解説記事2016年03月28日 【税務マエストロ】 リース会計基準の公表に伴う消費税の取扱いについて(1)(2016年3月28日号・№636)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
リース会計基準の公表に伴う消費税の取扱いについて(1)
#160 熊王征秀(税理士)

略歴 学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。
現在
東京税理士会会員相談室委員
東京税理士会税務審議部委員
東京地方税理士会税法研究所研究員
日本税務会計学会委員
大原大学院大学准教授

次回のテーマ
#161 外国法人課税とAOAの適用開始③
PwC税理士法人
品川克己
税制改正や、中国進出企業の増加に伴い、国際課税上のリスクは高まっている。国際課税の第一人者がそのリスクを検証する。

マエストロの解説  リース取引に係る所得金額の計算については、ファイナンスリースはすべて売買があったものとして取り扱うこととされている(法法64の2①)。
 旧法人税法では、所有権移転ファイナンスリースについては売買処理を義務付ける一方で、所有権移転外ファイナンスリースについては賃貸借処理を原則としていたところ、リース会計基準の公表に伴い、ファイナンスリースはすべて売買処理に統一されたものである。
 なお、実質的に金銭の貸し付けと認められるリース取引については、従来より金融取引として扱われていたものであり、これについては改正後も何ら変更はない(法法64の2②)。また、オペレーティングリースはそもそもが法人税法に規定する「リース取引」には該当しないため、従来どおりの賃貸借処理で何ら問題はない(法法64の2③)。
 消費税では、事業者が行うリース取引の処理については、法人税の取扱いにより判定することとされている(消基通5-1-9)。
 なお、リース資産の取得価額のうち、契約書で利子、保険料が明確に区分されている場合には、その利子、保険料部分は非課税であり、課税仕入れとはならないので注意が必要だ(消基達6-3-1(17))。今月は、リース取引に関する消費税の取扱いについて確認する。

1 リース取引の体系図1参照)
(1)売買とされるファイナンスリース取引の税抜経理処理
表1参照)
(2)金融取引とされるリース取引の税抜経理処理表2参照)
(3)賃貸借とされるオペレーティングリース取引の税抜経理処理表3参照)


2 賃借料として損金経理をした場合の取扱い  法人税の世界では、売買とされる所有権移転外ファイナンスリース取引について、賃借人が支払うべきリース料の額を賃借料として損金経理した場合には、そのリース料の金額は、償却費として損金経理をした金額に含まれるものとされている(法令131の2③、法基通12の5-2-16)。
 したがって、リース会計基準において売買処理が義務付けられていない少額短期リースについては、従来と同様に、支払うべきリース料の額を賃借料として処理すればよいこととなる。
 また、リース会計基準が強制されない中小企業についても、リース物件を資産計上して減価償却をする必要はなく、従来どおりの賃貸借処理で何ら問題はない。
 ただし、ここで注意したいのが消費税の取扱いである。
 消費税では、資産を取得した場合には、その取得日の属する課税期間において、取得価額の全額が課税仕入れとして認識されることとなるので、たとえ法人税法上リース料が損金として認められたとしても、消費税の世界では、リース開始時に取得価額の全額を仕入税額控除の計算に取り込まなければならない。つまり、法人税において認められている賃貸借処理を採用している場合であっても、賃借人は、支払ったリース料を課税仕入れとして認識することはできないということである(消基通11-3-2(注))。
 こういった実情を憂い、日税連では、「平成21年度・税制改正に関する建議書」において、実務上の混乱を防止する観点から、所有権移転外リース取引につき、賃借人が賃貸借処理をしている場合には、そのリース料について支払うべき日の属する課税期間における課税仕入れとすることも認めるよう建議してきた。この要望に応える形で、国税庁より「移転外リース取引につき、事業者(賃借人)が賃貸借処理をしている場合で、そのリース料について支払うべき日の属する課税期間における課税仕入れ等として消費税の申告をしているときは、これによって差し支えない。」旨の見解が示されたのである。 
 これにより、賃貸借処理をした所有権移転外ファイナンスリースについては、リース資産の取得時に課税仕入れを認識する方法(一括控除)とリース料を支払う都度課税仕入れを認識する方法(分割控除)のいずれでも選択することが認められることとなったのである(図2参照)。
 なお、日税連のホームページにアップされているQ&A(今号18頁の参考資料に掲載)によれば、売買処理(資産計上)をしたリース取引については分割控除は認められないこととなるので注意が必要だ。



【設例】
 会計処理として賃貸借処理を採用した場合の税抜経理方式による仕訳を確認する。
(注)リース料の総額が6,480円、月毎の支払リース料が108円で、5年間のリース契約(全60回の支払)のケース


<参考>  税込みのリース料を入力することにより、自動的に税抜処理ができるような会計ソフトを利用している場合には、一括控除による仕訳は次のようになるものと思われる。

3 帳簿の記載要件と税込経理方式を採用した場合の会計処理  仕入税額控除の適用を受けるためには、帳簿に下記の法定事項を記載した上で、これを確定申告期限から7年間保存することが義務付けられている(消法30⑦、⑧一)。
 ①仕入先の氏名又は名称
 ②課税仕入れを行った年月日
 ③課税仕入れの内容
 ④課税仕入れの金額(税込)
 会計処理として賃貸借処理を採用する一方で、仕入税額控除の時期は一括控除を選択する場合の税抜経理方式による仕訳は次頁【設例】のとおりであるが、税込経理方式を採用する場合の仕訳はどうなるのであろうか……。税込経理方式の場合には、理屈の上ではリース資産の取得時には何ら仕訳は起こさなくてよいことになるわけであるが、帳簿の記載要件との兼ね合いで、元帳などの帳簿には、法定事項を記録として残しておく必要がある。
 会計ソフトを利用する場合の帳簿の記載方法(税込経理方式)は、上記の【設例】を基にした場合、次のようになるものと思われる。


参考資料

日本税理士会連合会

所有権移転外ファイナンス・リース取引において賃借人が賃貸借処理した場合の消費税の取扱いについて(お知らせ) 
 平成20年11月14日

 平成19年度税制改正により、所有権移転外ファイナンス・リース取引(以下「移転外リース取引」という。)は、平成20年4月1日以後にリース契約を締結したものについて、そのリース取引の目的となる資産の売買(譲渡)があったこととされ、賃借人における消費税の課税仕入れ等の税額の控除の時期は、リース資産の引渡しを受けた日の属する課税期間において一括控除することとされました。
 しかし、「リース取引に関する会計基準」及び「リース取引に関する会計基準の適用指針」において、少額又は短期の移転外リース取引として重要性が乏しい場合には例外的に賃貸借処理が認められ、「中小企業の会計に関する指針」においては、すべての移転外リース取引について賃貸借処理を行うこともできるとされているところです。また、法人税法においては、売買でありながら賃借人が賃貸借処理することをベースとして償却の方法が認められており、事実上、改正前の取扱いが維持されている状況にあります。
 当会では、「平成21年度・税制改正に関する建議書」において、このような経理実務を踏まえ、実務上の混乱を防止する観点から、移転外リース取引につき、賃借人が賃貸借処理をしている場合には、そのリース料について支払うべき日の属する課税期間における課税仕入れとすることも認めるよう建議してきたところです。
 今般、国税庁より、「移転外リース取引につき、事業者(賃借人)が賃貸借処理をしている場合で、そのリース料について支払うべき日の属する課税期間における課税仕入れ等として消費税の申告をしているときは、これによって差し支えない。」旨の見解が示されました。
 ついては、その取扱い等について、国税庁の指導も得ながら、別紙のとおりQ&Aを作成しましたので、会員先生方におかれましては、今後、申告をされるに際しては、ご留意くださるようお願いいたします。

 (別 紙)

 記

1.賃貸借処理している場合の仕入税額控除の時期 
(問)所有権移転外ファイナンス・リース取引(所得税法施行令第120条の2第2項第5号又は法人税法施行令第48条の2第5項第5号に規定するリース取引」をいい、以下「移転外リース取引」という。)につき、賃借人が賃貸借処理(通常の賃貸借処理に係る方法に準じた会計処理をいう。以下同じ。)をしている場合には、そのリース料について支払うべき日の属する課税期間における課税仕入れとする処理(以下「分割控除」という。)が認められるか。
(答)認められる。 

 移転外リース取引につき、事業者(賃借人)が賃貸借処理をしている場合で、そのリース料について支払うべき日の属する課税期間における課税仕入れ等として消費税の申告をしているときは、会計基準に基づいた経理処理を踏まえ、事業者の経理実務の簡便性という観点から、このような処理を行っても差し支えないこととされている。

2.リース資産ごとに一括控除と分割控除を併用することの可否 
(問)大規模な機械装置であるA資産と少額なB資産を移転外リース取引により賃借している場合で、賃借人は「リース取引に関する会計基準」及び「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下「会計基準」という。)に従い、A資産は売買処理(通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理をいう。以下同じ。)していることから、消費税の仕入税額控除に当たってはその引渡しを受けた日の属する課税期間において一括して控除(以下「一括控除」という。)することとしている。
  一方、B資産については、複数契約をしている上、少額であることから賃貸借処理し、消費税の仕入税額控除に当たっては分割控除することとしている。
  このように、会計基準に従って、賃借人が移転外リース取引について異なる経理処理を行った場合には、一括控除と分割控除が併用されることとなるが、このような処理は認められるか。
(答)認められる。

 移転外リース取引に係る賃借人の仕入税額控除については、一括控除するのが原則であるが、少額又は短期のリース資産であるか否かによって、賃借人における経理処理が異なることも予想されるところ、このような会計基準に基づいた経理処理を踏まえ、事業者の経理実務の簡便性という観点から、賃貸借処理した移転外リース取引に係る資産については分割控除することを認めることが相当とされているものである。
 したがって、事例のように売買処理したリース資産については一括控除し、賃貸借処理したリース資産については分割控除するといった処理を行ってもこの処理は認められる。

3.仕入税額控除の時期を変更することの可否 
(問)例えば、賃貸借処理しているリース期間が3年の移転外リース取引(リース料総額945,000円)について、リース期間の初年度にその課税期間に支払うべきリース料(315,000円)について仕入税額控除(初年度分割控除)を行い、2年目にその課税期間に支払うべきリース料と残額の合計額(630,000円)について仕入税額控除を行うといった処理は認められるか。
(答)そのような処理は認められない。
 
 本件の取扱いは、移転外リース取引についてはリース資産の引渡しを受けた日の属する課税期間(すなわちリース期間の初年度)において一括控除することが原則であるところ、その仕入税額控除の時期において、賃貸借処理に基づいて分割控除をすることが認められるものであり、事例のような処理はこれに該当しない。

4.賃貸借処理に基づいて仕入税額控除した場合の更正の請求の可否 
(問)事業者が、賃貸借処理した移転外リース取引について分割控除して消費税の申告をしたものを、後日、リース資産の引渡しを受けた日の属する課税期間において一括控除したいとする更正の請求は認められるか。
(答)そのような更正の請求は認められない。

 事業者が仕入税額控除の時期について、取扱いとして認められている分割控除を選択して計算を行い申告している以上、その計算は法律の規定に従っており、また、その計算に誤りはないことから、一括控除への変更を求める更正の請求はその請求要件に該当しない(通則法23①)。 

5.簡易課税から原則課税に移行した場合等の取扱い 
(問)賃貸借処理している移転外リース取引について、次に掲げるような場合のリース期間の2年目以降の課税期間については、その課税期間に支払うべきリース料について仕入税額控除を行うことができるか。
(1)リース期間の初年度において簡易課税制度を適用し、リース期間の2年目以降は原則課税に移行した場合
(2)リース期間の初年度において免税事業者であった者が、リース期間の2年目以降は課税事業者となった場合
(答)いずれの場合も仕入税額控除を行うことができる。 

 本件の取扱いは、賃貸借処理している移転外リース取引に係る賃借人における仕入税額控除の時期について、分割控除して差し支えないとするものであるから、事例のような場合には仕入税額控除を行うことができる。
※平成20年11月21日に、国税庁ホームページの質疑応答事例〔目次/仕入税額控除(課税仕入れの範囲)〕に上記Q&Aを要約した下記の事例が追加で掲載されています。
 22 賃借人における所有権移転外ファイナンス・リース取引の消費税法上の取扱い
 23 所有権移転外ファイナンス・リース取引について賃借人が賃貸借処理した場合の取扱い

この記事に関するご意見・お問合せは ta@lotus21.co.jp にお寄せください。

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