかるというような内容にはなっていない。実務にはそれらを読み解く作業がまず要求されよう。
 本稿で概観した英国やオーストラリアの詳細な開示と適合性を求める法枠組みは、投資家・消費者保護の観点からは一定程度評価されうる一方、業者に過剰な法遵守コストを課す結果、規模の経済を梃子に市場支配力ある業者のみを淘汰させ、また、法遵守コストが商品価格、すなわち、投資家・消費者に転嫁される可能性があるなど、その制度設計に伴うマイナス面もないわけではない。さらに、投資家・消費者に対する詳細な情報提供は、投資家・消費者側に予備知識があってはじめて生きることが多く、すべての投資家・消費者に対して同列に詳細な開示を行うことに、コストに見合うだけのベネフィットが十分あるかどうかについても検討しなければならないであろう。すなわち、わが国においては、制度に伴うコスト・ベネフィット分析を十分に行ったうえで開示や適合性の適切な要求レベルを検討し制度化する必要がある。
 法の実効性の確保と市場の監視機能の強化において、改正法下で金融庁および証券取引等監視委員会が果たす役割は注目される。本稿で概観した英国やオーストラリアのように、単一の監視機能に強大かつ広範な権限をもたせ、さらに、金融サービス・オンブズマン(英国)や被害補償制度(オーストラリア)などにより、迅速な苦情処理と手厚い事後救済の仕組みを設けることも、今後の法改正や見直しの過程で視野に入れられてよかろう。

上田純子(うえだじゅんこ)
名古屋大学法学部卒業、名古屋大学大学院法学研究科博士前期課程修了(法学修士号取得)、名古屋大学大学院法学研究科博士後期課程中退、英国ロンドン大学にてPh.D.in Law(法学博士号)取得、椙山女学園大学現代マネジメント学部教授(現職)
【主要著作】
「株式会社における経営の監督と検査役制度(上・下)」(民商法雑誌;有斐閣)116巻1号、2号、『現代企業取引法』(税務経理研究会)(共著)、『日本会社立法の歴史的展開』(商事法務)(共著)、「国際的M&A(合併・買収)と比較法・抵触法」本誌118号、ほか

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