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解説記事2006年10月16日 【ニュース特集】 特殊支配同族会社に係る損金不算入制度適用の分岐点(2006年10月16日号・№183)

税理士や匿名組合による株式保有の課税上のリスクを検証
特殊支配同族会社に係る損金不算入制度適用の分岐点


 18年度法人税法改正で創設された「特殊支配同族会社」の業務主宰役員給与に係る給与所得控除相当額の損金不算入制度(以下「損金不算入制度」)は、業務主宰役員等以外の者が株式を10%超保有していれば、適用を受けない(法法35条1項)。
 この規定の恩恵を受けた形での損金不算入制度の適用回避に関しては、「同族会社の行為計算否認が適用される」との“暴論”も一部にはみられるが、課税実務の場面でそこまで至ることは考えにくい。あくまでも、法人税法施行令72条4項に基づき、会社の株式の議決権を実質的に行使しているのが誰なのかによって、損金不算入制度の適用の有無を判断していくことになる。
 今回の特集では、かねてから税理士の間でも話題に上っている「税理士が10%超の株式を保有するケース」のほか、匿名組合による保有、従業員持株会による保有、ベンチャー・キャピタルによる保有について、それぞれ課税上のリスクを検討してみたい。

鍵を握る法人税法施行令72条第4項
 「特殊支配同族会社」とは、業務を主宰する役員およびその同族関係者等によって株式の90%以上が保有されている会社のことを指す。逆にいえば、「業務主宰役員及びその同族関係者等以外の者」が10%超の株式を保有していれば、「特殊支配同族会社」には該当しないことになり、損金不算入規定の適用を免れることなる(法法35条1項)。
 10%超の株式を税理士が保有するケースにせよ、匿名組合が保有するケースにせよ、問題の鍵を握るのが、法人税法施行令72条4項の規定。同規定は下記のとおりだ。
 つまり、仮に税理士等による10%超の株式の保有が、「業務主宰役員等の意思決定に従うこと」を前提にしたものである場合には、税理士等が保有する株式は業務主宰役員等が保有するものとみなされることになる。すなわち、この場合には、「業務主宰役員及びその同族関係者等以外の者」が10%超の株式を保有していることにはならず、すべての株式を業務主宰役員等が保有する「特殊支配同族会社」として、損金不算入制度の適用を受けることになる。
 以下、10%超の株式の保有者別に課税上のリスクを検証していきたい。

業務主宰役員
 平成18年度税制改正で創設された特殊支配同
族会社の役員給与の損金不算入規定(法法35条)
では、当該会社の「業務主宰役員」に対する給
与のうち一定額が損金不算入とされる。この業
務主宰役員とは、法人税法上「法人の業務を主
宰している役員」とされる(法法35条1項)。「業
務を主宰している」とは、「会社の経営に最も
中心的に関わっている」ことをいい、それは給
与の多寡のほか、銀行借入の名義人などによっ
て判断されることになると考えられる。

法人税法施行令72条4項
個人又は法人との間で当該個人又は法人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者がある場合には、当該者が有する議決権は当該個人又は法人が有するものとみなし、かつ、当該個人又は法人(当該議決権に係る会社の株主等であるものを除く。)は当該議決権に係る会社の株主等であるものとみなして、前二項の規定を適用する。

ケース1:税理士が10%超保有するケース
 損金不算入制度の創設以来、株式を10%超保有することを売りに、顧問先獲得の営業をする税理士も出現しているという。税理士による10%超の株式の保有が前記「業務主宰役員等の意思決定に従うこと」を前提としていないことを課税当局に認めてもらうためには、少なくとも、税理士に議決権を行使する意思があることが大前提となる。したがって、たとえば税理士が「白紙委任状」により議決権を放棄している場合や、税理士が株式を保有する際に実質的な対価のやり取りがないような場合(あるいは、株式購入資金を会社に出してもらっているような場合)には、「業務主宰役員等の意思決定に従うこと」が前提になっていると判断されたとしても仕方ないだろう。
 そもそも、税理士が顧問先の株式を保有する理由は、通常、「顧問先との関係強化」か、あるいは「顧問先を獲得したい場合」に集約される。これらはいずれも顧問先への友好的姿勢が前提となっており、「業務主宰役員等の意思決定に従うこと」が前提になっていると課税当局に判断されるリスクは否定できない。
 課税当局からは、「同族会社の経営の問題として、社長等が経営に関与されるリスクを犯してまで、第三者である税理士に株を持たせようとすること自体に不自然さがないわけではない」との声も聞かれる。特に、損金不算入制度創設後に税理士が株式を保有することになったケースは、課税当局の目を引きやすいといえる。
 一方、たとえば損金不算入制度の創設前から税理士が株式を保有していたケースや、株式公開を目指すベンチャー企業の税理士報酬として、現金の代わりに株式を支給されるケースなどは実際にあり、このようなケースについてまで課税当局が「業務主宰役員等の意思決定に従っている」と認定することは、立証という観点から容易なことではないといえよう。


ケース2:匿名組合が10%超保有するケース

 法人税法施行令72条4項は、形式上の議決権の行使者と実質上の議決権の行使者が異なる場合には、実質上の議決権の行使者が議決権を有しているものとみなして議決権割合の判定をするという趣旨の規定であるが、財務省の立法担当官により執筆された「ファイナンス別冊 平成18年度税制改正の解説」には、「株式の所有が組合形態で行われている場合で特定の組合員の意思により議決権が行使される旨の合意がある場合」にも同条同項の規定が適用されることが明記されている(同解説336頁参照)。
 左図のケースでは、匿名組合(営業者)が所有する11%の株式に係る議決権がオーナーの意思(=特定の組合員の意思)により行使されることは明らかであり、X社は、株式の議決権が100%オーナーにより行使される「特殊支配同族会社」に該当することになる。
 なお、株式の所有が信託形態で行われている場合で委託者または受益者の意思により議決権を行使する旨の合意がある場合、相互持合いで議決権の行使についてお互いの意に添うよう行使する旨の合意がある場合も、これと同様に取り扱われることになる(同解説336頁参照)。
 では、次頁の図のケースのように、オーナーが匿名組合に一切出資をしていない場合はどうだろう。オーナーが匿名組合に一切出資していない以上、匿名組合(営業者)が保有する11%の株式に係る議決権にオーナーの意思は一切及ばないようにみえ、X社は特殊支配同族会社の該当要件から外れるとも考えられる。
 しかし、本誌取材によると、このようなケースであっても、匿名組合(営業者)が保有する11%の株式について、オーナーの意思により議決権が行使される旨の合意があると認められる場合にはやはり法人税法72条4項が適用され、X社は特殊支配同族会社として、損金不算入制度の適用を免れないことが判明している。


ケース3:従業員持株会が10%超保有するケース
 中小同族会社においても従業員持株会を設けているところは少なくない。中小同族会社の株主総会に、株主である従業員が参加した場合、従業員という立場を離れ、純粋に「株主」として経営陣の意思に反する意見を述べるのは難しいという実情はあろう。この点からすれば、課税当局により「業務主宰役員等の意思決定に従うことが前提になっている」と判断される可能性を明確には否定できないが、そのことを課税当局が立証するのは簡単なことではないだろう。

ケース4:ベンチャー・キャピタルが10%超保有するケース
 ベンチャー・キャピタルは、株式の保有を背景に経営にも関与する“モノを言う株主”の典型といえる。したがって、通常は「業務主宰役員等の意思決定に従うことが前提になっている」と判断されるとは考えにくい。また、中小企業投資育成会社もその機能はベンチャー・キャピタルと同じであることから、同様の取扱いがなされることになろう。

まとめ
 これまで述べてきたケースのなかで、明らかに法人税法72条4項が適用されるのは、オーナーが100%出資した匿名組合(営業者)が10%超の株式を保有するケースである。それ以外のケースについては、オーナーが実質的な議決権の行使者であるかどうかを事実認定により判断することになるが、たとえば以下のような事実が書面等により残されている場合には、オーナーが実質的な議決権の行使者であると判断されることになろう。

・X社の株式11%の取得金が見せ金である
・オーナーによる買取請求に応じる
・オーナーに白紙委任状を渡す
・11%の株式について譲渡制限を付す


 これとは反対に、下記のような事実がある場合には、法人税法72条4項が適用されない可能性が高まるといえよう。
 ただし、法人税法72条4項の適用の有無は実質的に判断されるものであり、形式要件のみで判断されるものではない。したがって、下記の要件は法人税法72条4項が適用されるための必要条件ではあっても十分条件とはいえないので注意したい。

・11%の株式に譲渡制限が付されていない
・11%の議決権がオーナーとは関係なく、営業者独自により行使される
・営業者がオーナーと赤の他人である

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