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解説記事2018年10月01日 【未公開裁決事例紹介】 賃貸借契約解除の精算金、収益を補償した金員と判断(2018年10月1日号・№757)

未公開裁決事例紹介
賃貸借契約解除の精算金、収益を補償した金員と判断
賃料の前払金との請求人の主張を認めず

○賃貸借契約の合意解除に伴って賃借人から一括交付を受けた精算金の収益の計上時期について争われた事案。国税不服審判所は、精算金については契約の合意解除に係る覚書にその支払日が定められていることから、その支払日の属する年分の不動産所得の総収入金額として算入されるべきであると指摘。契約の解除がなければ請求人が得られたはずの収益を一括して補償した金員であるから、賃料の前払金として契約の解除後の期間に対応する金額が各年分の総収入金額に算入されるべきであるとの請求人の主張は認め難いとした。
 (平成29年10月31日、棄却)

基礎事実等
(1)事案の概要
 本件は、不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、賃貸借契約がその契約期間の途中で合意解除されたことに伴って賃借人から金員の一括交付を受けたが、所得税の確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁が、当該金員は当該契約解除に伴う賃料収入の減収分を一括補償されたものであり、不動産所得の金額の計算上、当該金員全額をその支払を受けた年分の収入に計上すべきであるなどとして決定処分等を行ったことから、請求人が、当該金員は貸借人が当該契約解除後の期間に対応する賃料の前払金として支払ったものであり、不動産所得の金額の計算上、当該金員のうち当該契約解除日の翌日からその年末までの期間に対応する額を収入に計上すべきであるとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等(略)
(3)基礎事実及び審査請求に至る経緯
 当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ ××では、中堅勤労者の住生活の安定、居住水準の向上を図るため、地方住宅供給公社法に基づき××の全額出資により設立された特別法人である××××××(以下「本件公社」という。)が、民間の土地所有者等が建設する良質な賃貸住宅を一定期間借り上げ、国と××が、その建設費や家賃に対して助成を行った上で適正な家賃負担の公共賃貸住宅として供給する××借上公共賃貸住宅制度が実施されている。
ロ 請求人の夫である××××は、本件公社に対し、平成6年7月1日付で、××借上公共賃貸住宅制度に基づく借上公共賃貸住宅として供給するため、××××××ほかに所在する家屋番号××の鉄筋コンクリート造ルーフィング葺9階建(53戸)の賃貸住宅(以下「本件賃貸住宅」という。)等を、賃貸期間を同日から平成26年6月30日までの20年間(以下「本件賃貸期間」という。)とし、月額賃料を5,252,300円とするとの約定で貸し渡した(以下、同賃貸借契約を「本件原契約」という。)。
ハ 本件公社は、平成6年7月1日以降、本件賃貸住宅の各居室部分(以下「本件各居室部分」という。)を、公募した入居者に貸貸していた。なお、本件各居室部分の契約賃料の一部は、××が家賃の減額に係る補助金として本件公社に支払うため、本件各居室部分の入居者は、契約賃料から同補助金を控除した残額(以下「入居者負担額」という。)を本件公社に支払っていた。また、上記入居者が、××新婚・子育て世帯向け家賃減額補助事業補助金(以下「新婚・子育て補助金」という。)の対象者である場合には、××が新婚・子育て補助金を本件公社に支払うため、同入居者は、入居者負担額から同補助金を控除した残額を本件公社に支払っていた。
ニ ××は、××××に死亡し、同人に係る相続により、請求人は、本件賃貸住宅の所有権の持分10分の1を、××と請求人の子である××××は、当該所有権の持分10分の9をそれぞれ取得した。
  請求人及び××(以下「請求人等」という。)は、本件公社との間で、平成15年3月18日付で、本件原契約の内容をそのまま××から承継する旨の承継契約を、その後、平成18年8月16日付で、本件原契約のうち本件賃貸住宅に係る月額賃料を同年10月1日以降4,515,600円に変更する旨の変更契約をそれぞれ締結した(以下、上記承継契約及び上記変更契約による変更後の本件原契約を「本件契約」という。)。
ホ 請求人等は、本件公社との間で、本件契約に関して、平成24年8月31日付で、要旨次のとおり、覚書(以下「本件覚書」という。)を締結した。
(イ)請求人等と本件公社は、本件賃貸住宅の供給計画に係る借上公共賃貸住宅が用途廃止されたことにより、本件契約を平成24年9月30日付で解除する(第1条第1項)。
(ロ)本件公社は、上記(イ)により、平成24年10月1日以降は賃借人としての権利・義務を免れる(第1条第2項)。
(ハ)本件公社は、平成24年10月1日以降、同年9月30日現在の本件各居室部分の入居者(入居予定者を含む。以下「本件入居者」という。)との間の権利・義務を請求人等に引き継ぐ(第4条第1項)。
(ニ)本件公社は、請求人等に対して、本件契約の解除に伴う精算金として、合計70,197,200円(以下「本件精算金」という。)を平成24年10月31日に請求人等の指定口座に振り込んで支払う(第6条)。
(ホ)請求人等と本件公社は、本件覚書に規定する事項を除き、本件契約の解除後、他に何らの債権・債務のないことを相互に確認する(第7条)。
へ 本件精算金の額(70,197,200円)は、以下の金額の合計額として算定された。
(イ)67,477,200円
  本件契約に基づく賃料(月額4,515,600円)から本件入居者の入居者負担額(月額1,302,400円)を控除した本件公社の負担額(月額3,213,200円)に、本件契約の解除日の翌日である平成24年10月1日から本件賃貸期間の末日である平成26年6月30日までの期間(以下「本件期間」という。)の月数(21か月)を乗じて算出した額
(ロ)2,720,000円
  新婚・子育て補助金の月額に、本件期間のうち同補助金に係る有資格期間を乗じて算出した額
ト 請求人等は、平成24年10月1日以降、本件入居者の居住する本件各居室部分の賃貸人としての地位を本件公社から引き継いだ。なお、賃料については、入居者負担額と同額(ただし、新婚・子育て補助金の対象者については、その有資格期間において、入居者負担額から新婚・子育て補助金を控除した残額と同額。)となった。
チ 請求人等は、平成24年10月31日、本件公社から本件精算金の支払を受けた。
リ 請求人は、平成24年分の所得税について、確定申告書を提出しなかった。
ヌ 原処分庁は、本件精算金のうち請求人の持分10分の1に相当する金員(以下「本件金員」という。)が平成24年分の不動産所得に係る総収入金額に算入されるほか、給与所得及び雑所得の申告漏れがあったなどとして、平成28年9月16日付で別表の「決定処分等」欄のとおり、平成24年分の所得税の決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ル 請求人は、本件決定処分及び本件賦課決定処分に不服があるとして、その一部の取消しを求めて、平成28年11月24日に審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。

争点および主張  請求人の平成24年分の不動産所得の金額の計算上、本件金員のうちいくらを収入金額として計上すべきか。
 当事者の主張はのとおり。

【表】当事者の主張
原 処 分 庁 請 求 人
イ 本件精算金の額が、本件期間に請求人等が得るはずであった賃料と入居者負担額との差額を基礎として算定されていることからすると、本件精算金は、本件契約の解除後に請求人等が本件入居者から直接支払を受ける賃料と、本件契約が解除されなければ請求人等が得ていたはずの賃料との差額を一括で補償したものと認められる。
  そして、本件精算金は、その支払を受けた平成24年10月31日に収入すべきことが確定しているから、本件精算金のうち請求人の持分に相当する本件金員の全額を平成24年分の収入金額として計上すべきである。
ロ 請求人の主張に対して
 本件覚書には、本件契約の解除に伴う精算金として本件精算金の額を支払う旨が記載されているだけで、本件精算金が賃料の前払金である旨の記載はなく、本件公社の担当者も請求人等に対して同旨の説明はしていない。
 また、本件契約の解除により、本件公社は貸借人としての権利・義務を免れ、請求人等が賃貸人として直接、本件入居者から賃料の支払を受けることから、本件公社が請求人等に対して賃料を支払う義務はない。
 よって、本件精算金が賃料の前払金となることはない。
 請求人等は、本件公社から、本件期間の賃料を前払するので本件契約の解除に同意してほしいという申出を受け、これに同意して本件契約を解除したことからすると、本件精算金は、本件期間における本件賃貸住宅の賃料の前払金である。
 そして、××は、請求人に係る賃料等を含めたところで、企業会計原則に則って、継続的に記帳し、これに基づき確定申告を行っているから、本件精算金のうち請求人の持分に相当する本件金員は、本件契約の解除後の貸付期間の経過に対応させて各年分の不動産所得に係る総収入金額にそれぞれ算入すべきであり、本件契約の解除日の翌日から平成24年12月31日までの経過に対応する分を平成24年分の収入金額として計上すべきである。

審判所の判断
(1)争点(本件金員のうちいくらを収入金額として計上すべきか。)について
 イ 法令解釈等
 所得税法第36条第1項は、その年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定しており、ここでいう「その年において収入すべき金額」とは、その年において収入すべきことが確定した金額によるべきことを示しているものと解される。そして、本件基本通達規定の取扱い(不動産所得の総収入金額のうち契約等により支払日が定められているものの収入すべき時期を、原則としてその支払日とするというもの)は、上記解釈に沿うものであり、当審判所も、これを相当と認める。
 他方、本件個別通達規定は、不動産の貸付けが事業として行われており、継続記帳があるなどの一定要件に該当するものについて、その年の貸付期間に対応する賃料の額をその年分の総収入金額に算入することができる旨を定めているが、その取扱いは、企業会計の方法による計算と整合するものであり、当審判所も、これを相当と認める。
 ロ 認定事実  原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、平成24年10月1日以降、本件入居者の一部が本件賃貸住宅から退去したり、本件各居室部分について新たな賃貸借契約が締結されたりして、本件各居室部分の入居者に変動が生じているが、請求人等と本件公社との間で、当該入居者の変動を理由とした金銭の授受はされていないことが認められる。
 ハ 検討 (イ)本件精算金の性質
 本件個別通達規定によれば、本件精算金が不動産等の賃貸料であれば、一定の要件の下に、本件精算金の一部である本件金員のうちその年の貸付期間に対応する額をその年分の総収入金額に算入することができることとなるため、本件精算金が不動産等の賃貸料であるかにつき検討する。
 本件精算金は、本件契約解除がなければ請求人等が本件公社から得られたはずである同契約に基づく賃料と、同契約解除後に本件各居室部分の入居者から得られる賃料との差額に相当すると認められる。
 しかしながら、本件精算金は、本件覚書の締結により、請求人等と本件公社が平成24年9月30日付で本件契約を解除することに伴う精算金として支払われたものであり、本件公社は、平成24年10月1日以降、本件賃貸住宅の賃借人ではない。また、本件精算金の実質が賃料の前払金であれば、通常、入居者の変動がある場合にはその変動に応じた精算が予定されているはずであるところ、請求人等と本件公社は、本件契約解除後に本件各居室部分の入居者の変動があっても本件精算金の精算を予定しておらず、実際に本件契約解除後に本件各居室部分の入居者の変動があったが、本件精算金の精算をしていないことが認められる。
 以上によれば、本件精算金は、本件契約の解除がなければ請求人等が得られたはずの収益を一括して補償した金員であって、その実質が賃料の前払金であるとは認め難い。
 よって、本件精算金は、賃料の前払金ではなく、不動産等の賃貸料には当たらない。
(ロ)本件金員に係る収入計上時期
 本件精算金は、上記(イ)のとおり、本件契約の解除がなければ請求人等が得られたはずの収益を一括して補償した金員であり(なお、当該金員は、所得税法施行令第94条《事業所得の収入金額とされる保険金等》第1項第2号により不動産所得の収入金領に該当する。)、不動産等の賃貸料には当たらないから、その一部である本件金員に係る収入金額の計上時期は、本件個別通達規定ではなく、本件基本通達規定により判断されることになる。そして、本件基本通達規定によれば、不動産所得の総収入金額のうち契約等により支払日が定められているものの収入すべき時期は、その支払日によるところ、上記のとおり、本件精算金は、本件覚書により、その全額の支払日が平成24年10月31日と定められている。よって、本件精算金のうち請求人の持分に相当する本件金員については、その全額を請求人の平成24年分の収入金額として計上すべきである。
 ニ 請求人の主張について  請求人等は、本件精算金が本件期間における本件賃貸住宅の賃料の前払金であり、××が企業会計原則に則って継続的に記帳し、これに基づいて申告を行っていることから、本件金員について、本件契約の解除後の貸付期間の経過に対応して各年分の不動産所得に係る総収入金額にそれぞれ算入すべきである旨主張する。
 しかし、上記のとおり、本件精算金は、賃料の前払金ではないから、請求人の主張は採用することができない。
 ホ 小括  以上のことから、本件金員については、請求人の不動産所得の金額の計算上、その全額を平成24年分の総収入金額に計上すべきことになる。
(2)本件決定処分の適法性について  上記(1)のとおり、本件金員については、請求人の不動産所得の金額の計算上、その全額を平成24年分の総収入金額に計上すべきである。
 そして、これに基づき、当審判所において算出した請求人の平成24年分の不動産所得の金額及び納付すべき税額は、本件決定処分における請求人の不動産所得の金額及び納付すべき税額と同額であると認められる。
 なお、本件決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件決定処分は適法である。
(3)本件賦課決定処分の適法性について  上記(2)のとおり、本件決定処分は適法であり、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そして、当審判所においても、平成24年分の所得税の無申告加算税の額は、本件賦課決定処分における無申告加算税の額と同額であると認められる。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。
(4)結論  よって、本件審査請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり裁決する。

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