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解説記事2017年08月21日 【論考】 問われる相談役・顧問の役割(2017年8月21日号・№703)

論考
問われる相談役・顧問の役割
 神奈川大学法学部教授 葭田英人

Ⅰ はじめに

 相談役・顧問制度は会社法に規定はなく、役割、権限、責任などが不明確で、多くの企業は、相談役・顧問の氏名、人数、報酬なども外部に公開していない日本企業特有の制度である。
 「相談役」と「顧問」は同列に並べられることが多いが、企業において、代表権を有する役職に就いていた者が相談役に、それ以外の者は顧問にそれぞれ就任することが多い。そもそも相談役・顧問の設置は任意であり、定款に規定する必要もない。また、相談役・顧問の報酬等についても特に直接的に定めた規定はない。
 しかし、東芝の歴代社長による不正会計指示が発覚し、社長経験者が相談役となって退任後も「院政」を続け、経営に影響力を行使していたことの批判がきっかけとなって、ガバナンス改革の新たな課題として浮上した。3月期決算企業の株主総会においても、相談役・顧問制度はガバナンス改革の動きに逆行しているとの提案理由から廃止を求める株主提案が相次いで出された。なかでも、武田薬品工業では、会長が退任後に相談役に就任することについて、社長が株主に理解を求める手紙を送付するという異例の事態となった。
 また、政財界からも相談役・顧問制度を見直すべきではないかとの声が出ている。さらに、機関投資家に対する議決権行使助言会社であるアメリカのインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、相談役・顧問制度を新規導入する会社の定款変更議案に反対するように推奨した。
 日本固有の相談役・顧問制度の弊害が、海外の投資家からも注目を集めるようになったことから、経済産業省と東京証券取引所は、相談役・顧問制度の透明性を高めるため、相談役・顧問の役割や業務内容、報酬の有無などを開示する制度を創設し、来年度からの実施を目指す方針である。
 そこで、本稿において、さまざまな弊害が見られる相談役・顧問の存在意義と近時の状況を踏まえ、相談役・顧問制度の問題点を明らかにする。さらに、相談役・顧問制度の弊害防止策を検討し、相談役・顧問の役割を考える。

Ⅱ 相談役・顧問の存在意義
 経済産業省が、上場企業874社を対象に2016年度に実施した「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査(2016年6月末時点)」によると、次のような回答があった。相談役・顧問制度の慣行を有する企業は約78%存在し、役員が相談役・顧問として現に在任している企業が62%、現に相談役・顧問が在任中である企業のうち、社長・CEO経験者が相談役・顧問に就任している企業は58%であった。
 相談役・顧問が果たしている役割として、役員経験者の立場から現経営者への指示・指導を挙げた企業が約36%で最も多く、業界団体や財界での活動など事業に関連する活動を挙げた企業は約35%、顧客との取引関係の維持・拡大を挙げた企業は約27%、経営戦略・経営計画についての助言を挙げた企業は約27%、社会活動や審議会委員などの公益的な活動を挙げた企業は約20%、人事案件についての助言を挙げた企業は約10%存在した。また、相談役・顧問の役割を把握していない企業が約10%、役割が特にないと回答した企業が約7%存在した。
 さらに、相談役・顧問の任期は、有期の場合1年とする企業が34%、2年とする企業が10%であったが、任期の定めのない企業は28%存在した。なお、相談役・顧問に報酬を支給していると回答した企業は約80%存在し、相談役・顧問の報酬水準について、退任時の報酬を基準に計算している企業が最も多く27%であった。 取締役や監査役の選任とは異なり、任意の諮問機関である相談役・顧問の選任は株主総会での承認を得る必要がないため、経営陣の判断で行うことができることから、取締役や監査役とは異なった経験、能力、見識などを経営に生かせることができるというメリットがある。
 豊富な経験や人脈を有する相談役・顧問から経営陣が助言や示唆を得ることは、企業経営上役立つことが多いと思われる。また、対外的な業界団体や財界での活動、顧客との取引関係の維持・拡大、社会活動や審議会委員などの公益的な活動に関して、相談役・顧問が役割を果たすことにより、経営陣の負担を軽減できる。さらに、過去の経緯等を後任へ引き継ぐ場合など企業価値の向上に貢献するものと考える。

Ⅲ 相談役・顧問制度の問題点
 取締役や監査役は、善管注意義務、忠実義務、会社に対する責任、第三者に対する責任を負っている。これに対して、相談役・顧問の責任に関して、会社の定款や会社法に何ら規定されていない。また、取締役や監査役の選任は、株主総会での承認手続を経ており、株主代表訴訟の対象となる。これに対して、任意の諮問機関である相談役・顧問の選任は株主総会での承認を得る必要がなく、情報開示や株主代表訴訟の対象となることもない。
 相談役・顧問の職務は、経営陣に助言や示唆を行う諮問機関であることから、企業の経営や意思決定にある程度関与するものと思われる。社長・CEO経験者が相談役・顧問に就任した場合、会社経営についての責任を持たない相談役・顧問による社長・CEOの選解任や現役の経営陣への不当な影響力の行使という弊害が生じるおそれがある。また、相談役・顧問が過去に推進してきた事業を見直し、現経営陣が思い切った意思決定を決断・実行することを難しくする可能性がある。
 相談役・顧問の役割・処遇は、各社によってさまざまであるので、外部から認識できない不透明さがある。社内においても、その存在や役割、処遇を認識していないことがある。さらに、相談役・顧問の報酬は、株主総会決議を経て支給されるものではなく、役員報酬としての開示規制の対象にもなっていないことから、他の報酬と比較しても透明性は低い。
 また、前述の「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査(2016年6月末時点)」において、相談役・顧問が果たしている役割として、役員経験者の立場から現経営者への指示・指導を挙げた企業が約36%で最も多かったことは注目すべき点である。
 このように、相談役・顧問が現経営者への指示・指導を通じて会社の経営に一定の影響力を行使することは、有益な場合もあるものと思われる。しかし、会社経営について何ら責任を負わない相談役・顧問が、社長やCEOらの経営陣に対して不当な影響力を行使することは、会社内において適切にリーダーシップを発揮し、過去のしがらみにとらわれることなく迅速果断な意思決定や事業ポートフォリオの見直しなどを行い、企業価値を向上させる上で最も重要な役割を果たすためのリーダーシップの発揮を阻害するものである(注1)。

Ⅳ 相談役・顧問制度の弊害防止策
 相談役・顧問制度については、多くの企業において、慣行に従い運用されてきたものと思われる。相談役・顧問による経営陣への不当な影響力の行使という弊害が生じないよう、その制度の廃止も含め適切に見直す必要がある。相談役・顧問制度の弊害防止策として、次の4つが考えられる。
(1)相談役・顧問の設置または存続の場合の開示  財界活動や業界活動のために相談役・顧問を置く必要性がある企業も存在するであろう。一律に相談役・顧問制度を禁止したり廃止したりする必要はない。社長・CEO経験者を相談役・顧問として会社に置く場合には、自主的に、社長・CEO経験者で相談役・顧問に就任している者の人数、役割、処遇等について外部に情報発信することは意義がある。適切な役割、処遇等を社内で設定し、客観性を確保した上で、外部に情報提供することで、コーポレートガバナンスに関する社内体制の適正性について、株主や投資家などの理解を得ることができる(注2)。
 このように相談役・顧問制度を置きたい企業は、その役割、職務内容、待遇などを明確化・透明化し、開示して説明することにより相談役・顧問からの不当な影響力の行使を抑制することができる。
(2)相談役・顧問の設置の禁止または廃止の場合の助言役  相談役・顧問の設置を禁止または廃止することが考えられる。取締役や監査役と異なり、経営上の義務や責任を負うことがなく、会社法上の役員でもない相談役・顧問が、会社で影響力をもち経営を左右することは、責任が不明確となり、適切であるということはできない。通常、経営者の諮問に応じ意見を述べることは、広い視野や見識を備えた社外取締役に助言役の機能を期待することができる。
(3)取締役相談役の設置  相談役や顧問の責任の明確化の観点から、取締役相談役とする方法もある。相談役が株主総会の承認が必要な取締役を兼ねることにより経営上の義務や責任が明確化され、株主代表訴訟の対象になることから、株主は必要な際には責任を問うことができる。
(4)他の企業の社外取締役などへの就任  役員経験者が相談役や顧問として残らず、他の企業の社外取締役などに就任する動きが広がっている。経営の監督機能強化のために社外取締役の重要性が強まっている。コーポレートガバナンス改革が進み、上場企業の90%超が社外取締役を置くようになったためである。しかし、役員退任後すぐに競合企業に移ることを防ぐために、役員経験者が相談役や顧問として残るケースも目立つ。
 相談役・顧問制度の日本型経営の象徴的な側面として、役員経験者が相談役や顧問として報酬を得ることを前提に、現役時代の役員報酬を低く設定され、報酬の後払いとなっている会社がみられる。このような会社においては、役員経験者が社外取締役として活躍するためには、役員報酬をインセンティブ報酬の導入により引き上げることにより、役員報酬の適正化を図る必要がある。
 コーポレートガバナンス・コード補充原則4-2①において、「経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである」とされている。
 日本企業の役員報酬は、欧米の企業に比べ業績連動報酬の割合が低いといわれているが、日本企業の役員報酬の構成要素とその割合を明示することにより、外部の投資家から見ても理解しやすくする必要がある。さらに、どのような機関が、どのような基準で決定するか、決定のプロセスの透明化が求められている。このように役員報酬を業績に連動することで、役員報酬の水準を高め、適正化を図る動きが出てきた。
 本来であれば、役員経験者は、格好の社外取締役候補者であり、社外取締役の人材市場の拡充が課題となっている状況も踏まえ、コーポレートガバナンス改革の観点から、会社における相談役・顧問制度の検討の結果、相談役・顧問として会社に残らないこととなった役員経験者については、役員経験者の流動性を高め、社外取締役として機能させるために、積極的に他社の社外取締役に就任して、その長年の経験で培った経営の知見を活用することが、社会への貢献という観点から期待される(注3)。

Ⅴ むすび
 今年の株主総会において、相談役・顧問制度の廃止や取締役相談役の設置を承認する企業が出始めている。しかし、相談役や顧問の役割は各企業によってさまざまであり、一律に規定することはできない。日本固有の相談役・顧問制度は、海外の投資家などが懸念していることから廃止の流れが強まっているが、この制度を置きたい企業は、自主的に、目的やねらい、その仕組みや処遇などを開示し、明確に説明することにより、株主や投資家などのステークホルダーの理解を得ることが必要である。
 また、相談役・顧問の会社における役割や職務内容を明確化し、その選任や報酬などの処遇の適正化を社外者の関与を得ながら、その決定のプロセスの透明化を図り、定期的に見直し、相談役・顧問制度に関する運用状況などについての情報の発信を企業が積極的に行うことが肝要である。
(注1)安永崇仲・北村謙太郎・岩脇 潤「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)の解説〔下〕」旬刊商事法務2133号(2017・5・5)78頁。
(注2)経済産業省コーポレート・ガバナンス・システム研究会報告書「実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引(CGSレポート)」(2017年3月10日)39頁。
(注3)経済産業省、前掲注(2)、40頁。

葭田英人 よしだ ひでと
筑波大学大学院修了。専門分野は、会社法・税法・信託法。近著は、『基本がわかる会社法』(三省堂・2017)、『信託の法制度と税制』(税務経理協会・2017)、『合同会社の法制度と税制(第二版)』編著(税務経理協会・2015)など。

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