解説記事2014年09月15日 【未公開裁決事例紹介】 著作権の評価、新作の印税収入は控除不可(2014年9月15日号・№562)
未公開裁決事例紹介
著作権の評価、新作の印税収入は控除不可
審判所、財産評価基本通達148に合理性あり
○著作権の評価について、相続開始日の属する年の前年以前3年間の印税収入の額から新作の印税収入の額を控除することはできないとされた事例(東裁(諸)平25第55号)。審判所は、財産評価基本通達148は、著作権の価額(時価)を評価する方法として合理性を有するものであると判断した。
基礎事実 本件被相続人は、×××であった。本件被相続人は、××××××に死亡し、本件被相続人に係る相続が開始した。本件被相続人の法定相続人は、請求人ら3名であり、本件著作権は、請求人×××が本件相続により取得した。請求人らは、××××××、本件申告書の「相続税がかかる財産の明細書」の「財産の明細」欄に、本件著作権の価額を××××××と記載して、本件期限内申告をした。
本件申告書に添付されていた書面の要旨等は、次のとおりである。
(A)著作権の価額は、経常的な収益力を反映して評価すべきものである。新作に係る印税収入は、××××××が現役であればこその制作活動の賜物であり、××××××が死亡して、新たに作品が制作されなくなると今までのような印税収入を期待できないので、これら新作に係る印税収入の全てを「課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額」に含めることは、将来の印税収入の見積額を基として評価する著作権の考え方からみて著しく不適当である。
(B)「新作に係る×××」の印税収入は、将来毎期継続することが予想できないことから通常の配当金額から控除することとされている非上場株式に係る配当金額を計算する際の特別配当、記念配当等や、営業権の評価における「非経常的な損益の額」と同様と見ることも可能である。
(C)本件の場合、単純に「課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額」をそのまま採用して著作権(の価額)を評価すべきではなく、本件新作に係る×××の印税収入はなかったものとみなして計算した場合の(印税収入の)金額を基礎に著作権の評価を行うことが、著作権の将来における超過収益力の評価にかなうものである。
(D)ただし、具体的な著作権の評価に当たっては、評価の妥当性の観点から、本件新作の×××に係る印税収入の10%程度を加算して計算する。
請求人らは、××××××××、増加した財産(××××××××)について、本件修正申告をした。
なお、当該財産に係る遺産分割協議の成立前であったため、請求人らは、各人が当該財産に係る遺産分割協議の成立前であったため、請求人らは、各人が当該財産を法定相続分の割合でそれぞれ取得したものとして、各相続税額を算出した。
××××××は、××××××××付で、①請求人らの申告した本件著作権の価額に誤りがあるとして、本件著作権の価額を評価通達148の定めに基づき評価し、また、②遺産分割協議の内容に基づき請求人ら各人の課税価格の計算をするなどして、本件各更正処分をした。
争点および主張 本件著作権の価額の評価について、評価通達148の定めによらず、本件相続開始日の属する年の前年以前3年間の印税収入の額から本件新作の×××に係る印税収入の額を控除した額を、同通達の「課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額」として、同通達の評価方法と同様の評価方法を用いて評価することが、正当と認められるような特別の事情があるか否か。当事者の主張は表のとおり。
審判所の判断
(1)法令解釈
イ 評価通達について 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。この時価とは、当該財産の取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
しかしながら、相続税の課税の対象となる財産は多種多様であることから、国税庁長官は、課税の公平、公正の観点から、財産評価の一般的基準である各種財産の時価に関する原則及びその具体的評価方法等を評価通達等に定め、その取扱いを統一するとともに、これを公開し、納税者の申告、納税の便に供している。
このような画一的な評価方法が採られているのは、各種の財産の客観的な交換価値を適正に把握することは必ずしも容易ではなく、これを個別に評価する方法を採ると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により評価額に差を生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由によるものであり、一般的には、これを形式的に全ての納税者に適用して財産の評価を行うことは、租税負担の実質的公平をも実現することができることから、租税平等主義にかなうものであると解される。
したがって、評価通達に定める評価方法を画一的に適用したのでは、適正な時価が求められず、著しく課税の公平を欠くことが明らかであるなど、評価通達の定めによらないことが正当と認められるような特別の事情がある場合を除き、評価通達の定めに基づき評価した価額をもって時価とすることが相当である。
ロ 評価通達148の合理性について (イ)著作権とは、著作者が、その創作した著作物(思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの。著作権法第2条≪定義≫第1項第1号)を独占的に利用することのできる権利をいい(同法第17条≪著作者の権利≫第1項参照。具体的には、著作物の複製権(同法第21条≪複製権≫)、××の著作物の×××××××××××××××などがある。)、著作権法により保護されている。
そして、著作権は、これを行使することにより著作権を享有する者に利益をもたらすものであるから、その価額(価値)の評価に当たっては、将来(課税時期後)著作権を行使することによって著作権を享有する者にもたらされるであろうと予測される利益を基に、課税時期現在の客観的な交換価値を評価(測定)することが相当である。
なお、著作権は取引事例そのものが少なく、かつ、著作物の一つ一つが強い個性を有しているため、土地等の不動産のように、類似の取引事例を基にその価額(価値)を評価することは困難である。
(ロ)評価通達148は、著作権の評価について、……(略)……のとおり定めているところ、この評価方法は、課税時期現在において、著作権の行使によって、著作権を享有する者に将来(課税時期後)もたらされるであろうと予測される利益に着目して、課税時期現在における著作権の客観的な交換価値を求める評価方法であると認められる。そして、上記評価方法は、将来、発生する収益(印税収入)の予測に当たっては、評価倍率の決定に当たり精通者の意見等を基にすることにより、客観性が担保されていると認められるほか、0.5を乗ずることにより、評価の安全性についても配慮されていると認められるから、著作権の価額(時価)を評価する方法として合理性を有するものといえる。
(2)認定事実
イ 本件著作権に係る印税収入期間 本件鑑定人は、本件相続開始日において、××××××××、××××××××を勤め、×××××××に度々××××××し、受賞した経歴を有する者であることからすると、本件著作権の印税収入期間を評価する際の精通者としての適格を有する者であると認められる。
したがって、本件鑑定書の内容は高い信用性を有するものと認められ、年平均印税収入の額を前提とする本件著作権に係る印税収入期間は、本件鑑定書に記載されたとおり、4年であると認められる。
ロ 請求人らの主張する本件著作権の価額 課税時期の属する年の前年以前3年間における本件著作権の各印税収入及び本件新作の×××に係る各印税収入の額は、別表2の①及び②欄(編注:略)のとおりであり、これを基に請求人らの主張する本件著作権の額を計算すると、別表2の順号6(編注:略)のとおり、128,340,246円となる。
(3)当てはめ
イ はじめに (イ)評価通達148に定める評価方法は、著作権の価額を評価する方法として合理性を有するから、本件著作権の価額は、同通達の定めによらないことが正当と認められるような特別の事情がない限り、同通達の定めに基づき評価することが相当である。
(ロ)そして、評価通達148に定める著作権の価額の評価方法には、著作者の別に当該著作者の著作権の価額を一括して評価する方法と、個々の著作物に係る著作権ごとに評価する方法とがあるところ、請求人ら及び原処分庁の双方とも、著作者の別に当該著作者の著作権の価額を一括して評価する方法を採用しており、この点については争いはない。
また、評価通達148の定めに基づき著作権の価額を評価する場合に使用する評価倍率については、請求人ら及び原処分庁の双方とも、本件鑑定人の鑑定した印税収入期間と同じ4年を基にした評価倍率によっているものと認められ、この点についても争いはない。
(ハ)しかしながら、評価通達148の定めに基づき著作権の価額を評価する場合に使用する年平均印税収入の額については争いがあり、請求人らは、本件については評価通達の定めによらないことが正当と認められるような特別の事情がある旨主張するので、以下、請求人らの主張を検討し、本件について特別の事情があると認められるか否かについて述べることとする。
ロ 検討 (イ)請求人らは、年平均印税収入の額の算定に当たっては本件新作の×××に係る印税収入の額を除外すべきであり、その理由として、①著作者である本件被相続人が本件著作権を行使するか、相続人である請求人らが本件著作権を行使するかによって、得られる印税収入の額は異なり、本件新作の×××は、本件被相続人の生存中であれば現役の××××××であるために売れて、それに伴い著作権の行使に伴う印税収入の額は高くなるが、請求人×××が本件相続により取得した本件著作権には上記の要素が含まれないため、もたらされる利益の額が減少することから、本件相続の開始後は本件相続の開始前と同水準の印税収入が見込めない、②本件新作の×××に係る印税収入の額は、取引相場のない株式の価額を評価する場合に計算上除くこととされている特別配当、記念配当等の額や、営業権の価額を評価する場合における「非経常的な損益の額」と同様の性質を有するものと考えられると主張する。
(ロ)しかしながら、上記(イ)の①の点については、そもそも、印税収入の額の変動は、種々の要素を原因とするものであり、著作者と相続人のいずれが著作権を行使するかにより直ちに額が変動することとなるものとまではいえない。
上記の点をおくとして、課税時期後において課税時期前に比して著作権ごとにその印税収入の額に変動があり得るとしても、評価通達148は、著作者の別に当該著作者の著作権の価額を一括して評価する場合には、課税時期後も相当期間印税収入が見込まれる著作権も、課税時期後は印税収入がほとんど見込まれない著作権も、一括して評価の対象とすることを予定しているものである。そうすると、上記の場合において、課税時期後における各年の印税収入の額が課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額であるものとして推算することとされている印税収入期間は、各著作権の課税時期後の印税収入の額の変動の状況が区々であることを前提に推算されるものということとなるから、仮に、課税時期後は印税収入がほとんど見込まれない著作権が含まれるという事情があったとしても、その事情は、印税収入期間を推算する過程において考慮されるものである。
したがって、課税時期後において著作権ごとにその印税収入の額に変動があり得ることは、印税収入期間を推算する過程において考慮されていると認められる。
(ハ)また、上記(イ)の②の点については、印税収入の額に経常的な損益の額等と同様の性質を有するものと、非経常的な損益の額等と同様の性質を有するものとがあるかは疑問である。
その点をおくとしても、取引相場のない株式の価額の評価方法の一つである類似業種比準方式は、評価対象となる取引相場のない株式の発行会社(以下「評価会社」という。)と事業内容が類似する業種目に属する上場会社(以下「標本会社」という。)の株式の平均株価を基に、標本会社の配当及び利益金額並びに純資産価額の平均値と評価会社のそれらの金額とを比較することによって、評価会社の株式の価額を求めるものであり、標本会社の配当及び利益金額の平均値と評価会社のそれらの金額とを同一の条件の下で比較するものであるため、1株当たりの配当金額の計算において、特別配当、記念配当等の名称による配当金額のうち、将来毎期継続することが予想できない金額を除くこととして、非経常的なものを除くこととしているものである。
また、営業権の価額の評価方法についてみるに、営業権とは、企業が持つ好評、愛顧、信認、顧客関係その他の諸要因によって期待される他の企業との比較における将来の超過収益力を資本化した価値であると考えられることから、その経常的な超過収益力を基にその価額を求めることとされており、課税時期前3年間に生じた非経常的な損益の額を将来の超過収益力の算定に含めることは適当でないことから、当該非経常的損益の額を平均利益金額に含めないこととされているものである。
これに対し、著作権の評価方法は、課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額を基に、印税収入期間を推算し、著作権の価額を評価するものであり、上記(ロ)のとおり、各著作権の課税時期後の印税収入の額の変動の状況が区々であることを前提としてその評価方法が定められているから、取引相場のない株式や営業権の価額の評価において非経常的な損益等を含めずに評価することになっているからといって、評価方法の異なる著作権の評価において、年平均印税収入の額から一部の印税収入を除くことはできない。
(ニ)以上のとおり、著作権を著作者が行使するか、相続人が行使するかによって印税収入の額に変動があるとしても、評価通達に定める評価方法においては、各著作権の課税時期後の印税収入の額の変動の状況が区々であることを前提にその評価方法が定められているから、請求人らの主張する事情は、評価通達の定めによらないことが正当と認められるような特別の事情に当たるとは認められない。
加えて、本件鑑定書において、「今後は、新作の××の制作がないことにより、×××の大口の印税収入が期待できないことにより、評価倍率については、課税時期後における印税収入期間に応ずる年数を4年とみなして、複利年金現価率を適用することが、妥当と思われます。」と記載されていることからすると、精通者としての適格を有する本件鑑定人が、本件被相続人の死亡の事実も考慮した上で、本件著作権に係る印税収入期間は4年であると鑑定したものと認められ、請求人らの主張する事情は印税収入期間の推算においても考慮されているから、請求人らの主張には理由がない。
ハ 小括 以上のとおりであるから、本件著作権の価額の評価について、評価通達148の定めによらないことが正当と認められるような特別の事情があるとする請求人らの主張には理由がなく、その他、当審判所の調査の結果によっても、当該特別の事情があるとは認められないから、本件著作権の価額は、評価通達148の定めに基づいて評価するのが相当である。
著作権の評価、新作の印税収入は控除不可
審判所、財産評価基本通達148に合理性あり
○著作権の評価について、相続開始日の属する年の前年以前3年間の印税収入の額から新作の印税収入の額を控除することはできないとされた事例(東裁(諸)平25第55号)。審判所は、財産評価基本通達148は、著作権の価額(時価)を評価する方法として合理性を有するものであると判断した。
基礎事実 本件被相続人は、×××であった。本件被相続人は、××××××に死亡し、本件被相続人に係る相続が開始した。本件被相続人の法定相続人は、請求人ら3名であり、本件著作権は、請求人×××が本件相続により取得した。請求人らは、××××××、本件申告書の「相続税がかかる財産の明細書」の「財産の明細」欄に、本件著作権の価額を××××××と記載して、本件期限内申告をした。
本件申告書に添付されていた書面の要旨等は、次のとおりである。
(A)著作権の価額は、経常的な収益力を反映して評価すべきものである。新作に係る印税収入は、××××××が現役であればこその制作活動の賜物であり、××××××が死亡して、新たに作品が制作されなくなると今までのような印税収入を期待できないので、これら新作に係る印税収入の全てを「課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額」に含めることは、将来の印税収入の見積額を基として評価する著作権の考え方からみて著しく不適当である。
(B)「新作に係る×××」の印税収入は、将来毎期継続することが予想できないことから通常の配当金額から控除することとされている非上場株式に係る配当金額を計算する際の特別配当、記念配当等や、営業権の評価における「非経常的な損益の額」と同様と見ることも可能である。
(C)本件の場合、単純に「課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額」をそのまま採用して著作権(の価額)を評価すべきではなく、本件新作に係る×××の印税収入はなかったものとみなして計算した場合の(印税収入の)金額を基礎に著作権の評価を行うことが、著作権の将来における超過収益力の評価にかなうものである。
(D)ただし、具体的な著作権の評価に当たっては、評価の妥当性の観点から、本件新作の×××に係る印税収入の10%程度を加算して計算する。
請求人らは、××××××××、増加した財産(××××××××)について、本件修正申告をした。
なお、当該財産に係る遺産分割協議の成立前であったため、請求人らは、各人が当該財産に係る遺産分割協議の成立前であったため、請求人らは、各人が当該財産を法定相続分の割合でそれぞれ取得したものとして、各相続税額を算出した。
××××××は、××××××××付で、①請求人らの申告した本件著作権の価額に誤りがあるとして、本件著作権の価額を評価通達148の定めに基づき評価し、また、②遺産分割協議の内容に基づき請求人ら各人の課税価格の計算をするなどして、本件各更正処分をした。
争点および主張 本件著作権の価額の評価について、評価通達148の定めによらず、本件相続開始日の属する年の前年以前3年間の印税収入の額から本件新作の×××に係る印税収入の額を控除した額を、同通達の「課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額」として、同通達の評価方法と同様の評価方法を用いて評価することが、正当と認められるような特別の事情があるか否か。当事者の主張は表のとおり。
【表】当事者の主張 |
原 処 分 庁 | 請 求 人 ら |
相続により取得した財産の価額は、課税の公平の観点から「評価通達の定めによらないことが正当として是認されるような特別の事情」がある場合を除き、評価通達に定められた評価方法によって画一的に評価するのが相当であるところ、本件著作権の価額の評価については、次の(1)及び(2)の理由から、請求人らの主張する事情は、「評価通達の定めによらないことが正当として是認されるような特別の事情」であるとは認められない。 (1)請求人らが主張する「相続開始後は相続開始前と同水準の印税収入が見込めない」という事情は、著作権者が死亡した場合において通常生じ得るところであり、評価通達148の評価方法は、評価の安全性を考慮したしんしゃく率や著作物の精通者意見等を基とした印税収入期間に応じた評価倍率により、上記の事情をも考慮した評価方法であると認められる。 (2)なお、請求人らは、営業権の評価方法と比較して、本件著作権の価額を評価する際の印税収入の額から本件新作の×××に係る印税収入の額を控除して計算すべきである旨を主張するが、著作権は、その権利の行使に伴い著作権者にもたらされる利益の額に基づき評価されるべきものであるため、「年平均印税収入の額」の算定に当たり印税収入の額から何も控除しないのに対し、営業権は、その企業の純粋な事業活動によってあげた収益を基礎として評価されるべきものであるため、「平均利益金額」の算定に当たり所得の金額のうち「非経常的な損益の額」をなかったものとみなすこととされており、それぞれの評価方法は、異なる評価対象財産について、それぞれ別々の観点から定められているものであるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。 | 次の(1)及び(2)の理由から、本件著作権の価額は、本件相続開始日の属する年の前年以前3年間の本件著作権に係る印税収入の額から本件新作の×××に係る印税収入の額を控除した額を、評価通達148の「課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額」として、同通達の評価方法と同様の評価方法を用いて評価した価額によるべきである。 そして、これにより評価した本件著作権の価額は、原処分庁が評価通達148の定めにより評価した本件著作権の価額を下回ることから、本件著作権の価額の評価について、「評価通達の定めによらないことが正当として是認されるような特別の事情」があるので、評価通達6を適用してその価額を評価すべきである。 (1)著作権の価額は、その権利の行使に伴い著作権者にもたらされる利益の額を基として評価すべきであるところ、誰がその権利を行使するかの違いにより、もたらされる利益の額は異なるものであり、本件著作権も、著作権者自らが著作権の権利を行使してもたらされる利益の額と相続人が相続により取得した著作権の権利を行使して受ける利益の額とはおのずから異なるものである。本件新作の×××は、現役の××××××であるから売れるのであって、それに伴い著作権の行使に伴う印税収入の額は高くなる一方、相続人が相続により取得した著作権には上記の要素が含まれないため、もたらされる利益の額が減少するので、本件相続の開始後は本件相続の開始前と同水準の印税収入が見込めない。 (2)本件新作の×××に係る印税収入の額は、非上場会社の株式の価額を評価する場合に配当金額の計算上除くこととされている特別配当、記念配当等の額や、営業権の価額を評価する場合に所得の金額の計算上ないものとみなされる「非経常的な損益の額」と同様の性質を有するものと考えられる。 |
審判所の判断
(1)法令解釈
イ 評価通達について 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。この時価とは、当該財産の取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
しかしながら、相続税の課税の対象となる財産は多種多様であることから、国税庁長官は、課税の公平、公正の観点から、財産評価の一般的基準である各種財産の時価に関する原則及びその具体的評価方法等を評価通達等に定め、その取扱いを統一するとともに、これを公開し、納税者の申告、納税の便に供している。
このような画一的な評価方法が採られているのは、各種の財産の客観的な交換価値を適正に把握することは必ずしも容易ではなく、これを個別に評価する方法を採ると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により評価額に差を生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由によるものであり、一般的には、これを形式的に全ての納税者に適用して財産の評価を行うことは、租税負担の実質的公平をも実現することができることから、租税平等主義にかなうものであると解される。
したがって、評価通達に定める評価方法を画一的に適用したのでは、適正な時価が求められず、著しく課税の公平を欠くことが明らかであるなど、評価通達の定めによらないことが正当と認められるような特別の事情がある場合を除き、評価通達の定めに基づき評価した価額をもって時価とすることが相当である。
ロ 評価通達148の合理性について (イ)著作権とは、著作者が、その創作した著作物(思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの。著作権法第2条≪定義≫第1項第1号)を独占的に利用することのできる権利をいい(同法第17条≪著作者の権利≫第1項参照。具体的には、著作物の複製権(同法第21条≪複製権≫)、××の著作物の×××××××××××××××などがある。)、著作権法により保護されている。
そして、著作権は、これを行使することにより著作権を享有する者に利益をもたらすものであるから、その価額(価値)の評価に当たっては、将来(課税時期後)著作権を行使することによって著作権を享有する者にもたらされるであろうと予測される利益を基に、課税時期現在の客観的な交換価値を評価(測定)することが相当である。
なお、著作権は取引事例そのものが少なく、かつ、著作物の一つ一つが強い個性を有しているため、土地等の不動産のように、類似の取引事例を基にその価額(価値)を評価することは困難である。
(ロ)評価通達148は、著作権の評価について、……(略)……のとおり定めているところ、この評価方法は、課税時期現在において、著作権の行使によって、著作権を享有する者に将来(課税時期後)もたらされるであろうと予測される利益に着目して、課税時期現在における著作権の客観的な交換価値を求める評価方法であると認められる。そして、上記評価方法は、将来、発生する収益(印税収入)の予測に当たっては、評価倍率の決定に当たり精通者の意見等を基にすることにより、客観性が担保されていると認められるほか、0.5を乗ずることにより、評価の安全性についても配慮されていると認められるから、著作権の価額(時価)を評価する方法として合理性を有するものといえる。
(2)認定事実
イ 本件著作権に係る印税収入期間 本件鑑定人は、本件相続開始日において、××××××××、××××××××を勤め、×××××××に度々××××××し、受賞した経歴を有する者であることからすると、本件著作権の印税収入期間を評価する際の精通者としての適格を有する者であると認められる。
したがって、本件鑑定書の内容は高い信用性を有するものと認められ、年平均印税収入の額を前提とする本件著作権に係る印税収入期間は、本件鑑定書に記載されたとおり、4年であると認められる。
ロ 請求人らの主張する本件著作権の価額 課税時期の属する年の前年以前3年間における本件著作権の各印税収入及び本件新作の×××に係る各印税収入の額は、別表2の①及び②欄(編注:略)のとおりであり、これを基に請求人らの主張する本件著作権の額を計算すると、別表2の順号6(編注:略)のとおり、128,340,246円となる。
(3)当てはめ
イ はじめに (イ)評価通達148に定める評価方法は、著作権の価額を評価する方法として合理性を有するから、本件著作権の価額は、同通達の定めによらないことが正当と認められるような特別の事情がない限り、同通達の定めに基づき評価することが相当である。
(ロ)そして、評価通達148に定める著作権の価額の評価方法には、著作者の別に当該著作者の著作権の価額を一括して評価する方法と、個々の著作物に係る著作権ごとに評価する方法とがあるところ、請求人ら及び原処分庁の双方とも、著作者の別に当該著作者の著作権の価額を一括して評価する方法を採用しており、この点については争いはない。
また、評価通達148の定めに基づき著作権の価額を評価する場合に使用する評価倍率については、請求人ら及び原処分庁の双方とも、本件鑑定人の鑑定した印税収入期間と同じ4年を基にした評価倍率によっているものと認められ、この点についても争いはない。
(ハ)しかしながら、評価通達148の定めに基づき著作権の価額を評価する場合に使用する年平均印税収入の額については争いがあり、請求人らは、本件については評価通達の定めによらないことが正当と認められるような特別の事情がある旨主張するので、以下、請求人らの主張を検討し、本件について特別の事情があると認められるか否かについて述べることとする。
ロ 検討 (イ)請求人らは、年平均印税収入の額の算定に当たっては本件新作の×××に係る印税収入の額を除外すべきであり、その理由として、①著作者である本件被相続人が本件著作権を行使するか、相続人である請求人らが本件著作権を行使するかによって、得られる印税収入の額は異なり、本件新作の×××は、本件被相続人の生存中であれば現役の××××××であるために売れて、それに伴い著作権の行使に伴う印税収入の額は高くなるが、請求人×××が本件相続により取得した本件著作権には上記の要素が含まれないため、もたらされる利益の額が減少することから、本件相続の開始後は本件相続の開始前と同水準の印税収入が見込めない、②本件新作の×××に係る印税収入の額は、取引相場のない株式の価額を評価する場合に計算上除くこととされている特別配当、記念配当等の額や、営業権の価額を評価する場合における「非経常的な損益の額」と同様の性質を有するものと考えられると主張する。
(ロ)しかしながら、上記(イ)の①の点については、そもそも、印税収入の額の変動は、種々の要素を原因とするものであり、著作者と相続人のいずれが著作権を行使するかにより直ちに額が変動することとなるものとまではいえない。
上記の点をおくとして、課税時期後において課税時期前に比して著作権ごとにその印税収入の額に変動があり得るとしても、評価通達148は、著作者の別に当該著作者の著作権の価額を一括して評価する場合には、課税時期後も相当期間印税収入が見込まれる著作権も、課税時期後は印税収入がほとんど見込まれない著作権も、一括して評価の対象とすることを予定しているものである。そうすると、上記の場合において、課税時期後における各年の印税収入の額が課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額であるものとして推算することとされている印税収入期間は、各著作権の課税時期後の印税収入の額の変動の状況が区々であることを前提に推算されるものということとなるから、仮に、課税時期後は印税収入がほとんど見込まれない著作権が含まれるという事情があったとしても、その事情は、印税収入期間を推算する過程において考慮されるものである。
したがって、課税時期後において著作権ごとにその印税収入の額に変動があり得ることは、印税収入期間を推算する過程において考慮されていると認められる。
(ハ)また、上記(イ)の②の点については、印税収入の額に経常的な損益の額等と同様の性質を有するものと、非経常的な損益の額等と同様の性質を有するものとがあるかは疑問である。
その点をおくとしても、取引相場のない株式の価額の評価方法の一つである類似業種比準方式は、評価対象となる取引相場のない株式の発行会社(以下「評価会社」という。)と事業内容が類似する業種目に属する上場会社(以下「標本会社」という。)の株式の平均株価を基に、標本会社の配当及び利益金額並びに純資産価額の平均値と評価会社のそれらの金額とを比較することによって、評価会社の株式の価額を求めるものであり、標本会社の配当及び利益金額の平均値と評価会社のそれらの金額とを同一の条件の下で比較するものであるため、1株当たりの配当金額の計算において、特別配当、記念配当等の名称による配当金額のうち、将来毎期継続することが予想できない金額を除くこととして、非経常的なものを除くこととしているものである。
また、営業権の価額の評価方法についてみるに、営業権とは、企業が持つ好評、愛顧、信認、顧客関係その他の諸要因によって期待される他の企業との比較における将来の超過収益力を資本化した価値であると考えられることから、その経常的な超過収益力を基にその価額を求めることとされており、課税時期前3年間に生じた非経常的な損益の額を将来の超過収益力の算定に含めることは適当でないことから、当該非経常的損益の額を平均利益金額に含めないこととされているものである。
これに対し、著作権の評価方法は、課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額を基に、印税収入期間を推算し、著作権の価額を評価するものであり、上記(ロ)のとおり、各著作権の課税時期後の印税収入の額の変動の状況が区々であることを前提としてその評価方法が定められているから、取引相場のない株式や営業権の価額の評価において非経常的な損益等を含めずに評価することになっているからといって、評価方法の異なる著作権の評価において、年平均印税収入の額から一部の印税収入を除くことはできない。
(ニ)以上のとおり、著作権を著作者が行使するか、相続人が行使するかによって印税収入の額に変動があるとしても、評価通達に定める評価方法においては、各著作権の課税時期後の印税収入の額の変動の状況が区々であることを前提にその評価方法が定められているから、請求人らの主張する事情は、評価通達の定めによらないことが正当と認められるような特別の事情に当たるとは認められない。
加えて、本件鑑定書において、「今後は、新作の××の制作がないことにより、×××の大口の印税収入が期待できないことにより、評価倍率については、課税時期後における印税収入期間に応ずる年数を4年とみなして、複利年金現価率を適用することが、妥当と思われます。」と記載されていることからすると、精通者としての適格を有する本件鑑定人が、本件被相続人の死亡の事実も考慮した上で、本件著作権に係る印税収入期間は4年であると鑑定したものと認められ、請求人らの主張する事情は印税収入期間の推算においても考慮されているから、請求人らの主張には理由がない。
ハ 小括 以上のとおりであるから、本件著作権の価額の評価について、評価通達148の定めによらないことが正当と認められるような特別の事情があるとする請求人らの主張には理由がなく、その他、当審判所の調査の結果によっても、当該特別の事情があるとは認められないから、本件著作権の価額は、評価通達148の定めに基づいて評価するのが相当である。
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