解説記事2013年10月07日 【税制改正解説】 経済政策パッケージとしての税制改正(2013年10月7日号・№518)
税制改正解説
経済政策パッケージとしての税制改正
一般社団法人 日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部泰久
安倍総理は10月1日の会見で、来年4月1日からの消費税率8%への予定通りの引上げとともに、総額5兆円にのぼる経済対策を公表した。その中では、税制措置として、「日本再興戦略」で示されていた投資減税が「生産性向上設備投資促進税制」として創設されたのみならず、研究開発税制の拡充、25年度税制改正で導入された所得拡大促進税制の見直しなど総額1兆円規模の法人税減税が盛り込まれた。また、総理会見では、法人実効税率引き下げの第一歩として、復興特別法人税の前倒し廃止に強い意欲が示された。
そこで、本稿ではこれらの税制措置の内容を、10月1日に取りまとめられた与党税制改正大綱に基づき解説する。
Ⅰ 復興特別法人税の廃止と法人実効税率引下げへの道筋
今回の経済対策で、とりわけ重要であるのは、安倍総理が経済活性化の要として法人実効税率引き下げに強い意欲を示し、与党税制調査会や財務省の抵抗を押し切る形で、復興特別法人税の廃止とともに、法人実効税率引き下げに向けた早期検討を打ち出したことである。
1.復興特別法人税の廃止 平成23年度税制改正により法人税率が30%から25.5%へ引き下げられたことにより、本来、法人実効税率も40%台から35%台(東京都:40.69%→35.64%)となるはずであったが、東日本大震災からの復興に要する財源策として法人税額(国税のみ)の10%を復興特別法人税として平成24年度~26年度の3年間にわたり上乗せすることで、法人実効税率は38%台(東京都:38.01%)に止まっている。この法人税額の10%とは、23年度税制改正により、課税ベースの拡大等の増税等を差し引きネットで7,800億円の法人税減税となるはずであったところ、それに見合う分として算出されたものである(図1参照)。
しかし、アベノミクス効果による企業収益の改善により、法人税収は当時の見通しを大幅に上回り、平成25年度分も当初予算の8兆7,140億円から1兆円程度上回ると見込まれ、26年度には10兆円を超えるのは確実と期待されている。すなわち、復興特別法人税を廃止しても、自然増収だけで復興財源分を十分に確保できる状況にある。そこで、法人実効税率引下げの第一歩として、復興特別法人税を1年前倒しし25年度限りで終了することとされた。なお、大綱では、年末までに検討とされているが、政府の方針として安倍総理の会見で明示されている。
2.法人実効税率引下げに向けた検討 わが国の法人実効税率は、復興特別法人税廃止後も国際的にみれば依然として高い水準にある。また、日本同様に高いとされている米国では、オバマ大統領より28%(製造業は25%)に下げるとの方針が既に示されており、そうなれば日本の法人実効税率は主要国の中で突出して高いことになる(図2参照)。
大綱では「わが国が直面する産業構造や事業環境の変化の中で、法人実効税率引き下げが雇用や国内投資に確実につながっていくのか、その政策効果を検証する必要がある。表面税率を引き下げる場合には、財政の健全化を勘案し、ヨーロッパ諸国でも行われたように政策減税の大幅な見直しなどによる課税ベースの拡大や、他税目での増収策による財源確保を図る必要がある。こうした点を踏まえつつ、法人実効税率の在り方について、今後、速やかに検討を開始することとする。」とされており、今年末の平成26年度税制改正において、具体的な道筋が示されることを期待したい。
Ⅱ 日本再興戦略と税制改正
もともと、「日本再興戦略(6月14日閣議決定)」の中では、「思い切った投資減税で法人負担を軽減すること等によって積極姿勢に転じた企業を大胆に支援していく。」として、以下の3点について、平成26年度税制改正を待たずに措置することが明記されていた。
①投資促進 今後3年間でリーマンショック前の設備投資水準(70兆円/年)を回復するために、老朽化した生産設備から生産性・エネルギー効率の高い最先端設備への入れ替え等の生産設備の新陳代謝を促進する取組みを強力に推進し、これに応じて設備の新陳代謝を進める企業への税制を含めた必要な支援策を講じる。
②事業再編 収益力の飛躍的な向上に向けた戦略的・抜本的な事業再編を推進する企業に対して、税制措置や金融支援などの必要な支援措置を講じる。また、過剰供給構造が長年放置されてきた分野について、国が指針を示し、是正に向けた取組を促すための枠組みを構築する。
③ベンチャー支援 開業率が廃業率を上回る状態にし、米国・英国レベルの開・廃業率10%台(現状約5%)を目指すために、ベンチャーへの資金供給を大幅に拡大する。このため、現行のエンジェル税制を使い勝手の良いものに改善し、民間企業等の資金を活用したベンチャー企業への投資を促すために、必要な措置を講ずる。大企業からの独立(スピンオフ)や地域のリソースを活用した起業・創業も強力に推進する。
経団連では、これら日本再興戦略に盛り込まれた税制措置に関する具体的要望を、7月10日に「日本再興戦略に基づく税制措置に関する提言」、9月9日に「平成26年度税制改正に関する提言」として公表し(詳細は、本誌34頁掲載「経団連平成26年度税制改正に関する提言について」を参照)、政府・与党に働きかけてきたが、ほぼ要望通りの成果を上げることができた。
Ⅲ 生産性向上設備投資促進税制の創設
国内への積極的な投資を促すための大胆な投資減税として、産業競争力強化法(後述)施行の日(平成25年中を予定)から平成29年3月31日までの間に、産業競争力強化法に規定する「生産性向上設備等」に該当するもののうち、一定規模以上のもの等を取得し、国内での事業の用に供した場合には、以下のように即時償却・特別償却あるいは税額控除(控除限度額:法人税額の20%)の選択が認められる。なお、平成26年3月31日までに終了する事業年度で取得した分については、平成26年4月1日を含む事業年度において即時償却・税額控除ができることで、事実上、平成25年度に遡及適用される。
「生産性向上設備等」は、幅広く先端設備への更新投資に向けたものと、生産ラインやオペレーションの刷新に向けたものに分かれる。いずれも、製造業のみならず、物流・流通サービス業等の非製造業も活用できる。生産等設備に限り、本店、寄宿舎等の建物、事務用器具備品、福利厚生施設等は該当しない。
1.先端設備の導入 機械・装置、一定の工具、器具・備品、建物、建物付属設備で、一定金額以上のもののうち、旧モデルと比べ、年平均1%以上の生産性向上要件を満たす最新モデルの導入が幅広く対象となる(表1参照)。中小企業については、これらに加え、サーバー、ソフトウエアも対象となる。
なお機械・装置のうち、中小企業者等が取得するソフトウエア組込型機械・装置については最新モデルでなく一代前のモデルでも認められる。
対象機器等は、産業競争力強化法の実行計画において達成すべき生産性向上目標を示した上で、同法の省令において基準を定め、この基準を満たすものであるかどうかは関係工業会が証明書を発行することで担保する。
2.生産ラインやオペレーションの刷新 機械・装置、工具、器具・備品、建物、建物付属設備、構築物、ソフトウエアで、一定金額以上のもののうち、投資計画上の投資利益率が15%以上(資本金1億円以下の中小企業者等は5%以上)であることを経済産業局が確認した場合に適用される。1とは異なり、個々の設備等が生産性・エネルギー効率向上基準や最新モデルであることは必要ではない。また、取得価額に関する要件は先端設備に準じる(構築物については、建物と同様とする)。
具体的には、生産ラインやオペレーションの改善に関し、事業者が通常作成する簡素な設備投資計画上の投資収益率を公認会計士または税理士が確認した上、経済産業局が確認することとなる。
3.残された課題-償却資産課税 以上、法人税においては経済界の要望をほぼ満たす使い易いものとなり、法人事業税、法人住民税においても中小企業者は同様な措置が取られるが、経済界から要望の強かった対象設備等に対する償却資産課税(固定資産税)の減免については減収分の国費補てんを求める総務省との調整がつかず、年末の26年度予算編成過程で改めて検討されることとなっている。
Ⅳ 産業競争力強化法と税制措置
日本再興戦略の確実な実行を図るために、産業競争力の強化に関する施策を総合的かつ一体的に推進するため、産業競争力強化法(仮称)の制定が、平成25年秋の臨時国会で予定されている。
1.産業競争力強化法の概要 産業競争力強化法は、日本再興戦略の実行を図る「緊急構造改革期間(平成30年度までの5年間)」において、以下の様々な施策を実現するための特例措置を整備するものである。
①日本再興戦略に盛り込まれた諸施策について、5年間で集中的に実施すべく、政府において実行計画を策定し、実施期限、担当大臣を決定する。確実に実施すべき当面3年間の計画を毎年見直ししていく。
②規制改革を強力に推進するための措置として、企業単位で特例措置を適用する「企業実証特例制度」、現行規制の適用範囲が不明確な分野において予め規制の適用の有無を確認できる「グレーゾーン解消制度」を創設する。
③産業の新陳代謝を促進するための措置として、ベンチャー企業への資金供給の円滑化を図るために、一定の要件を満たすベンチャーファンドへの事業会社の出資についての優遇策、思い切った事業再編を行う企業への支援策、リスクの高い先端設備を設備についてリース手法を用いた投資促進策を講じる。この一環として、事業再編促進税制およびベンチャー投資促進税制が創設される(後述)。
④中小企業の活力再生のために、自治体が民間の創業支援事業者と連携して地域の創業支援体制を構築する取り組みへのサポート、中小企業の事業再生への支援強化策を講じる。
⑤産業競争力強化のための措置として、国立大学法人等によるベンチャー出資の特例、中小・ベンチャー企業を対象とする特許料の減免措置を講じるほか、従来の産業活力法に基づく産業革新機構、早期事業再生の円滑化等を継承し、産業活力法は廃止される。
2.事業再編促進税制の創設 産業競争力強化法施行の日から平成29年3月31日までの間に、産業競争力強化法により「特定事業再編計画」の主務大臣認定を受けた複数の事業者が、その事業の一部を分離・統合して新会社(特定会社)を設立する場合、特定会社に対する出資額の70%を「特定事業再編投資損失準備金」として積み立て損金算入することができる。準備金は10年間据え置き、あるいは統合会社が3期連続で営業黒字に至った場合には、5年間で均等に取崩し、それに至らず統合会社が解散した場合には、その期において一括して取崩す。
3.ベンチャー投資促進税制の創設 産業競争力強化法施行の日から平成29年3月31日までの間に、産業競争力強化法により「特定新事業開拓投資事業計画」の主務大臣認定を受けた投資事業有限責任組合(ベンチャーファンド)に出資する事業者(有限責任組合員に限る。また、適格機関投資家である場合には出資予定額が2億円以上である者に限る)が、同計画により組合財産となる「新事業開拓事業者(ベンチャー企業)」の株式を取得した場合には、その株式の毎期末の帳簿価額の80%以下を「新事業開拓事業者投資損失準備金」として積み立て損金算入することができる。準備金は翌期初に全額を益金算入した上で、期末に当期における新規投資額を加え売却分等を差し引いた額を損金算入する(洗い替え方式)(図3参照)。
4.登録免許税の軽減 産業活力法の各種計画の主務大臣認定を受けた場合には、登録免税が表2のように軽減される。
Ⅴ 既存政策税制の見直し
以上の税制措置の創設に加え、産業競争力強化の観点から、既存の政策税制についても、重要な改正が加えられることとなった。
1.中小企業投資促進税制の延長・拡充 中小企業投資促進税制を平成29年3月31日まで延長した上で、産業競争力強化法の施行日から平成29年3月31日までに生産性向上設備投資促進税制の対象となる設備等を取得する場合には、即時償却あるいは7%税額控除(資本金3,000万円以下の中小企業者等は10%)が選択できる。税額控除を選択した場合における控除限度(法人税額の20%)超過額は1年間の繰り越しができる。
また、中小企業者などの少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例は、平成28年3月31日まで延長される。
2.研究開発税制の延長・拡充 研究開発税制のいわゆる上乗せ部分(増加型・高水準型)を平成29年3月31日まで延長した上で、増加型については、税額控除額を以下のように改める。
【現 行】 増加試験研究費の額が比較試験研究費(前3期の平均)の額の5%を超え、かつ、試験研究費の額が基準試験研究費(前2事業年度における試験研究費の額のうち最も多い額)を超える場合には、増加試験研究費の5%を税額控除
【改正案】
増加試験研究費の額が比較試験研究費の額の5%を超え、かつ、試験研究費の額が基準試験研究費を超える場合には、増加試験研究費の額にその増加割合分(最高30%)を税額控除
3.所得拡大促進税制の視直し 所得拡大促進税制については、適用期限を平成30年3月31日まで延長した上で、企業の賃金引上げを促進するために、要件が以下のように大幅に緩和される。
【現行制度】 以下のすべてを満たす場合には、雇用者給与等支給増加額の10%を税額控除できる(税額控除限度額:法人税額の10%、中小企業者については20%)。
①雇用者給与等支給増加額の基準雇用者給与等支給額(平成24年度)に対する増加割合が5%以上
②雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額(前期)以上であること
③平均給与等支給額が比較平均給与等支給額(前期)以上であること
【改正案】
①雇用者給与等支給増加額の基準雇用者給与等支給額(平成24年度)に対する増加割合が、平成25年度および26年度では2%以上、27年度では3%以上、平成27年度および28年度では5%以上
②雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額(前期)以上(現行と同じ)
③平均給与等支給額および比較平均給与等支給額の計算の基礎となる国内雇用者に対する給与等を、継続雇用者に対する給与等に改めた上で、平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を上回ること
Ⅵ 既存建築物の耐震改修投資促進税制の創設
改正耐震改修促進法に基づき耐震診断結果の報告を平成27年3月31日までに行った事業者が、平成26年4月1日からその報告後5年の間に、耐震改修対象建築物の耐震改修により取得し、また建設した耐震改修対象建築物の部分について、取得価額の25%の特別償却ができる。
【改正耐震改修促進法により耐震診断結果の報告が義務付けられる建築物】 ①不特定多数の者が利用する大規模な建築物等(旅館、病院等)
②地方公共団体が耐震改修促進計画で指定した避難路に敷地が接する建物
③都道府県が耐震改修促進計画で指定した防災拠点となる建築物
※耐震改修は努力義務。ただし、所管行政庁の耐震改修に係る指示に従わない場合には公表。
Ⅶ 固定資産税の見直し
なお、既存建物の耐震改修等については、固定資産税が表3のように軽減される。
Ⅷ おわりに
今回の法人税制改正は、その規模、内容ともに通常の年次改正を大きく凌ぐものとなっている。これは「日本再興」のためには、企業活力の再生が不可欠とする安倍総理の強い意志に支えられたものであるが、同時に、企業活力の再生を通じて国民生活の改善を実現させ、法人税減税→企業収益拡大→投資・雇用・賃金の拡大→消費の活性化→企業収益の拡大という経済サイクルを始動させ、長年にわたるデフレ経済からの脱却を図るとの展望に基づくものである。
まずは、今回の法人税減税が、雇用の拡大、賃金の上昇につながることが実証されなければ、さらなる法人実効税率の引き下げへの見通しは立たない。経団連としても、従来の発想を打ち破り、国民生活の改善を重視した人事・給与政策への転換を図ることとしていることを付言しておきたい。
経済政策パッケージとしての税制改正
一般社団法人 日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部泰久
安倍総理は10月1日の会見で、来年4月1日からの消費税率8%への予定通りの引上げとともに、総額5兆円にのぼる経済対策を公表した。その中では、税制措置として、「日本再興戦略」で示されていた投資減税が「生産性向上設備投資促進税制」として創設されたのみならず、研究開発税制の拡充、25年度税制改正で導入された所得拡大促進税制の見直しなど総額1兆円規模の法人税減税が盛り込まれた。また、総理会見では、法人実効税率引き下げの第一歩として、復興特別法人税の前倒し廃止に強い意欲が示された。
そこで、本稿ではこれらの税制措置の内容を、10月1日に取りまとめられた与党税制改正大綱に基づき解説する。
Ⅰ 復興特別法人税の廃止と法人実効税率引下げへの道筋
今回の経済対策で、とりわけ重要であるのは、安倍総理が経済活性化の要として法人実効税率引き下げに強い意欲を示し、与党税制調査会や財務省の抵抗を押し切る形で、復興特別法人税の廃止とともに、法人実効税率引き下げに向けた早期検討を打ち出したことである。
1.復興特別法人税の廃止 平成23年度税制改正により法人税率が30%から25.5%へ引き下げられたことにより、本来、法人実効税率も40%台から35%台(東京都:40.69%→35.64%)となるはずであったが、東日本大震災からの復興に要する財源策として法人税額(国税のみ)の10%を復興特別法人税として平成24年度~26年度の3年間にわたり上乗せすることで、法人実効税率は38%台(東京都:38.01%)に止まっている。この法人税額の10%とは、23年度税制改正により、課税ベースの拡大等の増税等を差し引きネットで7,800億円の法人税減税となるはずであったところ、それに見合う分として算出されたものである(図1参照)。
しかし、アベノミクス効果による企業収益の改善により、法人税収は当時の見通しを大幅に上回り、平成25年度分も当初予算の8兆7,140億円から1兆円程度上回ると見込まれ、26年度には10兆円を超えるのは確実と期待されている。すなわち、復興特別法人税を廃止しても、自然増収だけで復興財源分を十分に確保できる状況にある。そこで、法人実効税率引下げの第一歩として、復興特別法人税を1年前倒しし25年度限りで終了することとされた。なお、大綱では、年末までに検討とされているが、政府の方針として安倍総理の会見で明示されている。
2.法人実効税率引下げに向けた検討 わが国の法人実効税率は、復興特別法人税廃止後も国際的にみれば依然として高い水準にある。また、日本同様に高いとされている米国では、オバマ大統領より28%(製造業は25%)に下げるとの方針が既に示されており、そうなれば日本の法人実効税率は主要国の中で突出して高いことになる(図2参照)。
大綱では「わが国が直面する産業構造や事業環境の変化の中で、法人実効税率引き下げが雇用や国内投資に確実につながっていくのか、その政策効果を検証する必要がある。表面税率を引き下げる場合には、財政の健全化を勘案し、ヨーロッパ諸国でも行われたように政策減税の大幅な見直しなどによる課税ベースの拡大や、他税目での増収策による財源確保を図る必要がある。こうした点を踏まえつつ、法人実効税率の在り方について、今後、速やかに検討を開始することとする。」とされており、今年末の平成26年度税制改正において、具体的な道筋が示されることを期待したい。
Ⅱ 日本再興戦略と税制改正
もともと、「日本再興戦略(6月14日閣議決定)」の中では、「思い切った投資減税で法人負担を軽減すること等によって積極姿勢に転じた企業を大胆に支援していく。」として、以下の3点について、平成26年度税制改正を待たずに措置することが明記されていた。
①投資促進 今後3年間でリーマンショック前の設備投資水準(70兆円/年)を回復するために、老朽化した生産設備から生産性・エネルギー効率の高い最先端設備への入れ替え等の生産設備の新陳代謝を促進する取組みを強力に推進し、これに応じて設備の新陳代謝を進める企業への税制を含めた必要な支援策を講じる。
②事業再編 収益力の飛躍的な向上に向けた戦略的・抜本的な事業再編を推進する企業に対して、税制措置や金融支援などの必要な支援措置を講じる。また、過剰供給構造が長年放置されてきた分野について、国が指針を示し、是正に向けた取組を促すための枠組みを構築する。
③ベンチャー支援 開業率が廃業率を上回る状態にし、米国・英国レベルの開・廃業率10%台(現状約5%)を目指すために、ベンチャーへの資金供給を大幅に拡大する。このため、現行のエンジェル税制を使い勝手の良いものに改善し、民間企業等の資金を活用したベンチャー企業への投資を促すために、必要な措置を講ずる。大企業からの独立(スピンオフ)や地域のリソースを活用した起業・創業も強力に推進する。
経団連では、これら日本再興戦略に盛り込まれた税制措置に関する具体的要望を、7月10日に「日本再興戦略に基づく税制措置に関する提言」、9月9日に「平成26年度税制改正に関する提言」として公表し(詳細は、本誌34頁掲載「経団連平成26年度税制改正に関する提言について」を参照)、政府・与党に働きかけてきたが、ほぼ要望通りの成果を上げることができた。
Ⅲ 生産性向上設備投資促進税制の創設
国内への積極的な投資を促すための大胆な投資減税として、産業競争力強化法(後述)施行の日(平成25年中を予定)から平成29年3月31日までの間に、産業競争力強化法に規定する「生産性向上設備等」に該当するもののうち、一定規模以上のもの等を取得し、国内での事業の用に供した場合には、以下のように即時償却・特別償却あるいは税額控除(控除限度額:法人税額の20%)の選択が認められる。なお、平成26年3月31日までに終了する事業年度で取得した分については、平成26年4月1日を含む事業年度において即時償却・税額控除ができることで、事実上、平成25年度に遡及適用される。
「生産性向上設備等」は、幅広く先端設備への更新投資に向けたものと、生産ラインやオペレーションの刷新に向けたものに分かれる。いずれも、製造業のみならず、物流・流通サービス業等の非製造業も活用できる。生産等設備に限り、本店、寄宿舎等の建物、事務用器具備品、福利厚生施設等は該当しない。
1.先端設備の導入 機械・装置、一定の工具、器具・備品、建物、建物付属設備で、一定金額以上のもののうち、旧モデルと比べ、年平均1%以上の生産性向上要件を満たす最新モデルの導入が幅広く対象となる(表1参照)。中小企業については、これらに加え、サーバー、ソフトウエアも対象となる。
なお機械・装置のうち、中小企業者等が取得するソフトウエア組込型機械・装置については最新モデルでなく一代前のモデルでも認められる。
対象機器等は、産業競争力強化法の実行計画において達成すべき生産性向上目標を示した上で、同法の省令において基準を定め、この基準を満たすものであるかどうかは関係工業会が証明書を発行することで担保する。
2.生産ラインやオペレーションの刷新 機械・装置、工具、器具・備品、建物、建物付属設備、構築物、ソフトウエアで、一定金額以上のもののうち、投資計画上の投資利益率が15%以上(資本金1億円以下の中小企業者等は5%以上)であることを経済産業局が確認した場合に適用される。1とは異なり、個々の設備等が生産性・エネルギー効率向上基準や最新モデルであることは必要ではない。また、取得価額に関する要件は先端設備に準じる(構築物については、建物と同様とする)。
具体的には、生産ラインやオペレーションの改善に関し、事業者が通常作成する簡素な設備投資計画上の投資収益率を公認会計士または税理士が確認した上、経済産業局が確認することとなる。
3.残された課題-償却資産課税 以上、法人税においては経済界の要望をほぼ満たす使い易いものとなり、法人事業税、法人住民税においても中小企業者は同様な措置が取られるが、経済界から要望の強かった対象設備等に対する償却資産課税(固定資産税)の減免については減収分の国費補てんを求める総務省との調整がつかず、年末の26年度予算編成過程で改めて検討されることとなっている。
Ⅳ 産業競争力強化法と税制措置
日本再興戦略の確実な実行を図るために、産業競争力の強化に関する施策を総合的かつ一体的に推進するため、産業競争力強化法(仮称)の制定が、平成25年秋の臨時国会で予定されている。
1.産業競争力強化法の概要 産業競争力強化法は、日本再興戦略の実行を図る「緊急構造改革期間(平成30年度までの5年間)」において、以下の様々な施策を実現するための特例措置を整備するものである。
①日本再興戦略に盛り込まれた諸施策について、5年間で集中的に実施すべく、政府において実行計画を策定し、実施期限、担当大臣を決定する。確実に実施すべき当面3年間の計画を毎年見直ししていく。
②規制改革を強力に推進するための措置として、企業単位で特例措置を適用する「企業実証特例制度」、現行規制の適用範囲が不明確な分野において予め規制の適用の有無を確認できる「グレーゾーン解消制度」を創設する。
③産業の新陳代謝を促進するための措置として、ベンチャー企業への資金供給の円滑化を図るために、一定の要件を満たすベンチャーファンドへの事業会社の出資についての優遇策、思い切った事業再編を行う企業への支援策、リスクの高い先端設備を設備についてリース手法を用いた投資促進策を講じる。この一環として、事業再編促進税制およびベンチャー投資促進税制が創設される(後述)。
④中小企業の活力再生のために、自治体が民間の創業支援事業者と連携して地域の創業支援体制を構築する取り組みへのサポート、中小企業の事業再生への支援強化策を講じる。
⑤産業競争力強化のための措置として、国立大学法人等によるベンチャー出資の特例、中小・ベンチャー企業を対象とする特許料の減免措置を講じるほか、従来の産業活力法に基づく産業革新機構、早期事業再生の円滑化等を継承し、産業活力法は廃止される。
2.事業再編促進税制の創設 産業競争力強化法施行の日から平成29年3月31日までの間に、産業競争力強化法により「特定事業再編計画」の主務大臣認定を受けた複数の事業者が、その事業の一部を分離・統合して新会社(特定会社)を設立する場合、特定会社に対する出資額の70%を「特定事業再編投資損失準備金」として積み立て損金算入することができる。準備金は10年間据え置き、あるいは統合会社が3期連続で営業黒字に至った場合には、5年間で均等に取崩し、それに至らず統合会社が解散した場合には、その期において一括して取崩す。
3.ベンチャー投資促進税制の創設 産業競争力強化法施行の日から平成29年3月31日までの間に、産業競争力強化法により「特定新事業開拓投資事業計画」の主務大臣認定を受けた投資事業有限責任組合(ベンチャーファンド)に出資する事業者(有限責任組合員に限る。また、適格機関投資家である場合には出資予定額が2億円以上である者に限る)が、同計画により組合財産となる「新事業開拓事業者(ベンチャー企業)」の株式を取得した場合には、その株式の毎期末の帳簿価額の80%以下を「新事業開拓事業者投資損失準備金」として積み立て損金算入することができる。準備金は翌期初に全額を益金算入した上で、期末に当期における新規投資額を加え売却分等を差し引いた額を損金算入する(洗い替え方式)(図3参照)。
4.登録免許税の軽減 産業活力法の各種計画の主務大臣認定を受けた場合には、登録免税が表2のように軽減される。
Ⅴ 既存政策税制の見直し
以上の税制措置の創設に加え、産業競争力強化の観点から、既存の政策税制についても、重要な改正が加えられることとなった。
1.中小企業投資促進税制の延長・拡充 中小企業投資促進税制を平成29年3月31日まで延長した上で、産業競争力強化法の施行日から平成29年3月31日までに生産性向上設備投資促進税制の対象となる設備等を取得する場合には、即時償却あるいは7%税額控除(資本金3,000万円以下の中小企業者等は10%)が選択できる。税額控除を選択した場合における控除限度(法人税額の20%)超過額は1年間の繰り越しができる。
また、中小企業者などの少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例は、平成28年3月31日まで延長される。
2.研究開発税制の延長・拡充 研究開発税制のいわゆる上乗せ部分(増加型・高水準型)を平成29年3月31日まで延長した上で、増加型については、税額控除額を以下のように改める。
【現 行】 増加試験研究費の額が比較試験研究費(前3期の平均)の額の5%を超え、かつ、試験研究費の額が基準試験研究費(前2事業年度における試験研究費の額のうち最も多い額)を超える場合には、増加試験研究費の5%を税額控除
【改正案】
増加試験研究費の額が比較試験研究費の額の5%を超え、かつ、試験研究費の額が基準試験研究費を超える場合には、増加試験研究費の額にその増加割合分(最高30%)を税額控除
3.所得拡大促進税制の視直し 所得拡大促進税制については、適用期限を平成30年3月31日まで延長した上で、企業の賃金引上げを促進するために、要件が以下のように大幅に緩和される。
【現行制度】 以下のすべてを満たす場合には、雇用者給与等支給増加額の10%を税額控除できる(税額控除限度額:法人税額の10%、中小企業者については20%)。
①雇用者給与等支給増加額の基準雇用者給与等支給額(平成24年度)に対する増加割合が5%以上
②雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額(前期)以上であること
③平均給与等支給額が比較平均給与等支給額(前期)以上であること
【改正案】
①雇用者給与等支給増加額の基準雇用者給与等支給額(平成24年度)に対する増加割合が、平成25年度および26年度では2%以上、27年度では3%以上、平成27年度および28年度では5%以上
②雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額(前期)以上(現行と同じ)
③平均給与等支給額および比較平均給与等支給額の計算の基礎となる国内雇用者に対する給与等を、継続雇用者に対する給与等に改めた上で、平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を上回ること
Ⅵ 既存建築物の耐震改修投資促進税制の創設
改正耐震改修促進法に基づき耐震診断結果の報告を平成27年3月31日までに行った事業者が、平成26年4月1日からその報告後5年の間に、耐震改修対象建築物の耐震改修により取得し、また建設した耐震改修対象建築物の部分について、取得価額の25%の特別償却ができる。
【改正耐震改修促進法により耐震診断結果の報告が義務付けられる建築物】 ①不特定多数の者が利用する大規模な建築物等(旅館、病院等)
②地方公共団体が耐震改修促進計画で指定した避難路に敷地が接する建物
③都道府県が耐震改修促進計画で指定した防災拠点となる建築物
※耐震改修は努力義務。ただし、所管行政庁の耐震改修に係る指示に従わない場合には公表。
Ⅶ 固定資産税の見直し
なお、既存建物の耐震改修等については、固定資産税が表3のように軽減される。
Ⅷ おわりに
今回の法人税制改正は、その規模、内容ともに通常の年次改正を大きく凌ぐものとなっている。これは「日本再興」のためには、企業活力の再生が不可欠とする安倍総理の強い意志に支えられたものであるが、同時に、企業活力の再生を通じて国民生活の改善を実現させ、法人税減税→企業収益拡大→投資・雇用・賃金の拡大→消費の活性化→企業収益の拡大という経済サイクルを始動させ、長年にわたるデフレ経済からの脱却を図るとの展望に基づくものである。
まずは、今回の法人税減税が、雇用の拡大、賃金の上昇につながることが実証されなければ、さらなる法人実効税率の引き下げへの見通しは立たない。経団連としても、従来の発想を打ち破り、国民生活の改善を重視した人事・給与政策への転換を図ることとしていることを付言しておきたい。
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.