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解説記事2017年01月16日 【税理士のための相続法講座】 遺産分割(4)-遺産分割の効力(2017年1月16日号・№674)

税理士のための相続法講座
第23回
遺産分割(4)-遺産分割の効力
 弁護士 間瀬まゆ子

1 遺産分割の効力
 遺産分割の効力については、民法909条に規定があり、本文で、遺産分割の効力は相続開始の時に遡ること、但書で、分割前に相続人が有する共有持分について権利を取得した第三者(共同相続人から持分を譲り受けたり差し押さえたりした者)の権利を害することはできないことが定められています。但書で保護されるために、対抗要件の具備が要求されることは、民法の教科書等でも頻出の基本的知識です。
2 遺産分割協議の解除  遺産分割協議によって代償金債務を負った相続人がこれを履行しなかった場合、債権者である相続人が遺産分割協議を債務不履行解除(民法541条)できるかが問題になりますが、判例はこれを否定しています(最一小判平成元年2月9日民集43巻2号1頁)。
 また、遺産分割協議に際し、例えば、高齢の親の面倒を見ること等を解除条件とする合意があったような場合にも同様の問題が生じますが、そのような合意は法律関係を不安定にするものであり無効とした裁判例もあります(東京地判昭和59年3月1日家月38巻1号149頁)。
 これに対し、合意解除、すなわち、一旦成立した遺産分割協議を相続人全員の合意により解除することは、判例も認めるところです(最一小判平成2年9月27日民集44巻6号995頁)。
 しかし、遺産分割協議を合意解除して遺産分割のやり直しが行われた場合、民法上問題がないとしても、課税の問題は残ります。この点、配偶者の税額軽減について定めた相続税法基本通達19の2-8は、遺産分割のやり直しの場合は「分割により取得したものとはならない」としており、当初の遺産分割を合意解除して新たに遺産分割をやり直した場合には、原則として、当初の遺産分割により取得した財産を贈与等により移転したものとみなされ、贈与税その他の税を課されることになると思われます(なお、不動産取得税に関しては、最判昭和62年1月22日判時1227号34頁が、合意解除後の再分割についても「相続に因る不動産の取得」にあたると判示していますが、この判例は相続税には妥当しないと言われています。)。
3 遺産分割協議の無効  遺産分割協議が無効となるのは、以下のような場合です。
・当事者の意思表示に瑕疵があった
・親権者が複数の子を代理した(利益相反)
・相続開始前の遺産分割
・一部の相続人を除外して遺産分割協議をした
・重要な遺産を脱漏してしまった
 このうち、利益相反の場合と相続開始前の分割については、後の追認があれば有効となります(ただ、相続開始前の遺産分割が追認されるのは、相続開始後においても相続人全員の同意を取り付けられる場合であり、そのような場合には、わざわざ追認という形式をとらずとも、再度遺産分割協議をまとめることが容易なはずです。)。
 財産の脱漏に関しても、重要な財産が含まれていなかった場合は、分割協議全体が無効となってしまいます(東京地判平成27年4月22日判時2269号27頁ほか)。それに対し、重要でない財産が漏れていただけであれば、分割協議の効力は否定されず、未分割の財産についてのみ再度分割をすればよいことになります。
 また、持ち回り方式による場合にも、効力を否定する裁判例が出ていますので、注意が必要です。この点、持ち回り方式によること自体が認められないわけではありません。しかし、分割内容が全員に提示されていないため、そもそも遺産分割協議が成立していないとされた例があるほか(仙台高判平成4年4月20日家月45巻9号37頁)、分割内容と分割方法に不公平があったとして、信義則上の見地から無効と判断された事例もあります(大阪地判平成8年2月20日判タ947号263頁)。
 専門家として遺産分割協議に関与する場合、後に無用な紛争に巻き込まれることのないよう、各相続人が協議の内容を真に理解しているか慎重に見極めておく必要がありますが、とりわけ持ち回り方式の場合には、いつも以上に注意を払うべきでしょう。
 Aが亡くなった。相続人は、妻B、長女C及び次女Dの3人。税理士事務所で遺産分割協議に押印することになったが、当日、Dから「忙しくて行けない」と連絡があり、Dから実印を預かっていたBが、Dに代わって遺産分割協議書に押印することになった。
 後日、BとCの仲が険悪になったのを契機として、Dが「遺産分割協議は無効だ」と言い出し、Bも、「別の理由で預かっていた実印をDに無断で使った」などと、Dを援護する発言をするようになった。
 文書に実印による印影がある場合、反証がない限り、その印影は名義人本人の意思に基づいて押印されたものと事実上推定され、民事訴訟法228条4項により、当該文書は真正に成立したものと推定されることになります(二段の推定)。そして、一般に、この推定を覆すことは困難であるため、重要文書に実印による押印を求める慣行が存在しているのです。
 しかし、このような推定が覆ることもあります。1段目の推定(事実上の推定)は、印鑑が盗用された場合のほか、別の目的で預けた印鑑が悪用された場合などにも覆ります。また、2段目の推定(民訴法228条4項)は、他の書類と思い込ませて押印させた場合などに覆ります。
 上記の事例でも、Bが「別の理由で預かっていた実印をDに無断で使った」と言っていますので、1段目の推定が覆されてしまう可能性が濃厚です。
 そうなると、相続人の一部を除外してなされたとして、遺産分割協議は無効とされることになりそうです。
(次回(2月13日号・No.678)に続く)

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