解説記事2012年05月28日 【ニュース特集】 低所得者対策など消費税審議が重要局面へ(2012年5月28日号・№452)
社会保障・税一体改革特別委で本格審議
低所得者対策など消費税審議が重要局面へ
衆議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会(中野寛成委員長)で社会保障・税一体改革関連法案の本格的な審議が行われている。社会保障に係る部分については、自民党が5月15日、「社会保障基本法案(仮称)」の骨子を決定。最低保障年金は非現実的な選択肢などと指摘し、今後、社会保障制度改革国民会議(仮称)での具体的な審議を提案している。このため、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」の審議では、主に消費税率引上げと財政健全化の関係、消費税率引上げに伴う低所得者対策などが焦点になると予想される。
今回の特集では、特別委員会で議論となるであろう低所得者対策(給付付き税額控除・簡素な給付措置、軽減税率)および財政健全化目標と消費税率引上げの関係を確認する。
会期末が迫るなか、消費税増税の実質審議が始まる 「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」(以下、「消費税法等の一部改正法案」という)等の審議が、衆議院に設置された社会保障と税の一体改革に関する特別委員会(中野寛成委員長)で行われている(表1参照)。消費税率引上げを含む消費税法等の一部改正法案は、平成21年度税制改正法附則104条の規定により、平成23年度中に国会提出されたが、会期末が迫るなか、ようやく法案の本格審議が始まった格好だ。
消費税法等の一部改正法案は、周知のとおり、消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%へと引上げる案が明記されている。また、所得税の最高税率引上げ(課税所得5,000万円超→45%)、相続税の基礎控除引下げ(3,000万円+600万円×法定相続人数)、相続税の税率構造見直し(最高税率50%→55%)、直系卑属(20歳以上)を受贈者とする場合の贈与税の税率構造緩和などの税制抜本改革事項も盛り込まれている。
しかし、消費税法等の一部改正法案の国会審議では、消費税率引上げに係る議論が中心になると予想される。具体的には、消費税率引上げ時期、低所得者対策で論戦が繰り広げられるものと思われる(表2参照)。
民主党税調、今回の改革での単一税率維持を確認 まず、消費税率引上げに伴う低所得者対策をみていく。低所得者対策について、消費税法等の一部改正法案には、(1)番号制度の本格的な稼動および定着を前提に、関連する社会保障制度の見直しおよび所得控除の抜本的な整理と併せて、総合合算制度、給付付き税額控除等の低所得者に配慮した再分配に関する総合的な施策を導入する、(2)(1)の再分配に関する総合的な施策の実現までの間の暫定的および臨時的な措置として、社会保障の機能強化との関係も踏まえつつ、給付の開始時期、対象範囲、基準となる所得の考え方、財源の問題、執行面での対応の可能性等について検討を行い、簡素な給付措置を実施すると明記されている。
この簡素な給付措置について、政府は4月17日、「簡素な給付措置の具体化にあたっての基本的な考え方」を決定した(表3参照)。しかし、政府の「基本的な考え方」は、具体的な内容が乏しいのも事実だ。たとえば、給付額水準と対象者範囲については、「所得の少ない家計ほど生活に必要不可欠な消費支出の割合が高いことによる低所得者への影響を勘案し、決定する」「実務上の対応可能性に配慮するとともに、社会保障各制度における低所得者の範囲との整合性に留意して決定する」との記述に留まっている。
なお、財源については、「遅くとも2015年度までにその赤字の対GDP比を2010年度の水準から半減し、遅くとも2020年度までに黒字化することを目標とする等の財政運営戦略と整合的なものとなるよう、財源を確保する」と明記している。
低所得者対策に関する政府の基本方針は、上記のとおり、給付付き税額控除の導入、簡素な給付措置の実施ということになる。
他方、野党第1党である自民党は、「軽減税率」導入を主張する。実際、同党は政策集で、消費税率を当面10%とすることとし、その際、食料品の複数税率等、低所得者への配慮も併せて検討するとの方針を示している。
また、5月22日の社会保障・税一体改革特別委員会では、自民党の町村信孝委員が、「消費税引上げに関する低所得者への配慮」と題する資料を提示(表4参照)。軽減税率は分りやすく、実感が強いなどと主張した。これに対し、安住淳財務大臣は、軽減税率の範囲を広げると兆円単位の影響があるなどと反論した。
一方、自民党が主張する「軽減税率」については、5月17日に開催された民主党税制調査会(藤井裕久会長)の役員会でも議論が行われた。そのなかで藤井会長は、「スウェーデンでも5%や8%の時に軽減税率を導入しているわけではなく、25%以上になった時点の知恵のなかで生まれたものだ。8%、10%では軽減税率の立場はとらない。これは揺るぎのない基本線だ」と発言した模様。民主党税調として、時間をかけて集約した「今回の改革では単一税率を維持する」との方針に変更はないことを確認した。
なお、役員会後の記者会見で、古本伸一郎民主党税調事務局長は、「今回の改革(2014年4月8%、2015年10月10%)では、複数税率は採らないが、次回の改革では、それ(複数税率導入)を妨げない」と述べている。
自民党、社会保障制度改革は国民会議で再議論の方針 消費税法等の一部改正法案の国会審議では、消費税率引上げと財政健全化の関係も焦点になると考えられる。
社会保障・税一体改革特別委での審議入りに先立ち、自民党は5月15日、「今後の社会保障に対するわが党の基本的な考え方(骨子)」を取りまとめている(今号8頁参照)。
自民党の「基本的な考え方」では、同党の社会保障に係る基本的な立場として、「自助」「自立」を第一とし、「共助」さらには「公助」の順に政策を組み合わせるとしている。
年金、医療、介護、少子化対策など各分野での対応としては、民主党が主張する全額税方式の最低保障年金の創設や被用者年金と国民年金の一元化は問題が多く、非現実的な選択肢と一蹴。「子ども・子育て新システム」については、待機児童解消が期待できず、制度もさらに複雑になると指摘。保育の質の低下や保護者負担の増加を引き起こす恐れのある保育の産業化の方向は、自民党は不採用とした。また、骨子では、年金、医療、介護、少子化対策の方向性を示しており、有識者による社会保障制度改革国民会議(仮称)で、具体的な施策を審議するとしている。
なお、この骨子は、5月15日の社会保障制度に関する特命委員会(野田毅委員長)において、骨子を基に法案化作業(社会保障基本法案)を進めることが、執行部に一任されている。
社会保障制度安定化・財政再建で合意できるか 今回、自民党が示した社会保障に対する基本的な考え方には、年金、医療、介護、少子化対策の具体的な施策が明記されておらす、検討の方向性に留まる。その意味では、対案との位置付けにはなっていないといえよう。
すなわち、自民党は、社会保障改革に係る政府案を否定したうえで、国民会議での仕切り直しを提案したものといえる。
また、同党では、党内で税制抜本改革に係る財政再建の定義や構造的な税制改革について議論を行う方針だ。国会審議においても、消費税率引上げは、現行の社会保障制度の安定化(維持)・財政再建の観点から議論が進められると考えられる。
消費税法等の一部改正法案が成立するとすれば、財政健全化目標の達成に向けた消費税率引上げで合意が得られた場合となろう。
他方、すでに法案審議を巡っては与野党間に種々の問題があるなか、このまま政治情勢に変化がなければ、自民党が成立のためのハードルをさらに上げることも考えられる。
低所得者対策など消費税審議が重要局面へ
衆議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会(中野寛成委員長)で社会保障・税一体改革関連法案の本格的な審議が行われている。社会保障に係る部分については、自民党が5月15日、「社会保障基本法案(仮称)」の骨子を決定。最低保障年金は非現実的な選択肢などと指摘し、今後、社会保障制度改革国民会議(仮称)での具体的な審議を提案している。このため、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」の審議では、主に消費税率引上げと財政健全化の関係、消費税率引上げに伴う低所得者対策などが焦点になると予想される。
今回の特集では、特別委員会で議論となるであろう低所得者対策(給付付き税額控除・簡素な給付措置、軽減税率)および財政健全化目標と消費税率引上げの関係を確認する。
会期末が迫るなか、消費税増税の実質審議が始まる 「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」(以下、「消費税法等の一部改正法案」という)等の審議が、衆議院に設置された社会保障と税の一体改革に関する特別委員会(中野寛成委員長)で行われている(表1参照)。消費税率引上げを含む消費税法等の一部改正法案は、平成21年度税制改正法附則104条の規定により、平成23年度中に国会提出されたが、会期末が迫るなか、ようやく法案の本格審議が始まった格好だ。

消費税法等の一部改正法案は、周知のとおり、消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%へと引上げる案が明記されている。また、所得税の最高税率引上げ(課税所得5,000万円超→45%)、相続税の基礎控除引下げ(3,000万円+600万円×法定相続人数)、相続税の税率構造見直し(最高税率50%→55%)、直系卑属(20歳以上)を受贈者とする場合の贈与税の税率構造緩和などの税制抜本改革事項も盛り込まれている。
しかし、消費税法等の一部改正法案の国会審議では、消費税率引上げに係る議論が中心になると予想される。具体的には、消費税率引上げ時期、低所得者対策で論戦が繰り広げられるものと思われる(表2参照)。

民主党税調、今回の改革での単一税率維持を確認 まず、消費税率引上げに伴う低所得者対策をみていく。低所得者対策について、消費税法等の一部改正法案には、(1)番号制度の本格的な稼動および定着を前提に、関連する社会保障制度の見直しおよび所得控除の抜本的な整理と併せて、総合合算制度、給付付き税額控除等の低所得者に配慮した再分配に関する総合的な施策を導入する、(2)(1)の再分配に関する総合的な施策の実現までの間の暫定的および臨時的な措置として、社会保障の機能強化との関係も踏まえつつ、給付の開始時期、対象範囲、基準となる所得の考え方、財源の問題、執行面での対応の可能性等について検討を行い、簡素な給付措置を実施すると明記されている。
この簡素な給付措置について、政府は4月17日、「簡素な給付措置の具体化にあたっての基本的な考え方」を決定した(表3参照)。しかし、政府の「基本的な考え方」は、具体的な内容が乏しいのも事実だ。たとえば、給付額水準と対象者範囲については、「所得の少ない家計ほど生活に必要不可欠な消費支出の割合が高いことによる低所得者への影響を勘案し、決定する」「実務上の対応可能性に配慮するとともに、社会保障各制度における低所得者の範囲との整合性に留意して決定する」との記述に留まっている。
【表3】「簡素な給付措置」の具体化にあたっての基本的な考え方(抜粋) |
1 給付額の水準・対象者の範囲 (1)給付額の水準 簡素な給付措置の給付額の水準については、所得の少ない家計ほど生活に必要不可欠な消費支出の割合が高いことによる低所得者への影響を勘案し、決定する。 (2)対象者の範囲 簡素な給付措置の対象となる低所得者の範囲については、実務上の対応可能性に配慮するとともに、社会保障各制度における低所得者の範囲との整合性に留意して決定する。 2 簡素な給付措置の具体化にあたって勘案すべき事項 (1)暫定的・臨時的措置及び執行面での対応可能性給付付き税額控除等再分配に関する総合的な施策の実現までの間の暫定的、臨時的措置であることを踏まえ、執行面での対応可能性も念頭に、公平性にも配意し、事務・費用の両面でできる限り簡素で効率的な枠組みとするとともに、給付付き税額控除等との接続にも配慮する。 (2)財源 簡素な給付措置の実施にあたっては、1-(1)及び1-(2)に沿った検討を進めつつ、同時に「社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成」という社会保障・税一体改革の趣旨や、国・地方及び国の基礎的財政収支について、遅くとも2015年度までにその赤字の対GDP比を2010年度の水準から半減し、遅くとも2020年度までに黒字化することを目標とする等の財政運営戦略と整合的なものとなるよう、財源を確保する。 |
なお、財源については、「遅くとも2015年度までにその赤字の対GDP比を2010年度の水準から半減し、遅くとも2020年度までに黒字化することを目標とする等の財政運営戦略と整合的なものとなるよう、財源を確保する」と明記している。
低所得者対策に関する政府の基本方針は、上記のとおり、給付付き税額控除の導入、簡素な給付措置の実施ということになる。
他方、野党第1党である自民党は、「軽減税率」導入を主張する。実際、同党は政策集で、消費税率を当面10%とすることとし、その際、食料品の複数税率等、低所得者への配慮も併せて検討するとの方針を示している。
また、5月22日の社会保障・税一体改革特別委員会では、自民党の町村信孝委員が、「消費税引上げに関する低所得者への配慮」と題する資料を提示(表4参照)。軽減税率は分りやすく、実感が強いなどと主張した。これに対し、安住淳財務大臣は、軽減税率の範囲を広げると兆円単位の影響があるなどと反論した。
【表4】消費税引上げに関する低所得者への配慮 |
軽減税率 | 給付付き税額控除 (導入までの間の暫定的・簡素な給付) | |
1.実感、分り易さ | ○分かり易く、 実感は強い | ○仕組みが複雑な為、実感しずらい |
2.財政への影響 | ○中高所得者にも効果が及ぶので、減収規模大か? | ○低所得者に絞った負担軽減 ○所要財源は、軽減税率より小さいか? |
3.制度設計上の課題 | ○軽減対象品目の選定 (食料品+α) ○インボイス制度が必要か?(請求書で代替可能か) | ○低所得者の範囲(拡大すればバラマキ) ○番号制度で所得把握がどこまで可能か ○社会保障の充実、既存の低所得者対策との関係 ○給付の財源をどこから調達するか |
4.執行上の課題 | ○中小事業者に事務負担の発生 ○免税事業者 (インボイス不要)が取引から排除されるおそれ | ○番号制度の定着のメルクマールは何か (暫定的簡素な給付が永続するおそれ) ○所得把握等執行主体の負担・コスト大 ○不正受給の発生(所得の過少申告、より多くの給付を受領)等納税者のモラルハザードのおそれ ○過去2回の臨時給付金は市町村が執行主体。複雑な仕組みだと市町村の抵抗は大 |
(出典:5月22日衆議院特別委員会町村信孝委員提示資料に基づき作成) |
一方、自民党が主張する「軽減税率」については、5月17日に開催された民主党税制調査会(藤井裕久会長)の役員会でも議論が行われた。そのなかで藤井会長は、「スウェーデンでも5%や8%の時に軽減税率を導入しているわけではなく、25%以上になった時点の知恵のなかで生まれたものだ。8%、10%では軽減税率の立場はとらない。これは揺るぎのない基本線だ」と発言した模様。民主党税調として、時間をかけて集約した「今回の改革では単一税率を維持する」との方針に変更はないことを確認した。
なお、役員会後の記者会見で、古本伸一郎民主党税調事務局長は、「今回の改革(2014年4月8%、2015年10月10%)では、複数税率は採らないが、次回の改革では、それ(複数税率導入)を妨げない」と述べている。
自民党、社会保障制度改革は国民会議で再議論の方針 消費税法等の一部改正法案の国会審議では、消費税率引上げと財政健全化の関係も焦点になると考えられる。
社会保障・税一体改革特別委での審議入りに先立ち、自民党は5月15日、「今後の社会保障に対するわが党の基本的な考え方(骨子)」を取りまとめている(今号8頁参照)。
自民党の「基本的な考え方」では、同党の社会保障に係る基本的な立場として、「自助」「自立」を第一とし、「共助」さらには「公助」の順に政策を組み合わせるとしている。
年金、医療、介護、少子化対策など各分野での対応としては、民主党が主張する全額税方式の最低保障年金の創設や被用者年金と国民年金の一元化は問題が多く、非現実的な選択肢と一蹴。「子ども・子育て新システム」については、待機児童解消が期待できず、制度もさらに複雑になると指摘。保育の質の低下や保護者負担の増加を引き起こす恐れのある保育の産業化の方向は、自民党は不採用とした。また、骨子では、年金、医療、介護、少子化対策の方向性を示しており、有識者による社会保障制度改革国民会議(仮称)で、具体的な施策を審議するとしている。
なお、この骨子は、5月15日の社会保障制度に関する特命委員会(野田毅委員長)において、骨子を基に法案化作業(社会保障基本法案)を進めることが、執行部に一任されている。
社会保障制度安定化・財政再建で合意できるか 今回、自民党が示した社会保障に対する基本的な考え方には、年金、医療、介護、少子化対策の具体的な施策が明記されておらす、検討の方向性に留まる。その意味では、対案との位置付けにはなっていないといえよう。
すなわち、自民党は、社会保障改革に係る政府案を否定したうえで、国民会議での仕切り直しを提案したものといえる。
また、同党では、党内で税制抜本改革に係る財政再建の定義や構造的な税制改革について議論を行う方針だ。国会審議においても、消費税率引上げは、現行の社会保障制度の安定化(維持)・財政再建の観点から議論が進められると考えられる。
消費税法等の一部改正法案が成立するとすれば、財政健全化目標の達成に向けた消費税率引上げで合意が得られた場合となろう。
他方、すでに法案審議を巡っては与野党間に種々の問題があるなか、このまま政治情勢に変化がなければ、自民党が成立のためのハードルをさらに上げることも考えられる。
重要資料
H24.5.15現在 今後の社会保障に対するわが党の基本的な考え方(骨子) ─支える立場(納税者、社会保険料負担者)に立った持続可能な制度への見直し─ 社会保障制度に関する特命委員会 1.基本的立場 社会保障費が近年の急速な高齢化などに伴い年々増加する一方で、社会の支え手である生産年齢人口が減少する中、国民の保険料負担は増大するとともに、公費負担の増大に伴い国や地方の財政事情は悪化し、財政再建が急務に。世代間の負担格差の是正も不可避。 所得税法等の一部を改正する法律(平成21年法律13号)附則104条(税制の抜本的な改革に係る措置)を踏まえ、年金、医療、介護及び少子化対策について、我が国の社会・経済の現状や将来の姿を見据え、税や保険料を負担する者の立場に立って、受益と負担の均衡が取れた持続可能な制度への見直しを実施。 (1)額に汗して働く人が報われる制度に ①額に汗して働き、税金や社会保険料などを納め、また納めようという意思を持つ人々が報われること、②不正に申告した者が不当に利益を受けたり、正直者が損をしないようにすることが見直しの原点。「自助」、「自立」を第一とし、「共助」、さらには「公助」の順に政策を組み合わせ、負担の増大を極力抑制する中で、真に必要とされる社会保障の提供を目指す。 (2)家族による「自助」、自発的な意思に基づく「共助」を大事にする制度を 家族の力の喪失を背景に、子育てなどの社会化が一層進められようとしているが、徒にそうした道を選ぶのではなく、家族内の精神的、経済的、物理的な助け合い、すなわち「家族力」の強化により「自助」を大事にする方向を目指す。また、自発的な意思に基づく「共助」を大事にし、その力が十分に発揮され得る社会を構築。 (3)公費負担の在り方と社会保険制度の見直し 我が国の社会保障は、社会保険制度を基本とし、必要な見直しを実施。一定の公費負担は社会保険料だけで給付を賄い得ない状況では当然であるが、保険料負担の適正化などに限定的に充当。 これからの公的負担を支える財源は、①社会保障は広く国民全体が恩恵を受けるものであること、②社会保険料が概して収入に基づき負担するものであり、所得税と同様の経済効果をもたらすことなどを踏まえ、消費に基づき負担する消費税が中心に。 (4)国民の理解に基づく見直しの実施 社会保障の受益と負担(保険料、税、自己負担)の関係がかなり複雑であることもあり、国民においては、税や保険料は取られるもの、社会保障サービスは与えられるものと、受益と負担の関係の認識が希薄。受益と負担の関係や負担決定の手続などの「見える化」を進め、国民の理解と得る中で、受益と負担の両面にわたり必要な見直しを実施。 2.各分野での対応について (1)年金 ・保険料を納付した者が年金受給資格を有することが年金制度の基本であり、保険料の納付如何にかかわらず支給する全額税方式の最低保障年金の創設や、雇用者が保険料の半額を負担する被用者年金と全額を自己負担する国民年金との一元化には問題点が多く、非現実的な選択肢。 ・平成16年改正に基づく現行の年金制度は、平成21年度の財政検証の結果を見ても財政的に破綻しておらず、現行制度を基本に、被用者年金の一元化、受給資格要件の緩和、年金受給時期選択の弾力化、社会保障番号制度の早期導入など必要な是正を実施。 ・国民年金(基礎年金)は貯蓄や家族の支えなど他の手段と相まって、老後の生活を支える一つの手段であり、生活に困窮している無年金や低年金の高齢者に対しては、保険料納付を前提とする年金制度の中ではなく、生活保護制度の見直しを踏まえ、所得、資産状況に応じた低所得者対策として対応。 (2)医療 ・高齢化に加え、高額医療機器や高度医療の進展等、今後とも医療費の増大が不可避な中で、国民皆保険を守ることが基本。 ・健康の維持・増進、予防など健康管理への自主的取組みの促進、医師をはじめ人材や医療資源の確保とその一層の有効活用などにより、国民の負担を抑制しつつ必要な医療を確保。 ・人間としての尊厳が守られ、人生の最終段階を穏やかに過ごせるように、患者の意思(リビングウィル)がより尊重され得る方向での見直しと看取りの充実などそのための環境の整備。 ・医療保険制度については、財政基盤の安定化、保険料負担の公平化、保険範囲の適正化などを行うとともに、高齢者医療制度は、現行制度を基本としつつ必要な見直しを実施。 (3)介護 ・高齢化の一層の進展などに伴う介護サービス需要の増大に対処するには、財源の確保が不可避であるが、一層の保険料負担を求めることは自ずと限界があり、介護保険対象の見直しなど介護サービスの効率化・重点化に加え、公費負担割合の引上げ等により、真に必要な介護サービスを確保。 (4)少子化対策 ・急速な人口減少の下で、経済を成長させ、社会保障制度を持続させていくには、女性をはじめ現役世代の就労支援や継続雇用の促進と、社会保障の基盤となる少子化対策の着実な実施が重要。 ・これからの少子化対策は、単に子ども・子育て支援に留まらず、「若者」支援、「結婚」、「出産」、「子育て(教育)」を通じて家族を幅広く支え、子育てを幸せと実感できる「家族支援政策」を積極的に進めるとともに、少子化克服のための抜本的な社会・意識改革を推進。 ・雇用形態に関わらずに1年の産・育休が取得できる制度の確立や1歳を超えてからの円滑な保育所入所の確保などにより、「0歳児への親が寄り添う育児」を推進。 ・『子ども・子育て新システム』は、待機児童解消が期待できないことに加え、制度をさらに複雑にするもの。保育の質の低下や保護者の負担の増加を引き起こす恐れのある保育の産業化の方向は、わが党は不採用。 ・待機児童を多く抱える地域において、臨時・特例的な対応としての首長の裁量権の拡大、認定こども園の設置促進、処遇改善などによる保育士の確保、必要な財政上の支援など即効性のある効果的な待機児童解消策を推進。 3.社会保障制度改革国民会議(仮称)の創設 ・社会保障制度改革国民会議(仮称)において、上記の方向性に沿って具体的な施策を審議し、早急に法制上をはじめ必要な措置を講じる。 4.その他 ・上記の対応と併せて、生活保護制度について、やむを得ざる事情で自助努力による生計の維持ができない者に対する措置ということを原点に、不正受給への厳格な対処とともに、生活保護水準や医療費扶助の適正化、自治体における現金給付と現物給付の選択的実施、自立や就労の促進など必要な見直しを早急に実施。 また、不安定な家庭環境等にいる子供たちへのセーフティーネットの確立、教育の提供体制の整備などにより世代間の貧困連鎖を防止するとともに、中期的課題として、高齢者、障害者等の就労不可能者と就労可能者とに制度を二分化、就労可能者を対象に、就職斡旋を断った場合の給付の減額・停止の仕組みの導入などを検討。 |
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