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解説記事2006年10月09日 【会計基準解説】 改正企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」等について(2006年10月9日号・№182)

実務解説
改正企業会計基準第1号
「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」等について

企業会計基準委員会 研究員 石川和正

Ⅰ.はじめに


 企業会計基準委員会(ASBJ)では、平成18年8月11日に以下の会計基準等(脚注1)を公表している。
●改正企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(以下「改正会計基準」という。)
●改正企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「改正適用指針」という。)
 ここでは、これらの概要を紹介するが、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。

Ⅱ.公表の経緯

 改正会計基準及び改正適用指針は、平成18年5月に会社計算規則が施行されたことなどに伴い、以下の会計基準及び適用指針について、所要の改正を行ったものである。
●企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(最終改正平成17年12月27日)(以下「改正前会計基準」という。)
●企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(最終改正平成17年12月27日)(以下「改正前適用指針」という。)

Ⅲ.改正の概要

1 自己株式の消却

 改正前会計基準では、自己株式を消却したときに、資本剰余金又は利益剰余金のいずれから減額するかは、会社の意思決定に委ねることとしていたため、減額するその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)については、取締役会等の会社の意思決定機関で定められた結果に従い、消却手続が完了したときに会計処理することとしていた。しかしながら、会社計算規則では、自己株式の消却を、会社財産の払戻し等に関連する行為ではなく、単に発行済株式総数及び既に取得した自己株式の帳簿価額を減少させる行為と捉え、自己株式の消却に際して減少する自己株式の帳簿価額と、自己株式の処分に際して減少する自己株式の帳簿価額との性質には差異がないことに着目して、双方ともその他資本剰余金から減額することを原則とすることが規定された(脚注2)(会社計算規則第47条第3項)ため、改正会計基準では、これに合わせることとしている。

2 資本剰余金と利益剰余金の混同の禁止
(1)背景
 会社法では、旧商法と同様に、資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金が分配可能額に含まれることとなるが、ここで資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金を利益性の剰余金へ振り替えることを無制限に認めると、払込資本と払込資本を利用して得られた成果を区分することが困難になり、また、資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金をその他資本剰余金に区分する意味がなくなる。したがって、本会計基準では、平成14年の公表時より、資本剰余金と利益剰余金を混同してはならない旨が定められている。
(2)準備金と剰余金の関係
 会社法では、株主総会の決議及び債権者保護手続を経て、減少の効力が生ずる日における準備金の額を上限とする準備金の額の減少が可能となった(会社法第448条)が、改正前会計基準では、資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金は、減額前の資本準備金の有していた会計上の性格が変わるわけではなく、資本性の剰余金の性格を有すると考えられるため、それらは資本剰余金であることを明確にした科目に表示することが適切と考えられ、減少の法的手続が完了したときに、その他資本剰余金に計上することが適切であるとしている(会社計算規則第50条第1項第2号)(脚注3)。
 一方、利益準備金はもともと留保利益を原資とするものであり、利益性の剰余金の性格を有するため、利益準備金の額の減少によって生ずる剰余金は、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)の増額項目とすることが適切であるとしている(会社計算規則第52条第1項第1号)。
 また、会社法では、剰余金の額を減少させて、準備金の額を増加させることができることとされた(会社法第451条)が、改正前会計基準では、これも資本剰余金と利益剰余金の混同を禁止する企業会計の原則を変えるものではなく、減少させる剰余金と同一区分の準備金の額を増加させることが適切と考えられるため、その他資本剰余金を原資として準備金の額を増加させる場合には、資本準備金の額を増加させることになり(会社計算規則第49条第1項第2号)(脚注4)、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)を原資として準備金の額を増加させる場合には、利益準備金の額を増加させることになるとしている(会社計算規則第51条第1項)。
 以上は、既に改正前会計基準において定められている内容であり、改正会計基準においても同様の定めがなされている。
(3)その他資本剰余金とその他利益剰余金の関係
① その他資本剰余金が負の残高の場合の取扱い

 改正会計基準では、自己株式の処分や消却に関わる会計処理の結果、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、会計期間末において、その他資本剰余金をゼロとし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額することとしている。改正前会計基準では、自己株式の処分に関わる会計処理の観点からのみ定められていたが、上述のとおり、自己株式を消却したときの消却原資について、優先的にその他資本剰余金から減額することを定めたことなどから、会計期間末においてその他資本剰余金の残高が負の値になった場合についての包括的な定めが設けられた。
 その他資本剰余金は、払込資本から配当規制の対象となる資本金及び資本準備金を控除した残額であり、払込資本の残高が負の値となることはあり得ない以上、払込資本の一項目として表示するその他資本剰余金について、負の残高を認めることは適当ではなく、このような場合には、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)で補てんするほかないと考えられ、それは資本剰余金と利益剰余金の混同にはあたらないとしている。
 なお、中間決算日又は会社法における臨時決算日(会社法第441条第1項)において、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、中間決算等において、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)で補てんすることとなるが、年度決算においては、中間決算等における処理を洗替処理することとなる(脚注5)。
② 利益剰余金が負の残高の場合の取扱い
 改正前会計基準では、資本剰余金と利益剰余金の混同の禁止の定めにより、その他資本剰余金のその他利益剰余金への振替は原則として認められないが、利益剰余金が全体で負の残高のときにその他資本剰余金で補てんするのは、資本剰余金と利益剰余金の混同にはあたらないとしている(脚注6)。もともと払込資本と留保利益の区分が問題になったのは、同じ時点で両者が正の値であるときに、両者の間で残高の一部又は全部を振り替えたり、一方に負担させるべき分を他方に負担させるようなケースであった。負の残高になった利益剰余金を、将来の利益を待たずにその他資本剰余金で補うのは、払込資本に生じている毀損を事実として認識するものであり、払込資本と留保利益の区分の問題にはあたらないと考えられるとしている。
 以上の考え方は、既に改正前会計基準において示されており、改正会計基準においても同様の考え方が示されているが、改正会計基準では、会社法において、株主総会の決議(定時株主総会に限られない。)により、剰余金の処分として、剰余金の計数の変更ができることとされた(会社法第452条)ため、会計上、その補てんの対象となる利益剰余金の額は、資本剰余金と利益剰余金の混同の禁止の観点から、年度決算時の負の残高に限られることが明記された。これは、期中において発生した利益剰余金の負の値を、その都度資本剰余金で補てんすることは、年度決算単位でみた場合、資本剰余金と利益剰余金の混同になることがあるからである。
 例えば、前期末の利益剰余金の残高が△10億円、上期でさらに△10億円増え、上期末の利益剰余金の残高が△20億円となった場合、会計上、振替可能な額は前期末の残高である△10億円が上限になるということである。この例で、仮に下期に利益が10億円計上されれば、期中の損益はゼロとなるので、上期末の利益剰余金の残高△20億円を全額補てんすることは適当ではないと考えられるからである。

3 自己株式の処分と新株の発行が同時に行われた場合の取扱い
 改正適用指針では、自己株式の処分と新株の発行が同時に行われた場合の増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定するとしている。これは、会社計算規則第37条において、募集株式を引き受ける者の募集を行う場合の株式会社の株主資本についての規定が設けられたことに伴う改正である。同条の趣旨は、資本剰余金やその他利益剰余金を減少させてまで(場合によっては、その他利益剰余金をマイナス表示してまで)、資本金等を増加させることは適切ではないということにある(脚注7)。したがって、上記の定めを新たに設けるとともに、設例を追加し、その会計処理を明確にしている。
 なお、自己株式の処分の会計処理をまとめると以下のとおりとなる。
(1)自己株式の処分のみが行われる場合
 ① 自己株式処分差益が生じる場合(払込金額100、自己株式の帳簿価額70)


 ② 自己株式処分差損が生じる場合(払込金額100、自己株式の帳簿価額130)

(2)自己株式の処分と新株の発行が同時に行われる場合
 ① 自己株式処分差益が生じる場合(払込金額100、自己株式の帳簿価額10)

  ・募集株式の数 100株(うち新株の発行は80株、自己株式の処分は20株)
  ・新株の発行に対応する払込金額は資本金に計上(資本準備金には計上しない)

(※1)資本金80=払込金額100×新株発行割合80%
(※2)その他資本剰余金10=(払込金額100×自己株式処分割合20%)-自己株式の帳簿価額10
 ② 自己株式処分差損が生じる場合(払込金額100、自己株式の帳簿価額30)
  ・募集株式の数 100株(うち新株の発行は80株、自己株式の処分は20株)
  ・新株の発行に対応する払込金額は資本金に計上(資本準備金には計上しない)

(※3)資本金70=(ア)-(イ)
  (ア)=払込金額100×新株発行割合80%=80
  (イ)=自己株式の帳簿価額30-(払込金額100×自己株式処分割合20%)=10
  ← 自己株式処分差損相当額

4 適用時期
 改正会計基準及び改正適用指針は、改正会計基準及び改正適用指針公表日以後、会社法の定めが適用される処理に関して適用される。ただし、改正会計基準及び改正適用指針公表日前において、会社法の定めが適用される処理に関して適用することができるとしている。
(いしかわ・かずまさ)

脚注
1 改正会計基準及び改正適用指針については、ASBJのホームページ(http://www.asb.or.jp/)を参照のこと。
2 郡谷大輔=和久友子編著、細川充=石井裕介著『会社法の計算詳解』(中央経済社、2006)222頁。
3 資本金の額の減少についても同様である(会社法第447条及び会社計算規則第50条第1項第1号)。
4 資本金の額の増加についても同様である(会社法第450条及び会社計算規則第48条第1項第2号)。
5 四半期報告制度が適用になった場合にも同様の処理が行われることになると考えられる。
6 例えば、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)は負の残高であるが、利益剰余金が全体で正の残高である場合に、当該その他利益剰余金(繰越利益剰余金)の負の残高の補てんのために、その他資本剰余金を振り替えることは禁じられる。
7 郡谷大輔=和久友子編著、細川充=石井裕介著『会社法の計算詳解』(中央経済社、2006)194頁。

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