解説記事2010年01月18日 【最新判決研究】 留学中役員の報酬等と役員分掌変更に伴う退職慰労金の損金性(下)(2010年1月18日号・№338)
最新判決研究
留学中役員の報酬等と役員分掌変更に伴う退職慰労金の損金性(下)
品川芳宣
早稲田大学大学院教授
長崎地裁平成19年(行ウ)第12号
平成21年3月10日判決
四、解説
はじめに
平成18年改正前の法人税法においては、役員に対して支給した報酬等の給与が損金不算入とされるのは、当該報酬等が、①不相当に高額であること、②事実を隠ぺいし、又は仮装して経理して支給していること、③役員賞与に該当すること、④損金経理していないこと(役員退職給与に限る。)、⑤当該役員に支給したものと認められないこと(寄附金に該当すること)又は⑥同族会社等の行為計算の否認規定が適用されること、が挙げられる。これらの損金不算入事由のうち、①、⑤及び⑥については、従業員給与の損金不算入についても共通している。また、平成18年改正後においても、①、②、⑤又は⑥については、共通しており、④については、役員報酬の一部について適用されている。更に、このような損金不算入に関連し、当該報酬等を支払った法人(源泉徴収義務者)に対して、所得税法上の所得区分の違い等により当該役員等に係る所得税について新たな源泉徴収義務が生じることになる。
本件においては、X会社の代表者である甲の長男乙に対して支給した従業員給与及び役員報酬(本件給与・報酬)について同族会社等の行為計算の否認規定(法法132①)を適用して損金不算入とし得るか否か、甲の妻丙に対して丙の取締役辞任の際に支給した役員退職給与(本件退職金)が役員賞与として損金不算入となるか否かが争われたものである。その点では、前記損金不算入事由の③と⑥に該当するか否かが問題となっているものである。
このような役員報酬等の損金性の問題については、法人税法の平成18年改正の前後において共通部分とそうでない部分もあるので、当該改正前後の内容を整理した上で、本件給与・報酬及び本件退職金の損金性について検討することとする。
1 役員報酬等の損金規制の変遷
(1)平成18年改正前の法人税法における役員報酬等の損金規制については、役員報酬、役員賞与及び役員退職給与ごとに定められていた(注1)。まず、役員報酬については、不相当に高額な部分の金額及び事実を隠ぺい仮装して経理したものを損金不算入としていた(同法法34)。この規定の限りでは、本件給与・報酬が損金不算入となることはないが、それが故に、同族会社等の行為計算の否認規定が適用されることになった。
また、役員賞与については、原則として、損金不算入とし、使用人兼務役員に対する使用人部分の賞与について、損金経理をして他の使用人に対する支給時期に支払った場合のみ、損金算入を認めていた(同法法35)。この場合に問題となるのが賞与の意義であり、かつ、報酬又は退職給与と賞与との区分である。当時の法人税法35条4項は、「賞与とは、役員又は使用人に対する臨時的な給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう。」と定めていた。また、「定期の給与」とは、あらかじめ定められた支給基準に基づいて、毎日、毎週、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反覆又は継続して支給される給与をいうものと取り扱われていた(旧法基通9-2-13)。かくして、本件退職金については、後述する退職給与に該当しないということであれば臨時的な給与であるということで、役員賞与として損金不算入となる。
次に、役員退職給与については、支給した事業年度において損金経理をしなかった金額及び損金経理をした金額で不相当に高額な部分の金額が損金不算入とされていた(同法法36)。この場合にも、何が「退職給与」に該当するかが問題となり、本件退職金についてもそれが問題となっている。このことは、現行法においても同じである。
(2)前述のような役員報酬等の損金規制は、平成17年の会社法制定及び同年の企業会計基準委員会による「役員賞与に関する会計基準」の制定によって役員賞与の費用処理が明確にされたことを契機に、平成18年度税制改正で大幅に改正されることになった(注2)。
かくして、現行の法人税法34条は、「役員給与の損金不算入」と題し、まず、次の①から③までに掲げる給与に該当しないものを損金不算入としている(注3)。
① 定期同額給与 その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与で、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるもの
② 事前確定届出給与 その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与で、あらかじめ所轄税務署長に届け出ているもの
③ 利益連動給与 同族会社に該当しない内国法人がその業務執行役員に対して支給する利益に連動する給与で、所定の要件を備えているもの
また、現行法では、そのほかの損金規制として、前記の①から③までに該当するものであっても不相当に高額な部分の金額、事実を隠ぺいし又は仮装して経理することにより役員に支給する給与及び役員退職給与のうち不相当の高額な部分の金額については、損金不算入としている(法法34①~③)。そのほか、特殊支配同族会社の業務主宰役員に対する給与のうち、所得税法上の給与所得控除額相当額が、損金不算入とされている(法法35)。
以上のような現行法における役員給与の損金規制下においても、本件給与・報酬及び本件退職金の損金不算入問題が、本件で議論されていることと同じ問題が提起されることになる。
2 本件給与・報酬の損金性
(1)本件給与・報酬は、前述したように、X会社の代表者甲の長男である乙が、X会社の使用人又は取締役として同社に在籍又は在任していた期間に対応して支給されたものである。その額は、1期(年間)240万円から275万円余程度であるから、非常勤役員に対して支給される程度のものと考えれば、課税上もさほど問題にする必要もないとも考えられる。
しかしながら、乙は、その使用人又は取締役の在勤(在任)中アメリカ等へ留学中であり、その間月に1回程度現地の状況等をまとめたレポートを提出し、年に10日前後帰国し、その際に取締役会に出席し、その他は取締役会の持ち回り決議に回答票を送付していたというものである。また、本件給与・報酬は、乙の海外口座ではなく、国内口座に振り込まれており、その金員を乙に対し、甲又は丙が乙が使用人となる前と同様な方法により生活費として送金していたというものである。
かくして、本件給与・報酬は、その金額は乙のX会社に対する役務提供の対価として相当ではないと考えられるが、そうであれば、当該金員の一部又は全部の損金不算入の方法としては、冒頭で述べたように、①不相当に高額である、とも、②甲に支給すべきものを仮装して乙に支給したもの、とも、③寄附金に該当する、とも、あるいは、④同族会社等の行為計算の否認の対象になる、とも考えられる。
かくして、本判決は、「乙に対する本件給与・報酬の支給は、その金額が、X会社が同族会社であり、乙が甲の子であることから可能であったということができ、これをX会社の所得の計算上損金として認めることは、純経済人の行為として不自然、かつ不合理な行為又は計算であって、それによってX会社の法人税の負担が減少するといわざるをえない。」と判示し、同族会社等の行為計算の否認規定(法法132)を適用して、その金額の損金性を否認した。
(2)本判決が同族会社等の行為計算の否認規定を適用した背景には、本件に類似する事案について同族会社等の行為計算の否認規定を適用した先例がある。すなわち、東京地裁平成8年11月29日判決(判例時報1602号56頁)、東京高裁平成10年4月28日判決(税資231号866頁)及び最高裁平成11年1月29日第三小法廷判決(同240号407頁)(注4)が、そうである。
この事案では、不動産の売買、遊戯場の経営等を目的とする同族会社の昭和62・63事業年度分法人税について、同社の代表取締役の三男、四男及び長女が取締役又は監査役に就任していたものの高校生等としてアメリカに留学していたところ、各人に月額20万円の役員報酬を支給した場合に、当該役員報酬の損金性が問題となった。被告税務署長は、当初、当該役員報酬は実質的には代表取締役に支給したものと認定し、不相当に高額な役員報酬に当たるものとして損金算入を否認する課税処分をした。ところが、当該事案の訴訟審理中に、当該役員報酬の支給方法からみて当該役員報酬が三男、四男及び長女に帰属していると認定されそうになったので、被告は、課税処分時の理由を変更して、同族会社等の行為計算の否認規定を援用して当該役員報酬の損金性を否認し得ると主張した(注5)。
かくして、前掲の東京地裁判決は、「税法上三男らが取締役等に選任されていたことを前提としても、原告会社程度の規模を擁する株式会社において、三男らの年令、就学状況、居住状況等に照らし、実質的に業務に参画することがない三男らに対し本件役員報酬を支払うことは、その全額について純経済人の行為としては不合理かつ不自然な行為又は計算といわざるを得ず、本件役員報酬を損金の額に算入することは、原告会社の法人税負担を不当に減少させるものというほかない。したがって、被告が同族会社等の行為計算の否認規定を適用して本件役員報酬の損金算入を否認したことは適法である。」旨を判示した。そして、前掲の東京高裁判決及び最高裁判決とも、一審判決を支持した。
以上のように、就学中の取締役等の役員に対して報酬を支給した場合には、何らかの役務提供が行われていれば、役員報酬が不相当に高額であるということで一部損金不算入という処分になろうが、同族会社等の行為計算の否認規定が適用されるとその全額が損金不算入となることについて留意する必要がある。もちろん、そのような就学(留学)が職務上の要請による場合には、その損金性がすべて否定されることはないであろうから、本判決においても、X会社における他の従業員の留学状況との比較が行われており、本件給与・報酬の支給の異常性を指摘している。
3 本件退職金の損金性
(1)本件退職金は、前述したように、X会社の代表取締役甲の妻である丙が、昭和56年5月以降X会社(当時はX有限会社)の取締役を務め、平成16年6月25日に取締役を退任して監査役に就任した際に支払われたものである。これについて、Y税務署長は、本件退職金が役員賞与(所得税法上の給与所得)に当たるとして、その損金性を否認する更正処分と源泉所得税についての納税の告知をしたというものである。
法人が役員に対して支給した退職慰労金が法人税法上の「退職給与」に該当するか否かは、本来、法人税法上の解釈問題であるが、「退職給与」に該当しなければ所得税法上の給与所得に該当するということで源泉所得税の課税問題(納税の告知)を惹起するので、「退職給与」の該当性は所得税法上の「退職所得」の意義についての解釈に依拠することになる。
(2)所得税法上、「退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(<略>)に係る所得をいう。」(所法30①)と定められている。また、この条項の解釈については、判例法上確立している。すなわち、最高裁昭和58年9月9日第二小法廷判決(民集37巻7号962頁)(注6)は、従業員の勤務年数を5年間で打ち切ることとし、就職後5年ごとに退職金を支給し、その後本人の希望により同じ条件で勤務できる場合に、当該退職金が給与所得に当たるか退職所得に当たるかが争われた事案につき、次のように判示して、当該事案においては勤務関係の終了がないから、当該退職金は、退職所得に当たらない旨判示している。
「ある金員が、右規定にいう「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」にあたるというためには、それが(1)退職すなわち勤務関係の終了という事実によってはじめて給付されること、(2)従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、(3)一時金として支払われること、との要件を備えることが必要であり、また、右規定にいう「これらの性質を有する給与」にあたるというためには、それが、形式的には右の各要件のすべてを備えていなくても、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、右「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解すべきである。」
また、最高裁昭和58年12月6日第三小法廷判決(税資134号308頁)も、10年退職制に基づいて10年ごとに支払われる退職金名義の金員につき、下級審判決(注7)が退職所得に当たると判示したにもかかわらず、給与所得に当たる旨を判示している。
(3)このように、ある金員が退職所得に当たるか否かは、判例上厳格に解釈されている。しかし、退職金支給の慣行においては、本件のように、厳密には「勤務関係の終了」に当たらない場合にも、退職金が支払われる場合がある。そこで、所得税基本通達及び法人税基本通達とも、前述のような場合に、その実態に応じて限定的に退職所得又は退職給与として取り扱うこととしている(所基通30-2、30-2の2、法基通9-2-32、9-2-35、9-2-36、9-2-37、9-2-38等参照)。
本件に即する取扱いについては、次のようになっている。
(所得税基本通達30-2(3))
「(3)役員の分掌変更等により、例えば、常勤役員が非常勤役員(常時勤務していない者であっても代表権を有するもの及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められるものを除く。)になったこと、分掌変更等の後における報酬が激減(おおむね50%以上減少)したことなどで、その職務の内容又はその地位が激変した者に対し、当該分掌変更等の前における役員であった勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与」
(法人税基本通達9-2-32(抄))
「9-2-32 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があつたことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。
(1)常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2)取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件のすべてを満たしている者を除く。)になったこと。
(3)分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。」
なお、平成19年の通達改正前は、法人税基本通達9-2-23(本件通達)が上記と同様な取扱いを定めており、本件においては同通達の適用の是非が問題となった。
(4)本件においては、丙が延べ23年間務めていた取締役を退任して監査役に就任した際に本件退職金が支給されたのであるが、国は、本件退職金が退職給与(退職所得)に当たらない理由として、丙が法人税法上の役員を退職していないこと、丙がX会社の発行済株式の100%を支配している株主グループに属し、同社の経営の中枢にあること、監査役に就任したとはいえその地位又は職務は取締役時代と激変したとは認め難いこと、監査役就任後も従前と同額の報酬を得ていること等から、本件通達は適用できない旨主張した。
これに対し、本判決は、本件通達が退職給与として支給した給与を法人税法上の退職給与として取り扱うことができる場合として掲げている事実は例示であって本件退職金を退職給与に当たらない理由にはならないとした上で、丙の勤務状況、丙の報酬の支給の変遷、監査役就任の法的意義等を総合的に考察した結果、「丙が取締役を退任し、監査役に就任したことによって、その役員としての地位及び職務の内容が激変し、退任後も原告の経営上主要な地位を占めているとは認められず、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる。」と判示し、本件退職金が退職給与(退職所得)に当たると判断した。
本件においては、本件通達を形式的(文言どおりに)に適用すれば、本件退職金を退職給与に当たらないとする課税処分を導くことになろうが、本件退職金が丙の23年間に渡る取締役の勤務の終了によって支払われていること、丙の勤務状況等からみて再び取締役時代を通算した退職慰労金の支給があるとは認め難いこと、監査役就任時の報酬が従前と変わらないとしても、取締役としての勤務内容の変化に応じて遂次減額され最高額の5分の1になっていて監査役の報酬としても高額であるとは認め難いこと等を考察すると、本判決の実質判断の方が妥当であると考えられる。そのためか、本判決は、国側も控訴せず確定している。
(5)なお、本件のような退職給与の打切り支給が訴訟で争われた最近の事例としては、次のようなものがある。まず、京都地裁平成18年2月10日判決(平成16年(行ウ)第34号)(注8)では、代表取締役から取締役へ異動した者と取締役から監査役へ異動した者の両名(いずれも、異動後報酬は50%以上減額)に支給した退職慰労金名義の金員が、両名が異動後も職務内容が実質的に変動していないとして、役員賞与に当たると認定されている。
また、大阪地裁平成20年2月29日判決(平成17年(行ウ)第236号)(注9)では、使用人が執行役に就任した際に支給された退職金名義の金員が退職所得に当たるとして、給与所得に当たるとした課税処分を取り消している。この控訴審である大阪高裁平成20年9月11日判決も、原判決を支持している。
更に、大阪地裁平成20年2月29日判決(平成17年(行ウ)第102号)では、学校法人の高等学校長から大学学長へ就任した際に支払われた退職金名義の金員について、同人が勤続52年で74歳という高齢であったこともあって、退職所得に当たると判断している。この場合に、国側も控訴していない。
4 本判決の意義と問題点
(1)以上のように、本件においては、1つは、同族会社の使用人でその後取締役に就任した乙(アメリカに留学中で、会社代表者の長男)に対して支給した給与及び報酬(本件給与・報酬)の損金性が争点となり、もう1つは、同社の代表者の妻丙が取締役から監査役へ分掌変更した際に支払われた役員退職慰労金(本件退職金)の損金性が争点となったものである。
前者については、乙が留学中にも定期的に報告書を提出し、形式的には取締役会の決議に参加していたわけであるから、全く役務提供がなかったわけではなく、何らかの対価性もあったことであろうが、本件各更正においては、同族会社等の行為計算の否認規定が適用され、その全額の損金算入が否定され、本判決も、当該処分を適法と認めた。
このように、会社代表者の子息を取締役等に就任させ、留学中であっても役員報酬が支払われ、当該役員報酬の金額について同族会社の行為計算の否認規定が適用されてその全額が損金不算入とされたことには前例がある(前掲東京地裁平成8年11月29日判決等)。本判決は、その前例を踏襲した裁判例であるといえる。
(2)後者の本件退職金の損金性については、前述したように、最近、何件かの類似の事案が見受けられる。それらの事案と本件と類似する点は、いずれも、前掲最高裁昭和58年9月9日判決が判示するような「勤務関係の終了」が厳密には認められない場合に、その実態に応じて退職給与又は退職所得として取り扱っている国税庁の通達の射程範囲について争われたところにある。
前掲した各裁判例においては、当該通達適用を認めたものと認めなかったものとに分かれるが、本判決は前者に属することになる。本件を含めてその適用を認めて退職給与又は退職所得を認めた事例に共通することは、当該退職金名義の金員が当該受給者が使用人又は役員として当該会社における長年の役務提供に対価としての退職金の精算払いであり、かつ、その後再び同様な退職金名義の金員が支払われることが見込まれないことが窺われる。そうであれば、当該金員を退職給与又は退職所得として課税しても、当該課税制度の趣旨に適うものと考えられる。いずれにしても、本判決は、前掲京都地裁平成一八年二月一〇日判決とは違って、役員の分掌変更に伴って退職金名義で支給された金員を退職給与(退職所得)と認定した注目すべき事例として評価されよう。(しながわ・よしのぶ)
(注1)平成18年改正前の役員報酬等の損金規制の要点と問題点については、品川芳宣「役員報酬課税の問題点と方向性」JICPAジャーナル18巻2号39頁、同「役員給与課税の本質を衝く!(前)」本誌254号27頁、同「同前(後)」255号24頁、同「会社法と租税法の交錯─役員報酬と役員給与課税の関係」本庄資編『関連法領域の変容と租税法の対応』(財経詳報社、平成20年)1頁等参照。
(注2)これらの詳細については、前出(注1)「役員給与課税の本質を衝く!(前)」28頁等参照。
(注3)現行法の役員給与課税の問題点については、前出(注1)「役員給与課税の本質を衝く!(後)」26頁等参照。
(注4)これらの判決の内容と問題点については、品川芳宣『重要租税判決の実務研究 増補改訂版』(大蔵財務協会、平成17年)320頁等参照。
(注5)更正又は決定の特例である同族会社等の行為計算の否認規定を訴訟審理中に適用し得るかについては、疑問が残る(詳細については、前出(注4)参照)。
(注6)同判決については、月刊税務事例創刊400号記念『戦後重要租税判例の再検証』(財経詳報社、平成15年)8頁、117頁参照。
(注7)大阪地裁昭和52年2月25日判決(訟務月報23巻3号581頁)及び大阪高裁昭和53年12月25日判決(同25巻5号1439頁)。
(注8)同判決については、品川芳宣「同判決評釈」TKC税研情報2006年12月1日号42頁、同・本誌185号19頁等参照。
(注9)同判決については、品川芳宣「同判決評釈」TKC税研情報2008年8月1日号194頁、同・本誌265号14頁等参照。
品川芳宣(しながわよしのぶ)
国税庁審理課課長補佐、東京地裁調査官、税務大学校教育二部長、国税庁資産評価企画官、同徴収課長、同管理課長、高松国税局長などを経て、平成7年筑波大学教授。平成17年早稲田大学大学院客員教授(専任)、筑波大学名誉教授、税務大学校客員教授。弁護士
【主要著書】
『課税所得と企業利益』(税務研究会)、『役員給与税務事例集』(商事法務研究会)、『役員報酬の法律と実務』(同)、『附帯税の事例研究』(財経詳報社)、『法人税の判例』(ぎょうせい)、『相続税財産評価の論点』(同)、『重要租税判決の実務研究・増補改訂版』(大蔵財務協会)、『役員報酬の税務事例研究』(財経詳報社)、『租税法律主義と税務通達』(ぎょうせい)、『徹底解明相続税財産評価の理論と実践』(同)他多数。
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