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解説記事2016年10月03日 【講演録】 ヤフー事件等を受けた今後の実務対応(2016年10月3日号・№661)

講演録
ヤフー事件等を受けた今後の実務対応
 公認会計士・税理士 緑川正博

 本年2月、租税回避行為を巡る注目の裁判が終結した。ヤフー・IDCF事件およびIBM事件に対する最高裁の判断は明暗を分けた形だが、両事件が税実務におよぼす影響は限りなく大きい。組織再編スキームに対する最高裁の見方は、「行為計算否認の適用」という実際の問題となって、すべての実務家に影響を与える。今回の最高裁判断をどう位置づけ、実務上の対応をどのようにすべきか、長年、実務の最前線におられる緑川正博氏の分析と考察は、実務家にとって貴重なものと言えるだろう。
(本稿は、平成28年6月17日(金)に開催された「名古屋経済セミナー」(於:名古屋ガーデンパレス)の講演内容を加筆修正したものです。)

 緑川です。どうぞよろしくお願い申し上げます。「ヤフー事件等を受けた今後の実務対応」というテーマにしまして、事件の紹介と今後の対応等がお話できればと思います。なぜ、このテーマをやるかと申しますと、ちょうど4年前にFICの全国研修で、朝長英樹さんと阿部泰久さんと私で座談会をやりまして、その時の模様がT&Amasterに載っています。(編注:2012年9月3日号 No.465 23頁)この時は、地裁の判決が出る前でしたので、新聞で大騒ぎされているなか、いろいろな意見を言う方がおられました。その時に、軽井沢で、立法の担当としての朝長さんと実務者側の担当であった阿部さんと私で座談会をやりました。それが今年、最高裁まで来ました。4年前の座談会と今回で違ったことを言うのはまずいわけで、今回のレジュメも4年前のものと同じものが多いですが、最高裁の判断が出たことでまとめてみたいと思います。
 朝長さんはIBM事件、ヤフー事件、IDCF事件について、T&Amasterでいろいろなコメントをされておられます。これらのご意見も踏まえたうえでの説明が、今回できればいいかなと考えております。

引き直し(フィクション)という考え方  それでは、ヤフー事件、IDCF事件、IBM事件の3つを取り上げたいと思います。2つの最高裁の判決については、全部読み上げることはできませんが、最高裁の判決が出たということは大きいことですので、後ほど、お読みいただければと思います。各事件につきましては、「最高裁判決」、復習の意味も兼ねまして「事件の概要」、「実務対応」という構成となっております。
 私は、日ごろから「租税回避行為の否認は税務上のフィクション」と言っておりますが、これを最高裁判決は「引き直し」、「正常な行為または計算に引き直して」という言葉を使っております。今回は、この引き直しがテーマになりますので、その“引き直し”について見ていき、実務がどう変わっていくのかということも申し上げられればと思っております。

ヤフー・IDCF事件の概要  まず、ヤフー・IDCF事件の概要を見たいと思います。【図1】
 Sはソフトバンクで、Yはヤフーですよね。有名な企業でもありますし、金額も飛びぬけて大きかった、ということで理解していただいて、その中でどのようなことがあったかと申しますと、①2008年12月、S社が42%を持っているY社、このY社がI・Sに副社長を就任させました。②翌年2月、I・SがI・Fという会社を100%の分割で作ります。③そしてそのI・Fの株をすぐY社に売ります。④同じく2月、S社が100%持っているI・Sの株式をY社に売却します。⑤翌月の3月、Y社とI・Sが合併します。⑥3月末、S社、42%のY社、100%のI・F、こういう関係になりました。これをわずか4カ月間でやりました。という事件です。
 何が問題になったかというと、I・Sには、巨額の欠損金があります。I・Fについては、分割時に資産調整勘定を計上し、5年間で償却、ということを狙っています。税務上、租税回避行為として税負担の軽減が問題になるわけですから、何が租税回避行為か、欠損金の引継ぎと、資産調整勘定を作っての償却費の損金算入、この2つが問題になるわけですね。
 そもそも「租税回避」というのは、税負担を軽減してないと租税回避にはならないわけで、何の税金が減ってますかというのがポイントになります。欠損金を引き継いでその分の法人税を減らしました、資産調整勘定を作ってその償却費で法人税を減らしました、これがこの事件の問題です。

ヤフー事件のスキーム  個別に見ていきます。
 今回の事件のうち、Y社だけ抜き出したものが【図2】です。繰り返しになりますが、2008年12月にYの社長がI・Sの副社長に就任、2009年2月にS社の100%子会社だったI・Sの株式をY社に譲渡、ここで「特定支配関係」が発生します。2009年3月にY社がI・Sを吸収合併して、繰越欠損金の引継ぎを受けました、という手順になっていくわけです。

 この事例、本来I・SとY社が合併すれば良かったんです。最後は、S社の下にY(I・S事業)となっていますから、やりたいことは、Y社とI・Sとの合併だったわけです。
 しかし、欠損金を引き継げる条件というのがありまして、直接合併するとそれを満たさない。だったら、欠損金を引き継げる方法を探しましょうよ、ということになるわけです。直接合併すると共同事業要件を満たさず、非適格合併になります。規模が合いませんから。非適格合併になると欠損金は引き継げません。そこで、適格合併になるようにしましょう。株を買って100%子会社にすれば簡単なわけです。100%子会社にしてから合併、そうなれば適格合併です。100%株を買ってから合併すれば適格合併です。何の税負担も軽減してませんからね。株を買っているだけですから。
 ただし、100%株を買ってから合併する企業グループ内の適格合併には、欠損金の引き継ぎに一定の歯止めがあります。平成13年です。平成13年といいますと、バブルが崩壊し銀行が再編した時代です。その時代、みずほは株式移転で共同持株会社を作りました。SMBCは逆さ合併しました。そのような時代です。各金融機関が不良債権処理問題を終わって、今後再編という時代でした。ならば、税が邪魔しないような制度を作ってくれ、という経済界からの要求に応えて出来たのが、平成13年の組織再編税制でした。だから、使いやすいように作った、というのが立法担当者が言っているところです。


形式的には「みなし共同事業要件」を満たす  いろいろな組織再編の選択肢がある中で、繰越欠損金の引継ぎに有利・不利があってはいけない。共同事業再編の適格合併であれば、欠損金の引き継ぎを認めます。企業支配グループ内の適格合併であっても、欠損金の引継ぎを認める要件が、問題となる「みなし共同事業要件」です。100%にしても、「みなし共同事業要件」を満たせば繰越欠損金が引き継げます、としたわけです。ご承知のとおり、組織再編は、50%超という企業支配グループ内再編と、50%以下の共同事業再編の2つに分かれています。適格合併となる共同事業再編ならば、欠損金の引継ぎを認めています。共同事業再編と同じような要件を満たす企業グループ内での適格合併だったら、欠損金の引継ぎを認めてもいいだろう。だから、共同事業再編の上に「みなし」と書いて「みなし共同事業要件」を設けたわけです。その時の経済界の要望に答えて、みなし共同事業要件を作って、これで繰越欠損金の引継ぎを認めますよ、となったのです。これが条文の(旧)法人税法施行令第112条です。

(適格合併等による欠損金の引継ぎ等) 
(旧)法人税法施行令第112条
7 法第五十七条第三項に規定する政令で定めるものは、適格合併等のうち、第一号から第四号までに掲げる要件又は第一号及び第五号に掲げる要件に該当するものとする。
 一 適格合併等に係る被合併法人等の被合併等事業(当該被合併法人等の当該適格合併等の前に営む主要な事業のうちのいずれかの事業をいう。第三号までにおいて同じ。)と当該適格合併等に係る合併法人等(当該合併法人等が当該適格合併等により設立された法人である場合にあつては、当該適格合併等に係る他の被合併法人等。以下この項において同じ。)の合併等事業(当該合併法人等の当該適格合併等の前に営む事業(当該合併法人等が当該適格合併等により設立された法人である場合にあつては、当該適格合併等に係る他の被合併法人等の被合併等事業)のうちのいずれかの事業をいう。次号において同じ。)とが相互に関連するものであること。
 二 被合併等事業と合併等事業(当該被合併等事業と関連する事業に限る。以下この号及び第四号において同じ。)のそれぞれの売上金額、当該被合併等事業と当該合併等事業のそれぞれの従業者の数、適格合併等に係る被合併法人等と合併法人等のそれぞれの資本金の額若しくは出資金の額又はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね五倍を超えないこと。
 三 被合併等事業が当該適格合併等に係る被合併法人等と合併法人等との間に特定資本関係(法第五十七条第三項に規定する特定資本関係(当該合併法人等の同項の合併等事業年度開始の日の五年前の日以後に生じたものに限る。)をいう。次号及び第五号において同じ。)の生じた時(当該被合併法人等が、その時から当該適格合併等の直前の時までの間に合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人となる適格合併、適格分割又は適格現物出資(以下この号及び次号において「直前適格合併等」という。)を行い、かつ、当該直前適格合併等により被合併等事業の全部又は一部の移転を受けている場合には、当該直前適格合併等の時。以下この号において「被合併法人等特定資本関係発生時」という。)から当該適格合併等の直前の時まで継続して営まれており、かつ、当該被合併法人等特定資本関係発生時と当該適格合併等の直前の時における当該被合併等事業の規模(前号に規定する規模の割合の計算の基礎とした指標に係るものに限る。)の割合がおおむね二倍を超えないこと。
 四 合併等事業が当該適格合併等に係る合併法人等と被合併法人等との間に特定資本関係が生じた時(当該合併法人等が、その時から当該適格合併等の直前の時までの間に直前適格合併等を行い、かつ、当該直前適格合併等により合併等事業の全部又は一部の移転を受けている場合には、当該直前適格合併等の時。以下この号において「合併法人等特定資本関係発生時」という。)から当該適格合併等の直前の時まで継続して営まれており、かつ、当該合併法人等特定資本関係発生時と当該適格合併等の直前の時における当該合併等事業の規模(前号に規定する規模の割合の計算の基礎とした指標に係るものに限る。)の割合がおおむね二倍を超えないこと。
 五 適格合併等に係る被合併法人等の当該適格合併等の前における特定役員(社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいう。以下この号において同じ。)である者のいずれかの者(当該被合併法人等が当該適格合併等に係る合併法人等と特定資本関係が生じた日前(当該特定資本関係が当該被合併法人等となる法人又は当該合併法人等となる法人の設立により生じたものである場合には、同日。以下この号において同じ。)において当該被合併法人等の役員又は当該これらに準ずる者(同日において当該被合併法人等の経営に従事していた者に限る。)であつた者に限る。)と当該合併法人等の当該適格合併等の前における特定役員である者のいずれかの者(当該特定資本関係が生じた日前において当該合併法人等の役員又は当該これらに準ずる者(同日において当該合併法人等の経営に従事していた者に限る。)であつた者に限る。)とが当該適格合併等の後に当該合併法人等(当該適格合併等が法人を設立するものである場合には、当該適格合併等により設立された法人)の特定役員となることが見込まれていること。

 この一から四までか、一および五に該当すれば欠損金は引き継げます、というのが条件なのです。
 一、これは事業関連性要件です。これは事業関連があるから再編するわけですから、この要件は見なくてもいい。二、三、四は規模要件です。二、は5倍とか、三、は2倍とか、規模を定めています。その上、おおむね、としています。これが再編税制の特色のひとつです。
 ヤフー事件は、この規模要件を満たさないから、Y社とI・Sの合併をしなかったので、当然二、三、四は満たしません。で残ったのが、これが問題となる5番目の五です。これは特定資本関係が生じる前の特定役員が、合併後も特定役員であればいい、ということです。要するに常務以上の者を合併後も常務以上の者にすればいいですよと言われているものです。規模要件を満たさないから、本件では、この要件を使ったわけです。この条文を頭に置いて、【図2】を見ていただきますと、まず、副社長に就任させています。そして、100%買ったんですよ。特定資本関係が発生する前の特定役員ですからね、株を100%買う前に、特定役員が就任していないと、そもそもダメですから。派遣してから株を買ったわけです。これは、株買う前提で副社長を送り込んでいるのは当たり前ですよね。で、合併をしました。この要件に対して、こういう使い方をしましたという事案です。公開会社ですから開示もしています。2月にI・Sの株を買いますとリリースしているわけです。意思決定はそれより前ですね。
 この事案、先ほど申し上げた条文を形式的には満たします。そうすると欠損金引き継げます。形式的には引き継げますね。でもどうですか。ということを4年前に立法担当者の朝長さんにこれを聞いたときに、「こんなことすると思って法律書いてない」とおっしゃった(前出、本誌No.465)。普通、共同事業というのは、一緒になるときに、常務以上の方が一緒になってやっていくなら、これは、共同事業だよね、これは適格にしてやろうよ、と。その上で、企業グループ内の適格合併においても、何年も前から常務以上であった者が合併後も常務であれば、みなし共同事業要件として欠損金の引き継ぎを認めようよと。
 しかし、本件のように、100%にするなら、事前の役員派遣が簡単ですね。再編直前に特定役員を就任させるとは立法担当者も想定外だったのでしょう。株を買うことが明らかであれば、副社長の就任を受け入れ側はNOとは言えないですからね。NOと言えない、直前の副社長の就任が、同様に認められるか。
 これがヤフー事件です。

IDCF事件のスキーム  一方、IDCF事件というのがありますので、これを見ていきたいと思います。【図3】
 右側の説明ですが、2009年2月、I・Sの営業部門を分割し、I・Fを設立しました。I・Fの株をYに売りました。I・Sの100%子会社(I・F)を作って、これをすぐにYに売りますと、I・Sの完全支配関係は継続しません。条文からしますと非適格になります。
 そして、今度は逆に、I・SとYが合併したんです。I・Fの株をYに売っといて、その後、親会社のI・SとYが合併したわけです。
 この事案、本来、I・Sの株をYが取得して100%にしてから合併すればいいじゃないですか?普通の実務ですと、I・Sの株をYが買って100%にしてから合併します。繰越欠損金がありませんから、さきほどの役員の要件を意図的に考える必要ありませんし。
 でも、本件ではあえて、I・Fを作って、その株をYに売って、完全支配関係を切って、その後に、I・SとYを合併するわけです。YがI・Fの株を買うというワンクッションを入れたんです。これにより、形式的には非適格合併となり、簿価と時価の差額については資産調整勘定となります。資産調整勘定は売却益ですけど、I・Sには多額の欠損金がありますので、欠損金と売却益とを相殺。そして、実質は、引き継ぎ切れない欠損金を資産調整勘定に振り替える、振り替えといて5年償却をする、という事件です。

高裁判決が示した“動機不純”  これら2つの事件について、高裁と地裁の判決を掲げましたが、高裁はこのときにどういっているかといいますと、
 132条の2が設けられた趣旨、組織再編成の特性、個別規定の性格などに照らせば、同条が定める「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、2つ。
ⅰ)法132条と同様に、取引が経済的取引として不合理・不自然である場合
ⅱ)組織再編成に係る行為の一部が、組織再編成に係る個別規定の要件を形式的には充足し、当該行為を含む一連の組織再編成に係る税負担を不当に減少させる効果を有するものの、当該効果を容認することが組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるもの
 とあり、このⅰ)、ⅱ)で判断してください、とされています。
 まず、132条(同族会社の行為計算の否認)と同様に、経済的合理性を考えますよと。これに加えて132条の2は、行為について、組織再編税制の趣旨・目的等に反するかを見ますよ、ということです。
 ここで問題は、「経済的合理性基準」というものなのですけれど、経済的に合理性があるか、優秀な経営者は別として、これはわからないものです。わかったら会計士をしていない、とよく言っています。
 また2番目、組織再編税制の趣旨・目的なんてどこにも書いてないです。当時の立法担当者の朝長さんの租研での講演録はありますよ。でも平成13年ですから、今、市販されていません。組織再編をやっている若い人たちは知らないわけです。
 キャリア5年くらいの若いスタッフが来ますと、適格要件が定まっていますから、それを覚えてくるだけです。わかりやすい税制なわけです。何が言いたいかと申しますと、この「組織再編税制の趣旨・目的」をわかっている人は少ないということです。とすると、この判決は、趣旨・目的を常に立法担当者に聞きなさい、ということになりかねない。困る。
 さらに、地裁・高裁判決は「このように解するときは、組織再編成を構成する個々の行為について個別にみると事業目的がないとはいえないような場合であっても、当該行為又は事実に個別規定を形式的に適用したときにもたらされる税負担減少効果が、組織再編成全体としてみた場合に組織再編税制の趣旨・目的に明らかに反し、又は個々の行為を規律する個別規定の趣旨・目的に明らかに反するときは、上記ⅱ)に該当するものというべきこととなる。」とあります。組織再編全体としてみた場合に、趣旨・目的に明らかに反したらアウトよ、ということです。個々でみても、アウトならアウトだし、全体でみても、アウトならアウトだということです。
 これについては、4年前に、朝長さんと阿部さんとの対談で、阿部さんが言っていたことは、「個々の行為で判断するようにまとめたよね。」ということでした。「誰が全体としての判断をするなんて言っていたんだ」と発言しているわけです(前出、本誌No.465)。個々で判断して適格なら適格。全体としての判断はしないということで、132条の2は使われるよね、ということでした。経済界もそう要望し、当局もそう言っていたじゃないか、ということです。
 ところが、判決では、スキーム全体でみたときに“動機不純”であれば、スキーム全体がアウトだよ、となってしまっています。高裁判決は、タックスプランニングをやっている人たちにとって、影響が大きく、もうスキームは作れないね、となったわけです。私自身も「再編はちょっとね、どうなるかわからないから。」と言っていたことを思い出します。
 個別で趣旨・目的をみて、全体でも趣旨・目的をみて、よくわからない経済的合理性で判断するなら、課税当局は、なんでもできるということになりますね。

最高裁が示した“規定の濫用”  そこで登場したのが、最高裁判決です。<法人税の負担を不当に減少させる結果となるかの判断基準>を明確にしました。
 「本件副社長就任は、組織再編税制に係る上記各規定*を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものとして、法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当ると解するのが相当である。」(*法57条②③、(旧)法令112⑦五)
 全体として動機不純を問うたわけじゃないんです。副社長就任は、みなし共同事業要件の特定役員引継要件を濫用したものだ、(旧)法令112⑦五を租税回避の手段として濫用したとしたわけです。全体を言っているわけではなくて、副社長就任が規定の濫用だと明確に言っているわけです。個別規定の濫用で判断するなら、明確なわけです。さきほどの高裁判決には、だいぶ批判があったわけですね、不明確な判断であって、実務ができないではないか、という批判です。でも、最高裁判決は、132条の2の射程は、規定の濫用ということを明確にしてくれたわけです。132条同族会社の行為計算の否認というのは、同族会社は何するかわからない、何するかわからないから否認規定を設けますよということです。
 一方、132条の2というのは、様々な個別規定があることを前提としています。組織再編税制は条文が多くて読みづらいと言われる所以ですが。しかし、キチンと読めば、税務上の支障はなくなるわけです。だったら、それを濫用する場合はアウトにしていいんじゃないか、と。何ら規定がなされない場合の経済的合理性の判断に比して、明確な規定の濫用との判断は、納税者にとって好ましいのではないか。132条とは、前提が根本的に異なるのです。15年前から実務やって、そう理解してたので、当初の考え方に戻ったなと言っていいのではないでしょうか。
 ヤフー事件の最高裁判決を見ていただいて、「……上記一連の経緯のほか、a社と上告人の各担当者の間で取り交わされた電子メールの「税務ストラクチャー上の理由」……」という全体のストラクチャーがあって、それでやったわけですね、という事実認定をしています。ストラクチャーとは、実行予定図ですね。全体図の中で明らかになっていますねと認定されているわけです。だけど、理由が個別規定の濫用ですから。動機不純と言っているわけではないのです。個別規定の濫用とする背景としています、というところがポイントです。
 では、どうやって濫用かどうかを判断するか。
 1つは、「①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか。」。2番目「②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するか。」等を考慮して、濫用しているかどうかを判断しなさいよ、ということです。
 それで、ヤフー事件については、「cは、b社において、経営の中枢を継続的かつ実質的に担ってきた者という施行令112条7項5号の特定役員引継要件において想定されている特定役員の実質を備えていたということはできず、本件副社長就任は、本件合併後にcが上告人の代表取締役社長の地位にとどまってさえいれば上記要件が満たされることとなるよう企図されたものであって、実態とは乖離した上記要件の形式を作出する明らかに不自然なものというべきである。」と。2番目については、「本件提案から本件副社長就任に至る経緯に照らせば、b社及び上告人において事前に本件副社長就任の事業上の目的や必要性が認識されていたとは考え難い上、cのb社における業務内容もおおむね本件合併等に向けた準備やその後の事業計画に関するものにとどまり、cの取締役副社長としての在籍期間や権限等にも鑑みると、本件副社長就任につき、税負担の減少以外にその合理的な理由といえるような事業目的等があったとはいい難い。」(一部省略)と、こういうふうに認定したわけです。ここまできちんと事実認定することは、かなり大変なことです。こういうふうに言われると反論できますかね。でも、こんなことはしませんが。

伝わってこなかった立法趣旨  「経営の中枢を継続的かつ実質的に担ってきた者」、これは朝長さんの講演録(編注:「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究会)に出てきています。共同事業再編がなぜ適格か、といったときに、こういう人が一緒になってくれるんだったらいいじゃないか、別に規模ばかりじゃないよと。大と小とが一緒になることもあるよ、小に良い技術があれば一緒になるよ、それだって、良い技術を担った常務以上の役員がいて、合併にその技術が必要であれば、大きい会社もその人を常務以上にするよと。これは共同事業としていいんじゃないの?というのがその講演録にも書いてありますし、平成13年の時の旬刊「商事法務」(編注:2001年6月5日号 No.1596)で、時の政府の税調の委員であった東大の神田秀樹教授が立法趣旨を書いているんです。こういうことを検討して、政府税調では再編税制を作りました、と。
 こういうことが趣旨としてずっと伝わっていれば、ヤフー事件の副社長就任は「経営の中枢を継続的かつ実質的に担ってきた者」として無理、と誰もが判断できたと思います。
 最高裁の判決ではこのことが書いてありますので、今後は、この趣旨がオフィシャルなものになりますね。というのは、最近、そのようなことは条文のどこに書いてあるんですかと聞かれるわけです。特定資本関係の前の特定役員が特定役員になるとしか書いてないじゃないですか、と。未だにそうです。もちろん、最高裁の判決を受けて、どう変わっていくのかわかりませんけど。皮肉ですが。
 ということがヤフー事件の判決です。

 次にIDCF事件。これも同じです。最高裁判決では、法人税の負担を不当に減少させる結果となるかの判断基準として、「本件計画を前提とする本件分割は、組織再編税制に係る上記各規定*を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものとして、法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当ると解するのが相当である。」(*法2十二の十一.イ、(旧)法令4の2⑥一、法62の3、法62の8)。「本件分割は」以降はヤフー事件と同じです。
 各規定の濫用、すなわち、いったん離れるけどすぐに一緒になっているじゃないか、いったん特定資本関係、100%関係は切断されるけど、わずか1か月位で100%に戻っている、これは濫用でしょ?
 そして、濫用か否かの判断として、ヤフー事件の①②と同じで、最高裁の判断としては、「本来必要のない本件譲渡1を介在させることにより実質的には、適格分割というべきものを形式的に非適格分割とするべく企図されたものといわざるを得ず、本件計画を前提とする点において、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づくものであるのみならず、これにより実態とは乖離した非適格分割の形式を作出するものであって、明らかに不自然なものであり、税負担の減少以外にその合理的な理由となる事業目的等を見いだすことはできない。」としています。

ヤフー事件の“引き直し”はできないのか!?  これは4年前に書いたもの【図4】ですけど、上部≪実行≫です。まず、①副社長が就任します、次に②株式譲渡、そして適格合併、Sから42%でY、Yは100%でI・Fを作りました。これだと形式的に欠損金を引き継げるけど、普通の行為はどうなんだろうと、これが私なりの「引き直し」です。ヤフーの最高裁の判決文で、「法132条の2は、税負担の公平を維持するため、組織再編成において法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、それを正常な行為又は計算に引き直して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものと解され……」とあります。それでは正常な行為又は計算に引き直しとは、税務上のフィクションはなんだろうと4年前に考えていたわけです。そこで、引き直すならば、これは単純合併しかないと考えて比較しました。

 図の下の≪単純合併≫ですと、これは非適格合併です。欠損金は引き継げません。しかし、これが正常な行為又は計算だとしても、私が理解している132条では否認できないわけです。課税するための税務上のフィクションというのは、結果が一緒でなければいけないと考えています。会社がとった行為と、課税当局がこうじゃないかという行為とは、結果が一緒でなければならないのです。あくまで、課税するための税務上のフィクションですから。結果が異なることをも認めるならば、税務上の問題を超えてしまいます。本件は、何かといいますと、Sは3月末に現金が欲しかったんですよ。だから、現金がSに行っているんですよ。Sの資金需要に応えるために株式売買を行っているわけです。資金移動には理由があるのです。その時の有報を見れば明らかです。
 そうすると、私が考えた≪単純合併の場合≫と≪実行≫とでは、資金移動の部分が異なるのです。≪実行≫では、本当にキャッシュが動いているのです。資金需要があるから、そうせざるを得ないということです。
 となると、単純合併であると引き直すと、資金と持株割合について、結果が違ってきますから、132条の否認は無理だね、となったわけです。すると、「132条の射程と132条の2の射程とは違うのでしょうか。」というのが、4年前に朝長さんや阿部さんとやりたかったテーマでした(前出、本誌No.465)。阿部さんは「同じですよ」と言われ、朝長さんは「違う」とおっしゃった。
 経済界や実務家からすれば、両者が異なるのは困る。しかし、朝長さんは、それだったら、132条の2は作ってないよ、もっと違った作り方をしている、ということでした。で、高裁は、単に132条と132条の2とは射程が違うから結果が異なることもある、としちゃったんです。132条の2の射程は、「132条の判断基準」プラス「趣旨・目的論」ですよとしてしまったわけで、この高裁判決は大変だね、となったところに、最高裁が違う考えを示してくれたわけです。最高裁は、税法が予定している本来の「副社長の就任」という行為はなかったんだ、という税務上のフィクションを作ったわけですね。そうすると、就任がなければ、非適格になるだけ。フィクションは、私が考えた単純合併ではなくて、副社長就任を税務上否定した。そうすると、これは非適格ですという結論です。だから、資金移動の結果は、フィクションも同じであり、結論を同じくした上での、引き直しですね。

IDCF事件の“引き直し”は単純  わかりやすいのがIDCF事件【図5】。≪実行≫では、資産調整勘定を計上して、株式を売って、そのうえで合併です。キャッシュは、プラスマイナス0になるわけです。今度は、キャッシュの増減はありません。だから引き直しは簡単です。単純合併した場合と同じじゃない?、完全に税務上のフィクションが出来上がるわけです。資金増減が行われていませんから。上の図の最終形と下の図の最終形は何ら変わりありません。では、これが普通じゃないの?なんで、I・Fの株式の譲渡を入れたの?となります。図5の、移転資産に対する支配の断絶はわずか1か月程度でしたから、これはだめだよね、というのが一致した見方でした。

 最高裁の判決では、「……本件では、本件分割をあえて非適格分割とするため、分割後に分割法人と分割承継法人との間に当事者間の完全支配関係が継続することが見込まれているという施行令4条の2第6項1号の要件を満たさないこととなるように、b社と上告人との当事者間の完全支配関係を一時的に断ち切るものとして、本件分割と本件譲渡2の間に本件譲渡1を行う本件計画が立てられ、そのとおり実行されたものとみることができる。」  あえて完全支配関係を断ち切るために、余計な譲渡を入れたのですね、と認定しました。また、「……、本件の一連の組織再編成を全体としてみれば、b社による資産移転等の支配は本件分割後も継続しているといえるのであって、本件分割は適格分割としての実質を有すると評価し得るものである。その上、仮に本件分割後に本件譲渡1が行われなくとも、本件譲渡2と本件合併によりi社によるb社の吸収合併と上告人の完全子会社化は実現されたのであり、本件譲渡1が行われたのは本件譲渡2のわずか4日前であり、本件合併の約1か月前であることなどからすると、そもそも本件譲渡1を行う事業上の必要性は希薄である上、本件譲渡1の対価である115億円が本件譲渡2及び本件合併によりいずれi社に戻ることが予定されていたことなども考慮すると、本件譲渡1を行うことにつき、税負担の減少以外に事業目的等があったとは考え難い。」としています。
 一連としてみれば、あえて支配を断ち切っただけでしょ?また、現金が戻ってくることを想定しているわけです。だから、現金の移動はないわけです。4年前に私が言ったことが意外に当たっているんですが。

税務のプランニングで重要なこと  でもまあ、こういう絵はだめですよ。やっぱり。別のことも考えなきゃいけないわけです。いくつかの案を考えて、税務上どうかとかいろいろ検討して、一番妥当なものを選ぶことで、初めてプランニングができるわけです。1種類しか考えられない人は無理だと思います。同じ目的があったとしても、こういうやり方もあるよね、いや、こういうやり方もあるよね、という選択肢をいくつも考えられなきゃだめということです。プランニングというのは、基本的にいくつも考えて、その中で最も合理的なものを選ぶということです。無理を削ぎ取って、結果が同じくなる方法を選択する作業でもあります。
 ともかく、ヤフー事件とIDCF事件は、規定の濫用ということで落ち着いたこと押さえておいてください。また、今回の最高裁判決は評価高いです、実務家の間で。ただ、実際には、副社長を派遣するとか、4日後に株式を譲渡するとか、こういったことを実務家は絶対にやりません。いろいろ聞いてみましたけど。誰もやらない事件に最高裁判決が判断したという格好です。ただ、高裁で終わることなく、きちんとした最高裁判決を得られたのは大きいことです。行為は問題だが、このような最高裁判決を得てくれたことには感謝です。あの高裁判決で止まったら、実務はできなくなるところでした。

IBM事件の概要  次ですが、IBM事件。これは、実務家の間では、非常に問題があるものとされております。【図6】
 これも当時新聞記事で騒がれていましたが、何が問題かわからないんです。上の自己株式の取得で譲渡損は出ます。平成13年の税制改正で、譲渡損は使えます。だけど、譲渡損が使えたとしても、所得がなければ税負担は軽減されません。損が出ただけなら、誰も怒らないんです。問題なのは、その損を使ったからなんですね。損を使って税負担を軽減したからおかしいわけで。損を出しっぱなしだったら、誰も文句を言わない。どうして損を出しっぱなしにしたんですか!と言う人はいませんよね。この場合、連結納税で損を使ったわけです。連結納税をするまでは、使うことができない欠損金だったわけです。正直、この事件の課税当局の主張はよくわからないんですね。

相反する金子説と高裁判決  いずれにしましても、最高裁の上告不受理は、平成28年2月18日です。ヤフー・IDCF事件の最高裁判決は、このわずか11日後です。IBM事件は高裁判決が確定したわけです。しかし、納税者が勝ったものの、主張は否定され、禍根を残すこととなりました。勝った納税者側は「法人税法132条1項の「法人税の負担を不当に減少させる」とは、否認対象である行為又は計算が経済的合理性を欠いている場合、すなわち当該行為又は計算が異常ないし変則的であり、かつ、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合であって……」と主張しています。この場合でしか132条を使ってはいけませんよ、と言っているわけです。「租税法」第21版(金子 宏著)(478頁)平成28年4月15日発行でも、「この規定の解釈・適用上問題となる主要な論点は、①当該の具体的な行為計算が異常ないし変則的であるといえるか否か、および②その行為・計算を行ったことにつき租税回避以外に正当な理由ないし事業目的があったとみとめられるか否かである(本書17版以降、従来の説を修正し、3つの基準をあげてきたが、第3の基準(租税回避の意図があったか否かの基準)は、第2の基準の主観的側面であり、いわば繰り返しであるから、この版以降は削除する)」、とあります。租税法に関わる者のバイブルである本著に書いてあるものを納税者側はそのまま主張した、という当たり前の話です。実務家なら、こう書きますし、私もこう書きます。
 それが高裁判決では、「法人税法132条1項の「不当」か否かを判断する上で、同族会社の行為又は計算の目的ないし意図も考慮される場合があることを否定する理由はないものの、他方で、被控訴人が主張するように、当該行為又は計算が経済的合理性を欠くというためには、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められること、すなわち、専ら租税回避目的と認められることを常に要求し、当該目的がなければ同項の適用対象とならないと解することは、同項の文理だけでなく上記の改正の経緯にも合致しない。
 しかも、法人の諸活動は、様々な目的や理由によって行われ得るのであって、必ずしも単一の目的や理由によって行われるとは限らないから、同族会社の行為又は計算が、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められるという要件の存否の判断は、極めて複雑で決め手に乏しいものとなり、被控訴人主張のような解釈を採用すれば、税務署長が法人税法132条1項所定の権限を行使することは事実上困難になるものと考えられる。」
としたのです。金子説を採用すると、税務署長は132条を使えなくなるではないか、と高裁は金子説を否定しているのです。
 さらに、「同族会社の行為又は計算が、法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」か否かは、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人として不合理、不自然なもの(経済的合理性を欠く)と認められるか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきところ、上記解釈は、当該客観的、合理的基準をより具体化するものであって、これをもって、税務署長に包括的、一般的、白地的な課税処分権限を与えたもので租税法律主義に反するということができないことは、最高裁昭和53年判決の趣旨に徴して明らかというべきである。」としています。すなわち、租税回避の目的の判断を税務署長に求めません。租税回避目的の判断を税務署長に求めると、132条は使えない、としています。

禍根を残した高裁判決  まとめたのがこの【図7】です。

 税務署長による「法人税の負担を不当に減少させる結果」か否かの“不当に減少させる”とは、「経済的合理性を欠くか否か」で考えて下さい。そして、経済的合理性を欠くこととは、その中に、租税回避目的もあるでしょうし、独立当事者間取引と異なる場合もあるでしょう、もっと広範囲ですよ、みんな含みますよ、ということです。独立当事者間取引と異なる場合があれば、直ちに132条ですよ、という意味です。
 132条の税務署長の権限の範囲が、金子説よりは広くなった高裁判決ということが言えると思います。税務署長が考える経済的合理性を欠くならば、課税できることになりかねません。

当たり前のはずの「税負担の軽減」  これは問題です。この判決のままだと、実務は回らないでしょうね。将来の最高裁判決を期待するしかないですね。今は株主総会のシーズンですから言いますと、株主総会で今話題になっているのは、ROEですよ。コーポレートガバナンス・コードでROE(税引き後当期純利益÷自己資本)について説明しろと言われていますから。税引き後利益を使ったROEを何%にしないのはおかしいだろ、という質問に対する対応は想定問答の中に出てきます。ROEは分子に税引き後利益が来ますから、税負担を減らせば、ROEの数値はよくなるわけです。税というのは最大の企業経営コストですから、ROEを良くしようと思えば、税負担を減少させることは当たり前のことです。また、必ず、同業他社との連結税負担率も比較されますからね。「なぜ、あの会社の連結税負担率より高いんだ?説明しろ。CFO!」となりますからね。この質問に答えられなかったらきついですね。国際的な企業ですと、国際的なレベルでの子会社戦略を含めた連結ベースでの税負担率をいかに下げるかというのをやっているわけです。これが他の競合企業より劣っていれば株主総会で突っ込まれますよ。
 しかし、税負担を減少させると、税務署長から、経済的合理性を欠くと言われかねません。
 この不当か否かの判断は、税務署長の考える経済的合理性ですから。

引き直せない「自己株式の取得」という現実  あえて、IBM事件について、国側の主張を検討してみます。こうすれば、という余計な話です。税務上のフィクションは無理ですね。この取引は、税務上、自己株式の取得じゃなくて、普通の配当だよ、と構成することぐらいしかできないはずです。でも、財源規制があるし、実際に自己株式として買っていますからね。自己株式取得と違う他の方法で同じことができるかいうと、無理なわけです。実際、国側も、「……本件一連の行為は、IBMグループが日本国内において負担する源泉所得税額を圧縮しその利益を米国IBMに還元すること(……略……)の実現のために一体的に行ったものであると……」などと主張して、何の税負担軽減を言っているのかわからなくなっているわけですね。
 他に考えられるものとしては、「受取配当金の益金不算入規定の濫用」もありますが、これはやってもらうと困ります。なぜかというと、平成22年の税制改正で、自己株式の取得に関して、平成22年10月1日以後に取得する株式について、特定の配当等の額について益金算入ですよ、としています。それまでの株式については、不算入がOKと規定しています。租税回避行為に対応して、個別の否認規定が置かれたにも拘らず、以前の取得分は濫用だとして課税すると言われたら困るわけです。
 このようなケースでは、たとえば、参考として挙げられるのは、「新しい租税回避の類型が生み出されるごとに、立法府は迅速にこれに対応し個別の否認規定を設けて問題の解決を図るべきであろう。」(金子宏「租税法」第21版(129ページ))というものです。平成22年10月1日以後のグループ法人税制としての様々な損出し規制は、租税回避の個別否認規定を定めたものと言えますから、このように新たに規定を設ければいいのです。132条は、あくまで税務上のフィクションでの否認であり、個別否認規定で対応すべき問題を含めてはならないと考えます。金子説でお願いします。

132条の3でできなかったか?  それでは、いったい何なのかとなると、「法132条の3の適用」があります。ずっと前から、これだと言ってきたのですが、13年に再編税制ができて132条の2ができました。14年に連結納税ができて132条の3ができました。132条の3は連結納税の租税回避の否認ですけど、この(連結法人に係る行為又は計算の否認)でいけばよかったんじゃないの?と思うわけです。なぜかというと、ポイントは「行為又は計算」です。同族会社の行為計算の否認というのは大正12年にできました。かつて、武田昌輔先生に教えていただきました。大正12年の10月に関東大震災、3年後の大正15年に、同族会社の行為計算の否認規定を見直して、「行為」だけだったものに、「計算」を加えたんです。その理由は、貴族院の特別委員会での責任者(主税局長)の説明によると、「行為」が終わった後、たとえば減価償却なんかですと、あとで法人税の減少となる「計算」が行われるわけです。だから、計算を加えました、と言っているわけです(DHCコンメンタール「法人税法・7」(第一法規)参照)。
 IBMの場合、損を作ったのは、平成14年、15年、17年、です。本当に税負担を減少させた計算は連結納税時ですから。132条の3なら、明確に更正の理由も書けたと思うわけです。また、132条の3でやって、負けたなら、132条に影響はなかったのではないか。実務家とすると、課税当局には、勝っても負けても132条に影響が出るような戦い方はしてほしくなかった。
 もうひとつ、加えるとしたら、さきほど、自己株式の取得に代わる税務上のフィクションは無理、と申し上げましたが、法人税基本通達の旧昭25年有法1-100「355」では、132条適用の例示がありました。しかし、これは昭和40年の改正を受けた44年の通達の抜本的大改正で削除されています。通達を削除するには理由があって、44年、寄附金の規定も役員給与の規定も整理でき、法律の手当てが行われ問題がなくなり、各個別規定で対応できますので、あえて「132条適用の例示」をする必要はなくなった、となったわけです。何が言いたいかというと、もはや132条の事案は、安易な対応を除いてほとんどなくなったということですよ。各個別規定の対応でやればいいわけですから。
 と理解していたところに、今回のIBM事件の高裁判決が出たわけです。
 新たに使いやすい132条を手に入れるために、訴訟したのですかね。
 普段、金子説で実務をやってきた者にとっては、今回の高裁判決を読んで、税務署長の考える経済的合理性だから「何が出てくるかわからなくなったから怖いね」と言わざるを得ないわけです。何だか、課税当局は騒がしいようですから。
 将来の最高裁判決を待ちます。


行為計算否認を受けないためには  そこで、まとめに入るわけですが、行為計算の否認を受けないためには、実務対応の考え方として、「引き直し」や「フィクション」を当局に与えられなければいいわけです。
 大きなポイントです。
 税務署長は、正常な行為又は計算に「引き直し」て、法人税の負担を減少させない取引が可能であったかを考えます。そして、引き直せない、あるいは「引き直し」た取引でも法人税の負担が減少するならば、実行行為に132条の適用がない、ということです。
 たとえば、「逆さ合併」というのがありました。組織再編税制の前の合併における繰越欠損金です。合併法人の繰越欠損金は引き継げますよ、被合併法人の繰越欠損金は引き継げませんよ、という時代がありました。そこで、小さいが繰越欠損金のある会社を合併法人にして、繰越欠損金を引き継いで使えますね、というやつです。これは132条の対象です。税務上のフィクションとして、合併法人と被合併法人を逆にしただけです。合併行為を否認しているわけではありません。合併法人と被合併法人とを逆にするだけで、片や欠損金を引き継げる、片や欠損金を引き継げない、これはおかしいよね、132条だね、ということです。非常にわかりやすい。このような行為は、避けるべきです。合併法人の実態が伴っていないからです。実態が伴わなければダメです。合併でなくとも。
 所得税法157条、相続税法64条、いずれも同族会社等の行為計算の否認規定です。所得税ですといろいろあるんですよ、不動産管理業の高額報酬とか、同族会社が加担して株主の所得税を減らすとかの無利息融資案件とかがあるわけです。所得税と相続税は、同族会社が「加担して」、株主の所得税や相続税を減らすという場合の規定です。したがって、個人が対象のため、経済的合理性の判断だけというわけにいかず、今後も様々問題が生じるでしょう。

現実的な実務対応は何か?  今後の対応をどうするか、ということになりますと、先ず、「余計な税負担を生じさせないこと」と「あえて税負担を減少させること」とは違うということを申し上げたい。今問題となっているのは、「あえて税負担を減少させること」です。あえて損を引き継いだ適格のヤフー事件、あえて損を作り出した非適格のIDCF事件、どちらも「あえて」税負担の軽減をやっているわけです。通常の実務とは異なります。
 普段の実務では、前者の「余計な税負担を生じさせないこと」が重要です。欠損金や資産調整勘定の計上のようなことではなくて、普段の実務は、適格のものは「適格要件」を確実に満たす。さらに、特定役員云々などではなくて、部門別の規模要件を使うなどして、みなし共同事業要件をきちんと満たしてくださいということです。規模要件の適用を様々な資料に基づき、普通に検討するということです。経済的合理性のある組織再編ならば、選択肢の多い規模要件を満たす場合が多いと思います。
 また、今回のIBM事件の高裁判決によって、今後132条が問題となるかということですが、結局、高額・低額の寄附金とか役員報酬とかしか思い浮かばないですね。同族会社の行為計算の否認というより、寄附金課税の問題や役員給与課税の問題だと思うし、実務において、132条の高裁判決はあまり影響はないものとみておきたいですね。現状を見ても、とりあえず132条で更正して、裁判段階で事実を明確にして37条の寄附金課税になったりしますから。逆もあって困りますが。ただ、IBM事件の判決を得た国税当局の動きは気になります。もっとも、組織再編等における税は、ファイナンスコストとしての側面が強いため、ファイナンスの経済的合理性を明確にすることが対抗措置となるはずです。いずれにせよ、小手先ではなく、腰を落ち着けた実務をやっていった方がいいのではないだろうかというのが、私の意見です。以上です。

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