解説記事2018年02月26日 【SCOPE】 馬券払戻金の課税関係めぐり、国税庁が所基通を再び改正へ(2018年2月26日号・№728)

ソフトウェア未使用でも雑所得になるケースが
馬券払戻金の課税関係めぐり、国税庁が所基通を再び改正へ

 国税庁は2月15日、競馬の馬券の払戻金の課税関係について最高裁判決(平成29年12月15日)を受けて所得税基本通達34-1を改正する方針を明らかにした。最高裁平成29年12月15日判決では、納税者による馬券購入の態様や利益発生の状況等から雑所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費に該当する旨の判断が下されていた。国税庁では既に、最高裁平成27年3月10日判決を受け、馬券の購入にソフトウェアを使用して網羅的な購入により多額の利益を上げているケースを「雑所得」とする通達改正を行っている。今回の最高裁判決を踏まえ、ソフトウェア未使用でも予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って多額の利益を上げている一定のケースも「雑所得」とする通達改正を実施する方向だ。

一般の馬券愛好家の場合は「一時所得」に該当、外れ馬券は必要経費対象外
 馬券の払戻金の課税関係は原則として「一時所得」に該当し、外れ馬券は必要経費に該当しないとされていた。
 ところが、最高裁平成27年3月10日判決では、馬券を自動的に購入するソフトウェアを使用してインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に網羅的な購入方法で馬券を購入して多額の利益をあげていた納税者について、馬券の払戻金は雑所得に該当し、外れ馬券も必要経費として控除できるという初めての判断が示された。なお、この最高裁判決の納税者は、3年間で約29億円の馬券を購入し、平成19年に約1億円、平成20年に約2,600万円、平成21年に約1,300万円の利益を計上していた。
 この最高裁判決を受けるかたちで国税庁は、最高裁判決と同様の購入行為の態様や規模等により払戻金を得ていた場合は一時所得ではなく、雑所得として取り扱う旨の通達改正(所基通34-1)を実施していた(本誌597号27頁参照)。
 最高裁平成27年3月10日判決が下された後も馬券の払戻金の課税関係が問題となる税務訴訟が相次ぐなか、最高裁平成29年12月15日判決では、納税者による馬券購入の態様や利益発生の状況等から雑所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費に該当するという判決が再び下された(本誌720号92頁参照)。この最高裁判決の納税者は、馬券の購入に当たりソフトウェアは使用していなかったものの、予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入することを目標とし、6年間で約73億円の馬券を購入、少ない年(平成17年)で約1,800万円、多い年(平成21年)では約2億円の利益を計上していた。
 国税庁は、パブリックコメントを行ったうえで、最高裁平成29年12月15日判決と同様の購入行為の態様や規模等により払戻金を得ていた場合も「雑所得」(外れ馬券も必要経費に該当)として取り扱う旨の通達改正を実施する方向だ。

 平成30年2月
 国税庁

競馬の馬券の払戻金に係る課税について

1 競馬の馬券の払戻金の課税について
 競馬の馬券の払戻金が一時所得と雑所得のいずれに該当するか、外れ馬券の購入費用が必要経費として控除できるか、が争われていた裁判において、
① 最高裁平成29年12月15日判決は、本件の競馬の馬券の払戻金については、馬券購入の態様や利益発生の状況等から雑所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費に該当する
② 東京高裁平成28年9月29日判決(最高裁平成29年12月20日上告棄却)は、本件の競馬の馬券の払戻金については、馬券購入の態様や利益発生の状況等から一時所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費に該当しない
と判断しました。
《参考》最高裁平成29年12月15日判決及び東京高裁平成28年9月29日判決の概要(編集部注・省略)

2 競馬の馬券の払戻金の所得区分等  競馬の馬券の払戻金の所得区分については、馬券購入の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して区分されます。
 具体的には、馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して定めた独自の条件設定と計算式に基づき、又は予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入し続けることにより、年間を通じての収支で多額の利益を上げ、これらの事実により、回収率が馬券の当該購入行為の期間総体として100%を超えるように馬券を選別して購入し続けてきたことが客観的に明らかな場合は、雑所得に該当すると考えます。
 なお、上記に該当しない「いわゆる一般の競馬愛好家の方」につきましては、従来どおり一時所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費として控除できませんのでご注意ください。

3 今後の対応  パブリックコメントを行った上で、所得税基本通達34-1を改正します。改正後の所得税基本通達については当ホームページ上で公表いたします。

4 所得税の還付手続  上記2の取扱いは、過去に遡って適用されますので、これにより、過去の所得税の申告の内容に異動が生じ、所得税が納めすぎになる場合には、所轄の税務署に更正の請求をすることにより、その納めすぎとなっている所得税の還付を受けることができます。
 なお、法定申告期限等から既に5年を経過している所得税については、法令上、減額できないこととされていますのでご注意ください。

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