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コラム2007年08月27日 【編集部レポート】 ブルドックソース買収防衛策に係る裁判所決定を読み解く(1)(2007年8月27日号・№224)

ブルドックソース買収防衛策に係る裁判所決定を読み解く(1)
当初申立段階における両者の主張は?

 text 編集部

 スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)、エル・ピー(SPJSF)は8月17日、関連法人・LSAMと合わせたブルドックソース(ブル社)株式の保有割合が10.15%から3.52%に低下したとする大量保有報告書を提出した。わが国で初めて発動された買収防衛策が最高裁において容認され(本誌223号12頁参照)、8月9日、一般株主には株式が、SPJSFらには金銭が交付されたことから、持株比率が変動した。

事件の経緯・関係者の概要  買収防衛策としての新株予約権無償割当ての差止めを求める一連の仮処分事件は、図表1のような経過を経て決着した。SPJSF側の公開買付け(TOB)は、8月9日に一般株主に交付された株式をも対象とし、8月23日まで継続される。
 仮処分事件では、図表2のような関係者が、ブル社に導入された買収防衛策を巡り、本件無償割当てが①株主平等原則に違反するか、②著しく不公正な方法によるものかを主に争った。
 しかし、各決定文で明らかにされている両者の主張をみると、さらなる争点について多岐にわたる主張がなされていたことがわかる。



仮処分命令申立て時の主張  SPJSFが差止仮処分を求めた東京地裁での主張は、(1)SPJSFに新株予約権の発行差止請求権があり(被保全権利の存在)、(2)差止めの必要性(保全の必要性)もあるというもので、(1)において図表3に掲げた争点1~4についての主張・理由を述べたうえ、「念のため明らかにする」と争点5を取り上げる構成(ブル社の主張をほぼ対応するように収載)。各主張に対し、裁判所はどう判断したかを引き続き次号以下で紹介する。

【図表3】東京地裁における両者の主な主張

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争 点
SPJSF
ブルドックソース
1 株主平等原則に違反するか 株主平等原則に違反する違法なものである(会社法247①)
① 新株予約権無償割当ては、会社が株主に対し、株主たる資格に基づき割り当てるもので、株主平等原則(会社法109Ⅰ、278Ⅱ)に従って平等に取り扱わなければならない(株式または新株予約権の第三者割当ての場合とは根本的に異なる)
② 本件割当ては特定の株主に対し、その属人性に着目して、行使条件および取得条項において著しく不利な新株予約権を割り当てるものである
③ 新株割当自由の原則は、支配権の変動が深刻な争いとなっていない通常の状態を前提とする
株主平等原則に反しない
(i) 新株予約権を取得または行使する権利はそれ自体株主としての権利の内容ではないから、行使に関して差別的な条件が設けられていてもそのことだけで株主平等原則に違反するものではなく、新株予約権の場合にどの程度株主平等原則の趣旨が及ぶかは、実質的な差別内容等に照らして、個別の事案ごとに判断しなければならない
(ii) 会社法では株主の持株比率は権利として保護されておらず、新株の発行(新株予約権の場合も同様)によって既存株主の持株比率が変動し得ることは法律上当然に想定されており、会社法278Ⅱは株主間の経済的平等を確保するための規定で持株比率の保護を規定したものではない
(iii) 本件割当ては株主平等原則上の株主の利害に関わる事項等を決議することが可能な株主総会の特別決議に基づくもので、その点に照らしても、持株比率の減少を根拠とする株主平等原則違反は成立する余地がない
(iv) 株主平等原則は、究極的には、会社・株主の最善の利益を実現するための会社法の原則の1つであり、株主の属性により差異を設けることが当該会社の企業価値の毀損を防止するために必要であれば、その差異は株主平等原則に反しない
(v) SPJSFらによる経営支配の獲得を阻止するために必要かつ十分な範囲でのみ実施されるもので、しかも、SPJSFらに一切の経済的不利益を生じさせないような配慮もなされている
2 株主総会決議に無効または取り消し得べき事由があり、定款に違反するか 無効または取り消し得べき事由があり、定款に違反する(会社法247①)  
(1)「著しく不当な決議」に該当するか 「著しく不当な決議」(会社法831Ⅰ③)に該当する
① 本件割当てにより持株比率は著しく低減し、発言力を大幅に失う
② 対価396円の支払いについて何ら法的拘束力のある約束はなされていないほか、「396円」が新株予約権の価値を大きく上回る場合には会社法120Ⅰで禁止される利益供与に該当するという疑いを受けるなどの可能性があり、また、新株予約権の本来の時価は何人にとっても予測不可能であるにもかかわらず価格は総会決議により固定されているために適正な対価が提供されるとはいい得ないことに加え、この価格に不満があったとしても、株式買取請求やそれに伴う株式の価格決定の申立て(会社法786Ⅱ等)のような不服の申立てができないなど経済的損害を蒙る
③ 団体の構成員の一部に不利益を課す場合には手続・要件につき予め告知する必要があるが、本件では事前に何ら告知もなく、団体における内部自治の限界を超えるものである

 

※ 上記1欄参照

SPJSFらには何らの経済的損害が生じない
(i) 6月24日の取締役会では仮に税務当局からの回答により取得条項に基づき取得できない場合であっても396円で譲渡を受けることを決議しており、SPJSFは自ら機会を放棄しない限り支払いを確実に受けられる
(ii) 「396円」は権利行使できないことの実質的な補償であり、その支払いは取締役らの善管注意義務違反等に該当せず、また、株主の権利行使との直接の関連性はなく「財産上の利益」もないから利益供与にも該当しない
(iii) 「396円」はSPJSFらが定めた価格に基づき決定された適正な対価であって何らの損害も生じないほか、取得コストを上回り、また、その保有株の4分の3(約7.5%)を平成19年5月16日までの約1か月間の終値平均より約18%上回る価格ですべて譲渡できるので、経済的利益を得る
(iv) SPJSFはタックス・ヘイブンとして有名なケイマン諸島に本拠を置くリミテッド・パートナーシップで、日本の祖税法の適用上、課税の負担が生じることはなく、また、海外で課税が生じることも考えられない(そもそも利益に応じて納税することは当然のことで、それをもって「税務上の著しい不利益」ということはできない)
(v) 本件新株予約権は、取締役会の承認を得てSPJSFらから非適格者以外の第三者に譲渡された場合には当該第三者において行使可能な設計となっており、取締役会は企業価値ひいては株主共同の利益に照らして不適切な者でない限りこれを承認することに何ら異存はなく、この意味においても投資資金を回収する手段がある

(2)本件議案につき一般株主は特別利害関係者に該当するか 特別利害関係者に該当する
○ SPJSFの蒙る不利益は、裏を返せば一般株主が利益を享受することになり、本件議案が成立すれば自らへの利益移転があること(少なくとも「期待できる」こと)を認識したうえで議決権を行使する
特別利害関係者に該当しない
(i) 本件割当てによりSPJSFらには何らの経済的損害も発生せず、むしろ持株の4分の3について市場売却による値下がりリスクなしに投下資本の回収ができるという利益を得る一方、一般株主は対価を請求できず、むしろ本件割当てによりSPJSFらの意図が挫かれれば株価が下がることが予想されるなど経済的利益を得ないから、会社との利益相反関係は存在しない
(ii) SPJSFらに議決権比率の低下が生じるとしても、それをもって一般株主が特別利害関係者であるとされたり、総会決議が多数決の濫用に当たるとされるものでないことは最高裁昭和42年3月14日判決および東京地裁平成16年10月14日判決が明示している
(iii) 本件割当ての結果として会社法上重要な意義が認められる議決権比率(たとえば3分の1)を有する株主の変動は生じない
(3)多数決の濫用による決議か 多数決の濫用に該当する
① 本件割当ての結果、持株比率の低下、経済的損害という不利益を蒙り、SPJSFの税負担についてはまったく配慮されていないなどの点に照らすと、本件決議は客観的にみて著しく不公正な決議であり、一部の株主のみに著しい損害を与えるもので、多数決の濫用に該当する
② 多数決の濫用による総会決議は無効または取り消し得べき事由があると解される(会社法831Ⅰ③類推)

 

※ 上記2(1)欄、(2)欄参照

3 「著しく不公正な方法」によるものか 著しく不公正な方法(会社法247②)による新株予約権の発行に該当する
① SPVⅡが全部取得を企図してTOBを行っている一方で取締役会がこれに反対して防衛しようとしている状況は、正に「経営支配権に現に争いが生じている場合」に該当する
② 本件割当てはSPJSFグループの持株比率を大幅に希釈化させることのみを目的とするものである
TOBへの対応策として十分に相当性を有するもので、「著しく不公正」なものではない
(i) 本件割当ての基準日は、当初のTOB期間の末日(平成19年6月28日)および当初の決済開始日(7月6日)より後の日(7月10日)に設定されるなど、SPJSFらの行うTOBを阻害しないように設計され、SPJSFらによるTOB期間の延長後も、早い段階での新株予約権の取得を行うことで阻害しないことが見込まれるようにしている(全株式の取得という目的達成が不可能になったとしても、その事態は自ら招いたものにすぎない)
(ii) 仮に取得を行えない場合に基準日時点の一般株主が受けることになる投下資本回収の制約は、かかる不利益の存在を予め示されたうえで株主総会が特別決議で決定したこと、当該決議に不満のある株主は基準日までの間に市場で売却すれば資本回収が可能であること、資本回収が制限される期間は最長でも約1か月半であって相当性の範囲内であることから、一般株主の不利益は受忍限度を超えるものではない
(iii) 上記(i)(ii)のほか、支配権取得が会社に回復し難い損害をもたらすことから一種の緊急避難行為として講じた対抗手段である、本件割当ては定款変更により権限委譲を受けた株主総会の特別決議に基づき実施される、SPJSFらに経済的損害が生じない、証取法の手続に則って真摯な質問を行うなどし、その回答等を慎重に分析・検討したうえで本件割当てを株主総会に付議するに至っているなど
4 SPJSFが甚大な「不利益を受けるおそれがある」か SPJSFが不利益を受けるおそれがある(会社法247柱書)
① 本件割当てにより持分割合は大幅に希釈化され、議決権ベースで10.52%の株式を保有する筆頭株主の地位も失われる
② 仮に対価396円が交付される場合であっても、上記2欄のとおり、SPJSFグループに経済的損害および不利益が生じる

 

※ 上記1欄参照

※ 上記2(1)欄、(2)欄参照

5 本件割当てに必要性および相当性があるか 本件割当てには必要性が認められない
① SPJSFグループの投資方針は、原則として経営を経営陣に委ね、取締役の選解任権等を通じて適宜経営陣を監視するという所有と経営の分離の原則に沿う、合理的かつ正当なものである
② これまでの投資行動を検討すれば、グリーンメーラーでないことは明白である
③ テレビ会議の開催要請を何度も行うなど真摯にブル社との交渉に当たったほか、適切に情報開示を行ってきた
本件割当てには相当性も認められない
①' 本件割当てには不利益を受けるSPJSFの同意が必要であるうえ、本件割当ては株主総会の特別決議により決定するものであるから機関権限の分配に従うものであり、よって相当性を有するなどという主張は論理的でなく、失当である
②' 本件割当てのために株主は保有する全株についてTOBに応募したいと考えても現実にはその4分の1しか応募できず、株主の合理的な投資判断に基づく売却の機会を強制的に奪うものとなっており、証券取引法の趣旨に反し、許されない
③' 一般株主に税務上の不利益を与える可能性がある
④' 買収防衛策という不利益を課するための要件となる準則の事前策定や実質的理由も手続的公正性もなく、有事導入の買収防衛策としての相当性を欠く

本件割当てには必要性が認められる
(i) SPJSFらによるTOBは「あくまでも証券売買による利益を得ることを目的」とするもので、ニッポン放送事件東京高裁決定において例示されたグリーンメイラー(第1要件)の「真に会社経営に参加する意思がない」という要件を明白に充足するほか、過去の企業買収における手法は、典型的なグリーンメイラーの手法そのものである
(ii) 本件手法も明星食品に対する手法と多くの点で類似し、ブル社の支配権を握れば企業価値ないし株主共同の利益が毀損されることが明らかである
(iii) 当初設定されたTOB価格は日本の過去の類似案件に比べてその水準が著しく低いが、これも、ブル社経営陣にホワイト・ナイトを探索させるなどして、保有株式を高値で売り抜けることを目的としていることの表れである
(iv) SPJSFは2年前にブル社にMBOを打診して株式の売抜けを図っており、本件TOBも事前の連絡もないまま突然開始するなど、信頼関係を築こうとする意思をまったく有しないことは明らかである

※ 相当性につき、上記3欄参照
加えて、
(i) 本件議案は総株主の議決権の約94%を有する株主が出席し、出席株主の議決権の約88.7%(総議決権の約83.4%)の賛成により承認可決されている
(ii) 本件割当ては取締役会が特定の第三者のみに新株予約権を割り当てたニッポン放送事件とはまったく異なり、まず定款変更により割当権限を株主総会に委譲したうえで、全株主に対して割り当てられ、一般株主は現経営陣を支持しているか否かを問わず普通株式を取得できるもので、取締役(会)が株主構成を変更するものではなく、会社法の定める権限分配の基本に完全に合致している
(iii) 特段の支配株主がいるわけでもないなかで、SPJSFら以外の株主のほぼすべてが賛成したのは、長い間、経営陣の選任を通じて間接的に経営してきたといえる多数の株主が、SPJSFらに経営権を握らせることが会社全体の利益および株主共同の利益に反することを認めたものにほかならず、かかる株主の意思・判断は何よりも尊重されるべきである