解説記事2017年02月20日 【未公開裁決事例紹介】 非課税所得となる通勤の範囲が争われた裁決事例(2017年2月20日号・№679)
未公開裁決事例紹介
非課税所得となる通勤の範囲が争われた裁決事例
「通勤」は就業のための拠点との往復
○請求人(医療法人)が勤務医らに支給した通勤手当をめぐり、勤務医らが自宅と請求人が用意した病院近辺のマンション等または病院との間を往復することが非課税所得となる「通勤」(所法9①五)に該当するか否かが争われた事例(平成28年4月5日・関裁(諸)平27第49号)。審判所は、「通勤」は給与所得者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、就業のための拠点となるところと就業場所との間の往復をいうと解釈。本件については、病院近辺のマンション等が就業のための拠点となることから、マンション等と病院との間を往復することが「通勤」に該当すると判断。勤務医らの自宅とマンション等または病院の往復は「通勤」に該当しないと判断した。
基礎事実等
(1)事案の概要 本件は、医療法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、その開設する病院から自宅が遠方にある常勤医師に支払った通勤手当について、非課税所得であるとして課税の対象にしていなかったところ、原処分庁が、当該医師の就業のための拠点となる住居と病院との往復が通勤に当たるとして、源泉徴収に係る所得税等の各納税告知処分および不納付加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該医師の自宅と病院の往復が通勤に当たるとして、当該各処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)基礎事実 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、×××に所在する×××(以下「本件病院」という。)を開設する医療法人である。
ロ 別表1(略)の「医師の氏名」欄記載の5名の医師(以下「本件勤務医ら」という。)は、同表の「勤務形態」欄記載のとおり、本件病院において常勤の医師として平成22年3月から平成26年6月まで(以下「本件期間」という。)勤務していた。
ハ 本件勤務医らの自宅の所在地は、別表1(略)の「自宅所在地」欄記載のとおりである。
ニ 請求人は、本件勤務医らの自宅が本件病院から遠方にあったことなどから、本件勤務医らに対し、それぞれ本件病院の近辺に別表1(略)の「マンション等」欄記載のマンション等を用意した。
ホ 本件勤務医らは、毎週、それぞれの自宅から上記ニのマンション等または本件病院に行き、3日ないし5日間、連続して勤務した後、それぞれの自宅に帰宅していた。
なお、本件病院に勤務するための移動方法等は次のとおりである。
(イ)本件勤務医らは、週の最初の勤務の前日または当日、それぞれの自宅から、新幹線等の公共交通機関を利用して×××まで移動し、同駅から請求人の従業員が運転する自動車で上記ニのマンション等または本件病院まで送迎を受ける。
(ロ)本件勤務医らは、その週の勤務を終えるまで、上記ニのマンション等で過ごし、それぞれ自動車で本件病院との間を往復して勤務する。
(ハ)本件勤務医らは、その週の勤務が終了した後、本件病院から往路とは反対の経路を通ってそれぞれの自宅へと帰宅する。
へ 請求人は、毎月、本件勤務医らに対し、通勤に必要な費用に充てるものとして、通常の給与に加算して通勤手当を支給しており、本件期間における本件勤務医らの通勤手当(以下「本件各通勤手当」という。)の額は、別表2(略)記載のとおりであった。
ト 請求人は、平成22年3月から平成24年12月までの各月分の給与所得の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)については、所得税法第189条《主たる給与等に係る徴収税額の特例》の規定に基づき、また、平成25年1月から平成26年6月までの各月分の源泉所得税および復興特別所得税(以下「源泉所得税等」という。)については、東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(以下「復興財確法」という。)第29条《居住者の給与等に係る源泉徴収税額および源泉徴収特別税額の特例》の規定に基づき、それぞれ計算している。
(3)審査請求に至る経緯 イ 原処分庁は、平成27年3月30日付で別表3(略)の「納税告知処分等」の「納税告知処分」欄および「賦課決定処分」欄の各記載のとおり、源泉所得税等の各納税告知処分および不納付加算税の各賦課決定処分をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成27年5月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成27年8月7日付で別表3(略)の「異議決定」欄記載のとおり、上記イの各処分について、棄却および全部または一部を取り消す異議決定をした(以下、平成22年3月から平成22年8月までおよび平成22年10月から平成24年12月までの各月分の源泉所得税の各納税告知処分並びに平成25年1月から平成26年6月までの各月分の源泉所得税等の各納税告知処分(いずれも上記異議決定によりその一部が取り消された後のもの)を併せて「本件各納税告知処分」という)。
また、平成23年1月、平成23年5月、平成23年8月および平成25年1月から平成26年6月までの各月分の源泉所得税等に係る不納付加算税の各賦課決定処分(平成25年1月、平成25年4月、平成25年6月、平成25年8月および平成25年11月から平成26年6月までの各月分の源泉所得税等に係る不納付加算税の各賦課決定処分については、いずれも上記異議決定によりその一部が取り消された後のもの)を併せて「本件各賦課決定処分」という。)。
なお、異議決定書の謄本は、平成27年8月18日に請求人に送達された。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の本件各納税告知処分および本件各賦課決定処分に不服があるとして、平成27年9月16日に審査請求をした。
(4)関係法令の要旨 イ 所得税法第9条《非課税所得》第1項第5号は、給与所得を有する者で通勤するもの(以下「通勤者」という。)がその通勤に必要な交通機関の利用または交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当(これに類するものを含む。)のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるものについては、所得税を課さない旨規定している。
ロ 所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において同法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
ハ 所得税法施行令第20条の2《非課税とされる通勤手当》は、所得税法第9条第1項第5号に規定する政令で定めるものは、次の各号に掲げる通勤手当(これに類するものを含む。)の区分に応じ当該各号に定める金額に相当する部分とする旨規定し、その第1号は、通勤のため交通機関または有料の道路を利用し、かつ、その運賃または料金を負担することを常例とする者(第4号に規定する者を除く。)が受ける通勤手当については、その者の通勤に係る運賃、時間、距離等の事情に照らし最も経済的かつ合理的と認められる通常の通勤の経路および方法による運賃等の額(一月当たりの金額が10万円を超えるときは、一月当たり10万円)とする旨、第2号は、通勤のため自動車その他交通用具を使用することを常例とする者(その通勤の距離が片道2キロメートル未満である者および第4号に規定する者を除く。)が受ける通勤手当については、その通勤の距離が片道10キロメートル未満である場合には一月当たり4,200円(平成26年3月分以前については4,100円(平成26年10月政令第338号による改正前の同規定))などとする旨規定している。
ニ 復興財確法第28条《源泉徴収義務等》第1項は、所得税法第4編《源泉徴収》第1章から第6章までの規定(第181条から第219条まで)により所得税を徴収して納付すべき者は、その徴収(平成25年1月1日から平成49年12月31日までの間に行うべきものに限る。)の際、復興特別所得税を併せて徴収し、当該所得税の法定納期限までに、当該復興特別所得税を当該所得税に併せて国に納付しなければならない旨規定している。
争点および主張 本件勤務医らが自宅と請求人が用意したマンション等または本件病院との間を往復することが、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤に当たるか否か。当事者の主張は、表のとおり。
審判所の判断
(1)争点(本件勤務医らが自宅と請求人が用意したマンション等または本件病院との間を往復することが、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤に当たるか否か。)について イ 所得税法第9条第1項第5号は、通勤手当のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるものについて、所得税を課さない旨規定している。これは、給与所得者に対して支給される通勤手当は、通勤に要する費用に充てられる実費弁償的なものであるために、一般の通勤者について通常必要と認められる範囲内のものは課税しないこととしたものである。
上記の趣旨に照らせば、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤とは、給与所得者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、就業のための拠点となるところと就業場所との間の往復をいうものと解するのが相当である。
ロ 上記基礎事実等(2)ホによれば、本件勤務医らは、本件病院に連続して勤務する3日ないし5日間、本件病院の近辺にある請求人が用意したマンション等で生活し、当該マンション等と本件病院との間を往復して勤務していたことが認められる。そうすると、当該マンション等は、本件勤務医らが居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、就業のための拠点となるところであると認めるのが相当である。
これに対して、本件勤務医らのそれぞれの自宅については、本件勤務医らが居住して日常生活の用に供している家屋等の場所には該当するものの、本件勤務医らは、その週の勤務の前日または当日に請求人が用意したマンション等または本件病院に移動し、その週の勤務を終えた後にそれぞれの自宅に帰宅していたのは上記基礎事実等(2)ホのとおりであり、就業のための拠点となるところとは認めることができない。
したがって、本件勤務医らが、請求人が用意したマンション等と本件病院との間を往復することが、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤に当たり、本件勤務医らのそれぞれの自宅と当該マンション等または本件病院との間を往復することは、同号に規定する通勤には当たらない。
ハ この点について、請求人は、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤に当たるか否かについては、労災法第7条第2項第3号の規定を踏まえて判断すべきである旨主張する。
しかしながら、労災法第7条第2項は、通勤による労働者の負傷、疾病、障害または死亡に関する保険給付を行うに当たり、その対象となる通勤の意義を明らかにした規定であって、所得税法第9条第1項第5号とはその目的および趣旨が大きく異なることから、上記イの解釈を左右するものではない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
(2)本件各納税告知処分の適法性について 上記(1)のとおり、本件勤務医らが、請求人が用意したマンション等と本件病院との間を往復することが、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤に当たり、本件勤務医らのそれぞれの自宅と当該マンション等または本件病院との間を往復することは、同号に規定する通勤には当たらない。
そして、上記基礎事実等(2)ホ(ロ)によれば、本件勤務医らは、当該マンション等から本件病院に通勤するため自動車を使用することを常例とする者に当たるところ、当該マンション等と本件病院の距離は別表1(略)の「マンション等」欄記載のとおりであるから、所得税法施行令第20条の2第2号に基づき、本件各通勤手当のうち××××に支給されたものの一部に当たる毎月4,200円(平成26年3月分以前については4,100円)のみが非課税所得となる。
また、本件各通勤手当に係る非課税所得の範囲を除き、源泉所得税等の計算の基礎となる金額および計算方法につき、請求人は争わない。
そこで、以上に基づき、当審判所で請求人が追加で納付すべき源泉所得税等の金額を計算すると、別表4(略)の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成22年3月から平成25年12月まで(平成22年9月を除く。)の各月分は、いずれも本件各納税告知処分と同額となり、また、平成26年1月から同年6月までの各月分は、いずれも本件各納税告知処分の額を上回る。
したがって、本件各納税告知処分はいずれも適法である。
(3)本件各賦課決定処分の適法性について 上記(2)のとおり、本件各納税告知処分はいずれも適法であり、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項所定の要件を充足するところ、本件各納税告知処分に係る源泉所得税等を法定納期限までに納付しなかったことについて、同項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、本件期間の不納付加算税の額については、計算の基礎となる税額および計算方法につき請求人は争わず、当審判所においても、不納付加算税の額は、本件各賦課決定処分における不納付加算税の額と同額であると認められる。
したがって、同項の規定に基づいて行われた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
(4)結論 以上によれば、審査請求には理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり裁決する。
非課税所得となる通勤の範囲が争われた裁決事例
「通勤」は就業のための拠点との往復
○請求人(医療法人)が勤務医らに支給した通勤手当をめぐり、勤務医らが自宅と請求人が用意した病院近辺のマンション等または病院との間を往復することが非課税所得となる「通勤」(所法9①五)に該当するか否かが争われた事例(平成28年4月5日・関裁(諸)平27第49号)。審判所は、「通勤」は給与所得者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、就業のための拠点となるところと就業場所との間の往復をいうと解釈。本件については、病院近辺のマンション等が就業のための拠点となることから、マンション等と病院との間を往復することが「通勤」に該当すると判断。勤務医らの自宅とマンション等または病院の往復は「通勤」に該当しないと判断した。
基礎事実等
(1)事案の概要 本件は、医療法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、その開設する病院から自宅が遠方にある常勤医師に支払った通勤手当について、非課税所得であるとして課税の対象にしていなかったところ、原処分庁が、当該医師の就業のための拠点となる住居と病院との往復が通勤に当たるとして、源泉徴収に係る所得税等の各納税告知処分および不納付加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該医師の自宅と病院の往復が通勤に当たるとして、当該各処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)基礎事実 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、×××に所在する×××(以下「本件病院」という。)を開設する医療法人である。
ロ 別表1(略)の「医師の氏名」欄記載の5名の医師(以下「本件勤務医ら」という。)は、同表の「勤務形態」欄記載のとおり、本件病院において常勤の医師として平成22年3月から平成26年6月まで(以下「本件期間」という。)勤務していた。
ハ 本件勤務医らの自宅の所在地は、別表1(略)の「自宅所在地」欄記載のとおりである。
ニ 請求人は、本件勤務医らの自宅が本件病院から遠方にあったことなどから、本件勤務医らに対し、それぞれ本件病院の近辺に別表1(略)の「マンション等」欄記載のマンション等を用意した。
ホ 本件勤務医らは、毎週、それぞれの自宅から上記ニのマンション等または本件病院に行き、3日ないし5日間、連続して勤務した後、それぞれの自宅に帰宅していた。
なお、本件病院に勤務するための移動方法等は次のとおりである。
(イ)本件勤務医らは、週の最初の勤務の前日または当日、それぞれの自宅から、新幹線等の公共交通機関を利用して×××まで移動し、同駅から請求人の従業員が運転する自動車で上記ニのマンション等または本件病院まで送迎を受ける。
(ロ)本件勤務医らは、その週の勤務を終えるまで、上記ニのマンション等で過ごし、それぞれ自動車で本件病院との間を往復して勤務する。
(ハ)本件勤務医らは、その週の勤務が終了した後、本件病院から往路とは反対の経路を通ってそれぞれの自宅へと帰宅する。
へ 請求人は、毎月、本件勤務医らに対し、通勤に必要な費用に充てるものとして、通常の給与に加算して通勤手当を支給しており、本件期間における本件勤務医らの通勤手当(以下「本件各通勤手当」という。)の額は、別表2(略)記載のとおりであった。
ト 請求人は、平成22年3月から平成24年12月までの各月分の給与所得の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)については、所得税法第189条《主たる給与等に係る徴収税額の特例》の規定に基づき、また、平成25年1月から平成26年6月までの各月分の源泉所得税および復興特別所得税(以下「源泉所得税等」という。)については、東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(以下「復興財確法」という。)第29条《居住者の給与等に係る源泉徴収税額および源泉徴収特別税額の特例》の規定に基づき、それぞれ計算している。
(3)審査請求に至る経緯 イ 原処分庁は、平成27年3月30日付で別表3(略)の「納税告知処分等」の「納税告知処分」欄および「賦課決定処分」欄の各記載のとおり、源泉所得税等の各納税告知処分および不納付加算税の各賦課決定処分をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成27年5月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成27年8月7日付で別表3(略)の「異議決定」欄記載のとおり、上記イの各処分について、棄却および全部または一部を取り消す異議決定をした(以下、平成22年3月から平成22年8月までおよび平成22年10月から平成24年12月までの各月分の源泉所得税の各納税告知処分並びに平成25年1月から平成26年6月までの各月分の源泉所得税等の各納税告知処分(いずれも上記異議決定によりその一部が取り消された後のもの)を併せて「本件各納税告知処分」という)。
また、平成23年1月、平成23年5月、平成23年8月および平成25年1月から平成26年6月までの各月分の源泉所得税等に係る不納付加算税の各賦課決定処分(平成25年1月、平成25年4月、平成25年6月、平成25年8月および平成25年11月から平成26年6月までの各月分の源泉所得税等に係る不納付加算税の各賦課決定処分については、いずれも上記異議決定によりその一部が取り消された後のもの)を併せて「本件各賦課決定処分」という。)。
なお、異議決定書の謄本は、平成27年8月18日に請求人に送達された。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の本件各納税告知処分および本件各賦課決定処分に不服があるとして、平成27年9月16日に審査請求をした。
(4)関係法令の要旨 イ 所得税法第9条《非課税所得》第1項第5号は、給与所得を有する者で通勤するもの(以下「通勤者」という。)がその通勤に必要な交通機関の利用または交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして通常の給与に加算して受ける通勤手当(これに類するものを含む。)のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるものについては、所得税を課さない旨規定している。
ロ 所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において同法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
ハ 所得税法施行令第20条の2《非課税とされる通勤手当》は、所得税法第9条第1項第5号に規定する政令で定めるものは、次の各号に掲げる通勤手当(これに類するものを含む。)の区分に応じ当該各号に定める金額に相当する部分とする旨規定し、その第1号は、通勤のため交通機関または有料の道路を利用し、かつ、その運賃または料金を負担することを常例とする者(第4号に規定する者を除く。)が受ける通勤手当については、その者の通勤に係る運賃、時間、距離等の事情に照らし最も経済的かつ合理的と認められる通常の通勤の経路および方法による運賃等の額(一月当たりの金額が10万円を超えるときは、一月当たり10万円)とする旨、第2号は、通勤のため自動車その他交通用具を使用することを常例とする者(その通勤の距離が片道2キロメートル未満である者および第4号に規定する者を除く。)が受ける通勤手当については、その通勤の距離が片道10キロメートル未満である場合には一月当たり4,200円(平成26年3月分以前については4,100円(平成26年10月政令第338号による改正前の同規定))などとする旨規定している。
ニ 復興財確法第28条《源泉徴収義務等》第1項は、所得税法第4編《源泉徴収》第1章から第6章までの規定(第181条から第219条まで)により所得税を徴収して納付すべき者は、その徴収(平成25年1月1日から平成49年12月31日までの間に行うべきものに限る。)の際、復興特別所得税を併せて徴収し、当該所得税の法定納期限までに、当該復興特別所得税を当該所得税に併せて国に納付しなければならない旨規定している。
争点および主張 本件勤務医らが自宅と請求人が用意したマンション等または本件病院との間を往復することが、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤に当たるか否か。当事者の主張は、表のとおり。
【表】当事者の主張 |
原処分庁 | 請 求 人 |
イ 通勤とは、住居から通って行って勤務することなどと語釈されており(広辞苑)、また、労働者災害補償保険法(以下「労災法」という。)第7条《保険給付の範囲》第2項第1号では、労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間の往復を合理的な経路および方法により行うことが通勤である旨規定されているところ、これらでいう住居とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等で、就業のための拠点となり得る場所をいうものと解される。そして、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤についても、同法にその定義に関する規定はないことから、上記に照らし、住居と勤務先の間の往復をいうものと解すべきである。 ロ これを本件についてみると、本件勤務医らは、本件病院で連続して勤務する間、請求人が用意したマンション等において日常生活を送り、本件病院との間を往復していたことに加え、本件病院までの距離、所要時間、交通手段および経費等を併せ鑑みれば、社会通念上、当該マンション等が、本件勤務医らが居住して日常生活の用に供している家屋等で、就業のための拠点となり得る場所に当たるものと認められる。したがって、本件勤務医らが上記マンション等と本件病院との間を往復することが通勤に当たり、それぞれの自宅と上記マンション等または本件病院との間を往復することは通勤に当たらない。 | イ 労災法第7条第2項第3号において、住居と就業の場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動は通勤に含まれる旨規定されており、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤に当たるか否かについても、以上のことを踏まえて判断すべきである。 ロ 本件勤務医らは、交通費が多額になることや長時間移動による負担が生じるために、請求人が用意したマンション等に宿泊しているが、本件病院で連続して勤務する前後において、それぞれが家族と暮らすなど生活の本拠としている自宅と当該マンション等または本件病院との間を移動しているのであるから、本件勤務医らが自宅と当該マンション等または本件病院との間を往復することは、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤に当たるというべきである。 |
審判所の判断
(1)争点(本件勤務医らが自宅と請求人が用意したマンション等または本件病院との間を往復することが、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤に当たるか否か。)について イ 所得税法第9条第1項第5号は、通勤手当のうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるものについて、所得税を課さない旨規定している。これは、給与所得者に対して支給される通勤手当は、通勤に要する費用に充てられる実費弁償的なものであるために、一般の通勤者について通常必要と認められる範囲内のものは課税しないこととしたものである。
上記の趣旨に照らせば、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤とは、給与所得者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、就業のための拠点となるところと就業場所との間の往復をいうものと解するのが相当である。
ロ 上記基礎事実等(2)ホによれば、本件勤務医らは、本件病院に連続して勤務する3日ないし5日間、本件病院の近辺にある請求人が用意したマンション等で生活し、当該マンション等と本件病院との間を往復して勤務していたことが認められる。そうすると、当該マンション等は、本件勤務医らが居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、就業のための拠点となるところであると認めるのが相当である。
これに対して、本件勤務医らのそれぞれの自宅については、本件勤務医らが居住して日常生活の用に供している家屋等の場所には該当するものの、本件勤務医らは、その週の勤務の前日または当日に請求人が用意したマンション等または本件病院に移動し、その週の勤務を終えた後にそれぞれの自宅に帰宅していたのは上記基礎事実等(2)ホのとおりであり、就業のための拠点となるところとは認めることができない。
したがって、本件勤務医らが、請求人が用意したマンション等と本件病院との間を往復することが、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤に当たり、本件勤務医らのそれぞれの自宅と当該マンション等または本件病院との間を往復することは、同号に規定する通勤には当たらない。
ハ この点について、請求人は、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤に当たるか否かについては、労災法第7条第2項第3号の規定を踏まえて判断すべきである旨主張する。
しかしながら、労災法第7条第2項は、通勤による労働者の負傷、疾病、障害または死亡に関する保険給付を行うに当たり、その対象となる通勤の意義を明らかにした規定であって、所得税法第9条第1項第5号とはその目的および趣旨が大きく異なることから、上記イの解釈を左右するものではない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
(2)本件各納税告知処分の適法性について 上記(1)のとおり、本件勤務医らが、請求人が用意したマンション等と本件病院との間を往復することが、所得税法第9条第1項第5号に規定する通勤に当たり、本件勤務医らのそれぞれの自宅と当該マンション等または本件病院との間を往復することは、同号に規定する通勤には当たらない。
そして、上記基礎事実等(2)ホ(ロ)によれば、本件勤務医らは、当該マンション等から本件病院に通勤するため自動車を使用することを常例とする者に当たるところ、当該マンション等と本件病院の距離は別表1(略)の「マンション等」欄記載のとおりであるから、所得税法施行令第20条の2第2号に基づき、本件各通勤手当のうち××××に支給されたものの一部に当たる毎月4,200円(平成26年3月分以前については4,100円)のみが非課税所得となる。
また、本件各通勤手当に係る非課税所得の範囲を除き、源泉所得税等の計算の基礎となる金額および計算方法につき、請求人は争わない。
そこで、以上に基づき、当審判所で請求人が追加で納付すべき源泉所得税等の金額を計算すると、別表4(略)の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成22年3月から平成25年12月まで(平成22年9月を除く。)の各月分は、いずれも本件各納税告知処分と同額となり、また、平成26年1月から同年6月までの各月分は、いずれも本件各納税告知処分の額を上回る。
したがって、本件各納税告知処分はいずれも適法である。
(3)本件各賦課決定処分の適法性について 上記(2)のとおり、本件各納税告知処分はいずれも適法であり、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項所定の要件を充足するところ、本件各納税告知処分に係る源泉所得税等を法定納期限までに納付しなかったことについて、同項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、本件期間の不納付加算税の額については、計算の基礎となる税額および計算方法につき請求人は争わず、当審判所においても、不納付加算税の額は、本件各賦課決定処分における不納付加算税の額と同額であると認められる。
したがって、同項の規定に基づいて行われた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
(4)結論 以上によれば、審査請求には理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり裁決する。
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