解説記事2010年08月23日 【平成22年度税制改正解説】 清算所得課税の廃止とグループ税制(2010年8月23日号・№367)
平成22年度税制改正解説
清算所得課税の廃止とグループ税制
税理士 竹内陽一
公認会計士・税理士 長谷川敏也
はじめに
株式会社は解散すると、合併又は破産の場合を除き、清算の手続きが開始される。清算は清算人によって行われ、会社法は、清算人の職務として①現務の結了②債権の取立て及び債務の弁済③残余財産の分配を規定している(会社法481)。
一方、平成22年度税制改正により、清算所得課税が廃止され、通常事業年度と同一の課税方式へ改正された(改正法法5)。適用期日は平成22年10月1日以後解散分からである(改正法附則10)ので、対象法人があれば、9月末までに解散をすべきか否か検討を要する。
Ⅰ.平成22年9月までの清算所得課税
清算所得課税は通常の所得課税と異なり、役員給与や交際費などを全額控除することが可能となる等の相違点があり、また財産法により算定することとされていた改正前法人税法93条《解散による清算所得の金額の計算》では、「内国普通法人等の解散による清算所得の金額は、その残余財産の価額からその解散の時における資本金等の額と利益積立金額等との合計額を控除した金額とする。」とあった。なお、清算所得金額の計算においては欠損金の繰越控除の適用はない。
解散の時における資本金等の額と利益積立金額との合計額は、解散の時における税務上の資産と負債の差額と同額になり、この金額は、解散の時における税務上の純資産の額とみることができ、清算所得の具体的な金額を残余財産の価額と解散の時における税務上の純資産の額の差額により認識する。清算所得に対する課税の趣旨は、いまだ課税されていない資産の含み益について、会社財産の清算の過程で実現した際に法人税を課するものであり、結果として、利益積立金額等がマイナスとなった場合にも、マイナスのまま計算することとなる(脚注1)。
Ⅱ.解散から清算結了までの法務と税務の流れ
ここで改めて解散から清算結了までの法務と税務の流れを概観する(図表1参照)。
清算中の普通法人は、その残余財産が確定した場合には、その確定した日の翌日から1月以内(当該期間内に残余財産の最後の分配又は引渡しが行われる場合には、その行われる日の前日まで)に、税務署長に対し申告書を提出しなければならない(法法104(脚注2))。このことから、今までの税務実務では残余財産が確定するまでしか帳簿記入をしないケースが多かったが、元来、清算株式会社は、清算事務が終了したときは、遅滞なく、決算報告を作成しなければならないし、清算人は、決算報告を株主総会に提出し、又は提供し、その承認を受けなければならない(会社法507)。また、平成22年度税制改正では、後述するように残余財産の分配時の処理規定が精緻化されている。
Ⅲ.清算所得課税の廃止と通常所得課税への移行
1.概要 平成22年度税制改正では、清算所得課税の廃止とそれに伴う、いわゆる「期限切れ欠損金」の利用範囲の拡大がされた(法法59③)。
この見直しは、債務超過にある企業が解散した場合に、税負担が現行制度と比べ不利にならないよう配慮して措置するものである。現行制度では、仮に解散時に債務免除益が生じても、財産法ベースで清算所得を計算するため債務免除益等は生じない。しかし今後は、通常の損益法ベースで所得計算を行うため、仮に債務免除を受けた場合にはその債務免除益に課税が行われる可能性がある。
具体的には、一定の要件の下、解散した場合において実質的に債務超過であることを前提に、基本的に清算事業年度において期限切れ欠損金の利用を認める措置が行われる。
ケース1【清算方針2】の場合、法人税等が合計で40%として40×0.4=16が発生する。そうすると、残余財産とは国等に対する債務も含むから「残余財産がないと見込まれるとき」に該当し、期限切れ欠損金をすべて損金に算入し、時価1を株主に分配できるとも解釈でき、又は適正な欠損金額を算入し、時価1に相当する法人税等を納付することになるとも考えられる。
今回の改正で「残余財産」及び「残余財産がないと見込まれるとき」の税法上の定義がないので、限界事例では、残余財産がないと見込まれるときは期限切れ欠損金の損金算入と国等への法人税等が循環関係になる。この場合の計算が政令又は規則に定めがないため、期限切れ欠損金の損金算入がオールオアナッシングの規定となり、株主への交付財産ができたり、残余財産を超えて国等への債務が発生したりする規定となっているので、処理方法について、通達等での手当てが望まれる。
2.100%グループ以外の場合の時価課税 改正後法人税法62条の5第1項・2項では、内国法人が残余財産の全部の分配により被現物分配法人その他の者にその有する資産の移転をするときは、移転をする資産の確定の時価による譲渡をしたものとして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する、と明記され、ケース2のように時価による譲渡として所得計算をすることとなる。
3.解散した場合の期限切れ欠損金の扱い 改正法人税法59条3項では、内国法人が解散した場合の期限切れ欠損金の扱いを示しており、「残余財産がないと見込まれるときは、その清算中に終了する事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額で政令で定めるものに相当する金額は、当該適用年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」としている。
「残余財産がないと見込まれる」かどうかの判定の時期は法人の清算中に終了する各事業年度終了の時の現況による(法基通12-3-7)。期限切れ欠損金は法人の清算中に終了する各事業年度の所得計算において損金算入することとなるため、期限切れ欠損金を損金算入できるかどうかは各事業年度末において判定することとなる。
解散時において実質的に債務超過の状態にあるときは「残余財産がないと見込まれるとき」に該当(法基通12-3-8)し、例えば解散時の実態貸借対照表(貸借対照表を時価評価し直したもの)の上で債務超過であるならば、残余財産がないものと認められる(法基通12-3-9)。貸借対照表上で債務超過であっても、それが簿価ベースのものであるならば債務超過とは認められず、法人税法59条が適用されない可能性がある。
すなわち、青色繰越欠損金がないので、解散後、清算結了事業年度に免除益や譲渡益を実現しようとした場合、残余財産があると見込まれる場合(前頁のS2社最終損益計算書の通り)、課税が発生する可能性があるので税務上留意が必要である。
4.欠損金とは
(1)解散の場合の欠損金の範囲について 改正前法人税法93条は、この解散による利益積立金額等とは、解散の時における利益積立金額、清算中に受けた配当等の益金不算入となる額及び清算中に受けた益金不算入となる特定の還付金等の額の合計額である旨規定していた。
一方、改正法人税法施行令118条では、単に「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額」と規定し、受取配当金の益金不算入金額等の調整を考慮していないので、実務上疑義が生じる。これに関しては、法人税基本通達において、当該事業年度の確定申告書に添付する法人税申告書別表五(一)の「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」に期首現在利益積立金額の合計額として記載されるべき金額で、当該金額が負(マイナス)である場合の当該金額による(法基通12-3-2)としている。法人税申告書別表五(一)の利益積立金額の合計額の「繰越損益金」はあくまでも会計上の当期損益がそのまま転記されているので、法人税法上の欠損金とは異なるが、税務の執行がある以上、本来の「欠損金」とは異なることに留意する必要がある(図表2参照)。
(2)期限切れ欠損金の損金算入 内国法人について、次の適用があった場合には、一定の要件の下に期限切れ欠損金が利用できる(法法59)。
イ 内国法人について更生手続開始の決定があつた場合において、その内国法人が(ア)債務の免除を受けた場合(イ)その内国法人の役員等から金銭その他の資産の贈与を受けた場合(法法59①)
ロ 内国法人について再生手続開始の決定があつたことその他これに準ずる事実(民事再生法(法令117①一)、特別清算開始の命令(法令117①二)、破産手続開始の決定(法令117①三)、中小企業再生支援協議会(法令117①四、国税庁文書照会)が生じた場合において、その内国法人が(ア)債務の免除を受けた場合(イ)その内国法人の役員等から金銭その他の資産の贈与を受けた場合(法法59②)
ハ 内国法人が解散した場合において、残余財産がないと見込まれるとき(法法59③)
解散し、「残余財産がないと見込まれる」ならば、一定の要件の下、期限切れ欠損金を利用できる(法法59③)。解散により債務免除益、私財提供益、資産の評価益、資産の譲渡益等が生じたならば、この期限切れ欠損金を利用することで過大な税負担を回避できるということだが、あくまでも青色欠損金を利用した後となる。
民事再生法適用時に「資産の評価損益」が生じないのであれば、欠損金の利用は青色欠損金、期限切れ欠損金の順となるが(法法59②)、解散の場合はこれと同じ扱いになる。
5.清算中の事業年度 会社法で各清算事務年度とは「会社が解散等をした日の翌日から一年間ごとの期間をいう」と定義されて、清算事務年度ごとに貸借対照表などを作成しなければならないと規定されている(会社法494①)。すなわち、解散等の翌日から一年ごとに決算をしなければならないということであり、法人税法上でも会社法の清算事務年度に対応するよう、「事業年度」自体の定義を「法人の損益などの計算の単位となる期間のこと」(法法13①)とし、通達でも、会社が解散などをした場合、清算中の事業年度は各会社の定款で定めた事業年度にかかわらず、会社法494条1項で規定する清算事務年度とする(法基通1-2-7)としており、会社法の清算事務年度と法人税法上の清算中の事業年度は一致する。
Ⅳ.適格現物分配の創設
1.現物分配・適格現物分配の創設 現物分配・適格現物分配が平成22年度税制改正で創設された。
「現物分配」とは、法人が株主等に配当発生事由により金銭以外の資産の交付をすること、「適格現物分配」とは、内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、その現物分配により資産の移転を受ける者がその現物分配の直前においてその内国法人との間に完全支配関係がある内国法人のみであるものである(法法2十二の六・十二の六の二・十二の十五)。
現物分配に関しては、原則として、現物分配法人において現物分配資産の譲渡利益額・譲渡損失額を益金・損金に算入するとともに(法法22)、被現物分配法人において受取配当等の益金不算入(法法23①)の規定が適用される。
ただし、適格現物分配に関しては、現物分配法人において現物分配資産の譲渡利益額・譲渡損失額の計上をせず(法法62の5③)、被現物分配法人において現物分配資産の分配を受けたことによる収益を益金不算入とすることとされている(法法62の5④)。
2.完全支配関係にある子法人の解散があった場合の未処理欠損金額引継ぎ
平成22年度の税制改正で創設されたグループ法人税制の対象となるのは「完全支配関係」にある法人であり、この「完全支配関係」とは、発行済株式の全部を直接又は間接に保有する関係とされ、改正法人税法2条1項12の7の6に新たに定義が設けられている。
この「完全支配関係」がある親子会社間について、子会社が解散し、子会社の残余財産が確定した場合には、子会社の未処理欠損金額は親会社に引き継ぐこと(法法57②)に改正された。
なお、この場合に「完全支配関係」が5年以内に生じているときは、欠損金の引継ぎ処理について、制限措置が設けられている。
3.子会社株式消滅損の廃止 改正法人税法61条の2では、「完全支配関係」がある親子会社間における有価証券の譲渡について、譲渡対価を譲渡原価とみなす改正が行われており、これにより子会社株式の消滅損はないとされた(法人税法61条の2第16項の規定が、法人税法24条1項の各号に規定される事由、例えば3号には解散による残余財産の分配が規定されているが、金銭その他の資産の交付を受けた場合、又は、株式を有しないこととなった場合には、法人税法61条の2第1項1号の「その有価証券の譲渡に係る対価の額」は、2号の「その有価証券の譲渡に係る原価の額」に相当する金額とすることとなる)。
つまり、完全支配関係にある子法人の解散があった場合には、その株主は、法人税法61条の2第16項の規定により、その解散した子法人の株式の譲渡利益額・譲渡損失額を益金・損金とすることができないことに留意する必要がある。
4.株主資本への影響 適格現物分配は、現物分配資産の「引継ぎ」ではなく帳簿価額による「譲渡」とされており、現物分配資産の帳簿価額に基づいてみなし配当の金額を計算するため、利益積立金の引継ぎと同様の効果が生ずることとなる。
すなわち、残余財産の分配の場合には、被現物分配法人は、その交付を受けた資産のその交付の直前の帳簿価額に相当する金額からその適格現物分配に係る現物分配法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった株式に対応する部分の金額(法法24①三、法令23①三)を除いた金額を利益積立金額に加算することとされた(法令9①四)。なお、現物分配法人の利益積立金額がマイナスの場合には引き継ぐべき利益積立金額はない。
同時に、現物分配法人株式に係る譲渡損益は計上されず(法法61の2⑯)、譲渡損益相当額を資本金等の額にチャージすることとなる(法令8①十九)。
5.改正の影響 これらの改正は、「完全支配関係」にある親子会社間にあって、子会社が解散し残余財産が確定した場合に、親会社には影響が大きい改正である。
完全支配関係がある内国法人の残余財産が確定した場合には、その法人の法人税法57条の青色欠損金はその法人の株主である内国法人に引き継がれることとなり、株主が複数ある場合には、株式の保有割合に応じて按分されることとなる。つまり、残余財産の確定の時の株主が欠損金を引き継ぐため、グループ内の欠損金を引き継がせたい法人に事前に株式を移転するケースが生ずるものと考えられる。
本措置は、完全支配関係にある法人が平成22年10月1日以後に解散した場合に適用されることとなる(改正法附則13②)。
Ⅴ.具体例
1.個人による完全支配関係(金銭以外の資産の交付) 完全支配関係でも、個人頂点の場合には現物分配により資産の移転を受ける者に個人株主が存在するので、適格現物分配に該当しない(法法2①十二の十五)。ケース3の事例のようにA社(B社)とS3社の間では個人による完全支配関係と定義されている(法令4の2②)。
この場合、甲氏は個人株主であり、かつ金銭以外の資産の交付を受けることとなるので、適格現物分配ではなく、したがって、時価譲渡とみなしてS3社の所得計算をすることとなる。
この場合でも、A社、B社は完全支配相互の関係にあるので、欠損金の引継ぎ、子会社株式の消滅損の不計上などの株主資本への影響がそれぞれ発生することとなる(法法57②、法法61の2⑯、法令8①十九)。
2.適格現物分配 また本件で、S3社において、会社法454条4項により金銭分配請求権を定め、甲氏が会社法455条の金銭分配請求権を行使して金銭の分配を受け、A社・B社へは現物分配した場合には、「適格現物分配」となると考えられ、その場合には80%部分は帳簿価額での引継ぎとなり、ケース4と同じ適格現物分配になることから、実務上、留意すべき点である。20%部分は金銭に換価して交付する。
適格現物分配は、完全支配関係について、現物分配の直前に完全支配関係があることのみが要件とされ、その後の完全支配関係の継続見込みが要件とされていない。組織再編成と異なり譲渡法人側に課税の繰延べポジションが残らない、いわば手仕舞い型の取引であるからである。
さらに、例えば残余財産の分配などの場合において、金銭と金銭以外の資産の両方が分配されることもあるところ、このような場合には、金銭の分配と金銭以外の資産の交付を別々の取引として捉えることになるものと考えられる(脚注3)。
脚注
1 平21.11.27、裁決事例集No.78。
2 この条文は平成22年度税制改正によって削除されたが、同趣旨が法人税法74条2項で規定されており、実質の改正はない。また、みなし事業年度(法法14①二十一)も「残余財産確認の日までの期間」と実質の改正はないことから、残余財産確定後の税務上の処理を誰がどのように行うかに課題が残る。
3 「平成22年度版税制改正の解説」(財務省)211頁。
清算所得課税の廃止とグループ税制
税理士 竹内陽一
公認会計士・税理士 長谷川敏也
はじめに
株式会社は解散すると、合併又は破産の場合を除き、清算の手続きが開始される。清算は清算人によって行われ、会社法は、清算人の職務として①現務の結了②債権の取立て及び債務の弁済③残余財産の分配を規定している(会社法481)。
一方、平成22年度税制改正により、清算所得課税が廃止され、通常事業年度と同一の課税方式へ改正された(改正法法5)。適用期日は平成22年10月1日以後解散分からである(改正法附則10)ので、対象法人があれば、9月末までに解散をすべきか否か検討を要する。
Ⅰ.平成22年9月までの清算所得課税
清算所得課税は通常の所得課税と異なり、役員給与や交際費などを全額控除することが可能となる等の相違点があり、また財産法により算定することとされていた改正前法人税法93条《解散による清算所得の金額の計算》では、「内国普通法人等の解散による清算所得の金額は、その残余財産の価額からその解散の時における資本金等の額と利益積立金額等との合計額を控除した金額とする。」とあった。なお、清算所得金額の計算においては欠損金の繰越控除の適用はない。
解散の時における資本金等の額と利益積立金額との合計額は、解散の時における税務上の資産と負債の差額と同額になり、この金額は、解散の時における税務上の純資産の額とみることができ、清算所得の具体的な金額を残余財産の価額と解散の時における税務上の純資産の額の差額により認識する。清算所得に対する課税の趣旨は、いまだ課税されていない資産の含み益について、会社財産の清算の過程で実現した際に法人税を課するものであり、結果として、利益積立金額等がマイナスとなった場合にも、マイナスのまま計算することとなる(脚注1)。
Ⅱ.解散から清算結了までの法務と税務の流れ
ここで改めて解散から清算結了までの法務と税務の流れを概観する(図表1参照)。

清算中の普通法人は、その残余財産が確定した場合には、その確定した日の翌日から1月以内(当該期間内に残余財産の最後の分配又は引渡しが行われる場合には、その行われる日の前日まで)に、税務署長に対し申告書を提出しなければならない(法法104(脚注2))。このことから、今までの税務実務では残余財産が確定するまでしか帳簿記入をしないケースが多かったが、元来、清算株式会社は、清算事務が終了したときは、遅滞なく、決算報告を作成しなければならないし、清算人は、決算報告を株主総会に提出し、又は提供し、その承認を受けなければならない(会社法507)。また、平成22年度税制改正では、後述するように残余財産の分配時の処理規定が精緻化されている。
Ⅲ.清算所得課税の廃止と通常所得課税への移行
1.概要 平成22年度税制改正では、清算所得課税の廃止とそれに伴う、いわゆる「期限切れ欠損金」の利用範囲の拡大がされた(法法59③)。
この見直しは、債務超過にある企業が解散した場合に、税負担が現行制度と比べ不利にならないよう配慮して措置するものである。現行制度では、仮に解散時に債務免除益が生じても、財産法ベースで清算所得を計算するため債務免除益等は生じない。しかし今後は、通常の損益法ベースで所得計算を行うため、仮に債務免除を受けた場合にはその債務免除益に課税が行われる可能性がある。
具体的には、一定の要件の下、解散した場合において実質的に債務超過であることを前提に、基本的に清算事業年度において期限切れ欠損金の利用を認める措置が行われる。
ケース1【清算方針2】の場合、法人税等が合計で40%として40×0.4=16が発生する。そうすると、残余財産とは国等に対する債務も含むから「残余財産がないと見込まれるとき」に該当し、期限切れ欠損金をすべて損金に算入し、時価1を株主に分配できるとも解釈でき、又は適正な欠損金額を算入し、時価1に相当する法人税等を納付することになるとも考えられる。

今回の改正で「残余財産」及び「残余財産がないと見込まれるとき」の税法上の定義がないので、限界事例では、残余財産がないと見込まれるときは期限切れ欠損金の損金算入と国等への法人税等が循環関係になる。この場合の計算が政令又は規則に定めがないため、期限切れ欠損金の損金算入がオールオアナッシングの規定となり、株主への交付財産ができたり、残余財産を超えて国等への債務が発生したりする規定となっているので、処理方法について、通達等での手当てが望まれる。
2.100%グループ以外の場合の時価課税 改正後法人税法62条の5第1項・2項では、内国法人が残余財産の全部の分配により被現物分配法人その他の者にその有する資産の移転をするときは、移転をする資産の確定の時価による譲渡をしたものとして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する、と明記され、ケース2のように時価による譲渡として所得計算をすることとなる。
法人税法62条の5第1項・2項(100%グループ以外) 1 内国法人が残余財産の全部の分配又は引渡し(適格現物分配を除く。次項において同じ。)により被現物分配法人その他の者にその有する資産の移転をするときは、当該被現物分配法人その他の者に当該移転をする資産の当該残余財産の確定の時の価額による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。 2 残余財産の全部の分配又は引渡しにより被現物分配法人その他の者に移転をする資産の当該移転による譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失損失額は、その残余財産の確定の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。 |

3.解散した場合の期限切れ欠損金の扱い 改正法人税法59条3項では、内国法人が解散した場合の期限切れ欠損金の扱いを示しており、「残余財産がないと見込まれるときは、その清算中に終了する事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額で政令で定めるものに相当する金額は、当該適用年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」としている。
「残余財産がないと見込まれる」かどうかの判定の時期は法人の清算中に終了する各事業年度終了の時の現況による(法基通12-3-7)。期限切れ欠損金は法人の清算中に終了する各事業年度の所得計算において損金算入することとなるため、期限切れ欠損金を損金算入できるかどうかは各事業年度末において判定することとなる。
解散時において実質的に債務超過の状態にあるときは「残余財産がないと見込まれるとき」に該当(法基通12-3-8)し、例えば解散時の実態貸借対照表(貸借対照表を時価評価し直したもの)の上で債務超過であるならば、残余財産がないものと認められる(法基通12-3-9)。貸借対照表上で債務超過であっても、それが簿価ベースのものであるならば債務超過とは認められず、法人税法59条が適用されない可能性がある。
すなわち、青色繰越欠損金がないので、解散後、清算結了事業年度に免除益や譲渡益を実現しようとした場合、残余財産があると見込まれる場合(前頁のS2社最終損益計算書の通り)、課税が発生する可能性があるので税務上留意が必要である。
4.欠損金とは
(1)解散の場合の欠損金の範囲について 改正前法人税法93条は、この解散による利益積立金額等とは、解散の時における利益積立金額、清算中に受けた配当等の益金不算入となる額及び清算中に受けた益金不算入となる特定の還付金等の額の合計額である旨規定していた。
一方、改正法人税法施行令118条では、単に「前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額」と規定し、受取配当金の益金不算入金額等の調整を考慮していないので、実務上疑義が生じる。これに関しては、法人税基本通達において、当該事業年度の確定申告書に添付する法人税申告書別表五(一)の「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」に期首現在利益積立金額の合計額として記載されるべき金額で、当該金額が負(マイナス)である場合の当該金額による(法基通12-3-2)としている。法人税申告書別表五(一)の利益積立金額の合計額の「繰越損益金」はあくまでも会計上の当期損益がそのまま転記されているので、法人税法上の欠損金とは異なるが、税務の執行がある以上、本来の「欠損金」とは異なることに留意する必要がある(図表2参照)。

(2)期限切れ欠損金の損金算入 内国法人について、次の適用があった場合には、一定の要件の下に期限切れ欠損金が利用できる(法法59)。
イ 内国法人について更生手続開始の決定があつた場合において、その内国法人が(ア)債務の免除を受けた場合(イ)その内国法人の役員等から金銭その他の資産の贈与を受けた場合(法法59①)
ロ 内国法人について再生手続開始の決定があつたことその他これに準ずる事実(民事再生法(法令117①一)、特別清算開始の命令(法令117①二)、破産手続開始の決定(法令117①三)、中小企業再生支援協議会(法令117①四、国税庁文書照会)が生じた場合において、その内国法人が(ア)債務の免除を受けた場合(イ)その内国法人の役員等から金銭その他の資産の贈与を受けた場合(法法59②)
ハ 内国法人が解散した場合において、残余財産がないと見込まれるとき(法法59③)
解散し、「残余財産がないと見込まれる」ならば、一定の要件の下、期限切れ欠損金を利用できる(法法59③)。解散により債務免除益、私財提供益、資産の評価益、資産の譲渡益等が生じたならば、この期限切れ欠損金を利用することで過大な税負担を回避できるということだが、あくまでも青色欠損金を利用した後となる。
民事再生法適用時に「資産の評価損益」が生じないのであれば、欠損金の利用は青色欠損金、期限切れ欠損金の順となるが(法法59②)、解散の場合はこれと同じ扱いになる。
5.清算中の事業年度 会社法で各清算事務年度とは「会社が解散等をした日の翌日から一年間ごとの期間をいう」と定義されて、清算事務年度ごとに貸借対照表などを作成しなければならないと規定されている(会社法494①)。すなわち、解散等の翌日から一年ごとに決算をしなければならないということであり、法人税法上でも会社法の清算事務年度に対応するよう、「事業年度」自体の定義を「法人の損益などの計算の単位となる期間のこと」(法法13①)とし、通達でも、会社が解散などをした場合、清算中の事業年度は各会社の定款で定めた事業年度にかかわらず、会社法494条1項で規定する清算事務年度とする(法基通1-2-7)としており、会社法の清算事務年度と法人税法上の清算中の事業年度は一致する。
Ⅳ.適格現物分配の創設
1.現物分配・適格現物分配の創設 現物分配・適格現物分配が平成22年度税制改正で創設された。
「現物分配」とは、法人が株主等に配当発生事由により金銭以外の資産の交付をすること、「適格現物分配」とは、内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、その現物分配により資産の移転を受ける者がその現物分配の直前においてその内国法人との間に完全支配関係がある内国法人のみであるものである(法法2十二の六・十二の六の二・十二の十五)。
現物分配に関しては、原則として、現物分配法人において現物分配資産の譲渡利益額・譲渡損失額を益金・損金に算入するとともに(法法22)、被現物分配法人において受取配当等の益金不算入(法法23①)の規定が適用される。
ただし、適格現物分配に関しては、現物分配法人において現物分配資産の譲渡利益額・譲渡損失額の計上をせず(法法62の5③)、被現物分配法人において現物分配資産の分配を受けたことによる収益を益金不算入とすることとされている(法法62の5④)。
法人税法62条の5第3項・4項(100%グループ) 3 内国法人が適格現物分配により被現物分配法人にその有する資産の移転をしたときは、当該被現物分配法人に当該移転をした資産の当該適格現物分配の直前の帳簿価額(当該適格現物分配が残余財産の全部の分配である場合には、その残余財産の確定の時の帳簿価額)による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。 4 内国法人が適格現物分配により資産の移転を受けたことにより生ずる収益の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。 |
この「完全支配関係」がある親子会社間について、子会社が解散し、子会社の残余財産が確定した場合には、子会社の未処理欠損金額は親会社に引き継ぐこと(法法57②)に改正された。
なお、この場合に「完全支配関係」が5年以内に生じているときは、欠損金の引継ぎ処理について、制限措置が設けられている。
3.子会社株式消滅損の廃止 改正法人税法61条の2では、「完全支配関係」がある親子会社間における有価証券の譲渡について、譲渡対価を譲渡原価とみなす改正が行われており、これにより子会社株式の消滅損はないとされた(法人税法61条の2第16項の規定が、法人税法24条1項の各号に規定される事由、例えば3号には解散による残余財産の分配が規定されているが、金銭その他の資産の交付を受けた場合、又は、株式を有しないこととなった場合には、法人税法61条の2第1項1号の「その有価証券の譲渡に係る対価の額」は、2号の「その有価証券の譲渡に係る原価の額」に相当する金額とすることとなる)。
つまり、完全支配関係にある子法人の解散があった場合には、その株主は、法人税法61条の2第16項の規定により、その解散した子法人の株式の譲渡利益額・譲渡損失額を益金・損金とすることができないことに留意する必要がある。
4.株主資本への影響 適格現物分配は、現物分配資産の「引継ぎ」ではなく帳簿価額による「譲渡」とされており、現物分配資産の帳簿価額に基づいてみなし配当の金額を計算するため、利益積立金の引継ぎと同様の効果が生ずることとなる。
すなわち、残余財産の分配の場合には、被現物分配法人は、その交付を受けた資産のその交付の直前の帳簿価額に相当する金額からその適格現物分配に係る現物分配法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった株式に対応する部分の金額(法法24①三、法令23①三)を除いた金額を利益積立金額に加算することとされた(法令9①四)。なお、現物分配法人の利益積立金額がマイナスの場合には引き継ぐべき利益積立金額はない。
同時に、現物分配法人株式に係る譲渡損益は計上されず(法法61の2⑯)、譲渡損益相当額を資本金等の額にチャージすることとなる(法令8①十九)。
5.改正の影響 これらの改正は、「完全支配関係」にある親子会社間にあって、子会社が解散し残余財産が確定した場合に、親会社には影響が大きい改正である。
完全支配関係がある内国法人の残余財産が確定した場合には、その法人の法人税法57条の青色欠損金はその法人の株主である内国法人に引き継がれることとなり、株主が複数ある場合には、株式の保有割合に応じて按分されることとなる。つまり、残余財産の確定の時の株主が欠損金を引き継ぐため、グループ内の欠損金を引き継がせたい法人に事前に株式を移転するケースが生ずるものと考えられる。
本措置は、完全支配関係にある法人が平成22年10月1日以後に解散した場合に適用されることとなる(改正法附則13②)。
Ⅴ.具体例
1.個人による完全支配関係(金銭以外の資産の交付) 完全支配関係でも、個人頂点の場合には現物分配により資産の移転を受ける者に個人株主が存在するので、適格現物分配に該当しない(法法2①十二の十五)。ケース3の事例のようにA社(B社)とS3社の間では個人による完全支配関係と定義されている(法令4の2②)。

この場合、甲氏は個人株主であり、かつ金銭以外の資産の交付を受けることとなるので、適格現物分配ではなく、したがって、時価譲渡とみなしてS3社の所得計算をすることとなる。
この場合でも、A社、B社は完全支配相互の関係にあるので、欠損金の引継ぎ、子会社株式の消滅損の不計上などの株主資本への影響がそれぞれ発生することとなる(法法57②、法法61の2⑯、法令8①十九)。
2.適格現物分配 また本件で、S3社において、会社法454条4項により金銭分配請求権を定め、甲氏が会社法455条の金銭分配請求権を行使して金銭の分配を受け、A社・B社へは現物分配した場合には、「適格現物分配」となると考えられ、その場合には80%部分は帳簿価額での引継ぎとなり、ケース4と同じ適格現物分配になることから、実務上、留意すべき点である。20%部分は金銭に換価して交付する。

適格現物分配は、完全支配関係について、現物分配の直前に完全支配関係があることのみが要件とされ、その後の完全支配関係の継続見込みが要件とされていない。組織再編成と異なり譲渡法人側に課税の繰延べポジションが残らない、いわば手仕舞い型の取引であるからである。
さらに、例えば残余財産の分配などの場合において、金銭と金銭以外の資産の両方が分配されることもあるところ、このような場合には、金銭の分配と金銭以外の資産の交付を別々の取引として捉えることになるものと考えられる(脚注3)。
脚注
1 平21.11.27、裁決事例集No.78。
2 この条文は平成22年度税制改正によって削除されたが、同趣旨が法人税法74条2項で規定されており、実質の改正はない。また、みなし事業年度(法法14①二十一)も「残余財産確認の日までの期間」と実質の改正はないことから、残余財産確定後の税務上の処理を誰がどのように行うかに課題が残る。
3 「平成22年度版税制改正の解説」(財務省)211頁。
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