解説記事2017年10月30日 【第2特集】 Q&Aから見る譲渡所得の審理上のポイント(1)(2017年10月30日号・№713)
第2特集
共有持分の放棄で取得した資産の取得費は?
Q&Aから見る譲渡所得の審理上のポイント(1)
本特集では課税当局が譲渡所得の審理上の留意点として取り上げている「固定資産の交換の特例と居住用財産の3,000 万円特別控除の特例の適用関係」「共有持分の放棄により取得した資産の取得費について」「譲渡資産の一部が譲渡損失である場合の取得費加算の特例(措法39)の適用額」の3つのQ&Aを紹介する。
固定資産の交換の特例と居住用財産の3,000万円特別控除の特例の適用関係
Q 甲は、平成29年1月に、戦前から借りていた土地について、地主との間でその一部の借地権(B借地権)と自己の居住用家屋であるA家屋の敷地部分に係る底地(A底地)を交換し、A土地の所有権を取得した。
なお、甲は、A土地及びA家屋について売却することを予定してA底地を交換取得したのではなく、当該土地及び家屋に引き続き居住する予定であったが、その後、平成29年4月に隣人からA土地を購入したい旨の申し入れがあったことから、翌月に転居して老朽化していたA家屋を取り壊し、同年7月、A土地に係る売買契約を締結し、当該隣人に譲渡した(取り壊した後、売買契約までの間、貸付けその他の用には供していない)。
この場合、下図のB借地権とA底地に係る地主との交換から譲渡までの期間は6か月と短期間であるが、所得税法第58条に規定する固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例(以下「交換の特例」という。)を適用することはできるか。
また、交換の特例と租税特別措置法第35条第2項に規定する居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例(以下「3,000万円控除の特例」という。)を、重複して適用することができるか。
A
甲は、交換の特例と3,000万円控除の特例を重複して適用することができます。
理由
1 所得税法第58条に係る適用の可否 (1)個人が、1年以上有していた特定の固定資産を、それぞれ他の者が1年以上有していた特定の固定資産と交換し、その交換取得資産を交換譲渡資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供した場合には、譲渡所得の課税上、その譲渡はなかったものとみなされます(所法58①)。
(2)本事例の場合は、甲が、A底地をB借地権との交換により取得した約6か月後に譲渡していることから、交換の特例の適用要件である交換取得資産を「譲渡直前の用途と同一の用途に供した場合」に該当するかどうか疑問が生じます。
これについて、A底地を同一の用途に供した期間が約6か月と短期間であるものの、甲は、A底地を交換取得した後、B借地権の譲渡直前の用途である居住の用に供していること、かつ、交換取得後に生じた事情によりA底地を譲渡したものであり、一時的・暫定的な資産の保有とは認められないことから、「同一の用途に供した場合」に該当し、交換の特例を適用することができます。
2 交換の特例と3,000万円控除の特例の重複適用について 租税特別措置法第35条第2項第1号には、「所得税法第58条の規定の適用を受けるものを除く」旨の重複適用に係る規定があり、これに関して、租税特別措置法通達35-1《固定資産の交換の特例等との関係》において、同一の譲渡について交換の特例と3,000万円控除の特例の重複適用を認めないとしています。
そのため、上記1のとおり、甲は、乙土地のうちB借地権について、交換の特例を受けることができる場合に、さらに乙土地のうちA土地について3,000万円控除の特例を受けるとき、当該各特例を重複適用することができないのではないかとの疑問が生じます。
しかしながら、本事例において、交換の特例の対象となる譲渡は、交換譲渡資産であるB借地権の交換となりますが、3,000万円控除の特例の対象となる譲渡は、交換取得資産であるA底地とその上のA借地権の譲渡であることから、当該各特例の対象となる資産がそれぞれ異なるため、重複適用の問題は生じません。
共有持分の放棄により取得した資産の取得費について
Q 平成元年、甲及び甲の母は、A土地の持分2分の1を各々60,000,000円で取得した。
平成27年に甲の母は、A土地の持分2分の1(以下「本件放棄持分」という。)を放棄(民法第255条《持分の放棄及び共有者の死亡》)し、甲は、当該持分を無償で取得した後、平成29年に、第三者に対し、A土地を90,000,000円で譲渡した。
この場合、甲は、本件放棄持分に対応する譲渡所得の計算において、次の①又は②によることが認められるか。
① 所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項の規定により、取得価額を60,000,000円、取得時期を平成元年とすること。
② 本件放棄持分の取得時(平成27年)の時価を、取得価額とすること。
A
いずれも認められません。
理由
1 甲の本件放棄持分に所得税法第60条第1項の適用がないことについて 次の理由により、甲の本件放棄持分の取得は、所得税法第60条第1項各号の事由に該当しないため、同項の規定の適用はありません。
(1)所得税法第60条第1項第1号の事由に該当するか
他の共有者の放棄により持分を取得した者は、当該持分を贈与により取得したものとみなされる(相法9、相基通9-12)ところ、所得税法第60条第1項第1号に規定する「贈与」には、相続税法の規定により個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含むとする規定がないため、当該「みなされるもの」を含まないものと解することが相当です(所法9①十六は明文の規定あり。)。
よって、共有持分の放棄は、所得税法第60条第1項第1号の事由に該当しません。
(2)所得税法第60条第1項第2号の事由に該当するか
共有持分の放棄は、無償による資産の移転ですから、所得税法第60条第1項第2号の事由である、著しく低い価額の対価による譲渡(同法第59①二、同条②)に該当しません。
2 甲の本件放棄持分の取得時の時価を取得価額とすることができないことについて 譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、その資産の取得に要した金額等による(所法38①)ところ、甲は、母から無償で本件放棄持分を取得したのであって、当該取得時の経済的負担などを考慮すべき事情はありません(財産分与や代物弁済による取得のような事情はない。)。
よって、当該取得に係る金額は、零円というほかありません。
譲渡資産の一部が譲渡損失である場合の取得費加算の特例(措法39)の適用額
Q 甲は、平成28年1月に亡父から共同住宅(以下「本件建物」という。)とその敷地(以下「本件土地」という。)を相続し、当該相続に係る相続税を納付した。
その後、甲は、平成29年5月に本件建物及び本件土地を譲渡したところ、当該譲渡に係る譲渡損益は次表のとおりであったことから、その譲渡所得の金額の計算において、租税特別措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)の適用を予定している。
この場合、甲の譲渡所得の計算において、本件特例の適用額はいくらになるか。
A
甲の譲渡所得における本件特例の適用額は、42,000,000円となります。
理由
1 本件特例に係る取得費加算額の有無 本件特例の適用額は、①その者の相続税額に相続税の課税価格のうちに譲渡資産の価額の占める割合を乗じた金額(譲渡資産に対応する相続税額)となりますが、②上記①の金額が本件特例を適用しないで計算した譲渡所得に係る収入金額から必要経費の額を控除した残額を超える場合には当該残額と、また、③当該残額が算出されない場合又は譲渡損失となる場合には、ないものとなります(措令25の16①)。
また、同一年中に相続財産を2以上譲渡した場合で、譲渡損失の生じる資産と譲渡益の生じる資産とがあるときにおける本件特例の適用に当たっては、譲渡をした資産ごとに計算することとされており、譲渡損失の生じた譲渡資産に対応する部分の相続税額は、他の譲渡資産の取得費には加算できないこととされています(措法39⑧、措通39-5)。
2 本件建物及び本件土地の譲渡に係る譲渡所得の計算における本件特例の適用額 (1)本件建物
本件建物の譲渡については、譲渡損失(△40,000,000円)が生じていることから、上記1③により、本件特例の適用額はないものとなります。
(2)本件土地
本件土地の譲渡については、譲渡益(323,000,000円)が生じており、本件土地に対応する相続税額42,000,000円を超えるため、上記1②により、その全額が本件特例の適用額となります。
共有持分の放棄で取得した資産の取得費は?
Q&Aから見る譲渡所得の審理上のポイント(1)
本特集では課税当局が譲渡所得の審理上の留意点として取り上げている「固定資産の交換の特例と居住用財産の3,000 万円特別控除の特例の適用関係」「共有持分の放棄により取得した資産の取得費について」「譲渡資産の一部が譲渡損失である場合の取得費加算の特例(措法39)の適用額」の3つのQ&Aを紹介する。
固定資産の交換の特例と居住用財産の3,000万円特別控除の特例の適用関係
Q 甲は、平成29年1月に、戦前から借りていた土地について、地主との間でその一部の借地権(B借地権)と自己の居住用家屋であるA家屋の敷地部分に係る底地(A底地)を交換し、A土地の所有権を取得した。
なお、甲は、A土地及びA家屋について売却することを予定してA底地を交換取得したのではなく、当該土地及び家屋に引き続き居住する予定であったが、その後、平成29年4月に隣人からA土地を購入したい旨の申し入れがあったことから、翌月に転居して老朽化していたA家屋を取り壊し、同年7月、A土地に係る売買契約を締結し、当該隣人に譲渡した(取り壊した後、売買契約までの間、貸付けその他の用には供していない)。
この場合、下図のB借地権とA底地に係る地主との交換から譲渡までの期間は6か月と短期間であるが、所得税法第58条に規定する固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例(以下「交換の特例」という。)を適用することはできるか。
また、交換の特例と租税特別措置法第35条第2項に規定する居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例(以下「3,000万円控除の特例」という。)を、重複して適用することができるか。

A
甲は、交換の特例と3,000万円控除の特例を重複して適用することができます。
理由
1 所得税法第58条に係る適用の可否 (1)個人が、1年以上有していた特定の固定資産を、それぞれ他の者が1年以上有していた特定の固定資産と交換し、その交換取得資産を交換譲渡資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供した場合には、譲渡所得の課税上、その譲渡はなかったものとみなされます(所法58①)。
(2)本事例の場合は、甲が、A底地をB借地権との交換により取得した約6か月後に譲渡していることから、交換の特例の適用要件である交換取得資産を「譲渡直前の用途と同一の用途に供した場合」に該当するかどうか疑問が生じます。
これについて、A底地を同一の用途に供した期間が約6か月と短期間であるものの、甲は、A底地を交換取得した後、B借地権の譲渡直前の用途である居住の用に供していること、かつ、交換取得後に生じた事情によりA底地を譲渡したものであり、一時的・暫定的な資産の保有とは認められないことから、「同一の用途に供した場合」に該当し、交換の特例を適用することができます。
2 交換の特例と3,000万円控除の特例の重複適用について 租税特別措置法第35条第2項第1号には、「所得税法第58条の規定の適用を受けるものを除く」旨の重複適用に係る規定があり、これに関して、租税特別措置法通達35-1《固定資産の交換の特例等との関係》において、同一の譲渡について交換の特例と3,000万円控除の特例の重複適用を認めないとしています。
そのため、上記1のとおり、甲は、乙土地のうちB借地権について、交換の特例を受けることができる場合に、さらに乙土地のうちA土地について3,000万円控除の特例を受けるとき、当該各特例を重複適用することができないのではないかとの疑問が生じます。
しかしながら、本事例において、交換の特例の対象となる譲渡は、交換譲渡資産であるB借地権の交換となりますが、3,000万円控除の特例の対象となる譲渡は、交換取得資産であるA底地とその上のA借地権の譲渡であることから、当該各特例の対象となる資産がそれぞれ異なるため、重複適用の問題は生じません。
共有持分の放棄により取得した資産の取得費について
Q 平成元年、甲及び甲の母は、A土地の持分2分の1を各々60,000,000円で取得した。
平成27年に甲の母は、A土地の持分2分の1(以下「本件放棄持分」という。)を放棄(民法第255条《持分の放棄及び共有者の死亡》)し、甲は、当該持分を無償で取得した後、平成29年に、第三者に対し、A土地を90,000,000円で譲渡した。
この場合、甲は、本件放棄持分に対応する譲渡所得の計算において、次の①又は②によることが認められるか。
① 所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項の規定により、取得価額を60,000,000円、取得時期を平成元年とすること。
② 本件放棄持分の取得時(平成27年)の時価を、取得価額とすること。
A
いずれも認められません。
理由
1 甲の本件放棄持分に所得税法第60条第1項の適用がないことについて 次の理由により、甲の本件放棄持分の取得は、所得税法第60条第1項各号の事由に該当しないため、同項の規定の適用はありません。
(1)所得税法第60条第1項第1号の事由に該当するか
他の共有者の放棄により持分を取得した者は、当該持分を贈与により取得したものとみなされる(相法9、相基通9-12)ところ、所得税法第60条第1項第1号に規定する「贈与」には、相続税法の規定により個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含むとする規定がないため、当該「みなされるもの」を含まないものと解することが相当です(所法9①十六は明文の規定あり。)。
よって、共有持分の放棄は、所得税法第60条第1項第1号の事由に該当しません。
(2)所得税法第60条第1項第2号の事由に該当するか
共有持分の放棄は、無償による資産の移転ですから、所得税法第60条第1項第2号の事由である、著しく低い価額の対価による譲渡(同法第59①二、同条②)に該当しません。
2 甲の本件放棄持分の取得時の時価を取得価額とすることができないことについて 譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、その資産の取得に要した金額等による(所法38①)ところ、甲は、母から無償で本件放棄持分を取得したのであって、当該取得時の経済的負担などを考慮すべき事情はありません(財産分与や代物弁済による取得のような事情はない。)。
よって、当該取得に係る金額は、零円というほかありません。
【補足説明】 共有持分の放棄に際しても、共有持分移転登記によって費用が生じ得るため、取得費の額が全く零円とは限りません。そして、実際の取得費が譲渡金額の5%相当額を下回る場合も、取得費の額は、租税特別措置法第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除)第1項の規定及び租税特別措置法通達31の4-1《昭和28年以後に取得した資産についての適用》の定めによることができることから、本件においても、概算取得費(2,250,000円=90,000,000円×1/2×5%)によることができます。 |
譲渡資産の一部が譲渡損失である場合の取得費加算の特例(措法39)の適用額
Q 甲は、平成28年1月に亡父から共同住宅(以下「本件建物」という。)とその敷地(以下「本件土地」という。)を相続し、当該相続に係る相続税を納付した。
その後、甲は、平成29年5月に本件建物及び本件土地を譲渡したところ、当該譲渡に係る譲渡損益は次表のとおりであったことから、その譲渡所得の金額の計算において、租税特別措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)の適用を予定している。
この場合、甲の譲渡所得の計算において、本件特例の適用額はいくらになるか。

A
甲の譲渡所得における本件特例の適用額は、42,000,000円となります。
理由
1 本件特例に係る取得費加算額の有無 本件特例の適用額は、①その者の相続税額に相続税の課税価格のうちに譲渡資産の価額の占める割合を乗じた金額(譲渡資産に対応する相続税額)となりますが、②上記①の金額が本件特例を適用しないで計算した譲渡所得に係る収入金額から必要経費の額を控除した残額を超える場合には当該残額と、また、③当該残額が算出されない場合又は譲渡損失となる場合には、ないものとなります(措令25の16①)。
また、同一年中に相続財産を2以上譲渡した場合で、譲渡損失の生じる資産と譲渡益の生じる資産とがあるときにおける本件特例の適用に当たっては、譲渡をした資産ごとに計算することとされており、譲渡損失の生じた譲渡資産に対応する部分の相続税額は、他の譲渡資産の取得費には加算できないこととされています(措法39⑧、措通39-5)。
2 本件建物及び本件土地の譲渡に係る譲渡所得の計算における本件特例の適用額 (1)本件建物
本件建物の譲渡については、譲渡損失(△40,000,000円)が生じていることから、上記1③により、本件特例の適用額はないものとなります。
(2)本件土地
本件土地の譲渡については、譲渡益(323,000,000円)が生じており、本件土地に対応する相続税額42,000,000円を超えるため、上記1②により、その全額が本件特例の適用額となります。
【参考】
○ 本件建物及び本件土地の譲渡に係る譲渡所得の金額は241,000,000円となる。![]() |
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