解説記事2010年01月25日 【会計基準等解説】 企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」について(2010年1月25日号・№339)
実務解説
企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」について
企業会計基準委員会 専門研究員 市原順二
Ⅰ.はじめに
企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、「本会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(以下、「本適用指針」という。)を平成21年12月4日付で公表している(脚注1)。
ASBJでは、会計基準の国際的なコンバージェンスの取組みを進めるにあたり、国際的な会計基準で見られるような、会計方針の変更、表示方法の変更及び誤謬の訂正が行われた場合の、過去の財務諸表の遡及処理に関する取扱いや会計上の見積りの変更に関する取扱いについて審議を重ねてきた。本会計基準及び本適用指針は、平成21年4月に公開草案を公表し、寄せられた意見を参考に審議を行い、その内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。
ここでは、本会計基準及び本適用指針の概要を紹介するが、文中の意見にわたる部分は私見であることをあらかじめお断りしておく。
Ⅱ.適用範囲
本会計基準は、会計上の変更(会計方針の変更、表示方法の変更及び会計上の見積りの変更をいう。)及び過去の誤謬の訂正に関する会計処理及び開示について適用する(基準第3項)(図表1参照)。また、本会計基準のすべての項目について、財務諸表利用者の意思決定への影響に照らした重要性が考慮される(基準第35項)。
なお、本会計基準は、連結財務諸表及び個別財務諸表のいずれにも適用されるものであるが、注記については、公開草案に寄せられた意見を踏まえ、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同一である場合等について一部簡略化した取扱いを設けている(基準第10項から第12項及び第16項)。
Ⅲ.会計方針の変更の取扱い
1.会計方針の変更の定義と分類 「会計方針」とは、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続をいう(基準第4項(1))。我が国ではこれまで一般に、会計方針とは、財務諸表作成にあたって採用している会計処理の原則及び手続並びに表示方法その他財務諸表作成のための基本となる事項を指す(企業会計原則注解(注1-2))とされ、会計処理の原則及び手続のみならず、表示方法を包括する概念であるとされてきた。しかし、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点も踏まえ、これらと可能な限り整合する形に会計方針の定義を見直し、会計方針から表示方法を切り離して定義することとした(基準第36項及び第37項)。「表示方法」の定義については、Ⅳを参照されたい。
また、「会計方針の変更」は、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することとされ(基準第4項(5))、これは、①会計基準等(脚注2)の改正に伴う会計方針の変更の場合と、②①以外の正当な理由による会計方針の変更(いわゆる自発的な会計方針の変更)の2つに分類されている。
①の会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合とは、会計基準等の改正によって特定の会計処理の原則及び手続が強制される場合や、従来認められていた会計処理の原則及び手続を任意に選択する余地がなくなる場合など、会計基準等の改正に伴って会計方針の変更を行うことをいう。会計基準等の改正には、既存の会計基準等の改正又は廃止のほか、新たな会計基準等の設定が含まれる。また、会計基準等に早期適用の取扱いが定められており、これを適用する場合も、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われる(基準第5項)。
②のいわゆる自発的な会計方針の変更は、正当な理由を伴うことを前提としているものであるが、この「正当な理由」がある場合とは、以下の要件が満たされている場合としている(指針第6項)。
●会計方針の変更が企業の事業内容又は企業内外の経営環境の変化に対応して行われるものであること
●会計方針の変更が会計事象等を財務諸表に、より適切に反映するために行われるものであること
上記以外にも、変更後の会計処理が類似の会計事象に対して適用されている会計処理と首尾一貫したものであることにも留意する必要があるとしている。なお、これらは、従来の監査委員会報告第78号「正当な理由による会計方針の変更」に掲げられている判断の指針を参考に示しているものであり、従来の実務の取扱いを変更することを意図するものではない(指針第17項)。
なお、我が国の従来の取扱いと同様に、次の事象は会計方針の変更に該当しないとしている(指針第8項)。
●会計処理の対象となる会計事象等の重要性が増したことに伴う本来の会計処理の原則及び手続への変更
●会計処理の対象となる新たな事実の発生に伴う新たな会計処理の原則及び手続の採用
●連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項のうち、連結又は持分法の適用の範囲に関する変動
2.会計方針の変更に関する原則的な取扱い 我が国の従来の取扱いでは、過去の財務諸表に新しい会計方針を遡及適用し、これを開示することは求めていないが、国際的な会計基準では、会計方針の変更に関し、新たに適用された会計基準等に経過規定がない場合や自発的な会計方針の変更の場合、原則として遡及適用することを求めている。
検討の結果、会計方針の変更を行った場合に過去の財務諸表に対して新しい会計方針を遡及適用すれば、財務諸表全般についての比較可能性が向上し、情報の有用性が高まることが期待されることから、国際的な会計基準と同様に、会計方針の変更が行われた場合には、原則として、変更後の会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとしている(基準第6項及び第46項)。
具体的には、次の処理を行う(基準第7項)。
① 表示期間(脚注3)より前の期間に関する遡及適用による累積的影響額は、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映する。
② 表示する過去の各期間の財務諸表には、当該各期間の影響額を反映する。
ただし、会計基準等の改正時における会計方針の変更に遡及適用を求めることが適当かどうかについては、遡及適用によってもたらされる過去の期間に関する情報の有用性と、遡及適用を行う際に伴う見積りの要素の度合や、遡及適用を行うために必要とされる情報収集等に係る負担との関係を考慮する必要がある。このため、国際的な会計基準と同様に、会計基準等の改正時における会計方針の変更については遡及適用を原則としつつ、当該会計基準等に経過的な取扱いが設けられている場合には、その取扱いが優先して適用されることとした(基準第6項(1)及び第47項)。
3.原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱い 会計方針の変更を行った場合、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用するが、次のような状況により、遡及適用が実務上不可能な場合がある(基準第8項)。
●過去の情報が収集・保存されておらず、合理的な努力を行っても、遡及適用による影響額を算定できない場合
●遡及適用にあたり、過去における経営者の意図について仮定することが必要な場合
●遡及適用にあたり、会計上の見積りを必要とするときに、会計事象等が発生した時点の状況に関する情報について、対象となる過去の財務諸表が作成された時点で入手可能であったものと、その後判明したものとに、客観的に区別することが時の経過により不可能な場合
この場合、次のように取り扱う(具体的な適用は図表2参照)。
① 当期の期首時点において、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を算定することはできるものの、表示期間のいずれかにおいて、当該期間に与える影響額を算定することが実務上不可能な場合(以下、「部分的な遡及適用を行う場合」という。)には、遡及適用が実行可能な最も古い期間(これが当期となる場合もある。)の期首時点で累積的影響額を算定し、当該期首残高から新たな会計方針を適用する(基準第9項(1))。
② 当期の期首時点において、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を算定することが実務上不可能な場合(以下、「部分的な遡及適用もできない場合」という。)には、期首以前の実行可能な最も古い日から将来にわたり新たな会計方針を適用する(基準第9項(2))。
4.会計方針の変更に関する注記 会計方針の変更を行った場合における注記事項について、国際的な会計基準の定めを参考に充実を図っている。具体的には、会計方針の変更を行った場合で、当期又は過去の期間に影響があるとき、又は将来の期間に影響を及ぼす可能性があるときには、図表3に示した事項を注記することとしている(基準第10項及び第11項)。
また、既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等がある場合、以下の事項の注記を行うこととしている(基準第12項)。
●新しい会計基準等の名称及び概要
●適用予定日(早期適用する場合には早期適用予定日)に関する記述
●新しい会計基準等の適用による影響に関する記述
適用予定日に関しては、財務諸表の作成の時点において企業が未だ経営上の判断を行っていない場合には、その旨を注記することになる。また、会計基準等の適用による影響に関し、定量的に把握していない場合には、定性的な情報を注記することになるが、財務諸表の作成の時点において企業が未だその影響について評価中であるときには、その事実を記述することで足りるとしている(指針第11項)。
なお、未適用の会計基準等に関する注記について、決算日までに新たに公表された会計基準等について注記を行うこととなるが、決算日以後に公表された会計基準等についても当該注記を行うことを妨げるものではないとしている。この場合は、いつの時点までに公表された会計基準等を注記の対象としたかを記載することが考えられる(基準第51項)。
Ⅳ.表示方法の変更の取扱い
1.表示方法の変更の定義 「表示方法」とは、財務諸表の作成にあたって採用した表示の方法(注記による開示も含む。)をいい、財務諸表の科目分類、科目配列及び報告様式が含まれる(基準第4項(2))。また、「表示方法の変更」は、従来採用していた一般に公正妥当と認められた表示方法から他の一般に公正妥当と認められた表示方法に変更することをいい(基準第4項(6))、表示方法の変更が会計処理の変更に伴って行われた場合には、会計方針の変更として取り扱うこととしている(指針第7項)。例えば、ある収益取引について営業外収益から売上高に表示区分を変更する場合、資産及び負債並びに損益の認識又は測定について何ら変更を伴うものではないときは、表示方法の変更として取り扱うこととなる(指針第19項)。
また、表示方法の変更には、財務諸表における同一区分内での科目の独立掲記、統合あるいは科目名の変更及び重要性の増加に伴う表示方法の変更のほか、財務諸表の表示区分を超えた表示方法の変更も含まれる(指針第4項)。
なお、キャッシュ・フローの表示の内訳の変更、例えば、ある特定のキャッシュ・フロー項目についてキャッシュ・フロー計算書における表示区分を変更した場合や、営業活動によるキャッシュ・フローに関する表示方法(直接法又は間接法)を変更した場合は表示方法の変更に該当するが、資金の範囲の変更は、会計方針の変更として取り扱うこととされている(指針第9項及び第20項)。
2.表示方法の変更に関する取扱い及び注記 表示方法の変更を行った際に過去の財務諸表を遡及的に組み替えることは我が国の従来の取扱いでは認められていなかったが、本会計基準では会計方針の変更の場合と同様に、遡及処理の考え方を導入することとしている。すなわち、財務諸表の表示方法を変更した場合には、原則として表示する過去の財務諸表について、新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行うこととしている(基準第14項及び第52項)。なお、会計方針の変更と同様に、原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱いも設けられている(基準第15項)。
また、注記に関しても、国際的な会計基準を参考に、以下の注記項目を設けている(基準第16項)。
●財務諸表の組替えの内容
●財務諸表の組替えを行った理由
●組替えられた過去の財務諸表の主な項目の金額
●原則的な取扱いが実務上不可能な場合にはその理由
Ⅴ.会計上の見積りの変更の取扱い
1.会計上の見積りの変更の定義 「会計上の見積り」とは、資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいうものとされ(基準第4項(3))、「会計上の見積りの変更」とは、新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更することをいう(基準第4項(7))と定義されている。
会計上の見積りの変更に関しては、実務上しばしば、過去の誤謬の訂正との区分が論点となる。過去の見積りの方法がその見積りの時点で合理的なものであり、それ以降の見積りの変更も合理的な方法によるのであれば、当該変更は過去の誤謬の訂正には該当しない。例えば、有形固定資産の耐用年数の変更について、過去に定めた耐用年数が、これを定めた時点での合理的な見積りに基づくものであった場合で、それ以降の変更も合理的な見積りによるものであれば、当該変更は過去の誤謬の訂正には該当せず、会計上の見積りの変更に該当する。一方、過去に定めた耐用年数がその時点での合理的な見積りに基づくものでなく、これを事後的に合理的な見積りに基づいたものに変更する場合には、過去の誤謬の訂正に該当することとなる(指針第12項)。
2.会計上の見積りの変更に関する原則的な取扱い及び注記 会計上の見積りの変更に関しては、我が国では従来から、過去の財務諸表に遡って処理することは行っておらず、国際的な会計基準においても、会計上の見積りの変更は新しい情報によってもたらされるものであるとの認識から、過去に遡って処理せず、その影響は将来に向けて認識するという考え方がとられている。このため、会計上の見積りの変更に関しては従来の取扱いを踏襲し、過去に遡って処理せず、その影響を当期以降の財務諸表において認識することとしている(基準第17項及び第55項)。
また、会計上の見積りの変更を行った場合の注記については、国際的な会計基準を参考に、以下の注記を行うこととしている(基準第18項)。
●会計上の見積りの変更の内容
●会計上の見積りの変更が、当期に影響を及ぼす場合には当期への影響額。当期への影響がない場合でも将来の期間に影響を及ぼす可能性があり、かつ、その影響額を合理的に見積もることができるときには、その影響額。将来への影響額を合理的に見積もることが困難な場合には、その旨
なお、会計方針の変更を会計上の見積りと区別することが困難な場合には、遡及適用は行わず、会計方針の変更の内容、その変更を行った正当な理由の注記に加え、その変更による当期への影響額に関する注記を行うことになる(基準第19項)。
3.臨時償却の廃止 固定資産の耐用年数の変更等に関する臨時償却は、見積りの変更に関する影響額を、その変更期間で一時に認識する方法であるが、国際的な会計基準では、一般的にその採用は認められていないものと思われる。また、現在臨時償却として処理されている事例の多くが、将来に生じる除却損の前倒し的な意味合いが強いのではないかという指摘がある。このため、会計上の見積りの変更に関する取扱い全般の検討と並行して、従来の我が国の取扱いの中で認められている、臨時償却の考え方を残すかどうかについても検討を行った。
検討の結果、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点も踏まえ、臨時償却は廃止し、固定資産の耐用年数の変更等については、当期以降の費用配分に影響させる方法(プロスペクティブ方式)のみを認める取扱いとしている(基準第57項)。
4.減価償却方法の変更の取扱い 国際的な会計基準においては、減価償却方法の変更は、会計上の見積りの変更と同様に取り扱うこととされているため、遡及適用の対象とはされていないが、我が国では、これまで減価償却方法は会計方針の1つとされており、減価償却方法の変更は会計方針の変更として取り扱われている。このため、我が国において会計方針の変更に遡及適用の考え方を導入するにあたり、減価償却方法の変更についてどのように考えるべきであるかを検討した。
減価償却方法の変更を遡及適用の対象としないことの理由として、国際財務報告基準では、定率法、定額法といった減価償却方法は、減価償却を認識するという会計方針を適用する際に使用する手法であるため、その手法の変更は会計方針の変更ではなく、資産に具現化された将来の経済的便益の予測消費パターンの変更を意味するものであることから、会計上の見積りの変更に該当するという考え方をとっている。また、米国会計基準では、会計方針の変更と会計上の見積りの変更とを区分することは時として困難であることし、その一例として減価償却方法の変更を挙げており、会計上の見積りの変更と同様に取り扱うこととしている。
減価償却方法として実際に用いられている方法は、定率法、定額法、生産高比例法などの計画的・規則的な償却方法に限られていることから、本会計基準においては、減価償却方法の変更は、会計方針の変更であるとするものの、減価償却方法の変更は固定資産に関する経済的便益の消費パターンに関する見積りの変更を伴うものと考えられる。このため、本会計基準においては、減価償却方法はこれまで通り会計方針として位置付けることとする一方、減価償却方法の変更は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合(基準第19項)に該当するものとした(基準第62項)。
したがって、減価償却方法の変更を行った場合には、会計上の見積りの変更と同様に将来に向けて会計処理を行うが、減価償却方法は会計方針であることから、当該変更の内容や影響額に関する注記に加え、変更を行った正当な理由に関する注記を行うこととしている。なお、これらの取扱いについては、無形固定資産の償却方法の変更についても同様である(基準第20項)。
Ⅵ.過去の誤謬の取扱い
1.誤謬の定義 「誤謬」とは、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる、次のような誤りをいう(基準第4項(8))。
●財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り
●事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り
●会計方針の適用の誤り又は表示方法の誤り
2.過去の誤謬に関する取扱い 国際的な会計基準では、財務諸表の公表後に過去の誤謬が発見された場合には、修正再表示を行う、すなわち、過去の財務諸表における誤謬の訂正を過去に遡って財務諸表に反映する取扱いが示されている。
一方、我が国における誤謬に関する従来の会計上の取扱いでは、前期損益修正項目として当期の損益で修正する方法(企業会計原則注解(注12))が示されており、修正再表示する方法は定められていない。ただし、開示制度において、財務諸表に重要な影響を及ぼすような過去の誤謬が発見された場合で、当該誤謬が金融商品取引法上の訂正報告書の提出事由に該当するときには、財務諸表の訂正を行うなどの取扱いが定められている。
検討の結果、会計上の誤謬の取扱いに関し、国際的な会計基準のように会計基準の中で誤謬を修正再表示する考え方を導入することは、期間比較が可能な情報を開示するという観点からも有用であり、さらには国際的な会計基準とのコンバージェンスを図るという観点からも望ましいと考えられるため、過去の誤謬が発見された場合に修正再表示を行う取扱いを定めることとした(基準第21項及び第63項から第65項)。
3.修正再表示が実務上不可能な場合の取扱いに関する議論 国際財務報告基準では、会計方針の変更の場合と同様、過去の誤謬に関する修正再表示の原則的な取扱いが実務上不可能な場合に関する取扱いを会計基準の中で定めているが、米国会計基準では、過去の財務諸表に影響する誤謬を発見しつつも実務上不可能であるために修正しなかった場合には、当該期間の財務諸表が一般に公正妥当と認められる会計原則に準拠して作成されたと企業が表明することと首尾一貫していないという理由から、修正再表示が実務上不可能な場合の取扱いを定めてない。
公開草案等に寄せられたコメントでは、我が国においても、国際財務報告基準と同様に、過去の誤謬に関する修正再表示の取扱いが実務上不可能な場合の取扱いを会計基準の中で定めることを求めるものもあった。しかし、過去の誤謬の修正再表示が実務上不可能という理由をもって過去の財務諸表を修正再表示しないこととする取扱いを会計基準として設けた場合、誤謬を含んだ財務諸表に関し、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準への準拠性に問題があると考えられることから、米国会計基準と同様に、実務上不可能な場合の取扱いについては会計基準の中では明示しないこととした。
ただし、稀に誤謬の修正再表示が不可能な場合が生じる可能性は否定できない。可能な限り誤謬を訂正した上でもなお、重要な未訂正の誤謬が存在する場合には、表示される財務諸表の有用性が損なわれることになることから、その事実を明らかにするために、当該未訂正の誤謬の内容並びに訂正済の誤謬に関する訂正期間及び訂正方法を開示するなどの対応がなされるものと考えられることを、実務への配慮として結論の背景で記載している(基準第67項)。
4.過去の誤謬に関する注記事項 過去の誤謬に関する注記項目についても、国際的な会計基準の定めを参考に、以下の事項を注記するものとされている(基準第22項)。
●過去の誤謬の内容
●表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額
●表示されている財務諸表のうち、最も古い期間の期首の純資産の額に反映された、表示期間より前の期間に関する会計方針の変更の累積的影響額
なお、過去の誤謬について修正再表示を行った場合、その翌事業年度以後における財務諸表の開示期間に、修正再表示を行った財務諸表が含まれる場合が考えられるが、一度その修正再表示について所定の注記を行ったならば、その翌事業年度以後に同様の注記を繰り返す必要はないこととしている(基準第68項)。
Ⅶ.その他
1.他の会計基準等の修正等 本会計基準は、その性格上、他の会計基準等と多くの点で関連しており、以下の会計基準等について、本会計基準の公表に伴う改正が別途予定されている(基準第70項)。
●企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」
●企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」
●企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」
●企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」
●企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」
●企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」
●企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」
●企業会計基準適用指針第4号「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」
●企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」
●企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」
●企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」
●企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」
●実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」
●実務対応報告第19号「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」
●実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」
このうち企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」の改正については、本会計基準を適用して遡及処理が行われた場合、過去の期間における遡及処理の累積的影響額は貸借対照表上、遡及処理後の当期の期首の残高に反映されるため、現在株主資本等変動計算書に表示されている各項目の前期末残高は当期首残高に変更した上で、遡及処理を行った場合には、表示される最も古い期間の当期首残高に対する累積的影響額としてその金額を別途表示することが予定されている。
また、企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」において、四半期財務諸表に固有の遡及処理等に関する取扱いについて、引き続き、必要な検討を行う予定である。
2.適用時期等 本会計基準は、平成23年4月1日以後開始する事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び過去の誤謬の訂正から適用(未適用の会計基準に関する注記については平成23年4月1日以後開始する事業年度から適用)することとされており、早期適用を認める取扱いは設けられていない(基準第23項)。
適用初年度に会計方針の変更や過去の誤謬の訂正などを行い、遡及処理した場合には、その累積的影響額を適用初年度の財務諸表における比較財務諸表に反映することとなる。また、適用初年度においては、当該事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び過去の誤謬の訂正から本会計基準を適用している旨を注記することとされている(基準第24項)。
(いちはら・じゅんじ)
脚注
1 これらの全文については、ASBJのホームページ、(https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/docs/kakosyusei/)を参照のこと。
2 「会計基準等」とは、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則及び手続を明文化して定めたものをいうものとされ、ASBJが公表した会計基準、適用指針、実務対応報告のほか、企業会計審議会が公表した企業会計基準や日本公認会計士協会が公表した会計制度委員会報告(実務指針)、監査・保証実務委員会報告及び業種別監査委員会報告のうち会計処理の原則及び手続を定めたもの等が該当する(指針第5項)。
3 「表示期間」とは、当期の財務諸表及びこれに併せて過去の財務諸表が表示されている場合の、その表示期間をいう。例えば、現行の金融商品取引法の開示制度を前提とすれば、比較財務諸表の表示期間は、前年度1期分となる。
企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」について
企業会計基準委員会 専門研究員 市原順二
Ⅰ.はじめに
企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、「本会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(以下、「本適用指針」という。)を平成21年12月4日付で公表している(脚注1)。
ASBJでは、会計基準の国際的なコンバージェンスの取組みを進めるにあたり、国際的な会計基準で見られるような、会計方針の変更、表示方法の変更及び誤謬の訂正が行われた場合の、過去の財務諸表の遡及処理に関する取扱いや会計上の見積りの変更に関する取扱いについて審議を重ねてきた。本会計基準及び本適用指針は、平成21年4月に公開草案を公表し、寄せられた意見を参考に審議を行い、その内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。
ここでは、本会計基準及び本適用指針の概要を紹介するが、文中の意見にわたる部分は私見であることをあらかじめお断りしておく。
Ⅱ.適用範囲
本会計基準は、会計上の変更(会計方針の変更、表示方法の変更及び会計上の見積りの変更をいう。)及び過去の誤謬の訂正に関する会計処理及び開示について適用する(基準第3項)(図表1参照)。また、本会計基準のすべての項目について、財務諸表利用者の意思決定への影響に照らした重要性が考慮される(基準第35項)。
なお、本会計基準は、連結財務諸表及び個別財務諸表のいずれにも適用されるものであるが、注記については、公開草案に寄せられた意見を踏まえ、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同一である場合等について一部簡略化した取扱いを設けている(基準第10項から第12項及び第16項)。

Ⅲ.会計方針の変更の取扱い
1.会計方針の変更の定義と分類 「会計方針」とは、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続をいう(基準第4項(1))。我が国ではこれまで一般に、会計方針とは、財務諸表作成にあたって採用している会計処理の原則及び手続並びに表示方法その他財務諸表作成のための基本となる事項を指す(企業会計原則注解(注1-2))とされ、会計処理の原則及び手続のみならず、表示方法を包括する概念であるとされてきた。しかし、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点も踏まえ、これらと可能な限り整合する形に会計方針の定義を見直し、会計方針から表示方法を切り離して定義することとした(基準第36項及び第37項)。「表示方法」の定義については、Ⅳを参照されたい。
また、「会計方針の変更」は、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することとされ(基準第4項(5))、これは、①会計基準等(脚注2)の改正に伴う会計方針の変更の場合と、②①以外の正当な理由による会計方針の変更(いわゆる自発的な会計方針の変更)の2つに分類されている。
①の会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合とは、会計基準等の改正によって特定の会計処理の原則及び手続が強制される場合や、従来認められていた会計処理の原則及び手続を任意に選択する余地がなくなる場合など、会計基準等の改正に伴って会計方針の変更を行うことをいう。会計基準等の改正には、既存の会計基準等の改正又は廃止のほか、新たな会計基準等の設定が含まれる。また、会計基準等に早期適用の取扱いが定められており、これを適用する場合も、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われる(基準第5項)。
②のいわゆる自発的な会計方針の変更は、正当な理由を伴うことを前提としているものであるが、この「正当な理由」がある場合とは、以下の要件が満たされている場合としている(指針第6項)。
●会計方針の変更が企業の事業内容又は企業内外の経営環境の変化に対応して行われるものであること
●会計方針の変更が会計事象等を財務諸表に、より適切に反映するために行われるものであること
上記以外にも、変更後の会計処理が類似の会計事象に対して適用されている会計処理と首尾一貫したものであることにも留意する必要があるとしている。なお、これらは、従来の監査委員会報告第78号「正当な理由による会計方針の変更」に掲げられている判断の指針を参考に示しているものであり、従来の実務の取扱いを変更することを意図するものではない(指針第17項)。
なお、我が国の従来の取扱いと同様に、次の事象は会計方針の変更に該当しないとしている(指針第8項)。
●会計処理の対象となる会計事象等の重要性が増したことに伴う本来の会計処理の原則及び手続への変更
●会計処理の対象となる新たな事実の発生に伴う新たな会計処理の原則及び手続の採用
●連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項のうち、連結又は持分法の適用の範囲に関する変動
2.会計方針の変更に関する原則的な取扱い 我が国の従来の取扱いでは、過去の財務諸表に新しい会計方針を遡及適用し、これを開示することは求めていないが、国際的な会計基準では、会計方針の変更に関し、新たに適用された会計基準等に経過規定がない場合や自発的な会計方針の変更の場合、原則として遡及適用することを求めている。
検討の結果、会計方針の変更を行った場合に過去の財務諸表に対して新しい会計方針を遡及適用すれば、財務諸表全般についての比較可能性が向上し、情報の有用性が高まることが期待されることから、国際的な会計基準と同様に、会計方針の変更が行われた場合には、原則として、変更後の会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することとしている(基準第6項及び第46項)。
具体的には、次の処理を行う(基準第7項)。
① 表示期間(脚注3)より前の期間に関する遡及適用による累積的影響額は、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映する。
② 表示する過去の各期間の財務諸表には、当該各期間の影響額を反映する。
ただし、会計基準等の改正時における会計方針の変更に遡及適用を求めることが適当かどうかについては、遡及適用によってもたらされる過去の期間に関する情報の有用性と、遡及適用を行う際に伴う見積りの要素の度合や、遡及適用を行うために必要とされる情報収集等に係る負担との関係を考慮する必要がある。このため、国際的な会計基準と同様に、会計基準等の改正時における会計方針の変更については遡及適用を原則としつつ、当該会計基準等に経過的な取扱いが設けられている場合には、その取扱いが優先して適用されることとした(基準第6項(1)及び第47項)。
3.原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱い 会計方針の変更を行った場合、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用するが、次のような状況により、遡及適用が実務上不可能な場合がある(基準第8項)。
●過去の情報が収集・保存されておらず、合理的な努力を行っても、遡及適用による影響額を算定できない場合
●遡及適用にあたり、過去における経営者の意図について仮定することが必要な場合
●遡及適用にあたり、会計上の見積りを必要とするときに、会計事象等が発生した時点の状況に関する情報について、対象となる過去の財務諸表が作成された時点で入手可能であったものと、その後判明したものとに、客観的に区別することが時の経過により不可能な場合
この場合、次のように取り扱う(具体的な適用は図表2参照)。
① 当期の期首時点において、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を算定することはできるものの、表示期間のいずれかにおいて、当該期間に与える影響額を算定することが実務上不可能な場合(以下、「部分的な遡及適用を行う場合」という。)には、遡及適用が実行可能な最も古い期間(これが当期となる場合もある。)の期首時点で累積的影響額を算定し、当該期首残高から新たな会計方針を適用する(基準第9項(1))。
② 当期の期首時点において、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を算定することが実務上不可能な場合(以下、「部分的な遡及適用もできない場合」という。)には、期首以前の実行可能な最も古い日から将来にわたり新たな会計方針を適用する(基準第9項(2))。

4.会計方針の変更に関する注記 会計方針の変更を行った場合における注記事項について、国際的な会計基準の定めを参考に充実を図っている。具体的には、会計方針の変更を行った場合で、当期又は過去の期間に影響があるとき、又は将来の期間に影響を及ぼす可能性があるときには、図表3に示した事項を注記することとしている(基準第10項及び第11項)。
また、既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等がある場合、以下の事項の注記を行うこととしている(基準第12項)。
●新しい会計基準等の名称及び概要
●適用予定日(早期適用する場合には早期適用予定日)に関する記述
●新しい会計基準等の適用による影響に関する記述
適用予定日に関しては、財務諸表の作成の時点において企業が未だ経営上の判断を行っていない場合には、その旨を注記することになる。また、会計基準等の適用による影響に関し、定量的に把握していない場合には、定性的な情報を注記することになるが、財務諸表の作成の時点において企業が未だその影響について評価中であるときには、その事実を記述することで足りるとしている(指針第11項)。
なお、未適用の会計基準等に関する注記について、決算日までに新たに公表された会計基準等について注記を行うこととなるが、決算日以後に公表された会計基準等についても当該注記を行うことを妨げるものではないとしている。この場合は、いつの時点までに公表された会計基準等を注記の対象としたかを記載することが考えられる(基準第51項)。
Ⅳ.表示方法の変更の取扱い
1.表示方法の変更の定義 「表示方法」とは、財務諸表の作成にあたって採用した表示の方法(注記による開示も含む。)をいい、財務諸表の科目分類、科目配列及び報告様式が含まれる(基準第4項(2))。また、「表示方法の変更」は、従来採用していた一般に公正妥当と認められた表示方法から他の一般に公正妥当と認められた表示方法に変更することをいい(基準第4項(6))、表示方法の変更が会計処理の変更に伴って行われた場合には、会計方針の変更として取り扱うこととしている(指針第7項)。例えば、ある収益取引について営業外収益から売上高に表示区分を変更する場合、資産及び負債並びに損益の認識又は測定について何ら変更を伴うものではないときは、表示方法の変更として取り扱うこととなる(指針第19項)。
また、表示方法の変更には、財務諸表における同一区分内での科目の独立掲記、統合あるいは科目名の変更及び重要性の増加に伴う表示方法の変更のほか、財務諸表の表示区分を超えた表示方法の変更も含まれる(指針第4項)。
なお、キャッシュ・フローの表示の内訳の変更、例えば、ある特定のキャッシュ・フロー項目についてキャッシュ・フロー計算書における表示区分を変更した場合や、営業活動によるキャッシュ・フローに関する表示方法(直接法又は間接法)を変更した場合は表示方法の変更に該当するが、資金の範囲の変更は、会計方針の変更として取り扱うこととされている(指針第9項及び第20項)。
2.表示方法の変更に関する取扱い及び注記 表示方法の変更を行った際に過去の財務諸表を遡及的に組み替えることは我が国の従来の取扱いでは認められていなかったが、本会計基準では会計方針の変更の場合と同様に、遡及処理の考え方を導入することとしている。すなわち、財務諸表の表示方法を変更した場合には、原則として表示する過去の財務諸表について、新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行うこととしている(基準第14項及び第52項)。なお、会計方針の変更と同様に、原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱いも設けられている(基準第15項)。
また、注記に関しても、国際的な会計基準を参考に、以下の注記項目を設けている(基準第16項)。
●財務諸表の組替えの内容
●財務諸表の組替えを行った理由
●組替えられた過去の財務諸表の主な項目の金額
●原則的な取扱いが実務上不可能な場合にはその理由
Ⅴ.会計上の見積りの変更の取扱い
1.会計上の見積りの変更の定義 「会計上の見積り」とは、資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいうものとされ(基準第4項(3))、「会計上の見積りの変更」とは、新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更することをいう(基準第4項(7))と定義されている。
会計上の見積りの変更に関しては、実務上しばしば、過去の誤謬の訂正との区分が論点となる。過去の見積りの方法がその見積りの時点で合理的なものであり、それ以降の見積りの変更も合理的な方法によるのであれば、当該変更は過去の誤謬の訂正には該当しない。例えば、有形固定資産の耐用年数の変更について、過去に定めた耐用年数が、これを定めた時点での合理的な見積りに基づくものであった場合で、それ以降の変更も合理的な見積りによるものであれば、当該変更は過去の誤謬の訂正には該当せず、会計上の見積りの変更に該当する。一方、過去に定めた耐用年数がその時点での合理的な見積りに基づくものでなく、これを事後的に合理的な見積りに基づいたものに変更する場合には、過去の誤謬の訂正に該当することとなる(指針第12項)。
2.会計上の見積りの変更に関する原則的な取扱い及び注記 会計上の見積りの変更に関しては、我が国では従来から、過去の財務諸表に遡って処理することは行っておらず、国際的な会計基準においても、会計上の見積りの変更は新しい情報によってもたらされるものであるとの認識から、過去に遡って処理せず、その影響は将来に向けて認識するという考え方がとられている。このため、会計上の見積りの変更に関しては従来の取扱いを踏襲し、過去に遡って処理せず、その影響を当期以降の財務諸表において認識することとしている(基準第17項及び第55項)。
また、会計上の見積りの変更を行った場合の注記については、国際的な会計基準を参考に、以下の注記を行うこととしている(基準第18項)。
●会計上の見積りの変更の内容
●会計上の見積りの変更が、当期に影響を及ぼす場合には当期への影響額。当期への影響がない場合でも将来の期間に影響を及ぼす可能性があり、かつ、その影響額を合理的に見積もることができるときには、その影響額。将来への影響額を合理的に見積もることが困難な場合には、その旨
なお、会計方針の変更を会計上の見積りと区別することが困難な場合には、遡及適用は行わず、会計方針の変更の内容、その変更を行った正当な理由の注記に加え、その変更による当期への影響額に関する注記を行うことになる(基準第19項)。
3.臨時償却の廃止 固定資産の耐用年数の変更等に関する臨時償却は、見積りの変更に関する影響額を、その変更期間で一時に認識する方法であるが、国際的な会計基準では、一般的にその採用は認められていないものと思われる。また、現在臨時償却として処理されている事例の多くが、将来に生じる除却損の前倒し的な意味合いが強いのではないかという指摘がある。このため、会計上の見積りの変更に関する取扱い全般の検討と並行して、従来の我が国の取扱いの中で認められている、臨時償却の考え方を残すかどうかについても検討を行った。
検討の結果、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点も踏まえ、臨時償却は廃止し、固定資産の耐用年数の変更等については、当期以降の費用配分に影響させる方法(プロスペクティブ方式)のみを認める取扱いとしている(基準第57項)。
4.減価償却方法の変更の取扱い 国際的な会計基準においては、減価償却方法の変更は、会計上の見積りの変更と同様に取り扱うこととされているため、遡及適用の対象とはされていないが、我が国では、これまで減価償却方法は会計方針の1つとされており、減価償却方法の変更は会計方針の変更として取り扱われている。このため、我が国において会計方針の変更に遡及適用の考え方を導入するにあたり、減価償却方法の変更についてどのように考えるべきであるかを検討した。
減価償却方法の変更を遡及適用の対象としないことの理由として、国際財務報告基準では、定率法、定額法といった減価償却方法は、減価償却を認識するという会計方針を適用する際に使用する手法であるため、その手法の変更は会計方針の変更ではなく、資産に具現化された将来の経済的便益の予測消費パターンの変更を意味するものであることから、会計上の見積りの変更に該当するという考え方をとっている。また、米国会計基準では、会計方針の変更と会計上の見積りの変更とを区分することは時として困難であることし、その一例として減価償却方法の変更を挙げており、会計上の見積りの変更と同様に取り扱うこととしている。
減価償却方法として実際に用いられている方法は、定率法、定額法、生産高比例法などの計画的・規則的な償却方法に限られていることから、本会計基準においては、減価償却方法の変更は、会計方針の変更であるとするものの、減価償却方法の変更は固定資産に関する経済的便益の消費パターンに関する見積りの変更を伴うものと考えられる。このため、本会計基準においては、減価償却方法はこれまで通り会計方針として位置付けることとする一方、減価償却方法の変更は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合(基準第19項)に該当するものとした(基準第62項)。
したがって、減価償却方法の変更を行った場合には、会計上の見積りの変更と同様に将来に向けて会計処理を行うが、減価償却方法は会計方針であることから、当該変更の内容や影響額に関する注記に加え、変更を行った正当な理由に関する注記を行うこととしている。なお、これらの取扱いについては、無形固定資産の償却方法の変更についても同様である(基準第20項)。
Ⅵ.過去の誤謬の取扱い
1.誤謬の定義 「誤謬」とは、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる、次のような誤りをいう(基準第4項(8))。
●財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り
●事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り
●会計方針の適用の誤り又は表示方法の誤り
2.過去の誤謬に関する取扱い 国際的な会計基準では、財務諸表の公表後に過去の誤謬が発見された場合には、修正再表示を行う、すなわち、過去の財務諸表における誤謬の訂正を過去に遡って財務諸表に反映する取扱いが示されている。
一方、我が国における誤謬に関する従来の会計上の取扱いでは、前期損益修正項目として当期の損益で修正する方法(企業会計原則注解(注12))が示されており、修正再表示する方法は定められていない。ただし、開示制度において、財務諸表に重要な影響を及ぼすような過去の誤謬が発見された場合で、当該誤謬が金融商品取引法上の訂正報告書の提出事由に該当するときには、財務諸表の訂正を行うなどの取扱いが定められている。
検討の結果、会計上の誤謬の取扱いに関し、国際的な会計基準のように会計基準の中で誤謬を修正再表示する考え方を導入することは、期間比較が可能な情報を開示するという観点からも有用であり、さらには国際的な会計基準とのコンバージェンスを図るという観点からも望ましいと考えられるため、過去の誤謬が発見された場合に修正再表示を行う取扱いを定めることとした(基準第21項及び第63項から第65項)。
3.修正再表示が実務上不可能な場合の取扱いに関する議論 国際財務報告基準では、会計方針の変更の場合と同様、過去の誤謬に関する修正再表示の原則的な取扱いが実務上不可能な場合に関する取扱いを会計基準の中で定めているが、米国会計基準では、過去の財務諸表に影響する誤謬を発見しつつも実務上不可能であるために修正しなかった場合には、当該期間の財務諸表が一般に公正妥当と認められる会計原則に準拠して作成されたと企業が表明することと首尾一貫していないという理由から、修正再表示が実務上不可能な場合の取扱いを定めてない。
公開草案等に寄せられたコメントでは、我が国においても、国際財務報告基準と同様に、過去の誤謬に関する修正再表示の取扱いが実務上不可能な場合の取扱いを会計基準の中で定めることを求めるものもあった。しかし、過去の誤謬の修正再表示が実務上不可能という理由をもって過去の財務諸表を修正再表示しないこととする取扱いを会計基準として設けた場合、誤謬を含んだ財務諸表に関し、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準への準拠性に問題があると考えられることから、米国会計基準と同様に、実務上不可能な場合の取扱いについては会計基準の中では明示しないこととした。
ただし、稀に誤謬の修正再表示が不可能な場合が生じる可能性は否定できない。可能な限り誤謬を訂正した上でもなお、重要な未訂正の誤謬が存在する場合には、表示される財務諸表の有用性が損なわれることになることから、その事実を明らかにするために、当該未訂正の誤謬の内容並びに訂正済の誤謬に関する訂正期間及び訂正方法を開示するなどの対応がなされるものと考えられることを、実務への配慮として結論の背景で記載している(基準第67項)。
4.過去の誤謬に関する注記事項 過去の誤謬に関する注記項目についても、国際的な会計基準の定めを参考に、以下の事項を注記するものとされている(基準第22項)。
●過去の誤謬の内容
●表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額
●表示されている財務諸表のうち、最も古い期間の期首の純資産の額に反映された、表示期間より前の期間に関する会計方針の変更の累積的影響額
なお、過去の誤謬について修正再表示を行った場合、その翌事業年度以後における財務諸表の開示期間に、修正再表示を行った財務諸表が含まれる場合が考えられるが、一度その修正再表示について所定の注記を行ったならば、その翌事業年度以後に同様の注記を繰り返す必要はないこととしている(基準第68項)。
Ⅶ.その他
1.他の会計基準等の修正等 本会計基準は、その性格上、他の会計基準等と多くの点で関連しており、以下の会計基準等について、本会計基準の公表に伴う改正が別途予定されている(基準第70項)。
●企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」
●企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」
●企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」
●企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」
●企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」
●企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」
●企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」
●企業会計基準適用指針第4号「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」
●企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」
●企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」
●企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」
●企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」
●実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」
●実務対応報告第19号「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」
●実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」
このうち企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」の改正については、本会計基準を適用して遡及処理が行われた場合、過去の期間における遡及処理の累積的影響額は貸借対照表上、遡及処理後の当期の期首の残高に反映されるため、現在株主資本等変動計算書に表示されている各項目の前期末残高は当期首残高に変更した上で、遡及処理を行った場合には、表示される最も古い期間の当期首残高に対する累積的影響額としてその金額を別途表示することが予定されている。
また、企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」において、四半期財務諸表に固有の遡及処理等に関する取扱いについて、引き続き、必要な検討を行う予定である。
2.適用時期等 本会計基準は、平成23年4月1日以後開始する事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び過去の誤謬の訂正から適用(未適用の会計基準に関する注記については平成23年4月1日以後開始する事業年度から適用)することとされており、早期適用を認める取扱いは設けられていない(基準第23項)。
適用初年度に会計方針の変更や過去の誤謬の訂正などを行い、遡及処理した場合には、その累積的影響額を適用初年度の財務諸表における比較財務諸表に反映することとなる。また、適用初年度においては、当該事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び過去の誤謬の訂正から本会計基準を適用している旨を注記することとされている(基準第24項)。
(いちはら・じゅんじ)
脚注
1 これらの全文については、ASBJのホームページ、(https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/docs/kakosyusei/)を参照のこと。
2 「会計基準等」とは、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則及び手続を明文化して定めたものをいうものとされ、ASBJが公表した会計基準、適用指針、実務対応報告のほか、企業会計審議会が公表した企業会計基準や日本公認会計士協会が公表した会計制度委員会報告(実務指針)、監査・保証実務委員会報告及び業種別監査委員会報告のうち会計処理の原則及び手続を定めたもの等が該当する(指針第5項)。
3 「表示期間」とは、当期の財務諸表及びこれに併せて過去の財務諸表が表示されている場合の、その表示期間をいう。例えば、現行の金融商品取引法の開示制度を前提とすれば、比較財務諸表の表示期間は、前年度1期分となる。
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