解説記事2018年10月29日 【巻頭特集】 マンションの仕入税額控除で示されていた当局の見解(2018年10月29日号・№761)

巻頭特集
~平成7年・9年の検討記録文書から消費税の取扱いを検証する~
マンションの仕入税額控除で示されていた当局の見解
 日本税制研究所 代表理事 税理士 朝長英樹

 マンション(居住用)の取得と譲渡を行った事業者が税務調査を受け、マンションの取得に伴って支払った消費税について、仕入税額控除の一部が否認され、消費税を追徴課税される事例が全国で相次ぐ中、朝長英樹税理士と森・濱田松本法律事務所の大石篤史弁護士による全4回の対談記事『消費税「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈』(本誌739号、740号、742号、743号)は、大きな反響を呼んだ。
 特に読者の関心を集めたのが、対談(740号)の中で朝長税理士から話があった平成7年と9年の事案に関する税務当局内の検討とそれをまとめた文書の存在だ。朝長税理士は、既に平成7年に、本件と全く同じ事例について、税務当局内で検討が重ねられて課税仕入れが「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するとの結論に至り、その結論が税務執行の現場にも周知されている、としている。
 本件を巡っては既に税務訴訟も発生しているが、仮に、納税者が、税務当局が検討を重ねて得た結論に沿う税務処理(「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」として全額仕入税額控除)を行ってきたにもかかわらず、否認を受けた、という状態にあることが明らかになれば、当然、疑問の声が上がってくることとなろう。
 上記の対談の掲載以降、本誌編集部には、同様の課税問題を抱える事業者や税理士等から、平成7年と平成9年の事案の詳細を知りたいとの声が数多く寄せられている。
 そこで本誌では、朝長税理士に、平成7年と平成9年の事案に関して作成された文書に基づき、販売用マンションの仕入税額控除に関して示されていた税務当局の見解等について寄稿してもらうこととした。

はじめに
 筆者は、昨年11月に、エー・ディー・ワークス社から税務調査への立会い依頼を受けたことを契機として、マンションを販売する場合の消費税の仕入税額控除の取扱いに関して所見を述べる機会を得ることとなった。
 エー・ディー・ワークス社は、同社が公表しているとおり、昨年11月から税務調査を受けており、本年7月31日に更正通知を受け取っている。
 その間、筆者は、国税当局に対し、国税当局が課税の根拠として提示した平成24年1月19日付の裁決の解釈が誤りであることを具体的に説明するとともに、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈に関する書面を提出して、再考を促してきた。その書面の最後のものが税務事例(2018.3・4)に「居住用建物の売買取引における消費税の課税仕入れの取扱い(上・下)」と題して掲載されているものである。
 しかしながら、国税当局の方針が変わることはなく、この課税が引き続き行われることとなり、エー・ディー・ワークス社に対しても、本年7月31日に更正が行われることとなったわけである。
 これに対し、エー・ディー・ワークス社は、本年9月13日に国税不服審判所に対して審査請求を行っている。
 この課税は、近時、一斉に開始された感があり、エー・ディー・ワークス社に対して行われる前に、既に他の複数の事業者に対しても行われているわけであるが、この近時の課税に対し、最も早く異議を唱えたのは、ムゲンエステート社である。
 ムゲンエステート社は、同社が公表しているとおり、昨年7月31日に更正通知を受け取っており、その後、審査請求を経て、課税処分の取消しを求めて訴訟を提起している。
 マンションの取得に伴ってその取得価額に課される8%の消費税額の取扱いが問題となるこの課税は、マンションの販売を業としている企業の最終利益に極めて大きな影響を与えるものであり、一部には、事業の縮小等を検討せざるを得ないという声も聞かれる状況となっている。
 筆者は、現在まで30数年にわたって税務に携わってきたが、課税の仕方が原因で何ら問題のない正常な事業について縮小等を検討せざるを得なくなる企業が出てくるなどという事態が生じたというケースは、記憶にない。
 現在は、マンション市況も決して悪くはない環境にあるように思われるが、今後、マンション市況が悪くなる局面を迎えた場合には、この課税が市況の悪化に拍車をかける事態となることも、十分、あり得るように思われる。
 この課税の問題は、足元だけを見て考えて済む問題ではないわけである。
 この課税に関しては、このような事情にあるため、関係企業の関心も非常に高く、今後、ムゲンエステート社とエー・ディー・ワークス社に続く企業が出てくることとなるものと考えられる。

1 平成7年の「譲渡用住宅を一時期賃貸用に供する場合の仕入税額控除」の事案
 平成7年の「譲渡用住宅を一時期賃貸用に供する場合の仕入税額控除」の事案は、平成6年に、国税庁課税部消費税課に質問が寄せられたものである。
 この事案に関しては、他の多くの事案とは異なり、注意を要する事案として、国税庁が平成6年11月に「全国国税局消費税課長・統括国税調査官会議」において質問の内容と取扱い案の説明を行った上で全国の国税局に意見聴取を行っている。
 この事案の質問の内容と取扱い案の説明は、「消費税審理事務当面の課題」と題する資料に基づいて行われている。
 この資料に記載されているこの事案の質問の内容と取扱い案の説明は、次のとおり(注)である。
(注)下線は、筆者が付したものである。以下、同じ。
第三 消費税審理上の諸問題
 1 最近における消費税の審理事案で注意を要するものは、次のとおりである。
(1)譲渡用住宅を一時期賃貸用に供する場合の仕入税額控除
 A社は、買い取った分譲用マンション(住宅用)を分譲することとしているが、マンション市況の状況等からその分譲の完了までには数年(最長7年程度)を見込んでおり、それまでの間はこの分譲用マンションの一部を一時期賃貸することとした。この場合、仕入税額控除の計算を個別対応方式で行うときにおいて、購入する際に課される消費税額のうち、分譲用マンションの譲渡対価に係るものについては、課税資産の譲渡等(家屋の譲渡)にのみ要するものとして計算をすることができるか。
《取扱い》
 本件については、次のとおり取り扱う方向で検討中である。
 購入物件は分譲することを目的として取得したマンションであり、課税仕入れの時点では課税資産の譲渡等にのみ要するものに該当することは明らかであることから、仮に一時的に賃貸用に供されるとしても、継続して棚卸資産として処理し、将来的には全て分譲することとしているものについては、法第30条第2項第1号イ《個別対応方式による仕入控除税額の計算》の課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するものとして取り扱って差し支えない
 また、これにより課税資産の譲渡等にのみ要するものとして全額控除したものを取得後3年以内に賃貸用住宅に供する場合であっても、棚卸資産であり固定資産ではないことから、法第34条第1項《課税業務用調整対象固定資産を非課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整》に規定する課税業務用調整対象固定資産を非課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整をする必要はない。
 (5・6頁)
 この資料の最終頁には、次のとおり、意見聴取を求める旨の文言が記載されている。
【意見聴取事項】
 以上の取扱いを示した場合に、各局におけるこれまでの指導事績等の関係において支障が生じることはないか。
 (8頁)
 平成6年11月から約3月が経った平成7年2月16日に、「譲渡用住宅を一時期賃貸用に供する場合の仕入税額控除」と題して平成6年11月の全国国税局消費税課長・統括国税調査官会議において示された取扱い案と同じ内容のものを掲載した「消費税FAX通信」(第109号)が国税庁から国税局にファックスによって送信されている。
 この「消費税FAX通信」(第109号)の中の「譲渡用住宅を一時期賃貸用に供する場合の仕入税額控除」と題したところに記載されている「回答要旨」は、次のとおりとなっている。
 購入物件は分譲することを目的として取得したマンションであり、課税仕入れの時点では課税資産の譲渡等にのみ要するものに該当することは明らかであることから、仮に一時的に賃貸用に供されるとしても、継続して棚卸資産として処理し(宅地建物取引業者の免許を取得するまでの間は固定資産として処理する場合を含む。)、将来的には全て分譲することとしているものについては、法第30条第2項第1号イの課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するものとして取り扱って差し支えない
 また、これにより課税資産の譲渡等にのみ要するものとして全額控除したものを取得後3年以内に賃貸用住宅に供する場合であっても、棚卸資産であり固定資産ではないことから、法第34条第1項に規定する課税業務用調整対象固定資産を非課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整をする必要はない。
 (19・20頁)
 この「回答要旨」に記載されている取扱いは、上記の平成6年11月の全国国税局消費税課長・統括国税調査官会議において示された取扱い案と全く同じと言ってもよいものである。
 この取扱いは、上記の引用にあるとおり、「将来的」な事業者の目的によって「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かということを判定するものである。
 この「回答要旨」にある「将来的」という用語は、「最終的」という用語と殆ど同義であり、「将来的には全て分譲することとしているもの」という文言を「最終的には全て分譲することとしているもの」と言い換えたとしても、その文意は、全く変わらない。

2 平成9年の「転売目的のマンションを居抜きで買い取った場合の仕入税額控除」の事案
 平成9年にも、東京国税局において、平成7年の事案と同様に、賃借人が居住しているマンションを転売目的で取得した事案の仕入税額控除の取扱いの検討が行われている。
 東京国税局調査第1部の調査審理課においては、この平成9年の事案の取扱いを判断するに当たって、消費税法30条2項1号の解釈を国税庁に確認することに加えて当時の大蔵省主税局にも確認するなど、慎重に検討を進めている。
 この検討の結果は、平成7年の事案と同様に、購入者の購入目的(購入の意思)が課税資産の販売等であることが明らかである場合には、課税仕入れが「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当することとなるため、消費税額の全額の控除を認める、というものとなっている。
 この事案の概要や検討の過程と結果は、平成9年に調査審理課において作成された「質疑事項回答整理表」から確認することができる。
 この「質疑事項回答整理表」においては、この事案の「標題」は「転売目的のマンションを居抜きで買い取った場合の仕入税額控除の適用について(消費税)」とされている。
 この「質疑事項回答整理表」の「質疑内容」欄には、この事案の概要が次のように記載されている。
 調査法人は、平成8年2月15日に親会社の所有するマンション16物件を、賃借人が居住している状態のまま(以下「居抜き」という。)時価で購入し、販売用不動産として計上した。
 調査法人は、課税売上割合が95%未満であり、個別対応方式により消費税を申告しているが、販売用不動産の購入に係る仮払消費税は、親会社を通じて収受する居住用賃貸収入に係る課税仕入れに該当するものとして、仕入税額控除を適用せず全額資産計上とした。その後、実地調査において、当該処理は下記の理由により誤りであったので仕入税額控除(約4億8千万円)を認めて欲しいと主張し、さらに更正の請求(別添1のとおり)を行ったものである。
1 16物件のマンションは、当初から販売目的(1棟ごとに居抜きで転売するか、賃貸契約解除後に1戸ごとに販売する)で購入したものであり、購入に係る仮払消費税は「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」に該当し仕入税額控除の適用ができる。
2 16物件のマンションは、販売用不動産として計上し減価償却を行っていないこと、平成8年3月末では転売等は未済であるが、平成8年12月末では、16物件474戸のうち121戸が販売済でありその他159戸が販売予定等であることから、販売目的の取得であることが明らかである。
 この「質疑事項回答整理表」の「回答内容」欄においては、次のように、「法人の処理及び販売活動等から、マンションを転売目的で取得したことが明らかである」ということを理由として、「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当〔する〕」とされており、「法人の処理及び販売活動等から、マンションを転売目的で取得したことが明らかである」と言い得るのか否かが判断の基準となる、ということを明確に確認することができる。
 本件の場合は、法人の処理及び販売活動等から、マンションを転売目的で取得したことが明らかであることから、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当し、仕入税額控除が認められる
(なお、本件については、消費税課から上記と同様の内容の質疑回答を得ている。)
 この「回答内容」欄の括弧書きの中にある「消費税課」とは、国税庁課税部消費税課のことであり、「上記と同様の内容の質疑回答」とは、「質疑事項回答整理表」の次葉として添付された「〔部門一次担当意見〕」の最後の部分に「参考」として要約されているもののことである。
 この「参考」には、次のように記載されている。
(消費税課意見・要約)
 当該マンションの購入は、「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」に該当することから、更正の請求は認められる。
 「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」かどうかの判定は、課税仕入れを行った日等の状況で行うが、これは、課税仕入れが結果として何の売上げに貢献したかではなく、何の売上げに貢献される目的で行ったかを課税仕入れの時点で判断すべきであることを意味している。
 親会社からのマンションを購入した際に賃貸収入(非課税売上げ)が生じているが、これはあくまで居抜きで購入したために副次的に得た対価である(参考3のとおり)。    (以上、別添「消費税課意見」のとおり)
 この「参考」に記載されていることは、国税庁課税部消費税課の意見の要約であるが、この記載から、国税庁課税部消費税課が、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かの判定について、「課税仕入れが結果として何の売上げに貢献したかではなく、何の売上げに貢献させる目的で行ったか」(注)ということによって行う、という解釈を採っていることが確認できる。
(注)上記の引用の下線部分の「貢献される」は、「貢献させる」の誤記と思われる。
 そして、ここでは、「賃貸収入(非課税売上げ)」に関しては、「あくまで居抜きで購入したために副次的に得た対価である」として、仕入税額控除の用途区分の判定に用いるものではない、ということを明確に述べている。

最後に
 上記の平成7年の事案と平成9年の事案は、いずれも20数年前のものではあるが、当時と現在とを比べてみても、消費税法30条2項1号の定めは全く変わっておらず、マンションを取得して譲渡する取引も何ら変わっていない。
 つまり、消費税法30条2項1号の解釈と取扱いを変更してこの課税を行わなければならない理由は、全くないわけである。
 また、この課税に関しては、課税の行い方と争訟の進め方にも、大きな疑問がある。
 ムゲンエステート社のケースとエー・ディー・ワークス社のケースのいずれにおいても、調査官は、この課税を行うに当たり、この課税を容認した国税不服審判所の平成24年1月19日付の裁決書を提示し、この課税が正当であるという説明を行っている。
 しかし、この裁決書には、国税当局から、上記の平成7年の事案や平成9年の事案のように課税仕入れが「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するとしたものに関する資料が提示されたり、そのようなものが存在するという説明がなされたりした、ということをうかがわせる記述が全くない。
 この課税と類似の事例として、東京地裁の平成24年9月7日の判決のケースとさいたま地裁の平成25年6月26日のケースがあるため、これらのケースの原告側から聴き取りを行ったり資料の提供を受けたりして確認を行ったが、これらのケースのいずれにおいても、国側から上記の平成7年の事案や平成9年の事案の資料が提出されたり、そのような事案が存在するという説明がなされたりした事実はない。
 つまり、上記の平成7年の事案や平成9年の事案のように課税仕入れが「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するとしたものに関する情報が全くないまま、上記の裁決や判決が下され、それらがこの課税を正当化する根拠として用いられている、と考えられるわけである。
 近時、国税当局がこの課税を行ったケースの中には、調査官が「この裁決の前に国税当局がこの課税の適否について判断をしたことはない」と述べたものまで確認されている。
 改めて言うまでもないことではあるが、国税当局に都合が良い情報だけを出し、国税当局に都合が悪い情報は出さずに、課税を行ったり、争訟に臨んだりするなどというようなことは、決してあってはならないことである。

朝長英樹 ともなが ひでき
 財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の抜本改正(平成12年)・組織再編成税制の創設(平成13年)・連結納税制度の創設(平成14年)などを主導。
 税務大学校研究部において、事業体税制等を研究。平成18年7月に税務大学校教授を最後に退官。
 現在、日本税制研究所 代表理事、朝長英樹税理士事務所 所長
 主な著作として『現代税制の現状と課題-組織再編成税制編-』(新日本法規出版、2018年)など。

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