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解説記事2017年09月18日 【未公開裁決事例紹介】 居住用財産の譲渡特例、構造等の客観的状況で判断(2017年9月18日号・№707)

未公開裁決事例紹介
居住用財産の譲渡特例、構造等の客観的状況で判断
家族の使用状況等の主観的事情は二次的要素

○居住用財産の譲渡所得の特別控除の適用の可否が争われた裁決で、国税不服審判所は、二以上の家屋が併せて一構えの一の家屋であると認められるか否かについては、それぞれの家屋の規模、構造、間取り、設備、各家屋間の距離等の客観的状況によって判断すべきであり、個人及びその家族の使用状況等の主観的事情は二次的に参酌すべき要素にすぎないと指摘。本件各家屋は併せて一構えの一の家屋と認めることができないことから、特例の適用対象となるのは、請求人が主として居住の用に供していた家屋及び土地の譲渡に限られると判断した(平成28年11月17日、棄却)。

基礎事実等
(1)事案の概要
 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、2棟の家屋及びその敷地の用に供している土地を譲渡し、当該譲渡に係る譲渡所得の金額について、租税特別措置法(平成26年法律第10号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第35条(居住用財産の譲渡所得の特別控除)第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)を適用して所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該2棟の家屋は一構えの一の家屋ではないことから、これらの家屋のうち1棟の家屋及びその敷地の用に供されている土地は当該特例を適用することができないなどとして所得税等の更正処分を行ったのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)基礎事実  以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、平成8年6月11日付で、別表1(略)に記載の×××××の土地(以下「本件甲土地」という。)及び別表2(略)に記載の本件甲土地上に所在する家屋番号×××の家屋(以下「本件甲家屋」といい、本件甲土地と併せて「本件甲不動産」という。)を、総額×××で買い入れる旨の不動産売買契約を締結し、本件甲不動産を取得した。
ロ 請求人は、平成17年11月12日付で、別表3(略)に記載の×××××の土地(以下「本件乙土地」という。)及び別表4(略)に記載の本件乙土地上に所在する家屋番号×××の家屋(以下「本件乙家屋」といい、本件乙土地と併せて「本件乙不動産」という。また、本件甲不動産と本件乙不動産を併せて「本件各不動産」という。)を、総額×××で買い入れる旨の不動産売買契約を締結し、本件乙不動産を取得した。
ハ 本件甲家屋及び本件乙家屋(以下「本件各家屋」という。)には、いずれも複数の居室並びに台所、トイレ、風呂及び玄関があり、それぞれ電気、ガス及び水道の設備を有し、電気及び水道の各メーターを個別に設置していた。
ニ 本件各家屋は接合されておらず、1メートル程度離れていた。
ホ 請求人は、本件各不動産の譲渡に際し、平成25年2月20日付で、本件甲土地及び本件乙土地(以下「本件各土地」という。)を、総額×××で譲渡する旨の不動産売買契約を締結し、同年4月11日、買主に引き渡した。
  なお、当該売買契約に係る契約書には、特記事項として「当該土地上には2棟の建物が存立するが、売主は建物の所有権移転登記に代えて滅失登記に協力するものとする。」旨の記載があり、本件各家屋の登記記録は、いずれも平成25年6月4日取壊しを原因として、平成26年2月6日に閉鎖されている。
へ 請求人は、平成8年6月18日から平成25年4月8日までの間、本件甲家屋の所在地を住民票の住所とし、請求人の配偶者、子及び配偶者の母と共に本件甲家屋に居住していた。
  なお、本件乙家屋を取得した後は、本件甲家屋に同居していた当該配偶者の母が、本件乙家屋に移り居住していた。
(3)審査請求に至る経緯 イ 請求人は、平成25年分の所得税等について、確定申告書に別表5(略)の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成27年11月13日付で、別表5(略)の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、上記ロの各処分を不服として、平成28年1月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月24日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分に不服があるとして、平成28年4月20日に審査請求をした。
(4)関係法令等(略)

争点及び主張
 本件各不動産は、全てが本件特例を適用することができる居住用財産に該当するか否か。
 当事者の主張はのとおり。

【表】当事者の主張(本件各不動産は、全てが本件特例を適用することができる居住用財産に該当するか否か)
原処分庁 請 求 人
(1)二以上の家屋が併せて一構えの一の家屋であると認められるためには、家屋の規模、構造、設備等の状況から判断していずれか又はそれぞれが独立の居住用家屋としては機能できないものでなければならないと解されるところ、本件各家屋は、それぞれが独立の居住用家屋であると認められることから、本件各家屋は併せて一構えの一の家屋とはならない。
  そして、請求人が主として居住の用に供していたと認められる家屋は、本件甲家屋であるから、本件特例の適用の対象となる譲渡は、本件甲不動産の譲渡に係る部分に限られる。
(2)請求人の主張する本件乙家屋が再利用のできない廃屋であったという事情は、請求人の主観的な事情にすぎず、本件乙家屋は、請求人が譲渡するまで本件乙土地に存していたことから、本件乙土地が本件甲家屋の敷地の用に供されている土地にはなり得ない。
(1)請求人は、本件甲家屋に請求人が、また、本件乙家屋に請求人の配偶者の母が居住していたのであるから、本件各家屋は一体として利用される1棟の家屋であると認識していた。
  このことからすると、本件各家屋は、併せて一構えの一の家屋であるから、本件各不動産の譲渡の全てが本件特例の適用の対象となる。





(2)仮に本件各家屋が併せて一構えの一の家屋であるとは認められないとしても、本件乙家屋は、平成23年3月に屋根からの雨漏りのため使用不能となり、以後、再利用のできない廃屋となったのであるから、本件各土地全体が、請求人の居住用家屋である本件甲家屋の敷地の用に供されている土地となる。

審判所の判断
(1)法令解釈
イ 本件特例は、個人が居住用財産を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財産を取得するのが通常であるなど、一般の資産の譲渡に比して特殊な事情があり、その担税力が弱いことから、居住用財産の譲渡所得につき3,000万円を限度とする特別控除を認め、所得税の負担を軽減して新たな居住用財産の取得を容易にすることを考慮して設けられた特則、例外規定である。
  また、本件特例の適用対象となる家屋については、租税特別措置法施行令(平成28年政令第159号による改正前のものをいい、以下「措置法施行令」という。)第23条第1項において準用する措置法施行令第20条の3第2項の規定により、個人がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとされている。これは、租税負担公平の原則から、本件特例の適用を政令で定めるものの譲渡に限定し、本件特例の濫用による不公平の拡大を防止しようとするもので、特則、例外規定である同条項の解釈に当たっては、狭義性、厳格性が要請されているものと解される。
  このような本件特例及び措置法施行令第20条の3第2項の規定の趣旨に鑑みれば、同条項の適用において、二以上の家屋が併せて一構えの一の家屋であると認められるか否かについては、まず、それぞれの家屋の規模、構造、間取り、設備、各家屋間の距離等の客観的状況によって判断すべきであり、個人及びその家族の使用状況等の主観的事情は二次的に参酌すべき要素にすぎないものと解するのが相当である。したがって、二以上の家屋が併せて一構えの一の家屋であると認められるためには、単にこれらの家屋がその者及び社会通念に照らしその者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の者によって機能的に一体として居住の用に供されているのみでは不十分であり、家屋の規模、構造、設備等の客観的状況から判断していずれか又はそれぞれが独立の居住用家屋としては機能できないものでなければならない。そうすると、二以上の家屋がそれぞれ独立の家屋としての機能を有する場合には、これらの家屋が併せて一構えの一の家屋であるとは認められず、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限り、本件特例の適用対象となるというべきである。
ロ 「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」(昭和46年8月26日付直資4-5ほか国税庁長官通達。平成28年7月29日付課資3-4による改正前のものをいい、以下「措置法通達」という。)35-5において準用する措置法通達31の3-12は、別紙の6(略)のとおり、譲渡した土地等が措置法第31条の3第2項(準用において措置法第35条第1項)に規定する居住の用に供している家屋の「敷地」に該当するかどうかは、社会通念に従い、当該土地等が当該家屋と一体として利用されている土地等であったかどうかにより判定する旨定めているところ、この取扱いは、上記イの本件特例の趣旨に合致するものであり、当審判所においても相当であると認める。
(2)当てはめ
 イ 本件特例の適用対象となる家屋について
(イ)本件各家屋は、上記のとおり、いずれも複数の居室並びに台所、トイレ、風呂及び玄関があり、それぞれ電気、ガス及び水道の設備を有し、電気及び水道の各メーターを個別に設置していたこと、また、それぞれが接合されておらず、1メートル程度離れていたことからすると、それぞれ独立の家屋として機能を有することは明らかであり、併せて一構えの一の家屋とはならない。
(ロ)そうすると、措置法施行令第20条の3第2項の規定により、本件特例の適用対象となる家屋は、請求人が主として居住の用に供していると認められる一の家屋に限られるから、本件特例の適用対象となるのは、上記のとおり、請求人が居住していた本件甲家屋に限られる。
 ロ 本件特例の適用対象となる土地について   譲渡した土地等が居住の用に供している家屋の敷地に該当するかどうかは、上記(1)のロのとおり、社会通念に従い、当該家屋と一体として利用されている土地等であったかどうかにより判定することとなる。この点、①本件各不動産は、上記のとおり、それぞれ別に取得されたこと、②本件各家屋は、同ホのとおり、平成25年に本件各土地が買主に引き渡されるまで存していたこと、及び③本件乙不動産の取得から当該引渡しまでの間に、本件各土地の利用状況が変更されたと認めるに足る証拠もないことから、社会通念上、本件甲土地は本件甲家屋と、また、本件乙土地は本件乙家屋とそれぞれが一体として利用されていたことは明らかであり、本件特例の適用対象となるのは、本件甲家屋の敷地の用に供されていた本件甲土地に限られる。
(3)請求人の主張について イ 請求人は、本件各家屋は、一体として利用される1棟の家屋であるとの請求人の認識からすると、本件各家屋は併せて一構えの一の家屋であるから、本件各不動産の譲渡の全てが本件特例の適用の対象となる旨主張する。
  しかしながら、本件各家屋の使用状況等は、請求人の主観的事情にすぎないというべきであるところ、上記(1)のイのとおり、請求人の主観的事情は二次的に参酌すべき要素にすぎず、請求人が本件各家屋を機能的に一体として利用していたことのみをもって、本件各家屋が併せて一構えの一の家屋と認めることはできないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、本件各家屋が併せて一構えの一の家屋であるとは認められないとしても、本件乙家屋は、屋根からの雨漏りのため使用不能となり、以後、再利用のできない廃屋となったことからすると、本件各土地全体が居住用家屋である本件甲家屋の敷地の用に供されている土地となる旨主張する。
  しかしながら、上記(2)のロのとおり、社会通念上、本件乙土地は本件乙家屋と一体として利用されている土地であって、本件甲家屋の敷地の用に供されている土地ではないところ、仮に本件乙家屋が再利用のできない廃屋であったとしても、このことが同ロの判断の妨げになるものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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